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2020/04/01
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (12:16 am)
本作は2次創作。

いつも通り、全角40字/行で表示すると、
当方の想定する折り返しと改行での表示になる。
全角40字/行で約2480行(参考資料記載込)。

では、数行の改行の後に本編スタート。



<あらすじ>
 半年以上前、青山ブルーマウンテンは龍が出る夢を見た。3か月前、いつもと毛色の違う妖怪モノの新刊を完成させるに至った。そして現在。
 人間はごく限られた者達しか知らない封印の場所。そこに妖である萌香と心愛が現れた。その封印の場所に関わる8つのパワースポットを始めとするパワースポット群。封印の場所と8つのパワースポットを繋ぐ物。4柱の神や町の歴史。それらの繋がり……萌香と心愛、ココアやチノ達の行く末は?

<序 萌香と心愛、現る>
<1日目>
 半年以上前。青山ブルーマウンテンは夢を見た。それは龍が出る夢。龍が出たこと以外は忘れてしまっていたが、その夢を見たことが頭の片隅に残り続けること3か月。新刊を完成させるに至った。その新刊は恋愛ものではあるが、いつもと毛色の違う妖怪モノだった。そこからさらに時間が流れ、現在。
 人間はごく限られた者達しか知らない場所。その場所には、封印が施されていた。
その封印をしたのは……青山ブルーマウンテンの夢に出てきた龍。その龍は東、春、水を司る青龍だった。

 封印の場所に現れたティッピー。ティッピーは雌のアンゴラウサギになってしまったチノの祖父だ。ティッピーになってしまってから、妖気の類を把握できるようになった。自分の経験からも、この場所が危険と判断し様子を見に来るようにしていた。
そんな封印の場所からの2つの妖気。それに感づいたのは妖気を感じることのできるティッピー、そしてリゼの父であった。もっともリゼの父は妖気を感じたというより、付近にいたので直感で感じとったという方が正しい。

 ティッピーとリゼの父が封印の場所からの妖気を感じるほんの少し前。
「姉さん!」
「心愛!」
萌香の封印のロザリオを外すことのできる月音はいない。月音との別行動中に強敵の妖と出会ってしまった。ロザリオを外すことで姿を見せる裏萌香の力なら、簡単に倒せる相手だが、封印をしたままの表萌香では心愛との2人でも倒すのが困難な敵。さらに運が悪かったと言えるのは、時空間を操れる妖が敵ということだ。
萌香と心愛が敵に向かっていくが、敵が瞬時に生成した時空移動穴へと突っ込んでしまう。
「クソっ。あいつらの出先を操る暇がなかった。まあ、いい。戻って来たとしても、今度は確実に殺す」
敵の妖はそう言って悔しさを滲ませた。

「何だ?」
直感が封印の場所へと、リゼの父の足を向けさせる。
リゼの父が着いた時にはその場所には2人の女の子がいた。萌香と心愛である。
「誰だ、お前達?」
「気が付いたら、ここへ……」
「ここ、どこだか分からないけど、戻らなくちゃ。姉さん」
「そうか」
リゼの父は返事をしたものの、この2人が普通ではないことをまたもや直感した。
一方2人は互いに顔を見合わせたまま、小声で会話する。

「そうだけど、このままだと戻れないわね。この場所、特殊な封印がされてる。妖気、じゃなくて神気?」
「特殊な封印ってことは、封じた者がいるってことよね?」
「ええ、封印者を探して力を借りるのが一番いいわね」
「俺はこれから家へ帰るんだが、乗ってくか?それ以上何かできるわけじゃないが」
そう言った直後、「この2人、何モンだ?見た目は普通の人間だが……」
リゼの父は心の中でそう思っていた。実際、それは当たっている。なぜなら、2人は人間の姿を持った妖だからだ。
「お願いします」
萌香の返事で、リゼの父は車の後部座席に2人を乗せ、車を走らせた。

 ココア達のいる町にやってきた2人。リゼの父は2人を下すと自分の家へ帰っていった。
「心愛。疲れてない?」
「大丈夫。姉さんこそ疲れてない?」
「私も平気」
町に入ってから、歩き回っている2人。この町の活気が気に入り、ずっと歩き回っているのだ。
2人は注目を人々から受けていた。特にその容姿に、である。
「何か目立ってる?私達」
「そうみたい。目的を達しやすくなるといいのだけど」
萌香の疑問の呟きに心愛が答える。

 町の賑わいの中で、ある人物の話が聞こえてくる。どうやら新刊が出たばかりの作家の話らしい。
「青山ブルーマウンテンの新刊、面白いね〜」
「読み始めたら止まらないわよね」
「今回は今までと随分毛色が違うけど、どうしたのかしら?妖怪モノなんて」
「さあ。でも『やっぱり青山ブルーマウンテンワールド』って点が変わらないのは青山ブルーマウンテンね」

「!」
今までとは毛色の違う、妖怪モノの新刊を書いた作家ということに非常に気になった2人。
作家の名前の「青山ブルーマウンテン」をしっかりと記憶し、さらに町を歩き回った。

「青山ブルーマウンテン。どんな人なのかしら?」
「分からないわ。でも、その人に会わなくちゃ」
今度は心愛の疑問に萌香が答える。
そんな2人のやりとりを聞いた町の人間が教える。
「お2人さん。ラビットハウスへ行ってごらん。きっと会える」
「ラビットハウス?ウサギ小屋ってこと?」
「違う違う。ラビットハウスは喫茶店兼バーだ。そこで見かけることが多い、って話だ。ほれ、簡単だが、地図だ」
現在地からラビットハウスまでの行き方を示す地図を受け取る萌香。
「ありがとう。行ってみます」
お礼の言葉と萌香の微笑みで、教えた人間は随分と嬉しそうな表情を浮かべた。
「ラビットハウスか・・・どんなところかしら?」
「そこへ行きましょう、姉さん」
心愛の言葉に萌香が頷いて、2人はラビットハウスへ向かった。

「いらっしゃいませ〜」
ココアの挨拶がラビットハウスに入ってきた2人へ飛ぶ。
2人はラビットハウスに残る2種類の妖気に気が付いた。心愛は2種類の妖気の片方には心当たりが思い浮かんだ。が、それは表情に出さず普通の客として振る舞う。
「あの、青山ブルーマウンテンさんにここで会えるって聞いて来たんですけど」
「今日はいないですね」
萌香の質問にチノが答える。店番はいつも通りココア、チノ、リゼの3人である。今リゼは学校からラビットハウスに来たばかりで着替えている最中だ。
「うわ〜、すごい美人」
ココアがそんなことを呟いていると、萌香と心愛は適当に席に座った。ココアがメニューを2人の席に置く。
「心愛、何頼む?」
「そうね……」
萌香が心愛の方を向いて言っていなければ、ココアは混乱しただろう。
「あの、心愛さんって言うんですか?私もココアなんです」
「そう。私は漢字で『心愛』って書くわ」
「私はカタカナで『ココア』です」
「姉さんは萌香。同じく漢字で『萌香』って書くわ」
「ええっ!私のお姉ちゃんと同じ名前!私のお姉ちゃんはカタカナで『モカ』って書くんですよ」
「私達、何だか縁がありそうね」
萌香が柔らかい笑顔でそう言った。
「おもいっきり混乱しそうだな」
口を挟んで来たのは、店に出てきたリゼである。
「ココアよりも心愛さんの方が落ち着いてる。女の子、というより女性というのがピッタリに感じる」
「私、中3なんだけど」
リゼの心愛への言葉。それに対する心愛の返事で明らかになった事実。その事実からココアは明らかに負けた気分になった。チノから子供扱いされると「私がお姉ちゃん」と言い張っているが、心愛と比べれば明らかに自分は子供に見える。
「あ、私はリゼ。ラビットハウス(ここ)で、ココア達と一緒にアルバイトをしている。ちなみにカウンターにいるのがチノ」

 漢字とカタカナという違いはあれど、姉と妹が共に同じ名前であるということにテンションが上がっているココア。
「せっかくだから、2人には私がおごっちゃう!好きなもの頼んで!」
ココアの言葉に萌香と心愛が注文を入れた。
「チノちゃん、オーダーよろしく」
「わかりました」

「さて、どうしようかしら?泊まれるお金はないし……」
「どうした?何か困りごとか?」
萌香がリゼに聞かれたことへうまいこと答えた。
「2人とも。泊まる場所がないなら、うちに泊まるといい。部屋は余っているから心配ない」
「リゼ、お言葉に甘えさせていただくわね」
萌香がリゼに答える。
「わかった。私の後輩も呼んでいいか?」
「私達は構わないわ」
今度は心愛がリゼに答える。
「じゃ、ラビットハウスが終わるまでは好きにしていてくれて問題ない。ここにいるも良し、町をもっと歩くも良し。暗くなるくらいにここへ戻ってきてくれ」
2人はリゼの言葉を聞くと、もう少し町を歩くとラビットハウスを出た。

 ラビットハウスが見えなくなったところで、萌香と心愛が話す。
「姉さん、気づいた?」
「特定の席を使ってるみたいね、青山ブルーマウンテンは。それに、もう1つの気も感じたわ」
「一体なんなの?あの喫茶店」
「それに、妖気じゃないけどリゼって子は聖水の加護を受けている、受けたことがあるわね」
「ハンターの家系かしら?」
「違うわね。妖ハンターの家系なら私達のことに気づいたはずよ。本当に微かだけど、血や銃の匂いがした。多分人間を相手に闘うような仕事か、そういう人間が近くにいるんじゃないかしら」
妖は、妖ハンターから狙われることがある。銃が弾丸を放つ際の臭いは分かっているのだ。そして、萌香の答は当たっている。リゼの父は傭兵をしているからだ。
「以前妖に襲われたことがあって、聖水の加護を受けている、受けたってことか」
「そうだと思うわ」
萌香に頷く心愛。
「じゃ、もう少し町を歩きましょう。姉さん」
2人は暗くなるまで町を歩き、ラビットハウスへ戻った。

 萌香と心愛がラビットハウスから出て、暗くなるまでの時間潰しに歩き始めた頃。
「モカ。新しいパンを作る材料探しに行くのと、パンの試作で、少しの間店を閉めるわよ」
「お客さん達はどうするの?」
「予め伝えて、休みの間は許してもらうわ」
ココアの母と姉のやりとりである。
「で、どのくらい?」
「10日〜2週間くらいかしらね」
「そんなに!?月の半分くらい閉めて大丈夫なの?」
「大丈夫よ。新しいパンの考え自体はあって、後はそれに見合う材料が必要なの。遠出をして仕入れる必要の材料があるのはもちろんだけど、全く新しい食材を試したいのよね」
モカは「全く新しい食材」に不安がよぎった。かつてココアと共に「全く新しい食材」を取り入れた食事やパンを食べた時のことが甦る。
「ココアに連絡して、泊まらせてもらお」
家の電話からココアのスマホに電話し、状況を話してラビットハウスに泊まることになった。
「こっちに来た時、詳しく話すけど。私達と全く同じ名前の姉妹がお客さんで来たんだよ。名前をカタカナで書くか、漢字で書くかっていう違いだけなんだ」
「そうなの〜すごいわね。そっちに行った時に聞かせて」
「うん!」
「お休み、ココア」
「お休み、お姉ちゃん」
電話を終えると、ラビットハウスに泊まるのが楽しみでテンションが上がった。
客への告知とモカの準備はその日のうちに完了した。ちなみに、その翌日、パン屋は期限休となり、モカはラビットハウスへ向かった。
ココアのいるラビットハウスに泊まる楽しみの他に今回楽しみにしていることがある。それはパワースポット巡りだ。パン屋の客や雑誌などで、ココア達のいる町が含まれた範囲のパワースポットの話題が上がっており、行って見たいと気分が盛り上がっていたのだった。

 ラビットハウスへ戻ってきた萌香と心愛。帰り支度を終えたリゼが店の前で待っている。
後輩であるシャロには休憩時間に携帯で連絡し、今晩の誘いをかけたところ、2つ返事が来た。一方のシャロの方は連絡を受けた際、隣家兼甘味処の千夜の家の前だった。その様子を見かけた千夜は一緒に行くことにしたのだ。

「戻ってきたか。それじゃ、行くぞ」
リゼがそう言って歩き出す。萌香と心愛はついていく。
「姉さん」
心愛が萌香に呼びかける。
「聖水の臭いが濃くなってきてる」
聖水自体にはうっすらと特別な臭いがあるが、人間には感じられない。動物や妖のように嗅覚が人間より遥かに強い生物なら感じることができる。しかし、効力があるのは妖に対してだ。聖水を作る目的からして、妖にだけ効力が発揮されればいいからだ。
「リゼを加護している聖水の大元がリゼの家にあるってことね。きっと」
 しばらくリゼ達3人が歩くと、リゼの家についた。
聖水の臭いが最も濃くなっており、下級の妖は家の付近に近づいただけで消滅するのに十分な状況だ。萌香と心愛は上級の妖であり、充分な実力も兼ね備えているので、濃い聖水と言えども臭いでは影響を受けることはない。
そんなことは全く知らないリゼが玄関のドアを明け、萌香と心愛を招き入れる。

「親父、帰ったぞ」
「おかえり、リゼ」
よくある親子の挨拶だが、萌香と心愛は驚いた。自分達を車に乗せた男がリゼの父親だったのだ。それに中の方が聖水の臭いがさらに濃い。
「あなたは……」
「お前ら……」
萌香の言葉に、リゼの父が驚きと微妙な疑念も入り混じったように反応した。
「その2人は?」
リゼの父がリゼに尋ねた。
「姉の萌香、妹の心愛。2人は姉妹だ。うちに泊めることにした。部屋も余ってるしな。シャロも後で来ることになってる」
「そうか。2人とも適当に泊まってくれ」
「ありがとうございます」
萌香がリゼの父に礼を言った。
「こっちだ」
リゼが余っている部屋2つを萌香と心愛にあてがう。
「ありがとう、リゼ」
萌香がリゼに礼を言った。
「気にしなくていい。夕食までは時間が少しかかる。その間に風呂を案内する」

 リゼが2人を風呂に案内している間。リゼの父は萌香と心愛のことについて考えていた。
「封印の場所で出くわした2人と再会とはな。リゼの物心つく前のアレの再来か?」
10数年前に妖の類と戦ったことを思い出した。その出来事以来、充分な準備ではなく、過剰な準備を意識するようになったことも思い出し苦笑した。

 風呂を案内して、すぐに入るかどうか尋ねるリゼ。風呂の準備は既にできているので、いつでも入れる状況だ。
「お風呂、頂くわね」
「ああ、ゆっくりしてくれ」
萌香が風呂を使うと言うと、リゼが返事をした。
「姉さん。やっぱり」
「聖水のこと?大丈夫よ。水回りは聖水じゃないわ」
「だけど……」
「あんまり余計なことは気にしないで、お風呂に入ろ?」
「分かったわ。姉さん」
しばらくして風呂から出た2人はリゼが用意していた服に着替えた。心愛にはピッタリだが、萌香には少しだけ窮屈だ。とは言え着られない程の窮屈ということではない。

「2人とも、上がったのか。夕食がもうすぐできるから来てくれ」
リゼが2人を連れて食堂に移動し、夕食を取る。
「2人はどうしてこの町に?それに普通の人間と違うような気もするんだが、気のせいか?」
萌香と心愛がどう答えるべきか、という様子で顔を見合わせる。
「そうね。普通の人間とは違うというのは合ってるわ。私達は、妖だから。妖怪って言った方がいいかしら」
萌香が答えた。
「なるほど。まぁ、ティッピーがいるから、普段から慣れているせいかもしれないな」
「ティッピー?」
慣れているといった風情のリゼに対し、今度は心愛がティッピーのことをオウム返しに聞いた。
「ティッピーはチノの祖父だが、うさぎの姿をしている」
リゼが答える。
「うさぎの姿の妖なの?」
「そうかもしれないが、出会った時から自然に受け入れてたし、考えたことなかったな」
萌香の質問にはいささか予想しておらず面食らった体で、リゼは答えた。
「私達は、私達の世界で敵の妖と闘ってた。その相手を攻撃した時……敵が瞬間的に作った時空移動の穴に飛び込む形になってしまったの。気が付いたら、こちらの世界のある山の中にある封印の場所へ出てきたわ。で、あなたのお父様に車でこの町に連れてきてもらったわけ」
萌香がリゼに説明した。
「ということは、元の世界に戻る必要があるんだな?」
「ええ。で、封印の場所には特殊な気が感じられたわ。私達はその封印の場所から帰るということになるのだけれど、封印した者達の力を借りるのが一番手っ取り早いと考えた。それを感じられたのが、ラビットハウスなのよ」
今度は心愛が説明する。
普通ならにわかには信じがたい話だが、ティッピーと共に過ごしてきているので、別に信じられないような話でもないし、驚くようなことでもない。
「今日はティッピーも青山ブルーマウンテンもいなかったが、数日の間にどっちにも会えるだろう。しばらくはうちにいるといい」
「ありがとう。リゼ」
「リゼ、1つ聞いてもいいかしら?」
「何だ?」
「あなた、聖水の加護を受けてない?私達は妖の中でも上位に位置するから問題ないのだけど。下位の妖なら、聖水の臭いだけで消えてしまう程聖水の臭いがするのよね」
「昔、私が物心つくまでの間に何かあったらしい。何度か親父に聞いても答えてくれない。萌香が言う『聖水の加護』を受けたとしたら、その時だな」
食事時には少々物騒な話と共に全員食事を終えた。食事時の空気を吹き飛ばすかのように、明るい来訪者の声がした。

「こんばんは〜」
シャロがやってきたのだ。リゼの家に泊まれるとあって、見るからにテンションが上がっている。
「いっしょに来たんだけど、いいかしら?」
千夜もいる。千夜はシャロの隣に住んでいるので、リゼがシャロを誘った様子を把握していたのだ。
「千夜か。全然問題ない」
「良かった。これ、差し入れ」
個包装になっている数種類の和菓子が入った袋をリゼに差し出す。
「あら、そちらの方々は?」
千夜がリゼに尋ねる。
「ああ、親父が山の中で2人を拾って町に連れて来たんだ。青山ブルーマウンテンに会いにラビットハウスへ来たんだが、今日はいなくてな。うちに泊まるよう誘ったんだ」
「私は赤夜萌香」「朱染心愛。妹よ」
「私は千夜。よろしく」
「よろしく」
萌香が千夜に挨拶を返すが、心愛は黙っている。
「私はシャロ。リゼ先輩と同じ学校の後輩」
「萌香さんに心愛さんか。モカさんとココアちゃんと同じ名前」
シャロの挨拶に続けて、千夜が思ったことを言う。
「ええ。ココアさん本人が言っていたわ。私達は名前を漢字で書くけど、ココアさん達はカタカナで名前を書く違いがあるって。それに、ココアさんより心愛の方が年下だって聞いてすごいショックだったみたい」
萌香の言った事に、千夜は納得と怪しい笑顔を浮かべた。
「千夜、何て顔してるのよ」
シャロがツッコむ。
「何でもないわ」
誰がどう見ても何でもないという表情ではなかったが、すぐにそれは消えた。
「青山ブルーマウンテン先生の新刊、まだ読んでないのよね〜」
千夜がそんなことを言うと。
「青山ブルーマウンテンって作家はそんなに人気なの?」
萌香が千夜に尋ねる。
「そうね〜人気作家って言えると思うわ。恋愛を題材にした小説を良く書いてる。今回はどういうわけか、妖怪モノになってるのが不思議なのよね」
千夜が本当に不思議がりながら萌香に答えた。
「さて、私の部屋へ行くか」
リゼの言葉に従い、5人はリゼの部屋へ移動。かなり早い時間からのパジャマパーティーが始まった。そして夜明けを意識し始める時間にお開きとなり、全員眠りについた、ように見えた。萌香と心愛が念話で話をする。

「姉さん」
「心愛、どうしたの?」
「青山ブルーマウンテンの妖気、いえ神気。青龍のじゃない?」
「青龍?あの青龍ってこと?」
「あの席の神気、青龍の神気だと思う。今考えると」
「もし感じた神気が正しいなら、青龍の神気や力を受け継ぐ一族の者。それが青山ブルーマウンテンってことになるわ」
「それが本当ならとんでもない大物だけど、普通の人間と同じくらいの強さっていうのはどういうことかしら?」
「人間界で生きていく為に神気や力を弱めていったからじゃないかしら。人間の姿に見合った力でないと、色々面倒だしね……」
萌香のその言葉で念話を終わらせ、萌香と心愛は眠りに着いたのだった。

 リゼが萌香と心愛を待っている時、ココアとチノは元々泊まりの予定になっていたマヤとメグを待っていた。
ココアとチノはラビットハウスの奥にある、チノの家に引っ込んでいる。今はチノの父であるタカヒロがマスターになっているバータイムの準備中だ。その準備中にリゼは萌香と心愛と合流し、帰宅した。

「こんばんは〜」
マヤとメグの声がハモり、タカヒロに挨拶する。
「いらっしゃい、マヤちゃん。メグちゃん。チノ達なら奥だよ」
チノからマヤとメグが泊まりに来ることを聞いていたタカヒロがチノとココアのことを教える。
「ありがとうございます」
メグが礼を言った。今度はマヤとメグが2人揃って、「お邪魔します」と挨拶し、ラビットハウスの中を抜けようとする。
 タカヒロの開店準備が進む。のだが、バータイムとしては、非常に珍しいものが大量に仕入れられている。メグの足が止まったのにつられて、マヤの足も止まった。

「チノちゃんのお父さんがされているのって、お酒を飲むバーですよね?」
珍しいものを見たマヤがタカヒロに確認する。
「ああ。これことかい?実は、最近はちみつがかなり大量に取れるってことがあってね。大量に安く仕入れられることになったんだ」
「それでですか〜」
「ま、大量に仕入れてもチノやココアちゃんが消費してくれるだろうし、料理にも使える。もっとも、自分としてははちみつベースのカクテルなり、はちみつ入りの酒を提供できるメニューをとは考えているがね」
タカヒロにそんなことを言われたメグは、はちみつについて、以前何か聞いた覚えがあった気がしたのだった。

「ふぅ」
準備が一段落し、軽く吹き矢に興じるタカヒロ。マヤはその様子を見て、何かひっかかるというか気になるというか、そんな思いが湧き出た。
「?何だろう?」
すぐには解消できそうにないので、ひとまずはそのままチノやココアと合流することにし、メグと共にラビットハウスの奥に消えた。
「それにしても、ここ最近のはちみつの量は異常だな。一体何が起こるやら……」
タカヒロは1人呟いた。

 チノの部屋にマヤとメグ、ココアがいる。
「じゃーん!」
荷物からパワースポット巡り特集の記事が載った雑誌をメグが取り出す。
「今日泊まりたいっていうのは、これ絡みだったんですね」
チノは疑問が解けたといった表情をした。
「うん」
そう返事をして、メグが特集頁を開いた。
「この雑誌のパワースポット特集、何かすごいことになってて。人によっては『パワースポットへ行こうと思っただけでご利益があった』みたいなことを言ってるって噂を聞いたの。で、本当ならチノちゃんにもご利益があるんじゃないかと思って」
「ありがとうございます」
「へぇ〜パワースポット巡りか〜いいな〜行きたいな〜」
「ココアさん、バイトはどうする気ですか」
「ラビットハウスを休みにして」
「怒りますよ」
ココアの冗談半分の返答に対し、チノは本気交じりの返しである。
「ごめんごめん。でも、みんなで行ければって思う」
「マヤ、メグ。どうしたんですか?」
チノが2人に問う。
「チノのお父さんの開店準備を見てたら、何か気になって。何が気になっているのか分からないんだけど」
マヤが答える。
「私もマヤちゃんと同じような感じ。でも、私ははちみつについて何か聞いた覚えがあったなってことなんだけど」
「そういえば、ここ最近すご〜〜〜〜〜くはちみつが取れるという話を聞きました。この時期にとれる量の増減の幅を超えているとか」
「メグははちみつについてか。ボクはチノのお父さんがやってた吹き矢を見て、何か引っかかったんだよな」
マヤもメグも気になることはひとまず置いておくことにした。そうして4人は夜を楽しく過ごし、朝を迎えたのだった。

<破 儀式と歴史と……>
<2日目>
 翌日。ココアの姉であるモカが町にやって来た。町の様子を確認しながら、雑誌に特集されているどこのパワースポットに行こうかと当たりをつけている。
なぜなら、ラビットハウスのある町を中心とした半径数10km圏内には、噂や都市伝説的なものも含め、パワースポットが結構な数あるという。

「ふむ、大丈夫なようじゃな。あれほどの妖気が現れたのに封印が全く破れておらんとはの……」
ティッピーが封印とパワースポットの確認をしている。多数あるパワースポットだが、実は大事なパワースポットは8か所。それ以外は8か所に力を集める為のエサ的なパワースポットになっている。大事なパワースポットが特殊な封印を継続するものであり、その封印継続のエネルギー供給元として、8か所以外のパワースポットがあるというわけだ。

「このあたりのパワースポット巡り、したかったのよね」
そんなことを呟いて歩いている。ココアのもとを訪ねて数日共に過ごせるくらいの状況ができたのだ、それを生かさない手はない。

 リゼの家に朝日が入ってくる。
「ふわぁ〜、おはよう」
シャロが寝ぼけ気味に朝の挨拶をする。
リゼの家でパジャマパーティーという興奮が、眠りを浅くしたのだ。それ故なのか、実は昨夜の萌香と心愛の念話が聞こえていた。元々「見える」タイプではあるが、念話を聞いたのは初めてだった。
「おはよう」「おはよう」
リゼと千夜もシャロに朝の挨拶を返す。
少し間をおいて、萌香と心愛も起きてきた。
「朝食は今から準備するから少し待っててくれ。まずは顔を洗おう」
リゼの指示で、5人が洗面所へ向かう。リゼを先頭に千夜が続く。少し離れて、シャロ。シャロの数歩程度の後ろに萌香と心愛が並んで向かっている。シャロは後の2人に話しかけるべくスピードと歩幅を調整して萌香と心愛の直前に来た。
「2人とも、昨夜話してた話ってどういうこと?」
「私達の話、聞いてたの?」
心愛がシャロに尋ねる。
「聞いてた、聞こえてた、どっちが正しいのかしら?ま、そんな感じ」
「そう」
隠すよりも話してしまった方がいいと考えた萌香が続ける。
「朝食の時に話すわ」
「分かったわ」
シャロは萌香が話す意思を見せたので、リゼと千夜の方に混ざりに行った。
「姉さん……」
「あの特殊な封印。青龍の神気だけじゃ維持できないものだと思う。なら、その封印の維持をどうしているのかも気になる。封印した者達に力を借りる際に知っている必要があると思うわ」
心愛は萌香の言葉を受け入れた。洗顔と着替えを全員が済ませて、数分もすると、朝食になった。
「千夜、シャロ。リゼには話してあることだけど、あなた達にも話しておくわ」
萌香が切りだした。
「?」
千夜は何のことか全く分からない、という表情だ。
萌香と心愛が、自分達の存在・ここまでの経緯と目的を話す。
「2人は元の世界に帰るのね」
「青山ブルーマウンテン先生が、そんな存在だったなんて」
千夜とシャロの反応は如何にもそれぞれらしい。
「ま、そういうわけで、うちに2人がしばらくいるということだ」
リゼが付け加える。
「今日はどうするのかしら?お2人さん。特にこれをするという予定がないなら、この町付近のパワースポット巡りなんてどうかしら?」
「パワースポット?」
千夜の提案に心愛が疑問の表情を浮かべる。
「あ、最近雑誌とかで特集されてるやつじゃない?そのパワースポット巡り」
その心愛の表情を目にしながらも、あえて千夜に続いてシャロが言った。
「そう言えば、最近の親父の仕事はそのパワースポット関係が多いような……」
リゼは考え込むというよりは思い当ることを思い出した様子だ。
「朝食が終わったら2人に雑誌を見せてあげる。荷物の中にそのパワースポット巡りの記事が載った雑誌を持って来てるから」
シャロが2人に雑誌を見せると言い、ひとまず話は終わった。

 朝食が済むと、萌香と心愛はシャロの持っていた雑誌のパワースポット記事を見た。
記事にあるパワースポット群の地図、封印の場所の方角と車での移動距離等々から、パワースポット群の中心に位置するのが封印場所。封印場所を中心に8方向にそれぞれ1つずつ人気のパワースポットが存在し、その8つのパワースポットへのパワー供給源として、パワースポット群が存在することは自分達の知識から導き出せた。
「ひょっとして、青山ブルーマウンテンは、私達が現れるのを予期して新刊を作った?」
「どうかしら。偶然かもしれないし、何とも言えないんじゃないかしら」
心愛と萌香が顔を見合わせながら、そんなやりとりをする。
「偶然って言えば、ラビットハウスのココアのお姉さんもモカって名前で、私達と同じなのよね」
「あの妖、時空の穴を瞬間的に作ったでしょ?だからどこへ私達を飛ばすかの制御までは出来なかったんだと思う。だから字は違うけど同じ名前の姉妹がいるこの世界に出た。そういうことじゃないかしら?」
萌香の返事に心愛は楽観視が過ぎると頭痛の表情を見せた。
「そんなに変かしら?」
「そういう考え方、素敵だと思いますよ」
萌香の疑問に千夜がそう言った。
「千夜……ありがと」
萌香が千夜に礼を言った。
「あなた達って本当に不思議ね。私達をこんな普通に受け入れるなんて」
「人間、生きてれば色んなことがあるものよ」
「あなた、ほんとにリゼ達と同じような年なの?その年で、その達観ぶりは信じられないわ」
「あら。心愛さん、随分と失礼ね」
心愛は地雷を踏んだと確信した。千夜は怒らせると恐いタイプなのだと認識するのにかかった時間はほんの一瞬。
場の空気がマズい状況になったが、そろそろ動き始めねばならない時間で、時計がそれを告げた。
「シャロ、この雑誌借りていいかしら?パワースポット巡りに行ってきたいの」
「いいわよ。私、この雑誌を定期購読してるけど、パワースポット巡りには行けないから。バイトのシフトが入ってるし」
「千夜、提案ありがと」
「どういたしまして」
萌香がシャロと千夜に礼を言う。
「萌香、心愛。ラビットハウスはどうする?」
「このパワースポットの数だと何回かに分けていく必要があるから、切りのいいところで、ラビットハウスに行くわ。で、青山ブルーマウンテンに会いたい」
「分かった。じゃ、ひと段落したらラビットハウスに来てくれ」
「そうするわ。行きましょ、姉さん」
萌香と心愛はパワースポット巡りを開始。リゼはラビットハウスへ。千夜は自分の店の手伝い。シャロは一度自分の家に帰ってからバイト先へ向かうのだった。

 ココアの姉、モカがパワースポット巡りをどこからしようかと考えていると。ふと、何かが肩に乗って来た。ティッピーである。
「あら?ティッピー?」
ティッピーが返事代わりに、モカの見ている雑誌に飛び移った。その為、急な重さの増加に雑誌を落としてしまった。
雑誌を拾いあげた瞬間、モカはある人物を見つけた。青山ブルーマウンテンなのだが、すぐに見えなくなってしまった。
「青山ブルーマウンテン先生!?」
これはパワースポット巡りをしようとして運気が上がったのだと吉に解釈し、ひとまずラビットハウスへ向かった。

 ラビットハウスにいるのは、ココアとチノだ。リゼからは「開店時間から少し遅れて入るかもしれない」と言われているので特に心配するようなことはない。後輩、つまりシャロを誘うと言っていたので、夜更かしになるのはココアもチノも想定内だ。
「こんにちは〜」
「あ、お姉ちゃん!」
モカの挨拶にココアが反応する。
「こんにちは」「こんにちは」
マヤとメグはラビットハウスが開店してからも、席の1つにいる。
「町についてすぐ青山ブルーマウンテン先生を見かけたの。ラッキーだったわ。これもパワースポットへ行こうとしてるからかしら」
「パワースポットか〜行きたいけど、ラビットハウスのこともあるし」
「お姉さん、突然来られたのは何故ですか?」
「お母さんが『全く新しいパン』を試作するって言い出してね。『全く新しい』って部分がちょっと」
「分かりました。昨日ココアさんから『モカさんが泊まる』って聞いてたので、部屋を準備しておきました。使って下さい」
「ありがとう、チノちゃん」
「いえ。これくらいは。いつもココアさんにはお世話になってますから。ココアさんはモカさんを準備した部屋へ案内してください」
「はーい。お姉ちゃん、こっちだよ」
チノへの返事をし、モカを案内するココア。モカの手を引いて、店から家の中へ引っ張っていく。
「この部屋だよ」
モカが使う部屋の前に着くと、ココアが扉を開ける。
「どうぞ」
「ありがとう、ココア」
「荷物を置いたら、店へ来て」
「ええ。そうするわ」
「じゃ、先に店にいるね」
ココアは店に戻っていった。その時に、同じ名前の姉妹のことを後で話すというのも付け加えた。

 ココアが店に戻りラビットハウスは2人になった。
「今日は萌香さんと心愛さん、来るんでしょうか?」
「う〜ん。どうだろ?リゼちゃんが来れば分かるんじゃない?」
「そうですね」
そこで2人のやりとりが途切れた。しばらくすると、ティッピーが現れた。
「ティッピー!どこ行ってたんですか」
心配と安堵が入り混じったようにチノが言う。
数日前、青山ブルーマウンテンの新刊発売・パワースポット特集の雑誌発売があった。その2つが分かってから、ティッピーが姿を見せなくなって気にしていたからだ。
「何、ちょっとばかりあちらこちら行っておっただけじゃ」
ティッピー(自分)の行動のことが分かると面倒なので、心の中だけで呟き口には出さなかった。

「あら、みんな勢揃い?」
モカが軽い手荷物とパワースポット特集の載っている雑誌を持って、ラビットハウスへ入ってきた。
「お姉ちゃん」
ココアは姉がいることで上機嫌だ。
「こんにちは」「こんにちは、モカさん」
「こんにちは。いつもココアがお世話になってます」
マヤとメグがモカに挨拶すると、モカが挨拶を返す。
それに対し、マヤがこう続けた。
「はい、お世話してます」
「マヤちゃん、私がお世話してるでしょ〜〜〜」
「ココアさんがお姉さんぶるのは相変わらずですね」
冷静且つ的確なツッコミがチノから繰り出される。
「チ〜ノ〜ちゃ〜ん……」
ココアは瞬間的にガックリしたが、モカがいるということでテンションが簡単には下がらない。モカを適当な席に案内し、座らせようとする。
「ココア、青山ブルーマウンテン先生が良く座る席は避けてくれ」
「?」
ココアは疑問に思わなくなかったが、リゼがこういうことを言うのは滅多にない。
「うん。じゃ、お姉ちゃん。ここの席へどうぞ」
「はいはい。今日のおススメなメニューがあれば、それを」
「チノちゃん。本日のオススメを1つ!」
「分かりました」
チノが注文の対応に入った。

 モカが席に着いて、パワースポット特集の頁の最初を開く。
「マヤちゃん、メグちゃん。どうぞ」
モカが席に来るよう2人へ手招きしたので、2人はモカの向かいに座った。モカから見て左側にマヤ、右側にメグと座っている。

「あ、その雑誌……」
遅れてきたリゼがパワースポット特集の雑誌に反応した。
「リゼちゃん、萌香さんと心愛さんは?」
ココアがリゼに聞く。
「2人とも全部のパワースポットを回るつもりだ。で、今日は切りのいいところまでパワースポットを回ったら、ラビットハウスに来る」
リゼは、ココアに返事をしながら店内を見回す。ティッピーがいること・青山ブルーマウンテンはまだいないことを確認した。

「萌香さんと心愛さん?」
「ココアならいるじゃん」
メグとマヤの反応はもっともだ。
「あー、ココアやココアのお姉さんのモカさんとは別人だ」
リゼが2人の言葉に反応する。
「2人はちょっとした事情でこの町に来てる。で、その事情の解決にパワースポット巡りが必要らしくてな。雑誌のパワースポット特集の場所を全部回るつもりなんだ。始めたのがついさっきだから、何日か、あるいはしばらくいるだろうな。で、2人は泊まるところがないってことでうちに泊めてる」
マヤとメグはリゼの説明に納得したようだ。
「いいなあ。一緒に行きたい」
メグがポツりと漏らす。
「気持ちは分からなくはないが、2人はこの町に来ることになった事情の解決の為にパワースポット巡りをしている。一緒にいると邪魔だろう」
「はーい」
諭すとまではいかないまでも、分からせる口ぶりのリゼの言葉。メグはがっかりしながらも受け入れた。メグの様子から数分もすると、モカが頼んだ本日のオススメが席に運ばれたのだった。それはパフェをベースにしたスイーツ。本日のオススメは他のメニューより少し高いので頼まれる割合が少ないし、幸い他のメニューで充分な利益が出ているので、豪勢なシロモノにしても問題ない。朝から食べるスイーツとしては重い部類、のはずだが全く気にしていない。嬉喜としている様子が明白にそれを物語っている。

 モカがそのスイーツをパクつき始めると。
「モカさん。パワースポット特集の雑誌を持ってるってことは、パワースポット巡りですか?」
メグがモカに聞いた。
「ええ。普段は行ける機会、あんまりないわね。お店があるし」
「それならどうしてラビットハウスに?」
「お母さんが『全く新しい』パン作りをするって言ったから、かしら。完全新作のパンを作るのに、すっごい味と材料の組み合わせを平気でするのよね。子供の頃、味見した時の感覚を思い出したくないわ」
トラウマになっているかのような様子がモカから見て取れる。
「で、その新作パン作りに10日〜2週間くらい時間を取る・その間は店を閉めるって言ってたから、ココアのところに来てパワースポット巡りもいいかなって。それに青山ブルーマウンテン先生も良く来るって話だから、サインもらおうと思って。先生の本、結構読むの」
「青山ブルーマウンテン先生、すごい人気ですよね」
「今回はいつもと毛色の違う妖怪ものよね。それでもいつもの先生節は変わらないけど」
青山ブルーマウンテンの新刊に関しての雑談から同じ時期にパワースポット特集の雑誌が出たということで、そちらに話が移った。

「モカさん、パワースポット巡りはどこから行くんですか?」
「どこから行こうかしら?」
「人気の場所は、いつ行っても混んでるらしいです」
「となると、そういう場所は後から行った方が良さそうね」
そこへココアが話に入る。
「あ、そう言えば。お姉ちゃんに同じ名前の姉妹の話するって言ってたでしょ。その2人、今パワースポット巡りに行ってるの。一区切りついたら来るから、実際に行った人の話を聞いてどこに行くか決めるのはどうかな?」
「いいわね。ところで、その姉妹って?」
「うん。萌香さんと心愛さん。萌香さんがお姉ちゃんで、心愛さんが妹。私達は名前をカタカナで書くけど、2人は漢字で書くの。で、2人ともすっごくキレイで大人っぽいの。心愛さんが私より年下なのはショックだったな。チノちゃんに心愛さんの方がお姉さんだって言われちゃった」
「それは会ってみたいわね。特に心愛さん。ココアよりどのくらい大人っぽいのかしら」
「お姉ちゃんまで、もう!」
ココアの反応を楽しんだモカであった。

「マヤとメグはどうする?」
リゼが2人に尋ねる。
「どうしようかな。気になっていることを調べる方がいいと思うけど、どうすればいいやら」
「私は後で図書館に行こうかなって。はちみつについて調べたいから」
「2人が気にしていること?」
リゼが疑問を口にすると、2人はそれぞれリゼに答えた。
「なるほど……メグのはちみつの方は分からないが、マヤの気になっていることの方はマスターや親父に聞くとヒントが出て来るかもしれないな。それに図書館や実際の場所に行って見ることだって調べることになる」
「うん。帰ったら聞いてみる」
マヤが素直にリゼの言葉を受け入れた。
「私は、図書館に行ってみます」
メグは図書館で調べるとリゼに返事をする。
「分かった。で、2人とも何を頼む?」
しっかりとリゼが注文を2人から取り、マヤとメグは注文したものをきれいに片づけると、帰っていった。

 まずはマヤ。自宅に帰ると、吹き矢の様子を見て何かひっかかった件を両親に話した。すると……
「マヤ、話しておくことがある」
そこでマヤは自分の出生に関わる話、そしてもう1つあることを聞かされたのだった。
 メグは図書館に向かい、はちみつについて調べた。しかし、食べ物としてのはちみつについて調べることは出来ても、メグの気になるはちみつに関することは全く調べられなかった。リゼの言葉を思い出す。自宅に帰って、両親に尋ねるとメグの父が答えた。
「そうか、はちみつのことについて聞きたいのか。昔、親戚が集まった時に話があった。が、その時お前は小さかったからな。もう1度話そう」
メグも自分の家系に関すること、はちみつについて聞くことが出来たのだった。
マヤとメグ、それぞれが聞いたことは点だが、8つのパワースポットと封印の場所を繋ぐ
線になるとは予想もしていなかった。

 マヤとメグが帰ってから、しばらく経つと新しく客が入ってきた。客は青山ブルーマウンテンで、いつもの席に座った。
小さなショルダーバッグを自分の脇に置いて、ブックカバーのかかった本を取り出す。大きさからすると文庫本くらいのようだ。
今日は本を一区切り読んでから注文を入れるつもりらしい。ココアやリゼが「ご注文は?」と聞くのを躊躇うくらい集中しているのが分かる。読んでいるのが何なのかは分からないが、普段とは違い、百面相と顔芸の披露会状態。それが終わったところで青山ブルーマウンテンが、カウンターにいるチノに向かって直接注文を入れた。
「ブレンド、1つ」
「分かりました。少々お待ちください」
チノがオーダーを受けて、ブレンドを淹れ始める。数分後、ブレンドコーヒーが青山ブルーマウンテンの席に運ばれた。席に運んだのはリゼだ。
「ふぅ〜」
「すごい集中力でしたね」
リゼが百面相や顔芸のことは触れずに、話しかける。
「ええ。読むのに体力がいる本なのよね。内容につられて自分の感情が表に出ちゃうの」
青山ブルーマウンテンの言葉にリゼは納得した。
「あの……あなたに会いたいという姉妹がいるんですが、そのうち来ると思います」
「あら。どんな人たちかしら」
「それはお楽しみということで」
「そう。会ってみるのが1番ってことね」

 ふいにティッピーが青山ブルーマウンテンの席に現れた。席の真ん中に陣取っている。
「ティッピー、どうしたの?」
ティッピーがじっと青山ブルーマウンテンを見た後、体ごと店のドアの方を向いた。
「?」
青山ブルーマウンテンは不思議に思いながら、視線をドアの方にやる。
すると、2人入ってきた。
「萌香、心愛。ティッピーも青山ブルーマウンテン先生も、いるぞ」
リゼが2人に声をかける。
「良かった!」
萌香が嬉しそうに口にする。そして2人は青山ブルーマウンテンの席の傍へ移動した。
「私は赤夜萌香」「朱染心愛。妹よ」
「青山ブルーマウンテンです」
青山ブルーマウンテンの声を聞きつけて、モカも青山ブルーマウンテンの席に来た。

「今度の新作は今までと毛色の違う妖怪モノって聞いたんだけど、何故?」
心愛が青山ブルーマウンテンに尋ねる。
「龍が出る夢を見たから、かしら」
「!」「!」
この答えに、萌香も心愛も驚いたが納得できた。間違いなく、青龍の一族の者だと。
「その夢を見たのが半年以上前。そこから、新作ネタの1つとしてずっと頭の片隅にあった。でも、3ヶ月くらい前に一気に話が浮かんで書き上げたわ。編集としては思いもよらぬ新作が出てきたのがうれしい反面、今までにない妖怪モノってことと販売や販促やらのことで、色々大変だったみたい」
そこで青山ブルーマウンテンは言葉を区切った。萌香と心愛をじっと見て、さらに言葉を続ける。
「あなた達2人を見てると、龍の夢を見た時と同じような感じがするのだけれど、なぜかしら?」
「私達2人は人間じゃない、からよ。私達は妖。妖怪といった方が分かりやすいかしら」
萌香が答える。
「あなたが見た龍は神の1柱。東の青龍よ。そして、あなたは青龍の血筋だから、夢に青龍が現れた」
心愛が萌香に続けて青龍のことを話す。心愛の言葉を青山ブルーマウンテンはそのまま聴いている。
「この町は封印の場所から東側に位置している。それにこの町の気候。ずっと春のような状態と水の豊かさは青龍の守護を受けているからこそ。青龍が司る方位は東、季節は春、司る4大元素は水だもの」
と、心愛は話を続けた。

「青龍の一族として、お前達が来るということを予知したのが、龍の夢だったということじゃろう」
今度はティッピーが萌香と心愛を見ながら口を挟む。青山ブルーマウンテンはティッピーの言っていることを理解できた。青龍の血筋というのを体験・体感したのだ。
「でも、龍の夢があったにしても、私達がこの世界に現れるとは限らないでしょう?」
ティッピーの言葉に対して、萌香が疑問をぶつける。
「お前さん達がこの世界に現れることになったのは、モカとココアという同じ名前の2人との縁じゃろう。その縁が、この世界へお前さん達を現れさせたのではないかのう。そんな気がするの」
ティッピーは自分の予想を言った。

「2人が現れる時に合うよう、新刊の内容を合わせたり、タイミングを計って出させるようにした?」
今度は青山ブルーマウンテンがティッピーに尋ねた。
「その部分は青龍の力が影響を及ぼしたのか分からんの」
ティッピーが素直に答えた。

「パワースポット特集の記事が盛り上がっているのは、何か関係があるのかしら?」
この疑問を呈したのはモカだ。
「あの封印の場所に、パワースポットが関わっておる。いくつもパワースポットがあるが、重要なのは8つ。その8か所が封印継続のエネルギー供給元になっておる。封印継続に必要なエネルギーが足らなくなると、封印が解かれてしまい、萌香や心愛達の世界とこちらの世界が繋がってしまうことになる。そうなれば……こちらの世界は妖が溢れ、人間が日常生活を送るのはまず不可能じゃ」
ティッピーが静かに答える。

「青龍が青山ブルーマウンテンの夢に登場し、新刊を作らせた。その内容はパワースポットにも目を向け、足を運ばさせるもので、封印継続のエネルギーを得るに充分なもの。さらに、パワースポットの特集記事が同じタイミングで出るようにして、より多くの人々の足を向けさせた」
心愛が自分の把握したことを口にする。
「青山ブルーマウンテンのできることは新刊を世に出すというところまでじゃから、パワースポット特集の記事は誰か別の者が仕掛けたんじゃろう」
「今日行ったパワースポットの中に、重要な8つのパワースポットの一部が含まれていたわ。確かにあなたの言うとおりね」
心愛に対するティッピーの反応に納得する萌香。
さらに話を続けようとしたところで、新たにラビットハウスに現れた者がいる。青山ブルーマウンテンの担当編集、凛である。
「先生!もう、こんなところに!ちゃんと来てください!」
有無を言わさず凛が青山ブルーマウンテンを引っ張って行く。
「みなさん、すいません」
謝る言葉を発して、連れて行ってしまった。あっという間の出来事だったが、萌香と心愛は凛に関して気が付いたことがあった。神気を感じた、ということだ。
「今のは麒麟の神気?」
「姉さん、今の麒麟の神気よね?」
萌香と心愛の意見は一致した。
「今の人物、ちゃんと覚えておいた方が良さそうね」

「あー、今日はもう話をするのは無理だな。萌香、心愛。ひとまず休憩はどうだ?」
リゼが促す。
「そうさせてもらうわ」
萌香が返事をし、萌香と心愛は青山ブルーマウンテンのいた席に向かい合って座った。
カウンターからは萌香が左、心愛が右に座って見える。

「心愛、明日も続けるわよ」
「そうね。このペースで行けばかなり早く、全部行けそう。私達なら明後日には全部回れるだろうけど、それだけじゃ帰ることはできないわね」
「青龍の血筋の者、青山ブルーマウンテン。それに8つの重要なパワースポット、その8つに連なる数々のパワースポット。でも、まだ何か足りない」
「8つのパワースポットから封印の場所に流れてくる気は当然として、あの作りだと、まだ何か流れるものが必要なはずなんだけど」
「それも調べないとね」
 そんなことを手始めに話をして時間が過ぎていく。やがて、バータイムの時間が目の前に迫ってくる。
「萌香、心愛。そろそろバータイムの時間になる。喫茶店の営業は今日は終了だ」
リゼが営業終了目前であることを告げる。
「リゼ。バータイムは誰が店をするの?」
「チノの父親だ。うちの親父との昔馴染みでもある。そういえば、マスターに聞けば、分かることもあるかもしれないな」
「ありがと。ちょっとマスターに聴いてみたいことがあるから、それから帰るわ」
「そうか。先に帰っても大丈夫か?」
「ええ」
萌香の質問に答えた後、切り替えの為の店の片づけが始まる。ココア、チノ、リゼの3人で行い、萌香と心愛は外に出ているよう促されていた。

「で、マスターに何を聞くの?姉さん」
「足りないものと……聖水について、かな」
「?何でそんなことを?」
「足りないものっていうか、封印と8つのパワースポットを結ぶのに使われていたのは聖水じゃないかと思って」
「封印は青龍という神の力。8つのパワースポットという封印を継続するための場所。聖水なら『結べる』ってこと?」
「その可能性もある、ってこと。そうであろうとなかろうと、どっちにしても、リゼの家の聖水の濃さ。あれほどの聖水がどうしてあるのか、気になるのよね」
萌香は聖水以外にもう1つ候補が頭にあったが、それは言わないでおいた。
「聖水の出所が、リゼの家?」
「ま、聴いてみましょ。姉さん」

「萌香、心愛。喫茶店の片づけが終わった。しばらくすればマスターが店を開けるはずだ。お前達のことは伝えておくから、少ししたら入ってくれ」
「ありがとう、リゼ」
心愛がリゼに礼を言った。
 萌香はその場で町の様子を見ていた。
「穏やかであったかくて。いい町ね、ここ」
呟きながら、町の様子を見続けていると……少し、よりも多くの時間が経ってしまった。
「入ろう、心愛」
2人はバータイムのラビットハウスに入った。

「いらっしゃいませ」
タカヒロが落ち着いて挨拶をする。
「おや、君達は……そうか、リゼが言っていたのは君達だな」
「赤夜萌香です」「朱染心愛、妹よ」
リゼから聞いていた、というのもあるが……タカヒロは確かに感じた。10数年前に、ティッピーとリゼの父と体験した妖の類との1戦の時に感じた気と似たような気を。
「その姿でも妖なら、ここに入ってきても問題ないだろう。法律が適用されるのは人間に対してだからな」
「細かいことは気にしなくていいのね。助かるわ。リゼの家にとても濃い聖水があるのは何故?リゼは過去に聖水の加護を受けているの?」
萌香がタカヒロに尋ねる。
「そのことか。それなら、アイツに聞くといい」
「アイツ?」
「リゼの父親だ。そろそろ飲みに来る時期なんでな」
今まさに来るのが分かっていた、とばかりにタカヒロが答えた。すると、ラビットハウスのドアが開き、リゼの父親が入ってきた。

「お前ら……」
「よう。彼女達は妖だ。お前の家の聖水とリゼの聖水の加護について聴きたいらしい」
リゼの父親とタカヒロの関わり具合がよく分かるやりとりだ。
「教えてもらえるかしら?」
萌香が暗に話すよう尋ねる。

「昔、リゼが生まれてから物心つくまでの間に、リゼを狙う連中が現れてな。まあ、大体は対処できたんだが、物の怪的な敵やら出来事に出くわした事があった。傭兵稼業だから他人から恨まれる・憎まれるなんてのはあるんだが、どうにもならん物の怪系の敵に出くわしてな。その時、ラビットハウスの2人に助けてもらったのさ。聖水で清めた武器を2人が使っていたんだ。それ以後、聖水で清めた銃弾やナイフの類を念の為持つようになった。そして、リゼに聖水の加護を受けさせ、分けてもらった聖水の大元を家に置いたというわけだ」
リゼの父親が言う2人とは、ラビットハウスのバータイムの際にマスターとして立っているタカヒロ・そしてチノの祖父であり、タカヒロの父でもある現在のティッピーのことだ。
「リゼには『身を守れるように』ってことで鍛えてたんだが、まさか今みたいになるとは想定外だった」
「リゼに聖水の加護を与えたのは、リゼの身を守る為ってことか」
心愛は納得した。

「マスター、聖水の出所は?」
「朱雀を祀る社だ。ただ、この町からかなり離れている。この町に関係するとしたら、リゼの母親だろう。社に関わっていたという話だ。ひょっとしたら、朱雀の血筋ということもあり得る」
「朱雀の血筋の可能性……確かに有り得そうね。生まれて間もないリゼが狙われたのも納得できる。だって、リゼを取り込んだり、リゼの血を飲んだりできれば、妖は強くなれる。下級の妖は強さの向上に耐えきれない程ね。そのリゼが生まれて間もなかったり、小さい時なら取り込んだりしやすい。そう言うのを防ぐ目的でリゼ自身に聖水の加護を受けさせたなら合点がいくわ」
萌香の問いにタカヒロが答えた内容。そこから、聖水に関する疑問は解けた。

「マスター。この町とパワースポット特集の記事に掲載されている範囲がカバーされてる地図はあるかしら?」
「あるにはあるが、店ではなく家だな」
タカヒロが答えた。
「その地図なら俺が持っている」
リゼの父親がどこからか地図を取り出して見せた。すると、萌香が封印の場所と重要な8つのパワースポットに印をつけた。

「封印の場所と8つのパワースポットを結ぶのは聖水でいいのかしら?」
萌香がリゼの父親に尋ねる。
「結ぶもの?何のことだ?」
リゼの父親は本当に分からないと不思議そうな顔をして、何のことかと尋ね返した。
「こちらは収穫なしね」
「リゼにまつわる聖水の話だけか……」
萌香と心愛が心なしがっかりの反応をする。
「そういえば、ここ最近ははちみつが異常に増えてるな。それもはちみつの取れる場所が封印の場所や8つのパワースポットから遠くない場所だ。ひょっとしたら関わりがあるかもしれない」
今度はタカヒロがそんなことを言った。
「はちみつ……」
萌香は何か気づいた反応を見せる。
「姉さん?」
「封印のの場所と8つのパワースポットを結ぶのは、はちみつね」
心愛の呼びかけに、萌香は意外なことを言った。

「どういうこと?」
「パワースポット特集の地図、そして実際にパワースポットに行って分かったの。8つのパワースポットは封印の場所に対して、気の供給が最大になるよう『緻密』に、パワースポットと封印の場所は気と互いの関係・状態が『密』になるよう配置。『8』つのパワースポットという『地』。8は語呂合わせで『は』とも解釈できる。これで『はちみつ』が結ぶものって、思ったのよ」
「でも姉さん……今日行った8つのパワースポット全てにあった墓はどういうこと?」
「それなのよね。まだ分からないのが」
萌香の考えに対し心愛は何も言わず、別の疑問を口にした。

「単純に、パワースポットの防人の墓なんじゃないのか?」
リゼの父親が口を挟む。
「防人……そうなのかしら?」
「この付近の歴史を調べてみれば何か分かるかもしれないな。お前達なら文献で調べるのも実地で調べるのもできるだろう?」
「マスター、リゼの父さんもありがとう。残りのパワースポット巡りと一緒にこの付近の歴史も調べてみるわ。明日からそうするわよ、心愛」
「ええ、姉さん」
明日からの行動方針を決めた萌香と心愛。昨日以上に気を引き締めるのであった。

 リゼの父親はゆるりと酒を飲んでいる。一方、マスターであるタカヒロは仕入れたはちみつを使おうとしていた。
「さて、はちみつと水を混ぜて発酵させるか。何日か発酵させれば大丈夫だろう」
発酵日数を自分なりに見立てて、発酵させられる場所へ混ぜた瓶を保管したのだった。

<3日目>
 萌香と心愛が来てから3日目。パワースポット巡りと調べものを行っていた。パワースポット巡りは残り1/4。調べ物は、図書館でこの町を中心にした歴史を調べることが出来た程度。それでも、それなりには調べることが出来たのはプラスだったと言える。
図書館を出ると、2人はある人物とすれ違った。実はすれ違った人物は今回の件に関わりがある。すれ違ったのは、真手凛。青山ブルーマウンテンの担当編集で、2人も凛も互いの面識はない。ただ、それだけではなく雑誌にパワースポット特集記事を掲載し、パワースポットへの人集めを仕組んだ人物である。
 青山ブルーマウンテン担当だけが凛の業務ではない。会社にいる以上当然のことだ。他に、担当する雑誌もある。その雑誌が企画に困っていた時にパワースポット記事の案を出したのだ。今の時期ならば、パワースポット巡りが涼地巡りにも成り得るし、読んだ読者やネットでの口コミや拡散も狙えるだろうというのがあった。ここまでは、他の人間に聞かれても話せる内容だが、話せない内容のこともある。


 青山ブルーマウンテンの新刊発売の1か月半程前。酒で酔いつぶれた際に麒麟が凛に話しかけてきた、と言ったら青山ブルーマウンテンは信じるかもしれないが、普通は誰も信じないだろう。

「凛。我が血筋の者」
「誰?」
「我が名は麒麟。凛に手助けしてもらいたいことがある。運勢上昇地巡りの記事を書き、世に広めることだ」
「運勢上昇地?あ、パワースポットのことね。何で、そんなことが必要なの?」
「あと少しで青龍の血筋の者、青山翠の新刊が完成する。その影響力だけでは、封印の場所に関わる運勢上昇地に集まる人間の数が足らぬ故だ」
「先生の新刊!?」
全く予想だにしなかったことを聞いた凛。その驚きは酔いを覚ますのに十分だった。麒麟とのやりとりは本物だったのかと思い返す程、自分の周りに麒麟の存在は全く感じられなかった。

「パワースポットに人を集める、か……なんでそんなことが必要なんだろう?」
その疑問を発端に色々調べながら、パワースポット巡りの記事作成を進めていく。そして、答えは見つかり、パワースポット特集記事も完成した。パワースポット巡りについては、仕事の出張を兼ねて大部分を行っていたし、行ったことのないパワースポットは極わずか。なので、今回の特集記事作成中に尋ねたことで、記事に掲載されるパワースポットは全て訪地完了になった。
 完成した記事を提出したところ、却下になった。
「後1押しが足りない」
それが編集長からの却下に関する一言だった。
「後1押し……」

 最後の1押しになり得るものを求めるが、そうは見つからない。原稿の提出締め切りまで、残り半日となった夜。凛はバータイムのラビットハウスに向かった。マスターに何かヒントがないかと尋ねようと思ったのだ。過去に何度か同じ状況の時があった。マスターとのやりとりは、記事のヒントになる言葉や話を聴いたり、閃きやアイデア或いはもっと直接的に記事に書く文章が浮かんできたことがあったからだ。
「マスター、助けてくださーい」
バータイムのラビットハウスのドアを開けるなり、凛は懇願にしか取れない声色でそう言った。
「おや、いらっしゃい」
「マスターの『最後の1押し』って何ですか?」
「『最後の1押し』……実行、行動だな。計画・考え・準備。どれをしておいたとしても、実際に動かないとその先はない。ま、実際には動くと色々マズい場合もあるが」
「実行、行動……」
その言葉を噛みしめるように凛は呟いて、さらに続ける。
「そうしてみます。すみません、マスター。今日はお酒じゃなくて、ドリンクを下さい。酔っぱらうのは記事が完成してからにします」
ドリンクの指定だったが、少しだけエナジードリンク的な要素も入れたものをタカヒロは凛に出した。凛の様子を見て、そのほうがいいと判断したからだ。ドリンクを飲み干してから、凛はラビットハウスを出た。

「あの8か所なら、今から行けば明日の朝9時には全部回れる」
凛の考えた8か所とは、重要な8つのパワースポットになっている8か所だ。この8か所が浮かんだのは偶然ではないだろう。
「麒麟……こっちはちゃんと助けようとしているんだから、後1押しを見つけさせてよ」
そう思ったのが麒麟に伝わったからではないだろうが、麒麟が導いているかのように行く順番を迷うことはなかった。4つ目のパワースポットを訪ね終える時、そこにティッピーがいた。
「ラビットハウスのティッピー?」
ティッピーが何故ここにいるのかと思っている間に、ティッピーは姿を消していた。
その疑問を考えていても答えが出るわけではないし、時間もない。今、日が昇ったのだ。
「残り半分、行かなくちゃ」
どうにか残り半分も訪ね終えたが、8つ目のパワースポットで、またしてもティッピーが。
「?また、ティッピー?」
だが、それが最後の1押しになるもののアイデアとなった。それを元に再提出用の原稿を完成させ、編集長からのOKが出た。その夜のバータイムなラビットハウス。

「マスター、ティッピーいますか?」
「やあ、いらっしゃい……親父なら、今はいないな」
「ティッピーの姿を見かけたことがヒントになって記事を完成させてOKがもらえたので、お礼を言おうと思ったんですが……後で会った時にお礼を言うことにします」
気持ちを切り替え、酒の注文を入れる凛。
「マスター、お任せで1杯お願いします」
凛がその1杯を飲んでいると、ティッピーが現れた。

「ご苦労さん。記事も無事完成したようじゃな。麒麟め、自分の血筋の手助けをやらせるとはの」
「ティッピー、ありがとう。パワースポットで姿を見かけたことが、記事を完成させることに繋がったの」
「麒麟には借りがあるからの。それに白虎を宿す者として当然じゃな」
「ティッピーが白虎だったの……それなら、青龍・朱雀・白虎・麒麟は分かったけど、玄武は?」
「封印のある山。それが玄武じゃ。正確には玄武じゃった、じゃな」
「あの山が玄武のなれの果て?」
「身もふたもないのう。ま、その通りじゃな。玄武だけは自然と同化して人間と関わることを拒んだんじゃ。人間の本性が一番はっきりと見える形としてな」
「つまり玄武は人間嫌いだった?」
「そういうことじゃ。人間を守護したり、人間に力を貸すのをかなり拒んだからの。青龍・白虎・麒麟は基本的に人間を守護したり、人間に力を貸すのは普通と言える範囲でならと言う考え。朱雀は積極的に人間を守護したり、人間に力を貸すという考えだった」
ティッピーは5柱の様子を第3者として語る。
「そんな朱雀と玄武の対立は互いの存在を消すことになった。朱雀は遥か遠い地へ、玄武は自然に同化する、という形での」
「なるほど。それで朱雀を祀る社と聖水があんな遠いところに」
「朱雀は南・夏・火を司るからの。火の力で清めた水、聖水をもたらすのは納得できるじゃろ?」
あの穴の封印がされた後の人間達の事情と行動については、凛は把握できていたが、神の側の事情を聴くことになるとは思っていなかった。黙って聴いていたのだが、ティッピーからは納得していると見えたようだ。
「そもそも穴が出来たのはなぜ?そして封印したのはなぜ?」
「さっき言った玄武の人間嫌い。それが穴の開いた原因じゃな。妖の世界と繋がる穴を開けて人間が滅ぶ可能性をあえて作った。それで人間の本性と様子を見たんじゃ。滅ぶならそれまで、とな」
凛は引き続き聴いている。
「その後、大いに時間が経って玄武が山と完全に同化してしまった。つまり、神ではなく単なる山じゃ。で、朱雀は『穴を塞いだ後人間達を守護せねば』と言ったのじゃが……白虎は『封印はするが、人間の守護は反対』を強く主張したんじゃ。人間という種が存続するかは自然の成り行き任せがいいということでな」
「青龍と麒麟は?」
「中立、と言えば聞こえはいいが、『どうでもいい』というところじゃった。むしろ朱雀が人間を守護したがることに疑問を感じていたんじゃ。朱雀にその理由を聞くと、『人間達に助けられたことがあった』と。その時の詳細を聞いて、麒麟が白虎の『人間の守護には反対』を棚上げさせた。青龍は、玄武と逆に『人間に恩恵を与える形』での自然への同化を実行した。この町の元になった村に朱雀を助けた者達がおったので、そこに恩恵を与えるようにの。これが今のこの町に青龍の守護が存在する理由なんじゃ」
「なるほど……ティッピーが言ってた麒麟への借りって?」
「10数年前になるのう……この世界に、とても強力な妖が現れた。たった1匹だけじゃがな。この世界の武器だけで倒すことが出来ず、他にも力が必要だった。白虎はわしに宿っておったが、力を発揮できるような状況ではなくての。青龍は自然に同化済み、となると残りは麒麟と朱雀。とは言っても、朱雀は遥か南の地におるからの。事実上麒麟しか対応できるものがおらんかった。その麒麟が朱雀の元に飛んで、朱雀の力で清めた武器と聖水を用意しおった。その武器を使って、妖を倒した。そして聖水はリゼに加護を与えることに使った。その時の妖が狙っていたのが、リゼじゃ。朱雀を祀る社の関係者がリゼの母親になったからの。リゼを取り込んだり、血を飲めば、より力を増せるはずだということでの。ただ、リゼを取り込んだりできたとしても、妖が見立てたような力の増大は起こらんよ。社の関係者の中でも、儀式の準備を手伝うだけのような立場っだったからじゃ。言うなれば、普通の人間じゃ。リゼを助けることになったのは、うちのタカヒロがリゼの父親と昔馴染みで戦友だからじゃよ。タカヒロがリゼの父親の状況を知って、『助けたい』と言ったのでな」
「妖はリゼに対して、何でそんなことを思ったのかしら?」
「朱雀が助けられた件。その時リゼに似たような姿をしておったらしい。それが記録として残っておったらしくての。どういうわけか、その記録を見た・手にした妖がリゼを狙ったということなんじゃ」
 ティッピーの言った『借り』も理解できた。後はどれだけパワースポットの特集記事を世に広めるか、だけだ。編集部としての方針や業務だけでは、麒麟が期待するような広まりには難しいのが明白。大々的に宣伝しようにも、発売までの時間が短すぎて効果がどれほど出るのかということも分かりきっていた。そんな状況とは裏腹に、どういうわけか、あちこちのパワースポットから「ご利益」の声が聞かれ始め、その声が広まったのだった。


「姉さん、今すれ違ったのは!?」
「あの神気は麒麟、のはずよね。青龍と麒麟……後は朱雀、白虎、玄武」
誰とすれ違ったのかは気にしていなかった萌香と心愛。その麒麟の気の主を追いかけようとしたが、町の賑わいで見失った。
「あぁ、もう!」
心愛は苛立ちの言葉を放った。
「青山ブルーマウンテンやラビットハウスに近い人物のはずよ。多分大丈夫」
逆に萌香は、見失ったことは全く気にしていない。
「心愛。パワースポット巡り、もう少しで終わるんだから、さっさと終わらせちゃいましょ」
心愛は念の為、もう1回だけ町の賑わいの中に麒麟の気の主を探したが、やはり見つからなかった。そして、萌香のパワースポット巡りを完了させるという言葉に従った。
「ええ。姉さん」

 その夜、全てのパワースポット巡りを終えた萌香と心愛。
「あの墓だけが謎のままね……」
どうしても、重要な8つのパワースポットにあった墓の謎が解けない。
「ラビットハウスの誰かが分かるかしら?」
誰か知っていて欲しいという願いが込められた疑問的な萌香の呟きだった。
「どうかしら?」
心愛は期待していないという意識を顕にそう返した。
「心愛、ひとまずリゼの家に戻るわよ」

 リゼの家に戻ると、萌香は麒麟の気の持ち主の件を話した。すると、リゼの反応は萌香と同じだった。
「明日、夕方前にラビットハウスに来るといい。マスターが店を開けるまでなら、話を聞けるだろう」
リゼがそう付け加えた。萌香と心愛は墓の謎が解けるのか気にしながら眠りについたのだった。

<4日目>
 萌香と心愛が来て4日目。パワースポット巡りは完了したが、墓の謎が残っている。墓についてどうやって調べようかと思いながら、萌香と心愛が町を歩いている。
「お前ら、どうした?」
そう言ったのはリゼの父親だった。
「8つの墓のことを知りたいんだけど……で、リゼに話したら、『ラビットハウスのマスターに聴いたら』って言われたの」
萌香が答えた。
「あの墓のことか。あれについては、町長に聴くのが一番いい。夕方、あいつのところに行くつもりか?」
「ええ」
今度は心愛が答えた。
「分かった。俺も顔を出す。町長に会えるよう、あいつと一緒に話をつけてやろう」
「ありがとう」
萌香が微笑んで礼を言った。
「夕方までは好きにしていていいぞ。何だったら、俺達の準備や訓練に付き合うか?」
「それ、いいわね。訓練っていうのがどの程度かにもよるけど」
心愛は体を動かしたいというより、闘いたいという欲が出ているように見える。
「あくまで訓練の範囲だ。殺しあうレベルじゃぁない」
「残念。でも体は動かせそう。姉さんも体を動かしておいた方がいいんじゃない?」
「そうね……そうするわ。戻ってからあいつと戦う時に、思うように動けないんじゃしょうがないから」
「決まりだな。それじゃ、今日は俺がエスコートしてやる」
リゼの父親は萌香と心愛をまずは自分の部隊の訓練場へ連れて行った。
「俺の部隊の連中は、多少なりとも妖を相手にしてきている。妖としての闘い方をしても構わんぞ。手加減するなら、だが」
リゼの父親から、主に心愛へ向けての一言だ。
「じゃ、体を動かすだけしかできないわね」
心愛は不満そうな一言を放った。
「体がなまらなければいいの。本当に闘う必要がある相手じゃないんだから」
萌香が心愛に注意した。

「2人1組になれ!格闘訓練を始める」
リゼの父親の宣言で格闘訓練が始まった。
心愛は全開で闘うことが出来ずに不満だが、それでも「体を動かす」には充分すぎるくらい闘えた。
「思ったより体を動かせたわ。甘く見てたかも」
心愛の評価が少し変わったことを示す一言である。
萌香の方は特に不満もなく格闘訓練で体を動かした。
「いい汗かけたわ」
萌香は満足したという一言の後。萌香と心愛の2人が一旦シャワーを浴びに、場を離れた。

部隊は射撃訓練場に移動し、射撃訓練のブースに隊員達が入った。
「よし、銃を構えろ!」「撃て!」
リゼの父親の号令で、離れた的に向けて銃撃訓練が開始される。通常の実弾はもちろん、聖水の代わりに水を詰めた弾の銃撃もだ。いつ聖水弾を撃つ必要が出るとも限らない。その時の為に訓練しておく必要がある。
 銃撃の練習は部隊をいくつかに分けて行う必要があるので、先程の第1陣から、第2陣、第3陣と続く。銃撃訓練の終盤になると、萌香と心愛が戻ってきた。

「姉さん、あの弾」
「聖水の代わりに水を入れてるみたいね」
「対妖も想定しての訓練。リゼの生まれた頃から10数年経つのに、かなり念入りね」
心愛の言葉を聞きながら、萌香はこの訓練が始まった原因が「妖」であることを残念と思った。それと同時に、自分達の戦える相手を人間だけでなく妖にも広げることで「食いっぱくれが少なくなる」という傭兵だからこその強かさとリゼへの愛情の強さを感じた。

 その後も、リゼの父親の部隊の訓練が続いた。そして夕方近く。そろそろラビットハウスのバータイムを意識した方がいい頃合。
「よし、今日の訓練は各自での自主訓練を行って終了とする。自主訓練開始!」
リゼの父親の命令で、隊員達が各々の訓練をし始めた。
「2人とも、車に乗っておけ。準備をしたら出るぞ」
リゼの父親の言葉に従って、萌香と心愛は車に乗った。

「出るぞ」
リゼの父親は車を運転し、一旦自宅へ。自宅からはラビットハウスまで歩きである。
ラビットハウスに着く頃には、マスターであるタカヒロが開店準備を始める時刻になる。
リゼの父親を先頭に、3人はラビットハウスに入った。

「よお、いるか?」
「どうした?」
「この2人が8つの墓のことを知りたいんだと。町長に段取れないか?」
「町長か……いいだろう。8つの墓のこととなれば、町長もそうそう断れないだろう」

「あのー」
ドアの外から声がする。
「町長から頼まれてきたのですが」
町役場の職員のようだ。
タカヒロがドアを開けて、やってきた人物をラビットハウスに入れた。
「どんな用でここに?町長。相変わらず、こういうのが好きだな」
「全くだ。昔から、こういうのが好きなヤツだ」
リゼの父親とタカヒロは町長を昔から知っている様子だ。
「町長は俺の同級生だ」
タカヒロが町長と同級生と明かしたが、リゼの父親は特に何も明かさなかった。
「町に偉い美人の2人がやって来てるって聞いたんでね。どんなもんかと。その妖の2人ってことか」
「私は赤夜萌香」「朱染心愛。妹よ」
「町長。2人が8つの墓について聴きたいそうだ」
萌香は町長に向かって言った。すると、かなり真面目な雰囲気で町長が返事をした。
「立ち話で済ませられる話じゃない。ちゃんと話さないとな。明日、夜になるくらいの時間に町長室へ来てくれ。それならちゃんと話せる時間が取れる」
「ええ、そうさせてもらうわ」
心愛が「他にも言いたいことはあるが」といった感じで、町長室訪問の返答をした。
萌香と心愛の2人は、ラビットハウスを出ていく。
「町長室で待ってるぞ」
その言葉の後は、バータイムのラビットハウスで酒を飲んでから引き上げた町長であった。
 バータイムの営業終了後、タカヒロは発酵状況を確認した。
「明日なら、飲めそうだ」
また、発酵状況を確認したものとは別に、新しくはちみつと水を混ぜて発酵待ちのものを用意したのだった。

<5日目>
 萌香と心愛が来て5日目。萌香と心愛は町長室を訪ねていた。
「よく来たな。8つの墓について、だったな」
「ええ」
「どの程度知っている?」
「図書館で調べられたくらいね」
「分かった。では話すとしよう」
町長の質問に萌香が答えると、町長が話を始めた。

「青龍が行った封印は、年月を経るごとに少しずつ弱まっていった。とは言っても、神の時間感覚での『少し』だが。その封印が弱まりきって解けないように継続する必要があった。その為の儀式を行ったんだが、一部の人間が独自に行ったことではなく、政としてだった。だからこそ、儀式に必要な8つのパワースポットを始めとするパワースポット群を作ったり発掘したりできた」
「8つの墓は、8つのパワースポットに対応する人間の墓だ。封印を継続する為の儀式を行った人物を出したのが、条河の一族。その墓というわけだ」
「なぜ、あそこに墓を?」
「死後も封印や継続の儀式の効果を見守る為だ。儀式を行う人選の際に、条河の一族がそう決めたらしい。その後は何代かに一度、8つ子が生まれるようになったと聞いている。その8つ子は先程の見守りの役目を行うのだ。先祖がえり的にな」
この話によって、8つのパワースポットに墓があることは、萌香も心愛も納得できた。
町長は話を続ける。

「さて、その儀式には必要なものが幾つもあった。最低でも、8つのパワースポットに対応する人間と矢。身に付ける法被。8つのパワースポットと封印を結ぶはちみつ。矢と対を成す刃は必要だったと記録にある」
「先程挙げた最低限必要なもの……それに町の人間というか一族が関わっている。先程話した条河の一族は、儀式を行った8人の他に矢を。法被は宇治松の一族。はちみつは奈津の一族。刃は桐間の一族。当時の記録を残したのが香風の一族」
「それと儀式は新月の晩に行ったらしい。新月は神月に通ずと言ってな。新月の時が神の力が最大限になるという考えだったのだろう。逆に、満月は魔月(まんげつ)に通ずというのもあったようだ」
「ラビットハウスに来るお客や関係のある名前ばかりね」
「私達が帰るにはどうすればいいの?」
萌香は町長の話に出てきた一族の名字に対する感想を呟いた。心愛は自分達の願いをどうすれば叶えられるのかという直球の質問を町長にぶつける。

「『あの封印を通って帰る』というのが答えだ。ただ……問題がある。条河の一族に8つ子が生まれたはずだったんだが、ちゃんと生まれてきたのは1人のみ。残りの7人は死産になったそうだ。つまり、今のままでは儀式を行えない」
「墓に葬られた条河の一族の人間は『見守る』ことはできるけど『儀式を行う』ことはできないのね?」
「そうだ。その理解で正しい」
心愛は町長の回答をそのまま受け入れた。

「名前を挙げた一族それぞれに関して、記録にある内容を伝えておく」
そうして町長がさらに話を続ける。

「まず、条河の一族は神主・巫女等の神職・聖職に就いて、その職を遂行できる力を持ち合わせていた。よって、8つの破魔矢で構成される特別な結界を作り出すことが出来た。その8つの破魔矢を扱うのに適した8人もいたというわけだ」
「次に宇治松の一族は法被等の儀式に使う衣服を提供していたらしい。神への感謝と御礼を示す装束として、法被も含めて選んだようだ」
町長の声だけが町長室に広がる。萌香も心愛も何も言わずにそのまま聴いている。

「奈津の一族は……元々別の地で花蜜を扱っていた一族が始まりだ。が、一族のはみ出し者がこの地での養蜂を切り開いた。『花蜜』『はみ出し』というわけで、『なつ』を名乗った。そして儀式後はこの地で一族といえる程人数が増えた。そこで、名字として『奈津』を使うようになった。この字をあてたのは元々の一族のいた土地を連想できるから、らしい。それと、蜂蜜には粘りがある。封印が長く持つようにゲン担ぎ、というわけだ」
「随分とかわいい感じの出自ね」
心愛はストレートに思ったことを言ったが、充分に皮肉とも取れる言い振りだ。

「桐間の一族は儀式当時、斬魔(きりま)を名乗って退魔の力を有していたが、儀式以後は時代の流れを経て今のように名乗るようになった。儀式の時に必要だった刃は、斬魔が用意した刀と記録にあるが、その刀の行方の記録は残っていない。ここからは私の勝手な憶測だが、儀式後に退魔士としての力が失せ、刀を手放したのかもしれない。それに合わせて、今の桐間の姓を名乗るようにしたのかもな。で、今現在、桐間の家は貧乏ということだが……退魔した魔物や妖から受けた呪いや恨み、その影響かもしれんな」
「力を失った退魔士、行方知れずの退魔の刀……」
萌香は、厄介な方向に話が広がるかもしれないと一抹の不安を覚えた。

「最後に、香風の一族は記録を残すことに長けていたということだ。今まで話したことは、香風の一族が記録として残していたからだ。一族の血なのだろうな、香風のじいさんが喫茶店を開けるくらい、自分独自の記録をつけたのは。あのじいさんの遺したレシピの類で未発見のものがあるはずだ」
これで全部話しきった、という表情を町長が見せた。
「まあ、こんな話が代々の町長に伝わっている。歴代の町長はこの話を全員墓までちゃんと持って行った。だからこそ、町の人間がほとんど知らない」
今までの話が知られていない理由も付け加えた。

「じゃ、マスターとリゼの父親が『あなたなら分かる』とばかりに言ったのは何故?」
「簡単だ。10数年前の妖騒ぎの内密処理。それに関連して先代の町長が2人に話したからだ。自分が町長になって引き継ぎを受けた時に知らされた」
「で、さっきの封印を通るタイミングはいつがいいの?」
「3日後の夜だ。半月を迎えるからな。理由は……今回は、関係するのが神と妖という取り合わせ。『
2020/01/07
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (1:44 am)
本作は2次創作。
Fani通2018年度下半期号に載っている、
ソラウミあり版と同時にFani通編集部へ提出したもの。
元々こちらを作成中に、広井王子(敬称略)つながりで、
ソラウミを絡められると思い、両方を作成し提出した。
そしてFani通に載らなかったこちらを公開することにした次第。

いつも通り、全角40字/行で表示すると、
当方の想定する折り返しと改行での表示になる。
全角40字/行で約780行(参考資料記載込)。

では、数行の改行の後に本編スタート。



あらすじ
 マン島についたゆりとめぐみ。マン島TTコースのチェック走行中に、扉の陽炎のようなものに突っ込んでしまい、見たこともない世界へ。はたして元に戻れるのか。

序 ゾーアイ界へ
 根本がマン島にかかる虹、そんな虹がかかった。しかし、ただの虹ではない。その虹の青と赤の外側には白と黒が存在していたのだ。
 ゆりとめぐみは明日葉丸でコースチェックの流し走行を終え、一息つこうとしていた。
棚橋もパートナーを見つけ、マン島へ来ているという。2人は共に棚橋のことを考え、今度こそ「コーチと恋人になる!」と密かに息巻いた。
再度明日葉丸を繰り出し、コースを辿りなおす。だが、先程のチェックにはなかった違いが、虹によって生じていた。
「何、あれ!?」
直線でフルスピードを出していた上に、どう対応しても回避は間に合わなかった距離。そんな距離に、その違い、いや異変というべきだろうか。虹の七色の他に白と黒の9色によって構成される扉の陽炎のようなシロモノに突っ込んでしまった。
「何やってんのよ!」
「しょうがないでしょ!気が付いたらどうやっても回避できない状況だったんだから」
2人はヘルメットを外しながら、そんなことを言い合った後。まわりの様子を見た。

「ここ、どこ?」
めぐみが呟く。
「マン島じゃない、ってのだけは確かだと思う」
ゆりがめぐみに対して呟き返した。
目の前は草原が広がり、ずっと向こうには森が見える。
「もしかして、異世界に来てたりして」
「……案外当たりかも」
めぐみの冗談めいた言葉に、ゆりは真剣味のある返事をした。
その様子にめぐみは軽口を叩く気もなくなり、口を閉じた。
「ほら」
ゆりが指を指した先には、村があった。RPGに出て来そうな村の雰囲気そのままである。
「森との真ん中くらい、かな。行ってみるしかないか」
「そうね」
自分達の背後も草原になっていて、前方と違い、果てが見えない有様なのだ。めぐみの言葉にゆりが頷くのは当然というか、そうするしかなかった。
明日葉丸で、村へと着く2人。

「明日葉丸、このままで大丈夫かな?」
「大丈夫かどうか分からないわね。できればこのままにしておきたくないわね」
2人の会話を、村人が聞いていた。
「明日葉丸?あんたら、丸魔神(マルマシン)を持ってる凄い人達なんかね?」
「丸魔神?それって何ですか?」
「?丸魔神のことを知らねぇべか?あんたらどっから来たんだべ?」
2人は苦笑するしかなかった。
村人が丸魔神のことを話そうとした時。突然、凶悪な魔神(マシン)が村に近づいて来たのが見えた。その魔神は上空から攻撃してきており、このままでは村が全滅するのは明らかだ。
「ゾーアイの手下が暴れてるぞ」
そんな声が村の中にある櫓からかかり、村人たちが逃げ始める。

 一方、森の側から出てきた少年がいた。剣を掲げて大きく叫ぶ。
「龍神丸〜」
「おーぅっ」
少年が龍神丸に乗り、上空の魔神と戦うが思うように攻撃が当たらない。
ゆりとめぐみがそんな様子を見ていると、どこからか空神丸が現れ龍神丸と合体、龍王丸となって村を襲おうとしていた魔神を撃退した。
「龍王丸、村へ行ってくる」
「気を付けるのだぞ、ワタル」
「ありがとう、龍王丸」
そしてワタルが村に着くと、村人がゆり・めぐみの2人が丸魔神について話しているのが聞こえた。村人は、先程丸魔神について話そうとしていた村人だ。
「おお、お前さん達。無事じゃったか。何よりだべ。さて……丸魔神というのはな、このゾーアイ界に存在する魔神の中でも特に強い力を持つ魔神だべ。魔神は、この村を襲おうとしたり、守ってくれたりしたものだべさ」
「なるほど。でもあたし達の明日葉丸は魔神じゃないわね。ただの乗り物。名前が明日葉丸っていうだけ」
「明日葉丸、意外とそんなことないかもしれないよ」
村の入り口にあった明日葉丸に何かを感じていたワタルがそう言った。
「誰?」
明日葉丸のことに対して口を挟んできたのは誰かとめぐみが思わず尋ねた。
「あ、ぼくはワタル。創界山から来たんだ」
「創界山のワタル……ほう。おめえさん、ドアクダーやドワルダーを倒した英雄のワタルだべか?」
村人の言葉にワタルは照れて頭をぽりぽり掻きながら頷いた。

「ところで、ゾーアイ界って?」
「ゾーアイが支配するこの世界のことだべ。虹の7色、そして白と黒。9色の色が形作る世界だべ」
「ってことはゾーアイを倒せば戻れるってこと?」
「ゾーアイは結構前からものすごくおかしくなったんだべ。ゾーアイを倒したらこの世界自体が消えるべ。だから、ゾーアイを元に戻す必要があるんだべ」
ゆりとめぐみがした質問の回答を聞いたワタルは自分のすべきことを自覚した。ゾーアイを元に戻すのが今回の旅の目的だと。
「で、ゾーアイを戻すにはどうすれば?」
「ずっと伝わってきた話では。白き貝、バラ色の貝、黒き貝の3つをゾーアイに見せれば、元に戻るって話だべ」
「バラ色の貝?この世界って、白と虹の7色と黒の9色が形作ってるんでしょ?」
「その通りだべ。バラ色の貝を7色の貝に分けたんだべ。ゾーアイ自身が、何かあった時の為にそうしたというのが伝承で言われてるべ。んで、陸と海の中にそれぞれの色の貝を祀る場所があるべ。まずはそれを全部回るべさ」
ワタルはこれまでの経験から村人の言葉をすんなり受け入れた。一方、ゆりとめぐみは全く腑に落ちていない様子を見せていた。
ゆりとめぐみの様子が疲れから来るものだと考えた村人が提案する。
「今日は疲れたべさ。村で休んでから行くといいべ」
3人はそうさせてもらうという意志表示をした。

「っと。おめさん達、これからどこへ向かうつもりだべ?」
「どこへ向かえばいいんだろ?ボクも他の2人もこの世界に来たばっかりだし」
ワタルが村人の質問に答える。
「そっか。なら、まずは森を抜けて、海を目指すといいべ。ゾーアイは深海の宮殿にいるって伝承で言われてるべ」
「海の中か……」
ワタルは呟いて少し考え込んだ。
「ワタル、どうしたの?」
「深海の宮殿へ行けるように方法を探すか考えなきゃ」
「当然、私達の明日葉丸も無理ね。そんなこと」
「で、ボクの勘でしかないんだけど。明日葉丸に何か力があるかもしれない。そんな気がしたんだ、明日葉丸を見た時。海の中で自在に動けるような力なのかは分からないけど」
「ゆり、ワタルに協力しよう。マン島に戻らなきゃ、レースに参加もできない」
「ワタル。私達も協力する」
めぐみに同意したゆりはワタルに協力することを伝えた。

破 3つの貝
 ゆりとめぐみ、ワタルは翌朝まで休んで村を出発した。
まずは森を抜けるのが最初の目標だ。途中、ゾーアイの手下の攻撃が何度かあったが龍神丸の力で全て撃退。3人とも問題なく森を抜けた。すると再び草原に出た。
今度は前方に村もないが、ずっと先は崖になっているようだ。
「ずっと先って、崖?」
「それっぽい。どうする?」
「龍神丸で崖下へ降りられるか、確認してくる」
ワタルが龍神丸で崖下を確認した。
「ワタル、龍王丸なら行ける」
「分かった。戻ってから龍王丸になって、明日葉丸と2人を崖下へ運ぼう」
龍神丸の言葉を受けて、ワタルが決断する。戻ったワタルは2人に話を済ませ、龍王丸で崖下へ明日葉丸と2人を運んだ。
降りてきてからは、微妙にだが潮の匂いがしているような気がする。
「海に近づいたのかな?」
「だとしても、まだ先なんじゃないの?」
ゆりとめぐみはこれまでの移動の長さから、海まではまだまだ距離があると考えていた。
「行くしかない、か」
「そういうこと」
めぐみの呟きに、ゆりが同意を返した。
さらに海を目指して進んでいくと、新たな村を発見。その村へ立ち寄ろうと近づいていく。
途中で、ゆりとめぐみは見たことのある人影を見つけた。

「ジロー!」
「お前達は、確か棚橋の教え子」
ジローはゆりとめぐみを確認した。
「どうして?」
「さあな。俺の宿敵のハカイダーがマン島で動ているという話でな。で、俺もハカイダーを倒そうと動いてていたら、この状況だ。ハカイダーを倒した後にレースへ出なければならないというのにな」
「ジロー、私達と一緒に」
「いや、俺は俺で動く。元の世界に戻る必要がある、という点では同じだ。いずれ交わることもあるだろう。それまで別々にこの世界のことを知って、情報交換しあう方が有意義だ。それに2手に分かれて棚橋を探す方がより見つけやすいはず」
「確かにそうかも」
「ジローはコーチとレースに出るの?」
「そうだ。棚橋とレースに出ることにした。本当はそんなつもりなかったんだが、お前達との2度のレースは面白かった。それにマン島でハカイダーを追うにはレースの参加者となるのが一番動きやすかったからな。もっとも、棚橋にはまだ言っていないが」
「3度目の正直で、次は私達が勝つ!」
「そういうことなら、コーチはジローと一緒なんじゃ?」
「攫われて、行方不明だ」
「コーチが!?」
「ジロー、なんでそんなに冷静でいられるの!?」
「攫って行く時に、棚橋が必要だということを言っていた。少なくとも死んでいるとは考えづらい。それなら、棚橋を追えばいい。この世界についたばかりで、状況把握ができるまでのわずかな間だったとは言え、俺の失態だ」
「ごめん、ジロー」
「私も。ごめん、ジロー」
「お前たちにしてみれば当然の反応だろう」
ゆりとめぐみ、ジローの会話の区切りがつこうかという時、ゾーアイの手下の魔神が現れた。ゆりやめぐみ達を何度か襲ってきた魔神に比べると、より強そうな魔神だ。
「ボクが相手をする。その間に早く村へ!」
「ジロー。ワタルに任せておけば大丈夫だから村へ行こう!」
ワタルが龍神丸で魔神の相手をしようとする様子を見て、ジローは頷いた。
「行こう!」
ゆりがそう言って、走り出す。めぐみとジローも続けて走りだし、村へと着いた。

 村では魔神が現れたことで騒ぎになっていたが、ワタルと龍神丸によって撃退されたのを見て、落ち着きを取り戻した。
「いんや、まさか魔神に襲われそうになるなんてなあ、驚いたべさ」
「あの、私達9色の貝を探しているんです。ゾーアイを元に戻すために」
ゆりが村人にそう言うと、村人が言う。
「わかったべ。この村で白き貝を祀っているから案内するべ」
「じゃ、行こう」
「ワタル!」
ワタルが追い付いてきたのを見て、ゆりとめぐみは安堵した。
4人の様子を見て、村人が白き貝を祀っている場所へ歩き始めた。

 祀っている場所へ着いたゆりとめぐみ、ワタル、ジローの4人。白き貝は自らワタルを選んだかのようにワタルの目の前で宙に浮いた。
「ボクがこの貝を持て、ってことかな」
ワタルが貝を掴んだ瞬間、ベルトのバックル部分が白き貝になった。
「これで白き貝は然るべき者が手にしたことになるべ」
「ようし、まずは1個目!」
ワタルはひとまず、白き貝を手に入れたことを喜んだ。
「それぞれの貝を祀る領域が海層と言われてるべさ。この階層は地上だけんど、第地階層とか第0海層とか言われることもなくはないべ。残り8色の貝は全て海の中で、海の中で一番浅い第1海層に赤き貝があると言われてるべ。で、深くなるごとに海層が進んで青くなり、最後は黒き貝になるべ。ただ、黒き貝はゾーアイ自身が持ってるとも言われてるべさ」
ゆりとめぐみはこの先どうすればいいかと内心不安を覚えていたが…
「あ〜そうそう。さっきの白き貝はゾーアイの宮殿へ向かう為の船みたいなもんだべ。海に白き貝が宿ったモンを入れれば、乗れるようになるはずだべ。ただ、動力は人力という話だべ」
「ありがとう」
ワタルが村人に礼を言う。
「俺は別行動する」
ジローは村を出て行った。海の中での活動の為の対応が必要なのだ。
そこで、先程ワタルが撃退した魔神の残骸から海中活動用に使えそうなものを確認する。その使えそうなもので、海中活動用の強化パーツを作成し始めた。ちなみに、完成したのはワタル、ゆりとめぐみの3人が第1海層最初の村に着いた頃だった。

「ボク達も行こう!」
ワタルがベルトを海に入れると、バックルの白き貝の力で巨大な2枚貝が出現した。
「これ、乗れるの!?」
「大きさは確かに乗れる大きさだけど……」
「今までの経験からすると大丈夫。多分この貝に乗ってれば、呼吸とか水圧とかの心配はいらない。後は海の中を進む為に何かオールみたいなものがあるといいんじゃないかな」
オールのようなものとワタルは言うが、オールに使えそうな材料は先ほどの村にはなかった。
「めぐみ、何かないの?」
「そんなのあるわけ」
そう言いながら、めぐみがポケットを念の為にゴソゴソしてみると、種が出てきた。
「種?あ、この前練習してる時に、見つけた明日葉の種か」
拾ってポケットに入れておいた制服のスカートだったようだ。
「一応、これがあるみたい。ゆりは?」
ゆりも同様に制服のスカートのポケットから明日葉の種が出てきた。
「明日葉の種が2つ、か……」
「とりあえず、海の水だけど明日葉の種に水をかけてみよう」
ワタルが2人の出した明日葉の種に海の水をかけると、明日葉が成長し、うまい具合にオール代わりになった。
「よぅし、まずは第1海層の赤き貝を目指して出ぱーつっ!」
ワタルが宣言する。そして明日葉丸も2枚貝に乗せ、3人の深海宮殿を目指す旅が始まった。
第5海層の貝までは、途中に色々ありながらも無事に手に入れることができた。ただ、第6海層へ向かうのが問題だった。それは明日葉のオールがついに限界を迎えてしまった為だ。流石に植物の寿命なので、どうしようもなかった。
「明日葉のオールが……」
ゆりが呟く。
「オールは貝の中に残しておこう。オールではなくて、別の形で使えるかもしれない」
ワタルの言葉は、自分の勘に基づいてのものだが、それは正しかったと証明されるのは少し後のことだ。

ワタル、ゆりとめぐみの前に黒い何かが立ち塞がる。ジローのもう1つの姿のキカイダーを連想させなくもないが、胸に稲妻の紋様と頭部のクリアケース内の脳が印象的な姿だ。
「お前たちは、キカイダーと共にいた連中!」
「誰だ!?」
黒き者の声にワタルが反応する。
「俺はハカイダー。キカイダーを倒す者。キカイダーはどこだ?」
「キカイダー?何のことよ!」
めぐみがハカイダーに言い返す。
「お前達がジローと呼ぶ者こそ、俺の宿敵。すなわちキカイダーだ」
「ジローが?」
ゆりが本当なのかということを口にする。めぐみも同じ思いだった。

「キカイダーと組んでいた男はここにはいないのだな」
「なんであんたがコーチのことを!?」
めぐみが驚きの声を上げる。
「ハワイでのレース遊びを見ていたからだ。観衆の数の鬱陶しささえなければ、あの場でキカイダーを殺せていたものを」
「私達のレースは遊びじゃない!」
2人のレースに対する誇りが既に手にした貝の力を呼び、それは寿命を迎えた明日葉を新生させた。
明日葉のオールとして使えるのはもちろんだが、それだけではなかった。
「このぉ!」
めぐみが怒りと誇りを混ぜ合わせた感情で、明日葉を振り回すと、人間を軽く包めるような巨大な泡が発生した。
「ゆり、あいつに泡をぶつけて!」
めぐみの指示を受け入れ、ゆりが明日葉を大きく振り回すと泡を動かすのには充分以上の風が吹いた。
「こんな泡で何ができる!」
ハカイダーが泡を侮っていると、ゆりが明日葉を大きく振るのを繰り返し、泡を誘導する。
誘導された泡を破壊しようとするハカイダーだが、それは出来なかった。貝の力なのだろう、泡はハカイダーの攻撃力を上回る弾性と防御力を備えていた為だ。そして、誘導された泡がハカイダーを包み込む。第5海層から地上へ向かうように、ゆりが明日葉を最大限の勢いで振って見せる。ハカイダーを包んだ泡は、地上へ向かって上がっていくのであった。

 入れ替わりに、ジローが姿を見せる。
「ジロー、さっきハカイダーって奴が来た。『ジローがキカイダーだ』って言ってたけどどういうこと?」
ワタルがジローに尋ねる。
「ハカイダーの言ったことは正しい」
「なるほど。じゃ、ジローはこれからボク達と一緒に行けるな。ジローのことが分かったんだから、一緒にいても問題ないだろ?」
「どうだかな。お前達が正攻法で海層を進んできたのなら、俺は裏の手とも言えそうな手を使って進んできた。それに裏の側からだからこそ、棚橋の情報も掴めたところもある。お前達はどうだ?」
ゆりとめぐみに対し、棚橋の件を振るジロー。
「私達が寄った村ではコーチのことは分からなかった」
ゆりが返答する。
「そうか。俺が得た情報によると、棚橋は生きている。そしてバラ色の貝を成すのに必要な存在ということだ」
「じゃ、コーチは今どこに!?」
めぐみがキツめにジローへ問う。
「第5海層という話なんだが、お前達は会っていないのか?」
「うん。会ってない。ただ、さっきのハカイダーの口ぶりからすると、ハカイダーはその人に会っていると思う」
ワタルがジローに答える。
「泡で地上送りにしちゃったのは失敗?」
「だったのかな……」
ゆりとめぐみの2人はそれぞれ呟いてうなだれる。
「ハカイダーなら短時間で戻ってくるだろう。次のハカイダーの攻撃が来る前に第6海層へ行った方がいい。それに今までの第5階層内に棚橋がいなかったのなら、第6海層との境にいるはずだ。俺はまだ別行動で、バラ色の貝や棚橋の存在が必要なことについて調べてみる」
ジローの言葉を受け、ワタル、ゆりとめぐみの3人は第6海層への境へ向かった。
「ここを超えれば第6海層か。でもその前に、やらなくちゃならないことをやろう」
ワタルがゆりとめぐみに元気づける意味も含めてそう言った。
「だね。ここにコーチがいるはずなんだから探さなきゃ!」
「コーチを見つけるのは私!」
めぐみとゆりの様子がいつも通りに近い感じになった。沈むというよりは、普段よりも浮かれているというか気合いが入っているというか、そういう感じでのいつも通りに近いものだ。
3人が棚橋を探し回ると、ゆりでもめぐみでもなく、ワタルが棚橋を見つけて2人を呼んだ。
「お前ら!」
「コーチ!」
ゆりとめぐみが棚橋に抱き着く。しかしこんな時でもより棚橋を独り占めできるような奪い合いは続く。その様子にワタルは少々呆れてしまった。
「全く、お前らは。何かこの世界に来たと思ったら、攫われて、それで戻ろうと思って動き回っていたら、この場で足止めされてな。それ以来、ずっとこの場所ってわけだ」
棚橋の言葉に安堵したゆりとめぐみ。が、それも束の間のことだった。

「お前達、気をつけろ!」
ジローが姿を見せる。
「おお、ジロー!」
ジローは警告を発したが、棚橋は脳天気だ。ワタルは注意を払い始めるが……
 何者かが棚橋にサングラスともゴーグルとも取れるようなものを身に付けさせた。それはあっという間の出来事で、ジローでさえ反応できないことだった。
「この男は俺の手駒になった。ようやくキカイダーを倒せるチャンスが来たのだ。逃すわけがなかろう」
その言葉の主に、ジローが闘志を漲らせる。そう、ハカイダーだ。
身に付けさせられたものの影響だろう、棚橋が邪悪の化身のようになっていく。
さらに、どこからともなく魔神が現れる。魔神の操縦者として棚橋が魔神に消えた。
棚橋の魔神が暴れ始める。この状況に対応できるのはワタルとジローだ。
龍神丸を呼び出し、ワタルが魔神を押さえる。ジローもキカイダーとしてハカイダーと戦うが、魔神の操縦席には近づけない。
「くそっ。ハカイダーのヤツが身に付けさせたシロモノを外すなり、破壊すれば元に戻るはずだが」
ジローの言葉は、ゆりとめぐみの闘志に火をつける。

「コーチを助けるのは私!」
ゆりとめぐみ、2人の想いは最大限に達して互いに右拳を放つ。「自分とコーチが結ばれたい」と互いに思った故である。放たれた拳はカウンターとなり、頬に当たろうとした瞬間。2人の感情をゾーアイ界が力に変え、明日葉丸に奇蹟を起こす。そう、明日葉丸が本当に丸魔神になったのだ。
「めぐみ!」「ゆり!」
1人で操縦するタイプの魔神の龍神丸に対し、明日葉丸は2人で操縦するタイプだ。
2人はコーチを争うという点ではライバルだが、幼馴染でもある。反目していたとしてもそれなりには力を発揮できるだろう。
明日葉丸に吸い込まれ、2人は操縦席に座る。
「ワタル!」
「私達も戦う!」
棚橋との3人の時間と期間は、ゆりとめぐみを棚橋の動きへ対応させる。しかし、時間が経つにつれ、明日葉丸は劣勢へと傾いていく。龍神丸は相手の魔神の力なのか、それとも別の問題なのか。どこか力が出せていないように見える。
「ワタル、原因はわからないが力がうまく出せない感じがずっとする。少なくとも今回の闘いでは明日葉丸とジローのサポートをするのが良さそうだ」
龍神丸からそう告げられたワタルは、それを受け入れた。
「よし、龍神丸。明日葉丸とジローのサポートで戦おう!」
「わかった。いくぞ、ワタル!」

 棚橋の操縦する魔神が優勢な状況だが、明日葉丸も負けてはいない。キカイダーはというと、敵魔神近くに常に居続けるハカイダーを引きはがすため、闘っている。
明日葉丸もキカイダーも、龍神丸の援護を受けながらチャンスを狙い続け、そのタイミングは来た。

「シャイニングロード!」
明日葉丸から光線が放たれ、敵魔神への一直線の道が形成される。
「ウイニングストレート!」
魔神状態からレーシングニーラー状態になった明日葉丸が最高速度で走り……
「いけぇ!」
「ヴィクトリーチェッカー!」
再び魔神状態になって、スピードに乗った連続パンチがチェッカーフラッグの模様のように当たり続け、最後の一撃のストレートで思い切り敵魔神を吹っ飛ばす。
「ワタル!」
ゆりとめぐみのバトンタッチを受け、ワタルが止めを刺す。
それでも敵の魔神は爆発に至ることはない。また、キカイダーもハカイダーに撤退が必要なダメージを与えて引き下がる選択をさせることに成功した。
「コーチーーーーーーーーーーーー!」
ゆりとめぐみの叫び声は2つの海層の間を流れる泡に消えゆく。
「キカイダー! お前を倒すのは次の機会だ!」
ハカイダーは棚橋の操る魔神に飛び移り、共に撤退して行く。
「ハカイダー……」
ジローは敵魔神とハカイダーの様子を見ながら、これからのことについて少しだけ物思いにふけった。

「ジロー!」
ゆりとめぐみが同時にジローへ声をかける。
「棚橋を助けるのだろう?ハカイダーも絡んでいる以上俺も共に闘かおう」
「ありがとう」
再びゆりとめぐみが同時で、ジローに礼を言った。
「よろしく」
「ああ」
ワタルは過去の旅の経験からなのか、すんなりと受け入れた上でのあっさりとした挨拶、ジローはジローで、一言だけの返事だった。
「ジローの力もあれば、コーチを助けられる!」
「まさか、ジローがこんなに強かったなんて。なるほど……このジローの相棒のサイドカー付バイクに対して私達が勝てないのは当然か。ハワイでの『ジローの相棒に勝てない、勝てたら天地がひっくり返る』っていうコーチの言葉が本当に納得できた」
ジローの共闘の申し出を喜んだゆりに対し、ジローの強さを見ためぐみは驚きを見せている。2人ともジローが人造人間だということは全く気にしておらず、むしろコーチである棚橋のことを気にしていた。そして、ジローは掴んできた情報をワタル、ゆりとめぐみに話した。

「コーチ……」
レースでのバトルならともかく、このような形で戦うことになるとは思ってもいなかったゆりとめぐみ。辛いことは辛いが、そこはこの2人。「自分がコーチを助けて、恋人になる」という出し抜きあいが静かに始まっていたのだった。

 ゆりとめぐみ、ワタル、ジローの4人で第6海層、第7海層は突破できた。だが、ゆりとめぐみは重々しい気分とまでは言えないが、沈んだ気分を抱えていた。理由は単純で、棚橋と何度か戦闘を交えたからだ。いずれも「棚橋を撃退」という結果だったが、一つ間違えば棚橋の命が失われる結果にもなり得る。それを棚橋との戦闘の度に痛感させられた。
それでも先へ進まなければ元の世界に戻ることができないのも分かっており、第8海層にようやく辿り着いた次第だ。

「最後の第8海層だ。黒き貝を手に入れて、7色の貝をバラ色の貝にして、そしてゾーアイに3つの貝を見せて元に戻す!」
ワタルが最後の海層に対する意気込みを見せ、ワタル達は海層内を動き回りはじめる。流石に第8海層だけあり、ゾーアイの手下の動きも激しく、戦闘回数は今までの海層に比べるとかなり多い。そんな中、嫌な事実が判明する。「ゾーアイがいつ消えてもおかしくない状態にある」「黒き貝はゾーアイではなく別の者が持っている」「黒き貝の持ち主が、ゾーアイをいつ消えてもおかしくない状態にした」ということだ。

 判明した事実からジローはハカイダーが黒き貝の持ち主と考えた。
「ハカイダーが、黒き貝の持ち主だろう。つまりハカイダーがこちらに同調しないと、元の世界に戻ることが不可能だ」
ジローの言葉にゆりとめぐみは不満そうだ。ワタルは黙って受け入れていた、というか納得した。何度も闘って感じていたのは、「如何にジローと同じような存在とは言え、強すぎる」ということだ。
「何であいつが黒き貝を持ってんのよ!」
ゆりとめぐみは言葉にしないものの、そう思ったのは間違いない。怒りと殺気が2人の表情を険しく歪めている。
「お前達、その状態では闘えないだろう?」
冷静さを欠いていると一目でわかる状態の2人に対し、ジローはかなり冷静に2人へ問う。
「闘えるわ」
ハモって2人は返事をするが、ちゃんと問いに答えたというより、脊髄反射のように即答した結果だ。
「おねえさん達、もっと落ち着いてから戦った方がいい」
ワタルもジローに同意見である。が、ゆりとめぐみの様子に変わりはない。仕方ない、といった様子と口調でジローが言った。
「冷静さを欠いているお前達が戦ったら、棚橋を殺してしまう可能性がより高くなる」
「棚橋」という名前が入ったことで、ジローの言葉の「棚橋」以後の内容だけは2人の耳にようやく届いた。
「……」
怒りと殺気に溢れた荒ぶる状態から、ようやく落ち着きを取り戻し始めた2人。
「助けるどころか殺しちゃったら……」
「頭に血が上りすぎてたみたい」
何度か深呼吸して自分達を落ち着かせるゆりとめぐみ。
「ハカイダー、だっけ?」
ゆりがジローに尋ねる。
「ああ。どうにかハカイダーをこちらに同調させる必要がある」
「ハカイダーはジローに拘ってたから、ジローがうまいことやれば何とかなるんじゃない?」
「可能性はあるだろう。だが、何をすればいい?」
めぐみの意見にジローは肯定的な返答をした。
「『この世界でジローを倒しても、ジローを倒した証明ができないから元の世界に戻ってから決着をつける』っていうのは?」
今度はワタルが言った。
「いい策だ。『俺を倒した』証明ができないなら、口で言っているだけになる。ハカイダーもそれは避けたいだろう」
こうして、ハカイダーを同調させる方針が確定した。後は次にハカイダーが現れた時、ジローが同調するよう対応することだ。

 4人はさらに第8海層を進み、段々とゾーアイのいる深海宮殿が近づいてくる。
だが、深海宮殿が見えたとしても突撃・突入することはできない。なぜならバラ色の貝がないからだ。バラ色の貝が分かれた7色の貝を戻すには、ゆりとめぐみ、それに棚橋の3人が必要だということが第8海層内を巡って分かったことだ。

「ある意味好都合かもしれない。ハカイダーは黒き貝を持っていて、棚橋と共に行動しているからな」
第5海層と第6海層の境で、ハカイダーの手駒にされてしまった棚橋は、それ以後ハカイダーと共に現れてきた。
「次にハカイダーが現れた時に、こっちの考える通りに行けば全て解決する」
ジローの言葉は楽観的希望でしかないが、ゆりとめぐみには楽観的ではない充分な希望の言葉に聞こえていた。
「次、絶対に勝つよ!」
めぐみがそう言うと、ゆりは頷いた。

 4人は深海宮殿に一番近い、第8海層最後の村に辿り着いた。
「よっく来たなぁ。ここから先にあるのはゾーアイのいる深海宮殿だべさ。深海宮殿の入り口は黒き貝の力で見えなくなってるべ。黒き貝は持ってるんだべ?」
「いや、持ってない」
ジローが村人に答えた。
「なら、黒き貝を手に入れるべさ。そうでなけりゃ、進んでも意味がねえべ」
「ここから深海宮殿まではどのくらいの距離がある?」
「そうだべなぁ……この町が10個、くらいってとこだべか」
村人の言葉を聞いて、ジローが今までの戦闘での最大範囲を思い返す。大体この町が7、8個くらいの広さだろうか。
「ジロー、何で今みたいなことを聞いたの?」
ゆりがジローに聞いた。
「ハカイダーと棚橋を誘き出して、アレを実行できる最初で最後の機会かもしれないと思ってな。それにうまく行った後、この町に戻ってきて深海宮殿行きの最終準備もできる」
「なるほど。ジローの作戦をやろう」
ワタルの言葉にゆりとめぐみも同意した。
念の為、最後の情報収集を行ったが、特に新しい情報はなかった。4人が町を出て深海宮殿との中間が近づいて来た時。ハカイダーと棚橋が現れた。もちろん、棚橋は魔神に乗っている。
 ハカイダーと棚橋が現れたということは、ジローの案を実行する時が来たということだ。ワタルが龍神丸を呼ぶ。ジローはハカイダーを納得させる必要がある。そして棚橋が身に付けさせられたものを、ワタルか、ゆりとめぐみが外すか破壊しなければならない。
「ハカイダー、この世界で俺を倒しても、俺を倒した証明ができないぞ」
「なるほど。俺をお前ら側に同調させるつもりなのか。証明できようができまいが、関係ない。俺の使命はお前を倒すことだ」
「俺を倒したのを自分が分かっていればいい、か」
「そういうことだ」
ハカイダーの言葉の直後、棚橋の魔神がジローを攻撃する。
「ジロー!」
ワタルと龍神丸がその攻撃を阻止。ハカイダー対ジロー、棚橋の魔神対龍神丸の闘いが始まった。ゆりとめぐみは明日葉丸で、ジローや龍神丸のサポートに入る。
闘いがしばらく続き、膠着状態になったと思われた時、それは起こった。

 深海宮殿がとある生き物に姿を変えたのだ。その生き物はリュウグウノオトシゴ。ゾーアイ界が誕生した時からゾーアイと共に存在する生き物であり、ほとんど身動きすることなく海底に横たわっていた。ゾーアイ界のナマケモノ、とも言えるかもしれない。しかし、ゾーアイの存在を維持させる為に生き物としての動きを見せたのである。

 深海宮殿の変化の余波は、宮殿から離れているジロー、ワタル、ゆりとめぐみ達の元にも届いた。この余波の影響を一番受けたのは棚橋の魔神だ。魔神の背中側に傷ができてしまった。この傷を4人が確認し、棚橋の魔神にある背中の傷を攻撃できるように連携して攻撃を続けていく。この連携にはハカイダーも手を焼くしかない。

「クソっ。またキカイダーを仕留められないのか」
ハカイダーの言葉に黒き貝が反応し、よりジローへの執念と破壊衝動が増す。だが、これはこの闘いを終わらせる流れを生み出した。それまでは棚橋へのフォローやバックアップ的な行動を肝心なところで行う理性と心的余裕を持っていたハカイダーから、それらが無くなったのだ。
「ワタル、ゆり、めぐみ。そっちを頼む!」
ジローが棚橋の魔神を3人に任せると意志を示す。
「了解っ!」「任された!」
ワタル、ゆりとめぐみが返事をする。
「ボクがあの背中の傷を攻撃して、乗ってる人も気を失うように魔神を止める」
「オッケー!」
「じゃ、私達が引きつけるから」
ワタルの言葉をゆりとめぐみが受け入れる。

 一方、ジローはハカイダーを相手にしていたが、闘いに関しては変化前の方がやりにくかったと今のハカイダーを相手に思っていた。問題はハカイダーをどうやって元に戻すか、である。一番考えられるのはハカイダーの気を失わせることだが、今のハカイダーを相手にするには気を失わせるのではなく、ハカイダーを倒すつもりでやらないと自分の方が危ない。
 明日葉丸と龍神丸のタッグが棚橋の魔神を相手に立ち回り続ける。ついに棚橋の魔神の動きを止めることに成功した。
「コーチ、大丈夫だよね?」
「うん。私達のコーチだもん」
「お姉さん達、気を付けて中に入って」
棚橋のことが心配なゆりとめぐみに、棚橋の魔神に入るようワタルは言葉を発する。
ゆりとめぐみは棚橋の魔神の中に入り、操縦席の棚橋を見つける。ワタルがうまい具合に棚橋を気絶させるように棚橋の魔神を止めたおかげで、棚橋が暴れるようなことはなかった。すぐに棚橋が身に付けさせられたものを外そうと掴む2人。黒き貝の力が発動しようとするが、その前に壊してしまう。
「よかった、コーチ」
「コーチ……」
棚橋の左右で安堵する2人の様子を目覚めながら見る棚橋。
「お前達……」
「コーチっ!」
棚橋が2人をそれぞれ見て呼びかけ、ゆりとめぐみは左右から棚橋に抱き着く。
「何だこりゃ!?」
自分がどこにいるのか、どういう状況なのか把握できない棚橋の混乱は当然だ。
「何か、私達異世界に来ちゃったんですよね」
「この異世界からあとちょっとでマン島に戻れるんです。コーチ、一緒に」
「そうか。なら帰らないとな」
棚橋の意識と意志を確認したゆりとめぐみは明日葉丸に戻る。
「ワタル、コーチを取り戻せたよ。ありがとう!」
「元の世界に戻れるまであと少しだしね。行こう!」
ゆりとめぐみの言葉にワタルは頷いた。
「ジローを助けよう!」
龍神丸、明日葉丸、棚橋の魔神がジローのサポートに入った。

「明日葉丸。お前の必殺技でハカイダーを吹っ飛ばすことはできないか?」
唐突とも言えるジローの問いに、ゆりとめぐみは黙った後、こう答えた。
「多分行けると思うけど……正直やってみなくちゃ分からない」
「ジロー、何でそんなことを聞くの?」
「深海宮殿の方向で何かあったのは分かっていたが、何か巨大な生き物が出たようだ。その巨大な生き物の腹の中に……何か別の生き物が存在して生き続けている。巨大な生き物を使えば、今の状態のハカイダーを元に戻せるかもということだ」
「ハカイダーを殺すわけにはいかないから、やってみよう」
ワタルは賛成を口にする。ゆりとめぐみ、棚橋も同意した。
「よし、俺達で明日葉丸をサポートするぞ!」
ジローの言葉を合図に、戦闘態勢の変更が行われ、明日葉丸が切り札となる。
新しい戦闘態勢に変化して間もなくすぐにチャンスが来たかと思われたが、そうではなかった。さらに闘いが続き、ようやく明日葉丸の出番が本当に来た。

「シャイニングロード!」「ウイニングストレート!」「ヴィクトリーチェッカー!」
明日葉丸の最大限の力でハカイダーを吹っ飛ばす。そのふっ飛ばし具合は魔神の力ならではである。一方、ハカイダーの方は気を失ってはいなかった。反撃するという意識だけがハカイダーに満ちていた。
 ジローがハカイダーの反撃意識を感じ取る。
「ハカイダーは気を失ってない、反撃に気をつけろ!」
ハカイダーの反撃に、龍神丸と明日葉丸と棚橋の魔神が注意を払う。ジローも注意しつつ、反撃が自分に向かうようハカイダーへ接近していく。

「ワタル、コーチ!私達が明日葉であいつをもう1回泡に包んで、あの巨大な生き物の中に入れる」
「だから、そうできるようにジローを助けて!」
「分かった。お姉さん達なら、うまく行くよ」
「お前らならやれる!」
ゆりとめぐみの話にワタルと棚橋が乗っかり、ジローにそれを伝えてから龍神丸と棚橋の魔神でジローをフォローする。
「タイミングが大事。いくよ、めぐみ」
「失敗しないでよ、ゆり」
明日葉丸がオールにしていた明日葉を手にすると、明日葉が明日葉丸の大きさに合わせて巨大化した。まずは泡を発生させて、ハカイダーを包み込むタイミングを待つ。
ジローと龍神丸、棚橋の魔神はハカイダーの最初の反撃を避けて、ハカイダーの目標を自分達に固定させた。そして、明日葉丸、棚橋の魔神、ハカイダー、ジローと龍神丸が一直線上になった時。明日葉丸に合図が送られた。明日葉丸が明日葉の力でハカイダーを再び泡に包み込み、さらにその泡をリュウグウノオトシゴの中へ送り込んだ。
リュウグウノオトシゴの中にハカイダーの入った泡が入ると、泡はなくなり、ハカイダーが直接リュウグウノオトシゴに包まれる状態になった。すると、ハカイダーは大人しくなっていき、やがて眠っているかのように身動きしなくなった。ハカイダーから黒き貝が静かに浮き上がる。
「やはり、黒き貝はハカイダーが持っていたな」
黒き貝の力で、リュウグウノオトシゴの中にいるゾーアイの存在の危うさがなくっていく。
「ハカイダーの他に……あれは何だ?」
黒き貝とゾーアイの様子にジローが呟く。
「ひょっとしたら、あれがゾーアイ?」
ワタルがそうかもしれない、と口にする。
存在具合が元に戻ったゾーアイが、口を開く。
「この世界を元に戻すには、白き貝、黒き貝、バラ色の貝が必要。そしてバラ色の貝を成す7色の貝、それを纏める者も全てあるならば」
ゆりとめぐみ、ワタル、棚橋、ジローは言葉の続きを待つ。
「我のいる、このリュウグウノオトシゴの中へ」
ゾーアイの言葉を受けて、龍神丸・明日葉丸・棚橋の魔神・ジローが、ゾーアイとハカイダーの元へ向かい、辿り着く。すると、ワタル、ゆりとめぐみ、棚橋は魔神からごく自然に出された。同時に、ワタルの白き貝がバックルから離れた。また、ゆりとめぐみ、棚橋が持つ7色の貝も3人の元を離れた。
ゆりとめぐみに対してゾーアイが言葉を発する。

「あなた達の愛憎ぶりはとても大きく、私に影響を与えた。その影響は日を重ねるごとに大きくなっていき、やがて私は自分を失うほどになった」
ゆりとめぐみは、今回の出来事の真の原因は自分達だと言われたわけである。
「異世界に影響を与える程のその愛憎の大きさは、一歩間違えれば世界の破滅につながること・それだけ大好きな人がいるということは良いことであることを忘れないでほしい」
なんとも言えない気持ちになったものの、ゆりとめぐみはゾーアイの言葉を受け入れる。
ゆりとめぐみ、棚橋は自分達を中心に7色の貝を円状に並べ、3人の関係から発生する愛憎によって、7色の貝をバラ色の貝に変化させた。
これで、ゾーアイを元に戻すのに必要な3つの貝が揃い、後はその貝をゾーアイに見せれば、すべてが終わる。
「全てを纏め、一つと成す者。そして心と行く末を探し、見守りし者よ。それぞれの手に白き貝と黒き貝を、その胸にバラ色の貝を」
ジローが白き貝、黒き貝、バラ色の貝を掲げ、ゾーアイに見せる。
3つの貝の力はゾーアイが持つ力を甦らせ、それと同時にゾーアイ界自体も元に戻っていく。ゾーアイの力が完全回復すると、ゾーアイ界も完全に元に戻ったのだった。もちろん、リュウグウノオトシゴも深海宮殿に戻ったのである。

急 それぞれの世界へ
「終わった……」
ワタルは疲れを滲ませながら言う。ただ、表情は嬉しさを爆発させていた。
「やっと帰れる……ジロー、勝負よ!」
「レースの準備するよ、ゆり!」
ゆりとめぐみはマン島に戻ってからのレースのことに頭を切り替えていた。
「ジロー、どうだ?俺とマン島のレースに出るのは?」
棚橋の誘いに、ジローが答える。
「ああ、出る。ハカイダーもすぐには動けないだろう。それにマン島でレースをすれば、もうお前の教え子達にレースを申し込まれなくて済む」
「きっと今後は私達がジローにレースを申し込まなくても、ジローの方から私達にレースを申し込むことになるわよ。レースの面白さをジローは知ったんだから」
ジローのマン島TT参加表明に対して、ゆりがそんなことを返した。
「帰ろう!」
めぐみの一言に、ゆり・棚橋・ワタル・ジローが頷いた。ハカイダーは、ゾーアイとゾーアイ界の完全回復後も、眠ったままのような状態が続いていた。
「お別れだね、お姉さん達。ボクは創界山へ戻る。創界山からなら、ボクのいる世界へちゃんと帰れるから」
「ワタル、助けてくれてありがとう」
「元気でね、ワタル」
「ジロー、ありがとう」
「ああ。ワタルには、色々助けてもらった。ありがとう」
ワタルと、ハカイダーを含むワタル以外のグループがそれぞれいるべき世界へ、ゾーアイの力で帰っていく。ちなみに、明日葉丸もちゃんと元の世界に戻った。

 ゆりとめぐみ、ジローと棚橋はこれからマン島TTで激突を迎える。そしてハカイダーは相変わらずジローを付け狙い、倒そうとし続ける。
ワタルはマン島TTをたまたまTVで目にし、ゆり&めぐみペアVSジロー&棚橋ペアの戦いを見て、その様子をゾーアイ界のことと共に強く記憶に残すのだった。


参考資料
つうかあ&キカイダー番外編(2017年度上半期号収録)
つうかあ&キカイダー番外編幻のハワイTT!?(2017年度下半期号収録)
2020/01/05
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (11:12 pm)
本作は2次創作である。全角40字/行で表示すると、当方の想定する折り返しと改行での表示になる。
長さは全角40字/行で約1300行(参考資料記載込)。

では、数行の改行の後に本編スタート。





プリンセスラバー&ワルキューレロマンツェ番外編 祝賀対決!シルヴィア対スィーリア

あらすじ
スィーリアの元にもたらされた、断ることのできない試合。それは新年祝賀対決で、フィルミッシュのプリンセスであるシルヴィアと闘うこと。果たして、勝つのはどちらなのか?

起 断れぬ試合、祝賀対決
 学内戦終了から3日経とうとしていた。スィーリアはある来客の対応中である。
来客は鳳条院聖華。
「「既に断れなくなっているとは……」
その内容は新年の祝賀行事として、フィルミッシュのプリンセスであるシルヴィアとスィーリアの試合を行うというものだった。
試合そのものは何の問題もない。むしろ祝賀の行事に携わることができて光栄だとすら思うし、学校を卒業後に騎士として転戦する為の練習だと思えばちょうど良い。
気になったのは、この試合を行うことになった経緯だ。

「スィーリアさん、当日はよろしくね。我が鳳条院財閥が全力で試合を中継するわ」
聖華の言葉にスィーリアが頷いたのを確認してから聖華は部屋から出て行った。
来客対応の応接室を出たスィーリアはその足で、ノエルを探した。
「ノエル、私が来た理由は分かっているな?」
「もちろんよ、スィーリア」
「場所を変える。ここでは話せる内容ではない」
「そうね、移動しましょう」
2人は手近な空き教室を探して入った。
「鳳条院聖華が祝賀試合の話を持ってきた。それはいいが、この試合が行われることになった経緯がどういうことか聞きたい」
「ミレイユのことね。この間の社交界の集まりで、フィルミッシュのプリンセス、マリア姫とミレイユが話しているうちに、ジョストの話題が出て。で、私の通っている学校には『女王』って言われるくらい強い人がいるって言ったらしいのよね」
「らしい、というのは?ノエルはその場にいなかったということか?」
「その話がされていた時は、社交界へのあいさつ回りの最中だったから。あいさつ回りが終わって、それを聞いたの。で、マリア姫も張り合うように、シルヴィア姫なら負けないって言い出したっていうことらしいのよね。聞きつけた周りの人たちが面白がって祝賀対決をセッティングしてしまい、それが広まったというわけ。だから鳳条院も知っていて不思議はないわ。あの場に参加していたのだし。それで、シルヴィア姫のジョストの映像を見ることができたのだけど……低く見ても、Bランクの上位と互角くらいには戦えそうだったわ」
「それは楽しみだ。祝賀対決に相応しい闘いにしたいものだな」
「なら、貴弘をシルヴィア姫のベグライターにつけたら?」
「水野をベグライターにつけるのか、面白そうだ。ノエルにもシルヴィア姫側についてもらおうか。今回の件の責任を取る、ということも含めてな」
「ええ」
ノエルは返事をした。

 翌日。スィーリアはノエルを使って、貴弘を呼び出した。生徒会室には、貴弘とスィーリアとノエルの3人だけである。
「なるほど。そんなことが……では祝賀対決に向けて、それなりの時期にフィルミッシュに入らないといけないでしょうか?」
「それについてはこれから確認するが、冬休み初日にフィルミッシュへ入れれば問題なさそうだ。ノエルの見立てによると、Bランク上位と互角には闘えそうだということだからな。馬の世話についても問題ないだろう。
今回は貴弘にシルヴィア姫側についてもらい、最高の闘いをしたい。それと……今回の件の責任ということで、ノエルにもシルヴィア姫側についてもらう」
「わかりました。綾子さんには話しておきます」

その夜。店が終わってから、貴弘は綾子に昼間あったことを話した。
「フィルミッシュね……いいところだから、試合だけじゃなくてしっかり楽しんでらっしゃい」
その時。
「フィルミッシュって、何しに行くの?」
一度は帰った美桜が戻ってきていた。忘れ物を取りに来たのだという。
貴弘は美桜にも同じことを話す。すると、美桜は納得して見せた。
「スィーリア先輩、何か大変だね」
「そうは思ってないだろうな。シルヴィア姫と闘えることを楽しみにしてる。俺をシルヴィア姫のベグライターにって言ってるくらいだから。それに、祝賀対決の行われる新年はスィーリア先輩の卒業する年でもある。卒業すれば騎士として世界各地を転戦することが始まる。その予行にうってつけだって考えてるだろう」
「確かに、スィーリア先輩ならそう考えそう」


承 鳳条院聖華からの依頼、そして大晦日
 祝賀行事の件はあっという間に学内に広まっていた。
翌日の夜。再び鳳条院聖華が姿を見せた。今度は貴弘と綾子の家で経営している店舗にである。夜なので、今は飲み屋として営業中だ。
「こんばんは、水野貴弘君」
「こんばんは……あ、あの日に会った!」
「覚えててくれてありがとう。ね、ジョストの試合の解説したり、本を書いてみる気はない?」
「?」
貴弘の表情を見て、聖華が話し始める。
「あなたのこと、調べさせてもらったわ。騎士とベグライター、両方経験している数少ない人。ジョストの本はあれど、あなたのような人が解説したり書いた本は実に貴重。それにあなたなら、こちらとしても商売しやすいのよね。見た目も悪くないし」
見た目のことは明らかに付け足しで、その前の言葉は暗に貴弘の父が水野貴文であることを臭わせている。貴弘の父、貴文は一陣之風(ブラストウィンド)と称されるような超有名騎士なのだ。
「私としてはシルヴィの祝賀行事を盛り上げたいのはもちろんだけど、それだけってわけにいかないから」
「出来る範囲内で良ければお願いします」
「ええ、こちらこそよろしく。少し、ここにいさせてもらうわね」
「ごゆっくりどうぞ」
貴弘が挨拶して、聖華の前から離れた。

 店内ではジェイムズや常連達が飲んでいる。しかし、聖華がいることで普段とは店内の雰囲気が違うせいか、飲みづらいようだ。

「あの嬢ちゃん、何者だ?貴弘」
「鳳条院聖華。日本の鳳条院財閥のトップです。ジェイムズさんも知ってると思いますが、祝賀対決の話。その話をしに来たのが、彼女です」
「ああ、あの鳳条院か」
ジェイムズは思い出したように鳳条院の名に反応した。続けて以前のことを話し始めた。
「15年くらい前になるか……日本でジョストの試合を開催したいから協力してくれと来たことがあったな。あの時は、あの嬢ちゃんの父親が来たんだった。同じ日本の財閥の有馬、とかいう財閥のじーさんと一緒にな」
それを聞いた貴弘は、東雲さんが実況するきっかけになったあの試合のことかと思い出していた。

 店の中に生じた空気を見事なまでに破壊する人物が来訪した。傍らには女性がいる。
「ここが指定された店ですね」
男が大きい声で言う。
「いい店ね。この町に住んだら間違いなく通う店ね」
「エレン、デリスヴェントを今のままにしておくわけにはいかないのです」
店内を見回し、空気を読まぬ大きな声で挨拶する男。
「おや、鳳条院さん!お久しぶりです!お元気でしたか?」
「根〜津〜!」
男の名は根津晴彦。女性の名はエレン・ウム・メトス。
「鳳条院、以前の件では大変世話になった。礼を言う。ちゃんとした礼ができていないのはすまないが、後日我がデリスヴェントへ招いて礼をしたい」
「ご招待、お待ちしております。エレン様」
根津とエレンとでは聖華の態度が明らかに違う。
「それにしても、聖華はハルヒコに対していつもあの態度ね。昔からなの?」
「はい、昔は本当に空気を読まなかったので」
「今のハルヒコはそんなことはない、とまでは言わないけど、昔に比べたらずっとマシになってる」
「エレン、それはあんまりです」
晴彦の顔には、涙がちょちょ切れそうな様子が浮かんでいる。
「エレン様、しっかりと根津の手綱を握っていらっしゃるんですね」
エレンと聖華は根津をおちょくっているのが互いに分かっていると笑っている。

「ところで、鳳条院さん。我々をここに呼んだ理由は?」
「シルヴィのことよ。シルヴィが新年の祝賀行事でジョストをすることは聞いてる?」
「ええ。聞いています」
「で、新年の祝賀行事を見に行くのはどうかと思って。ちょうど、あなたたちがこの国に来ているのが分かったから」
「それはやぶさかではありませんが……仮にも一国の中枢に関わる身なので……」
「ジョストの主な競技層は、いわゆる貴族が中心。顔を見せておいて、あちこちの国の貴族に覚えておいてもらっても損はないと思うわよ。デリスヴェントは今交易を増やしたい、もっと言えば経済発展を今以上にしたいんでしょう?」

 晴彦とエレンがデリスヴェントの中枢についてからは、以前と比べると政情の不安定さはなくなってきている。
それには晴彦が失恋した相手の音薗雪洸(おとぞのゆきひ)が嫁いだ、エスペル王国が一役買っている。以前、晴彦は雪洸にプロポーズした。同じタイミングで、エスペル王子のサスーサスもプロポーズし、雪洸はサスーサスを選んだのだ。
その後、晴彦は仕事の為エスペル王国経由でデリスヴェントへ行くことになり、エレンと出会った。
エレンは先々代大統領の娘であるが、先代大統領がクーデターでエレンの父である先々代大統領を死亡させ、大統領についていた。しかし、晴彦の秀峰学園時代のつてにより、デリスヴェントの正統後継者であることが確認され、世界に広められた。また、その報道には、エレンが既に晴彦と結婚していることも含められていた。
そういったことと、かつてエスペルとデリスヴェントの親交があったこともあり、デリスヴェントとエスペルの交易が再開。それを足掛かりに、経済発展の入口が見えたところ、というのが現在の状況だ。

「ハルヒコ、フィルミッシュの行事に参加すべきだ。聖華の言うとおりでもあるし、今後デリスヴェントで祝賀行事を開ける余裕が出てきた時の参考にもなるだろう」
今のデリスヴェントには国全体で祝賀行事を開けるような余裕はまだない。
飛行機や幹線道路がギリギリ機能しているくらいなのだから。
そんな状況は晴彦もエレンも分かっている。それでも、あえてエレンがそう言ったということは本当に今後のことを考えてのことなのだろう。
「鳳条院さん、試合の日程は?」
晴彦が質問する。
「年明けの1月2日」
「なら、大丈夫そうですね。我々も参加します」
「シルヴィも喜ぶと思うわ」

 貴弘と美桜はそんなやりとりが聞こえる中、店の仕事をしていた。
「貴弘君、なんだか鳳条院さんの席のところに集まってる人たちすごい人ばっかりみたい」
「そうみたいだな」
あまり客の話に聞き耳を立てるものではないとばかりの反応をする貴弘。
「水野君、ちょっと」
聖華が貴弘を呼ぶ。
「ジョストはどんなのものかとか、ルールとか、試合の進行とかについて教えてくれないかしら?」
「はい」
貴弘は聖華たちの席に行き、聖華が説明を求めた内容に対応した。
「面白そうだな、ハルヒコ」
「ええ、ただジョストに興じられない状況が残念です」
「良ければ、明日学園でジョストがどんなものかを直接見てみるのはどうですか?」
「ミズノ、だったか。気持ちは嬉しいが我々は明日の朝に、デリスヴェントへ戻らねばらない」
「そうですか。直接見てもらえれば、もっとジョストのことを分かってもらえると思ったんですが」
「エレン様、何か彼にデリスヴェント政府のものを差し上げては?彼はジョストの世界でも超有名な騎士、一陣之風(ブラストウィンド)貴文の息子ですし、彼自身も怪我で一度騎士を引退してベグライターになっているものの、ひょっとしたら騎士へ戻るかもしれないというくらいの挑戦者(チャレンジャー)でもあります」
「そうだな……政府としてのものは持ち合わせていないが……紙とペンを用意してもらえるだろうか?」
「水野君、お願いできる?」
エレンの言葉に続けて聖華が依頼を重ねる。
「わかりました、持ってきます。少し待っててください」
「ええ、お願い」
貴弘の返事に聖華は頷いた。貴弘は紙とペンを取りに行って席を離れた。

「聖華、わざとミズノにジョストのことを説明させたな?」
エレンが聖華に質問した。
「バレてましたか。彼なら大丈夫だと思いましたから」
この「大丈夫」には、2つの意味が込められている。1つは政府の中枢にいる要人に対してであっても、きちんと対応できるか。もう1つはジョストのことを短時間で魅力的に説明・解説できるかということだ。
「彼は、少し哲平のことを思い出させるんですよ。だからかもしれません」
意地悪というよりは、助けるという意味のように聞こえる返答を聖華はした。
「彼は今後のジョスト界に非常に大きな存在になるでしょう。騎士やベグライターとしてだけではなく。鳳条院としては、今のうちから手を付けておきたいというのもあります」
「デリスヴェントとしても、ミズノを押さえておくことはメリットがあると」
「はい」
その時、貴弘が紙とペンを持って、席に戻ってきた。
「お待たせしました」
「ありがとう、ミズノ」
エレンは紙とペンを受け取ると、文章とサイン、場所と日時を記した。文章の内容は大雑把に言えば、こんなものである。

「水野貴弘殿
今後デリスヴェントでジョストが行われるようになった際。
貴君をデリスヴェントのジョストにおける特別公認者として、デリスヴェントへの出入りと根津晴彦、エレン・ウム・メトスへの面会権を認めるものである。なお、デリスヴェントの国益に反する場合は、先の内容は破棄する」

「これはまた……ずいぶんと思い切りましたね、エレン」
「聖華があれだけ買っているのだから、こうしておいて問題ないだろう」
「水野君、エレンが書いた内容を君に教えてあげましょう」
晴彦から紙に書かれた内容を聞いた貴弘は驚愕と重責すぎて、声も出なかった。
「ミズノ。デリスヴェントでジョストができるようになった際、相応の働きを見せてくれることを期待する。もちろん、その状況が実現できるように、私もハルヒコもデリスヴェントを発展させていく。いつか我がデリスヴェントへ来てくれることを願う」
「ありがとうございます」
エレンの言葉に、貴弘はそれだけ言うのが精いっぱいだった。


 さらに時間が経過し、12月も半分を過ぎた。普通なら、クリスマスと年越しのことがジョスト以外のことの大半を占める時期。
だが貴弘とっては、年明けの祝賀対決に向けて、フィルミッシュ入りを意識する時期である。
「今年もあと少しで終わり。年明け早々はフィルミッシュでの祝賀対決か」
「な〜に、貴弘。やけに年末年始を意識してるわね」
練習場で、ノエルに声をかけられる貴弘。
「フィルミッシュでの年越し、楽しみね」
「ああ、シルヴィア姫はBランク上位と互角に戦えそうだっていう話だからな。ベグライターとしては楽しみだ」
「ふーん、それだけ?」
ノエルが何を言わんとしているのか貴弘は分かったが、あえてそこを無視して返事をする。
「それだけだ」
「それ以外のお・た・の・し・みは?」
「ノエル、いい加減にしろ」悪ノリを諌める口調の貴弘。これ以上は怒らせると判断したノエルは茶化すのをやめた。
「でも、冬休みにフィルミッシュ入りでいいなんて大丈夫なのかしら?」
「ノエルが見たっていう、シルヴィア姫のジョストの映像の撮影された時期にもよるだろうが、そうそう無様なことにはならないだろう。時間をうまく使って、短時間でも集中した密度の高い練習をしていると思う」
 貴弘の言葉に、貴族の家柄であるノエルは納得した。アスコット家と言えば、ヘレンズヒルを代表するだけではなく、国の中でも有名な貴族だ。5つの爵位の最上位である、侯爵を持つような貴族はそうそういるものではない。政府にも影響を与えることすらある貴族ともなれば、限られた時間で最大限の成果を出すことを要求されるのが常である故だ。
「スィーリアのこともあるし、しっかりシルヴィア姫の練習の相手をしないとね」
5日後、冬休みに入った貴弘とノエルはフィルミッシュ入りした。もちろん貴弘は、綾子からの土産のプレッシャーを充分にかけられた上で。

 フィルミッシュに着くと出迎えの者がいた。
「ノエル・マーレス・アスコット様、水野貴弘様ですね?」
「ええ」「はい」
2人の返事を確認すると送迎用の車で、フィルミッシュ官邸の近くへ。
「申し訳ございません。シルヴィア様は現在公務の最中で、まだ時間がかかります」
「わかりました。この近くにジョストの練習できる場所があれば、そこを見たいのですが」
「シルヴィア様から公務中にお2人をお迎えした場合、お2人をお連れする場所を指定されておりますので、そちらへ参りましょう。おそらくお2人のご希望されている場所ではないかと」
「お願いします」
遣いの者が新たに連れて行った場所は、まさしくジョストの練習場だった。
「貴弘。鎧についている紋様……フィルミッシュの国旗を元にしたものよ。つまり、国を代表する騎士の練習場、ってことね」
貴弘は破顔する程の喜びようだ。普通、国を代表する騎士の練習場に立ち入ることなどありえない。ノエルも貴弘程ではないにしても、ジョストを行う騎士として、確かに喜びを感じていた。ここに入れただけでもフィルミッシュに来た価値はある。
練習場の様子を見ていると、あっという間に時間が過ぎていた。シルヴィアが公務の為に会うことができず、こちらに来たことを忘れているくらいだった。
「公務、そろそろ終わってもいい頃ね」
ノエルがそんなことを呟くと、呼応するかのように1人の女性が現れた。
「君たちが、ヘレンズヒルから来たノエル・マーレス・アスコットと水野貴弘か?」
「はい」
ノエルが女性の問いに返事をする。
「私はシルヴィア・ファン・ホッセン。シルヴィでいい。今回の件、妹のマリアのせいですまないな」
「シルヴィア姫、私の妹のミレイユにも原因があります。お互い様ということで、今回の件の原因についてはこれ以上の話はやめましょう」
「ありがとう、助かる。私のところに話が来た段階ではすでに断ることができなくなっていた」
「シルヴィの闘う相手である、スィーリアも同じことを言っていました」
「そうか。今回の件ではスィーリアが、一番の被害者かもしれないな」

「それは心外です、シルヴィア姫」
貴弘とノエルには聞き覚えのある声。スィーリアがこの場に現れたのだ。
スィーリア本人が現れたことで、先ほどは違った雰囲気が現れる。
「初めまして、シルヴィア姫。スィーリア・クマーニ・エイントリーと申します」
「スィーリア先輩!」「スィーリア!」
「話を聞いた時、すでに断れなくなっていましたが、学校を卒業してからの騎士としての日々の良い予行になると思いました。それに、フィルミッシュの国を代表する騎士の練習場に入ることができるなど、普通にはありえない」
「私のことはシルヴィでいい。水野とノエルもそう呼んでくれて構わない。公の場以外ではシルヴィの方が慣れている。もっとも公の場だろうと、常にシルヴィと呼ぶ困った者もいるのだが」
その困った者とは、シャルロット。聖華やシルヴィア等友人や親しい者達はシャルと呼ぶ。
シャルロットはヘイゼルリンクの姫であり、聖華やシルヴィア、根津達と共に秀峰学園に在籍していた。今は自国のヘイゼルリンクで公務に努めているのだが、生来からの茶目っ気と好奇心による行動力は周りを振り回している。
「シルヴィ、あなたのジョストを見たい。ノエルやスィーリア先輩と練習試合をしてもらえませんか?その内容次第で、本番当日までの練習メニューを考えます」
ノエルとスィーリアがそれぞれシルヴィアと戦い、シルヴィアのジョストの実力が示された。
「ノエルがBランク上位と互角に戦えそうだっていう見立てをしたのは聞いていましたが、この様子なら、Aランクとも行けそうですね」
シルヴィアのジョストに、父である貴文のジョストを思い出す貴弘。
「君の父、一陣之風(ブラストウィンド)貴文に基礎を教わったことが生きているのだろう」
「親父がシルヴィにジョストの基礎を!?」
驚いたが、貴弘は納得できた。
「騎士は世界を転戦する。随分と前だが、フィルミッシュでの試合の際、父が意気投合してな。私も試合を見て、ジョストに興味が湧いたところだったので、基礎の指導を受けた」
「そんなこと、親父は全く言ってなかった」
「君の父にとっては、姫だろうと自分の息子だろうと『ジョストの教えを受ける者』というところで、変わりがないのだろう」
確かに貴文ならあり得ると貴弘は思った。シルヴィに本番までのメニューを伝えて練習を開始する。
「貴弘。私はフィルミッシュのベグライターに見てもらう、練習を終える時は声をかけてほしい」
「わかりました、スィーリア先輩」
貴弘はスィーリアに返事をしてからシルヴィアへの言葉を続ける。
「今のメニューで、行きましょう。それと、少しトリッキーな闘い方や技も覚えておくと役に立つはずです。スィーリア先輩なら、そういう闘い方ごと受け止めてくれます」
今日は互いの状況からメニューの一部だけをこなすことにした貴弘やシルヴィア達。
そのメニューが終わると、スィーリアに声をかけ共に練習を終了した。
また、シルヴィアがフィルミッシュの騎士達に、スィーリア・ノエル・貴弘のことを紹介した。
3人に対して、フィルミッシュの騎士達からは思い思いの言葉が出た。どれも驚きや歓迎している言葉であった。
シルヴィアとスィーリアの試合を楽しみにしている、という言葉を背に受けながら3人は練習場を後にした。

「国賓を泊めるホテルが君たちのホテルだ。この練習場と、そう離れてはいない。馬の様子が気になるなら、ホテルから見に来ることもできる」
「ありがとうございます。シルヴィ」
スィーリアが礼を言う。
「明日からは今日より練習の時間が取れる。しっかり練習できる」
今日の練習のシルヴィの様子を見ていた貴弘は、あれでもシルヴィにはしっかりではないのかと少し驚いた。練習への集中力はスィーリアと同じかそれ以上だった。
あの集中力で密度高く練習をこなせば、短時間でも実力が付くのは当然。
これがAランクとも戦えそうなジョストの腕前を維持できる姫(シルヴィア)の実力かと貴弘は感心した。
「すごいですね、あれで『しっかり』じゃないなんて」
「私は、状況によっては最前線に立たねばならないこともあり得る。集中力をみだりに欠くようなことはあってはならないからな」
官邸近郊なのだから、治安は保たれている。しかし、このような話が出てくるということは過去に何かあったのだろう、と貴弘は想像した。
そこへ女性がやってきた。貴弘よりも年下のように見える。
「皆様、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありません。マリア・ファン・ホッセン、心よりお詫び申し上げます」
「マリア、スィーリアには特に謝るのだぞ。話自体は断ることができなくなっていたとはいえ、彼女が応じてくれなければ祝賀行事でのジョストの試合はなかった」
「スィーリアさん。本当に申し訳ありません」
マリアがスィーリアに謝る。
「マリア様、お気になさらず。私も卒業後は騎士として世界を転戦することになっております。その予行が祝賀行事でのジョストの試合とは身に余る光栄です」
スィーリアの言葉は、お世辞的なものではない。スィーリアの本心だ。それが伝わったのだろう。安堵の表情をマリアは見せた。
「ありがとう、スィーリアさん。ここを発つまで、フィルミッシュを存分に堪能してください」
「はい、練習の合間にそうさせていただきます」
笑顔でマリアの言葉に答えたスィーリアを見てから、マリアは一礼してその場を去った。

「さて、君たちを送迎の車のところまで案内しよう」
シルヴィアに先導されて、貴弘たちはついていく。
途中で、一組の男女に出会った。
「シルヴィア姫、ご機嫌麗しゅう」
「シルヴィ、ご機嫌いかが?」
男女がそれぞれ挨拶する。
「サスーサス。それに雪洸。帰るのか?」
シルヴィアの問いに2人とも頷いた。
「エスペルに戻り、再び年明けの祝賀行事には参加します」
「私、ジョストを生で見るのは初めて。楽しみにしてるわ。それと、公務じゃなくて、私的にマリアちゃんに会いに来るわね」
シルヴィアは雪洸のマリアに会いに来るという言葉に内心苦笑したものの、それは出さずに挨拶した。
「2人とも良い年を」
「シルヴィア様も」「シルヴィも」
サスーサスと雪洸はシルヴィアの先導する方向とは違う方向に歩いて行った。
「今のは……確か、エスペル王国のサスーサス王子。それに王子の奥様の雪洸様」
ノエルが思い出しながら言った。
「あの2人が来たのは別件だ。それとマリアに礼を言いに来たのだろう」
「お2人がマリア様にお礼?」
「あの2人が出会ったのは、マリアが関わっているからな」
「興味深いですね。詳しくお伺いしても?シルヴィ」
ノエルは興味津々でシルヴィアに問うた。
「おおよそのことしか私は知らない。マリアか根津に聞くといいだろう。根津の方はひょっとしたら嫌がるかもしれないが」
根津という人名に聞き覚えがあるが、なかなか出てこない貴弘。
その様子にスィーリアが気づく。
「どうした?水野」
「根津という名前に聞き覚えがある気がするんですけど、思い出せなくて……」
「ひょっとしたら、根津に会ったことがあるのではないか?今はパートナーのエレンと共に、デリスヴェントを盛り立てている。そして、空気を読まないというか、雰囲気をぶち壊すのが得意というか」
「思い出しました。スィーリア先輩に祝賀試合の話が来た翌日の夜に、うちの店で会いました。そういえば、鳳条院さんとエレンさんにおちょくられていたというか、何というか……祝賀行事には参加すると言ってました」
「そうか。鳳条院もエレンも根津も相変わらず。そして息災のようだな」
 懐かしさが出ている顔を見せるシルヴィア。そんな顔を見ながら、いつか自分もこんな風に今のことを思い出す時が来ると感じる貴弘だった。
「着いたぞ。明日から本番前日までの練習、よろしく頼む。ノエル、水野。そして、スィーリア。本番ではいい試合をしよう」
「はい」
ノエルと貴弘は同時に返事をした。
「もちろんです」
スィーリアもシルヴィアの言葉に同意した。

 来た時と同じ人物がホテルまで車を出し、しばらくするとホテルに着いた。
「それでは皆様方、明日からどうぞよろしくお願いいたします」
貴弘たちが降りたのを確認してから、そう言って戻っていった。
「さて、今日は寝ることにしよう。明日から本番に向けての練習だ」
スィーリアの言葉に貴弘とノエルが頷いた。そして、それぞれの部屋に入り、眠った。

 その頃、シルヴィアはジョストの練習場におり、1人で練習をしていた。
とは言っても、基礎練習で馬を使うような練習ではない。
そこそこの時間ではあるが、いくつかの基礎練習をとクールダウンを行った後、
練習場を出た。
 その練習場を出たところで、人影が1つ。その人影はシルヴィアに急に抱きついた。
こんなことをするのは、シルヴィアの知る人物では1人しかいない。
「シャル!」
「シルヴィ、久しぶり!」
「公務はどうした?こんなに早くフィルミッシュに来るとは聞いてないぞ。ヘイゼルリンクは大騒ぎではないのか?」
「だ・い・じょ・う・ぶ」
ハートマークがいくつ付くのだろうという甘い声で返事をするシャルロット。
その様子に、公務のことを言うのは無駄だと判断したシルヴィアは何も言わず、宿泊用のゲストルームへ案内する。
「ジョストの試合を見るまでは帰るつもりがない。そういうことだな?」
「さっすがシルヴィ!」
呆れたとばかりにため息をつきたいところだが、この程度ならシャルロットにはいつものこと。
「哲平はどうした?今はヘイゼルリンクと近しい立場のはずだろう?」
「後から来るわ。哲平もシルヴィの試合を見るって言ってたもの」
「そうか」
シルヴィの言葉よりも表情から何かを読み取ったらしいシャルロットが尋ねる。
「シルヴィ、何かいいことあった?」
「いいことか。そう言えるかもしれないな。少し哲平を思い出させるような人物がこの国に来ている」
「哲平を思い出す、ね。どんな人?」
「明日になればわかる。明日からジョストの練習の本番だからな」
「じゃ、楽しみにしておくね」
それから少し雑談をした後、シルヴィアは部屋を出た。
自分の部屋に戻りながら今日のことを思い返す。そのせいだろう、いつもよりゆっくりと歩いて自分の部屋に着いた。なぜだろうか、いつもよりも眠りに落ちるまでは少し時間がかかったのだった。

 本番の前々日である大晦日までの練習日程。本番までの練習に使える日と時間が限られている為、可能な限り密度の高い練習を行わなければならない。のだが、思いもよらなかった状況になっている。シャルロットの存在だ。
「シルヴィ、素敵!」
騎士姿のシルヴィアと練習風景を見て、一事が万事こんな調子で声を上げている。
「シャル、少し静かにしていろ」
シルヴィアの言葉はシャルロットは少し大人しくさせた。

「水野、ノエル。何かあるか?」
「大丈夫です。シルヴィ、ノエルと試合をしてみてください。審判は自分がやります」
既に基礎練習の時間に使ったため、残りは1試合行えるかどうか程度の時間だった。
「わかった」
後はノエルの準備ができればという状態だが、当のノエルの準備は既にできている。
「こっちも行けるわ」
「シルヴィ、実戦形式でノエルのトリッキーな技を披露してもらいます。まずはノエルの技を体感して、可能なら盗んでみてください。この試合が終われば、今日の練習は終了です」
「じゃ、行きますよ。シルヴィ」
そうして、本格的な練習の1日目は終了した。

 練習場から貴弘とノエルとスィーリアが先に出た後、シルヴィアとシャルロットが練習場を出た。
2人は歩きながら話をする。
「シルヴィが言ってた、少し哲平を思い出す人は貴弘でしょ?確かにそうね」
「そうだ」
「ノエルとスィーリアは貴弘のことを意識してるわね。シルヴィは?」
「そこまでのことはない。今回の件で、ジョストのベグライターをしてくれている。それだけだ」
表情と言葉に込められた感情の一致を読み取ったシャルロットは、この件についてそれ以上何も言わなかった。
「シルヴィ。今日のノエルとの試合、惜しかったわね。フェイントを混ぜているのがしっかり見分けられたのに」
「ジョストに賭けている分、ノエルの方が上手だからな。ところで、シャルはあのフェイントが見えていたのか?」
「全部ではないけど、少し。私、結構目がいい方なのよ。踊っているような時でも、誰がどうしているのかそれなりに見えるわ」」
「なるほど。それがシャルの好奇心を支える能力、というわけか。で、持ち前の茶目っ気と合わさって周りを振り回すと」
「シ〜ルヴィ〜!」
シャルロットには珍しく、怒ったような声色だがすぐに元に戻った。冗談であった為だ。
「もうすぐ、夕食だな」
「夕食、楽しみ」
シルヴィアの言葉にシャルロットが反応する。
夕食を取った後、シルヴィアは再び練習場で自主練習をするのだった。
そして、練習できる日と時間はあっという間に過ぎた。

 最終日である大晦日。新年への意識が一番高まる日だ。その朝、カイル・美桜・綾子・茜・リサ・ベルティーユを始めとする、ウインフォードの一団がフィルミッシュに入った。空港からホテルへ向かう一行。
「今日、フィルミッシュに入れて良かった〜」
美桜が心底安堵したように言う。
「貴弘がうちに来る前に、フィルミッシュ観光したことあるけど……大晦日ってこんな雰囲気なのね」
「今日は水野たちも早めに練習を切り上げるだろう、明日は休養日にしているはずだ」
茜は練習のことを気にする。
「明日は元日。出歩くにしても店は多分やってない」
リサは実に冷静なツッコミのような一言。
「綾子先生、今日明日と休みにしても良かったのですの?」
ベルティーユは綾子に質問してみた。
「まあ、今年は少々特別だから。大丈夫よ」
そんなやりとりをしていると、ホテルについた。ベルティーユのつてのおかげで、国賓が泊まることのあるホテルが押さえられている。このホテルは貴弘達のいるホテルではないが、そことはそれほど遠くない。
「んじゃ、さっさと部屋に荷物置いて、フィルミッシュ観光といこうぜ」
カイルの提案は当然のごとく他の面々に受け入れられた。チェックイン・部屋の振り分け後、一行はフィルミッシュ観光に繰り出した。
「フィルミッシュでは、こんなものが売られているのか」
茜がボソッと呟いた。視線の先には、騎士姿のシルヴィアを象ったキーホルダーがある。
「恐らく、今年だけよ」
同じキーホルダーを見ていた綾子が、茜にそう言う。また、わずかにタイミングが遅れて美桜が言った。
「あ、これ……新しいメニュー作れそう!」
美桜の不穏な発言を聞いた綾子は、何とか美桜が見ている食材から気を逸らせないかと考え始めた。
美桜は既に存在する料理を作るのならば何の問題もないのだが、自分で作る新メニュー・創作メニューについては、必ず何かをやらかすものである為だ。
「龍造寺さん。美桜ちゃんの見ているものを変えさせることはできないかしら?」
「どうしたんですか?」
「『新メニューできそう』って言葉が聞こえたのよね」
茜は納得した。学食で美桜の新メニューを食べた時のことを思い出したくないくらいだ。
「そうですね……水野がいると言って、気をそらすとか?」
どう反応しようかと思った時。

「カイル!それに美桜・綾子さん・茜・リサにベルティーユまでいる?」
貴弘の声が声がした。
「あら、みんなでフィルミッシュ観光?」
「まさかフィルミッシュでみんなの顔を見るとは」
続けて、ノエルとスィーリアが言葉を発する。

「明後日の試合を見に来たのさ。こんな試合、めったにあるもんじゃないからな」
カイルは本当に試合を楽しみにしている様子が伝わってくる。
「綾子さんが、今日明日は店を閉めて見に行く、っていうことが伝わってみんなで行こうってことになったの」
綾子は美桜の気が貴弘にそれたことでホッとした。
「?綾子さん、なんかやけにホッとしてない?」
綾子の様子から、ひそひそ話で質問する貴弘。
「美桜ちゃんがね、さっき食材を見てて。うまいタイミングで貴弘達が来たからよ」
「なるほど、それは確かにホッとするのも当然だ」
綾子とのひそひそ話状態から離れる貴弘。すると……

「水野、今日の練習はいいのか?それともこれからか?」
「今日は午後から夕方までで軽い練習だ。シルヴィア姫のジョストの強さは、想像以上だった。ノエルが見立てたBランク上位と互角を超えてた。茜といい勝負できると思う」
茜の質問に、貴弘が答えた。
「それほど強いのか。試合をしてみたいが、さすがにお姫様とは無理だろう。明後日の試合の時にその強さを確かめる」
「この大人数だ、どこかの店へ入ってお茶するのはどうだ?」
スィーリアの提案に全員賛成した。入れそうな店を見つけて、今は全員が飲み物を注文し終えたところだ。

 フィルミッシュ入りに関してカイルから話を振られた貴弘は言った。
「国賓扱いになっているとは思わなかった」
「マジか!すげーじゃん。経緯(こと)が経緯(こと)だけにそういうことになるのか」
カイルが驚いている。
「それと、俺も知らなかったんだが、シルヴィア姫にジョストの基礎を教えたのは親父だと」
「なにぃいいいいいいいいいいい!」
カイルが驚愕のあまり、絶叫の声を上げる。
「貴弘、それホント?私もそんなこと聞いてないわよ」
綾子も全く初耳らしい。綾子は貴弘の伯母であるため、兄である貴弘の父すなわち、一陣之風(ブラストウインド)貴文のことはよく知っているのだが、それでも聞いたことはなかったようだ。
「以前、親父がこの国に来た時。シルヴィア姫の父親、つまり国王と意気投合したのと、シルヴィア姫自身がジョストに興味を持ったこともあって基礎を教わったと言ってた」
「一陣之風(ブラストウィンド)貴文、恐るべし」
「シルヴィア姫曰く、親父にジョストの教えを受ける者は、『誰であろうと、ジョストを教わる者』としか見ていないのだろう』ってことだったな」
カイルと貴弘の話が一区切りしたタイミングを見計らったのか、飲み物がそれぞれに届き始めた。
カイルは届いた飲み物をすぐに飲み干した。先ほどの絶叫でのどが渇いていたのだ。
「スィーリア先輩、フィルミッシュを代表する騎士の方々と訓練されているのですよね?」
「流石に国を代表する強さだ。私も卒業後は彼らと槍を交えることになる。もっと練習して強くならねば、彼らと渡り合うことはできない。いや、彼らだけじゃない。ジョストに己が道を賭ける者達全てに、だな」
茜の問いに、スィーリアはそう答えた。
「私も、もっと精進します」
「互いにがんばろう」
しばらく雑談が続いた後、全員店を出た。
貴弘達によると、戻って午後の練習に備えるにはこれが限界の時間だということだった。

「私達は、試合会場への道をホテルから辿ってみようよ」
美桜の提案により、一旦ホテルの入り口まで戻る一行。そしてホテルから試合会場までの道をチェックする。
「祝賀行事だからな、店が出るというのは想定していたが……これだけ店が出るとは」
あまりの露店の数に茜は少々驚いている。
「下見をしておいて、正解だったかもしれませんわね。今日、これだけ店が出ているのですから、明後日にはもっと増えることですわ」
ベルティーユも感じたことを口にした。
下見としては十分だと判断した綾子がホテルに戻るよう指示を出した。

 道すがら、カイルがある男性とぶつかった。
「すみません」
「こちらこそ」
カイルが謝ると、男性も同じように謝った。この男性こそ有馬哲平である。
「哲平様!」
「優さん、大丈夫。気にしないで」
哲平様と声をかけたのは哲平付きのメイド、藤倉優だ。

制服を見て、哲平はカイル達がウィンフォード学園の者達だと気付いた。
「明後日の試合を見ることになってるから、会場でまた会うことがあるかもしれない。よろしく」
「はい」
カイルは哲平の言葉に返事をした。

「行こう、優さん」
「はい、哲平様」
哲平が去っていく様子を見る一行。
「本当にメイドを連れている人がいるんだな」
カイルが呟く。
「メイドをこういう場に連れているということは、かなりデキるメイドだと思いますわ。普通、メイドではなくSPがいるものですもの」
ベルティーユは優が特に優秀なメイドだと言った。
「綾子さん、どうかしたの?」
「今の男性……見たことがある気がするのよねえ。どこだったかしら?……」
「あのメイド、男性のことを哲平って呼んでた」
リサが呼び方のことを言った。
「哲平……?あ、思い出した!彼、有馬哲平よ!」
「有馬って、あの有馬ですか!?」
「え、ほんと!?」
「誰なんだ?有馬哲平ってのは」
綾子が思い出した内容に対し、驚く茜と美桜。カイルはいったい誰のことなのかと疑問を口にした。
「日本で一番有名な財閥が有馬財閥。その後継者が彼、有馬哲平」
綾子が答える。そして哲平のことについて、さらに続ける。
「彼はそもそも、ごく普通の家で育ったのだけど、引き取られて有馬財閥の後継者になった。普通こんなことは有り得ないから、日本では相当センセーショナルだったみたい。その後は後継者としての実力を示して、着実に有馬財閥を率いるにふさわしい存在へ成長したって話ね」
「俺、そんな人とぶつかったのか!」
カイルはやや冷や汗の表情をしている。
「ここにいるっていうことは、明後日の試合の観戦でしょうね。彼の同級生にはフィルミッシュのシルヴィア姫がいるという話だから」
「確かに、明後日の試合を見ると言ってました」
「ぶつかった以外は何もなかったから大丈夫じゃないかしら。心配しなくていいわよ」
綾子の言葉で気が楽になったカイルは、今度は他の人にぶつからぬよう歩いた。
ホテルに一行が戻った時は、昼食にふさわしい時間は過ぎていた。

 哲平はフィルミッシュ官邸へ入った。シルヴィアからシャルロットがいると連絡を受けていたからだ。
「シャル!」
「哲平!」
「ここでは人目がな。哲平、シャル。移動するぞ」
シルヴィアは人払いの為、自分が指示するまで誰も部屋に近づかないよう周りの者達に命じた。
シルヴィアの部屋に入った3人。

「さて、シャル。これほど早くフィルミッシュに入った理由は哲平絡みだろう?」
返事の代わりに、自分の腹に手を当てるシャルロット。
「なるほど、そういうことか。身の危険、命の危険もあると」
「最近、公務を減らされて部屋にいさせられることが多かったの。私のことを案じてくれているのだと思ったら、哲平を嫌う人たちの画策だったってことが分かって。私を閉じ込めて私達にプレッシャーを与える為だったみたい」
「それなら、もう片付いたから大丈夫。ヘイゼルリンクに何の心配もなく帰れる。大丈夫だよ、シャル」
「本当!?」
「本当だよ、シャル。もうみんなに知らせられる」
「流石、哲平だな」
「シルヴィのところにシャルがいるって分かってたから安心して動けたんだ。フィルミッシュを巻き込むとなれば、国際問題になるからね。あっちもそれはゴメンだというのは同じだった」
「シャル、3人で歩いて行こう」
「哲平……うん!」

「哲平、シャル。おめでとう。とりあえず、私が練習から戻るまではこの部屋で存分に2人の時間を過ごすといい。とは言っても、ごく短時間で悪いのだが」
そう言って、シルヴィアは午後の練習の為に向かった。


 貴弘・ノエル・スィーリアとシルヴィアがちょうど同じタイミングで、練習場の入り口に着いた。
「今日は、軽い練習で疲れを残さないようにします。明後日は本番ですから」
「わかった」
貴弘の言葉にシルヴィアは同意し、今日の練習が始まった。
普段の練習時間に比べると確かに軽い内容だったのは確かだ。
1時間ちょっとすると練習が終わった。

「では、今日はこれで終わりです」
「ベグライターについてくれたこと、感謝する」
「それはまだ早いですよ。明後日の本番がまだですから」
「そうだな。明後日の本番も頼む」
「はい」
貴弘とシルヴィアのそんなやりとりの後、スィーリアに声をかけて4人で練習場を後にする。
シルヴィアの後を少し離れて歩く、貴弘・ノエル・スィーリア。
「シルヴィ、良いことがあったみたい。そんな気がする」
ノエルがふと、そんなことを言う。
「そうか。私にはわからなかったがな」
「俺もだな」
スィーリアも貴弘も、ノエルの言ったことには分からないと返す。
「私の気のせいかもしれないけど。本当にいいことがあったのなら、そのうち分かるわよ」
ノエルの言ったこと。それが明後日の試合後に分かることになるとは、この時3人は全く思っていなかった。
しばらくすると、貴弘達の送迎用車のあるところへ着いた。
「貴弘・ノエル・スィーリア。今年のわずかな期間だったが、ありがとう。良い年を。そして……明後日の本番、よろしく頼む。スィーリア」
「はい、シルヴィア姫。シルヴィも良い年を」
恭しい礼と共に返事をするスィーリア。
「良い年を、シルヴィ」
貴弘とノエルがそれぞれ年越しの挨拶をシルヴィアにした後、貴弘達は車に乗り込みホテルに戻った。
フィルミッシュを観光するのに使えそうな程度の時間はある。
「貴弘、スィーリア。今からでかけない?せっかくフィルミッシュにいるんだから、見ておかなくちゃ」
「普段と違う年越しっていうのも面白そうだ」
「そうだな。いいかもしれない」
貴弘とスィーリアは出かけるという返事をする。
「決まりね。1時間後に出かけるってことでいいかしら?スィーリアは?」
「それでいい」
「じゃ、1時間後に」
3人はそれぞれの部屋に戻った。
1時間後、3人はそれぞれの私服姿で現れた。ノエルとスィーリアは普段の私服より少しだけめかしこんでいる程度だが、元が元だけにかなり人目を引く。
「ノエル、スィーリア先輩……」
「スィーリア、貴弘が私達に見惚れてるわよ。貴弘の顔、見てごらんなさい」
ノエルの言う通り、貴弘が2人に見とれている顔が確かにあった。
「貴弘、何か言うことは?」
「2人とも、綺麗だ」
ノエルに促され、ようやく言葉が出た貴弘。
「よろしい。それじゃ、でかけましょう」
年の瀬、それも大晦日だ。たくさん出ている露店や多くの人で賑わっている。
そこに美少女とも美女とも言える女性2人を連れている男がイヤでも目立つものだ。
それでも3人がそれぞれ楽しみながら街中を歩いていると、色々聞こえてくる。
そんな中、1人のメイドが3人の元にやって来た。

「突然失礼します。私は藤倉優」
「メイドさん?」
「私の主が皆様をお招きしたいと申しております」
「あなたの主って?」
ノエルが優に質問する。
「有馬哲平、日本の有馬財閥後継者です」
「有馬財閥って、あの有馬財閥?」
「はい、その通りです。水野貴弘さん」
「なるほど。ノエルもスィーリア先輩のことも分かっていると」
「はい」
「日本の有馬財閥の後継者ね……面白そう。私は招待を受けたいわ」
「私も受けても構わない」
「受けるしかないですね」
ノエルとスィーリアの賛成を受け、貴弘も2人に同意した。

「では、こちらへ」
少し移動すると、車が用意されていた。
優を含めた4人が移動した先は、フィルミッシュ官邸だった。
「ここは、フィルミッシュの官邸!」
「ええ、間違いないわね」
スィーリアは驚いた様子を見せたが、ノエルは逆に冷静なようなように見える。
「すごいな……」
貴弘も続けてそう言ったが、なぜ招待されたのかは分からない。
「不思議ですか?皆様が招待されたことについては、哲平様からお聞き下さい」
貴弘の様子を見て、優はそう言った。
「哲平様の元へ皆様をお連れしますので、ついてきてくださいませ」
優についていき、3人は哲平のいる部屋の前に着いた。
ノックの後に優は言った。
「哲平様、皆様をお連れしました」
「ありがとう、優さん。入ってもらって」
「皆様、部屋の中へどうぞ」
優が部屋のドアを開け、3人は部屋の中に入った。

「シャルロット姫!?」
練習の様子を見に来ていたことがあったし、シルヴィアから怒られていた様子を見ていたので、貴弘の記憶には残っていたのだ。
シャルロットの隣に男性がいる。それが有馬哲平なのだと3人は認識した。
少し遅れて、聖華とシルヴィアも入室してきた。

「そんなに緊張しないで。本当は僕が君たちに会いに行くのが筋なんだけど、色々あって、来てもらったんだ」
そう言って、哲平が3人の顔を確認しながら言葉を続けた。
「ヘイゼルリンクである問題があったんだけど、それを片付けるのに、今回のジョストの試合が行われるということが非常に役立った。それでお礼を言いたくてね。ありがとう」

「いえ、お礼を言われるようなことでは……私の妹が原因の一端ですし」
ノエルはそう言った。
「聖華から話を聞いてるよ、水野貴弘君。デリスヴェントのエレンから、面白いものを受け取っていると。人脈が必要な時とか、何か希望がある時には言ってほしい。君の要望に応えられるようにしておく」
「私も、ヘイゼルリンクでのジョストであなたの希望を叶えられるように伝えておくわ」
哲平とシャルロットの言葉は、有馬財閥とヘイゼルリンクのバックアップを受けられることを意味する。
「それは私も同じだ。水野、君のベグライターぶりを見て分かった。今後フィルミッシュで君がジョストをすることがあるなら、協力させてもらう」
シルヴィアからも同じく、フィルミッシュもバックアップするとの言葉をもらった。
「ちょっと貴弘!すごいじゃない!」
ノエルは興奮気味に貴弘に言っているが、当の貴弘は明らかに実感がないという様子だ。エレンは紙に内容を記していたし、複数作成したうちの1枚を貴弘に渡していた。その為、現物がある分実感が湧きやすかった。
「水野、これほどのパイプがこんなにできることはないぞ。充分心して活用することだ」
スィーリアの言葉をしっかり心に留めながら頷いた。
「さて、ここにいる者達とマリアを加えて、皆で夕食にしよう」
その夕食で、ノエルはマリアから根津とサスーサス・雪洸とエレンに関する話を聞いたのだった。
夕食が終わってから、シルヴィアの部屋で全員がさらに時間を過ごした。
そうこうしていると……いよいよ日付が変わる、すなわち新年を迎える時間が刻一刻と迫ってきた。
それに伴い、シルヴィアが本当に一言だけ皆に向かって言った。
「共に年を越せることをうれしく思う。来年もよろしく頼む!」
時計が午前0時を告げる音を鳴らす。新年に変わったのだ。
「新年、あけましておめでとう!」
シルヴィアの一言を皮切りに、部屋の全員が新年の挨拶を交わす。
「水野、スィーリア、ノエル。君たちも泊まっていくといい。朝までは新年を迎えた盛り上がりで街中を通って帰るのは難しいだろう」
「お言葉に甘えさせてもらいます」
シルヴィアが泊まっていくように勧めた為、貴弘はそうする返事をした。スィーリアもノエルも当然反対はしない。
シルヴィアが泊まれる部屋を準備するよう、官邸の者に指示を出す。
準備が整うまでの間、一同はさらにシルヴィアの部屋での時間を過ごすのだった。

朝までは新年を迎えた盛り上がりがあちこちにあったが、昼にかけては落ち着いていた。正午にシルヴィアの父であり、フィルミッシュの代表であるヴィンセント・ファン・ホッセンの挨拶。その盛り上がりの後は静かな一日であった。露店の熱気を除けば。
根津・エレン、サスーサス・雪洸の2組がフィルミッシュ入りしたのは元日になってからであった。


転 祝賀対決
 元日が過ぎ、祝賀対決の当日。会場には、大勢のフィルミッシュ国民が入っている。
貴弘がシルヴィアにウィンフォードの面々が来ていることを知らせた為、綾子や美桜達はちゃんと会場に入ることができ、貴賓席のすぐ隣に座っていた。
ちょうど美桜の右隣が貴賓席であり、美桜の隣にはシャルロットがいる。シャルロットの隣に哲平。哲平の隣から聖華・根津・エレン、サスーサス・雪洸と座っている。
雪洸はジョストを生で見るのは初めてで、会場の様子をワクワクしながら見まわしている。
「日本では、ジョストってほとんど知られてないの。昔、テレビでジョストの試合をやってたのを見たくらい」
雪洸の言葉に聖華が反応する。
「以前、うちが有馬と組んで実現させたジョストの試合の放映、見てくれてたんだ。ありがとう。今日の試合は、鳳条院(うち)のテレビ局が放映してるわ。一般的な正月番組なんて飽きられてるしね。それに……普段見ることのないスポーツ、特にジョストみたいなスポーツは見てもらえるっていう勝算があるのよ」
「さっすが、聖華!」
「ありがとう、シャル」

美桜は聖華の声を聞き、挨拶する。
「鳳条院さん、あけましておめでとうございます!」
「あら、あなたは以前会ったわね。あけましておめでとう。この試合を観戦に来たのね」
「はい、貴弘君のベグライターぶりは見逃せません!」
「色々がんばってね」
冷やかしとも取れなくはない「がんばって」への反応に少々困った美桜だった。

 試合開始の時間が近づいているアナウンスが流れ、会場の興奮度がさらに高まる。
このアナウンスの声、どこかで聞いたことがあるどころではない。間違いなく「東雲さんだ」と貴弘は確信した。貴弘としては慣れているので、これはこれでいい。
仮に違う人だったとしても何ら問題になるものではないし、試合に集中すれば良いだけのこと。

美桜の左隣から、茜・リサ・ベルティーユ・綾子……といった感じでならび、ウィンフォードの面々の一番最後にカイルがいる並び順で座っている。
「貴弘、お前がどんなふうにシルヴィア姫のベグライターをするのか、しっかり見させてもらうぜ」
カイルが呟く。
「水野の話では、シルヴィア姫は私と互角に闘えるくらいの実力があると言っていた。試合が楽しみだ」
茜も試合を楽しみにしている。
「東雲さんは本当にジョストのあるところなら神出鬼没ね」
綾子は驚くと同時に、どうやってこのアナウンスができる状況になったのかと不思議だった。

 試合開始まであと5分を切ったアナウンス・対決する両陣営の紹介アナウンスが流れ、
紹介された両陣営が共に入場してくる。やはりフィルミッシュだけあり、シルヴィアにかけられる声の方が圧倒的に多い。しかし、スィーリアにかけられる声が全くないわけではない。
「東雲の声が聞こえたことでホッとするとは。まだまだだな、私は」
スィーリアはようやく実力が発揮できる状況になったと自覚した。もし、気づいていなかったら無様とは言わないまでも、悔いの残る試合になっただろう。
フィルミッシュのベグライターと軽く相談し、大まかな試合方針を決める。そして全ての準備は整った。

一方、シルヴィア側。
「シルヴィ。練習してきたことを生かして、思いっきり。スィーリア先輩に勝つにはそれが一番だ」
「水野……分かった。思いっきり行ってくる」
「そうね。シルヴィ、目いっぱい闘って!」
こちらも準備は整った。

 両陣営が定位置にスタンバイし、試合開始時間を待つ。時間が近づくに連れ、観客の盛り上がりは完全になりを潜めた。さっきまでの盛り上がりは何だったのかと思えるほどである。
そして……試合開始を告げるブザーが鳴る。祝賀対決シルヴィア対スィーリアが始まった!

 まずは1本目の1走目。互いの馬はブザーと同時にスタートする。小手や羽(フェザー)に比べれば、狙いやすい胴をどちらも狙いあうが、互いにポイントには結びつかない。槍も壊れたわけではないので、互いの定位置に戻って再スタートだ。各走毎に、最大で3分ほどベグライターと相談する時間はある。しかし、互いにすぐに再スタートとなる。

 1本目の2走目。今度はスタートのブザーが鳴ったように聞こえるフライングすれすれでシルヴィアが馬をスタートさせる。
「あ、今シルヴィア姫、フライングぎりぎりで先に馬を走らせた!」
「あら、私も同じように見えたわ」
美桜の言葉に、シャルロットが同意する。
「シルヴィア姫、確かにかなりやるようだ」
茜は感心するとは行かないまでも、実力があるのは確かだと目を見張らされる。そもそも先ほどの1走目で、スィーリアにポイントを与えていないということだけで、かなりの実力があると言っていい。
先にシルヴィアが出た分、シルヴィアの馬のトップスピードに乗るまでの時間が早い。このままでは、スィーリアの馬がトップスピードに乗る前にシルヴィアからの攻撃を受けるのだ。そこでスィーリアは、意図的に馬の速度を調整する。狙いは、シルヴィアの馬がトップスピードから落ちた直後にこちらがトップスピードに乗ることだ。
トップスピードになったところで、小手を仕掛けるシルヴィア。しかし、スィーリアの速度調整が功を奏した為、小手での取得ポイントである1ポイントにはつながらない。逆に胴を打たれ、2ポイントを取られる。
定位置に戻り、シルヴィアは貴弘とノエルに相談する。
「水野、それにノエル。スィーリアからポイントを取りたい。何かいい手はないか?」
「もう少し、正攻法で。ノエルから覚えたトリッキー技を使うタイミングじゃないです」
「スィーリアならトリッキー技であっても対応してくるけど、それを逆手に取る為にも、今は正攻法で行くのがいいと思うわ。シルヴィ」
「分かった。行ってくる」

 1本目の3走目。今度はシルヴィアがスタート遅れと判定されるギリギリで馬を走らせ始める。
「なるほど。こちらがトップスピードから落ちた直後を狙うつもりか」
スィーリアは先ほどとは逆に、迎え撃つ立場になる。自分の馬はトップスピードから落ちた直後、相手のシルヴィアの馬はトップスピードに乗っている。スピードの状況だけ見れば有利なのはシルヴィアだが、フェイントを絡めてシルヴィアの槍をものともしない。
3走目は、互いにポイントなしとなった。

 1本目の4走目。シルヴィアの馬のスタートはブザーぴったりである。
今度はシルヴィアも攻撃にフェイントを絡めてきた。最終的な狙いは胴だが、それを分からせないようにしている。
シルヴィアのフェイントに引っかからず、小手を突くスィーリア。これで1ポイント取れた為に、合計3ポイント。1本目はスィーリアが先取した。

 会場アナウンスで10分の休憩が告げられ、その間、会場に用意された特別スクリーンが1本目の様子のリプレイとそれぞれの走のまとめ解説を流している。
シルヴィア陣営は集まって相談をしている。2本目を取られれば、負けることになってしまうからだ。

「シルヴィ、2本目を取られれば負けです。ノエルから覚えたトリッキー技を使って行きましょう」
「では、まずは小手調べ的なトリッキー技を試してくる。1走目の結果次第で、2本目の残りをどうするか決めよう」
貴弘の提案とも指示とも取れる内容に、シルヴィアは応えた。
再びアナウンスが流れ、まもなく10分経つ。シルヴィアもスィーリアも定位置についた。
ほどなく、2本目開始のブザーが鳴り響く。

2本目の1走目。シルヴィアは槍がギリギリ届かないところからあえて攻撃する。当然シルヴィアは自分の槍の間合いに入ったところで攻撃してくる。そのシルヴィアの攻撃をやや大げさに避け、あえて隙を作るシルヴィア。その隙を見逃さず、再度スィーリアが攻撃を仕掛ける。2度目のスィーリアの攻撃に、今度は落馬しそうなくらいの体を崩した。
だが、落馬には至っていない。これがシルヴィアの狙いだからだ。そして、シルヴィアの2回目の攻撃が胴をかすめたように見えた。審判団の判定が行われ、この胴は有効と認められた。今度はシルヴィアが2ポイントを先制した形だ。

「あえて、落馬ギリギリの体勢から槍を出してくるとはな」
スィーリアは定位置へ戻りながら、1走目を振り返った。
戻るとすぐに、自分の陣営のベグライターと軽く相談し、2走目に備える。

「やりましたね、シルヴィ」
「ああ、スィーリアが強いからこそ引っかかってくれた」
「馬の調子はどうですか?」
「ああ、問題ない」
シルヴィアの返答に貴弘が指示を出した。
「スィーリア、次はかなり危険ですが、反則スレスレのトリッキー技を使いましょう。ノエルがやって見せた『槍が額にあたりそうなやつ』を。そのためにも、少し馬をいたわるような振りをした方がいいですね。あのくらいのものでも、スィーリア先輩なら大丈夫ですから」
「分かった」
付け焼刃的なふりではあるが、馬をいたわるような仕草をして見せるシルヴィア。スィーリアよりも会場の方が騙されたようだ。

「シルヴィア姫の馬、さっきまでの闘いでどこか痛めたのか?」
カイルが疑問を口にした。
「どうだろうな。さっきまでの様子からすると、痛めたようには思えないが」
茜は自分の思ったことを言う。
「となると、何か狙ってるってこと?」
「おそらくそうですわ。ただ、何を狙っているのかはわかりませんが。普通なら胴か小手でポイントを取って1本取る、というところでしょう」
美桜の言葉に、ベルティーユが反応する。

 2本目の2走目。スタートのブザーと同時にシルヴィアの馬が最高の加速を見せ、負けじとスィーリアも馬を加速させる。
互いに攻撃ができる間合いの直前。シルヴィアが馬の手綱を操り、かなりの急制動をかけてスィーリアの攻撃のタイミングをずらす。それだけではなく、馬高が下がるように仕向けたため、スィーリアの攻撃はヘルムの額部分へ向かうことになった。ヘルムに当たれば、反則としてその場で1本取られてしまう。スィーリアはどうにか槍を止めた。
それに対しシルヴィアは、胴へ打ち込み2ポイントを獲得。
1走目の胴と、今回の胴で合計4ポイント。3ポイントを超えたため、2本目はシルヴィアが取った。今回の2本の胴。それはスィーリアの同じような場所を捉えていた。

「私が同じような場所を2回続けて打たれるとは」
スィーリアは自分の未熟さを感じた。2回目の胴の影響か、胴を受けた場所付近に痛みを感じ始めた。
「大丈夫か?」
スィーリアのベグライターが声をかける。
「問題ない」
「先ほどの胴2回で、痛み始めたのだろう?3本目をどちらかが手にするまでの間、行けそうか?」
「ジョストをしていればこのくらいの痛みはよくある。大丈夫だ」
「分かった。思い切り行って来い!」
数日だが、自分のベグライターをしていてくれている者の言葉に、3本目への気持ちと集中を高めるスィーリアだった。
次は何を狙ってくるかを考えた。結果、「あれ」を狙いのメインに据えて、他にも十分注意する形で行くことにした。

 一方、シルヴィアは2本目を取ったことで気を引き締めなおした。
「2本目は取れた。だが、本当の決着はこの3本目。気を引き締めていくぞ」
「さすがにシルヴィ。2本目を取って浮かれたりしないのは大したもんですね」
貴弘がシルヴィアを褒める。
「シルヴィ、3本目はどうする気?」
「そうだな……ここは羽落とし(フェザーズフライ)を狙う」
「なるほど、それも今の状況なら良さそうね。スィーリアはさっきの2回連続の胴で、痛みが出始めたみたい。さっき、わずかにそんな感じがしたわ」
「わかった。他にも十分注意しながら、羽落とし(フェザーズフライ)を狙っていく」

 3本目開始のブザーが鳴る。決着は本当に一瞬だった。互いの羽が宙を舞ったのだ。

3本目の1走目。同時に馬を走らせはじめるシルヴィアとスィーリア。
フェイントや駆け引きは一切なし、本当に単純に2人は狙っていたのだ。相手の羽(フェザー)を。
互いの馬がトップスピードに乗り、中央で槍を交える。そして、互いに羽落とし(フェザーズフライ)で羽(フェザー)が舞うことになった。

審判の判定が行われる。互いの羽が舞うタイミングも完璧に同時である。
「互いの羽が舞ったタイミングも全くの同時。よって、本試合は引き分けとする!」
審判からの引き分けを告げる声。シルヴィアとスィーリアが互いに中央へ馬を向かわせ、握手を交わす。

「まさか、互いに羽落とし(フェザーズフライ)狙いだったとは。しかし、私の方は本来なら負けていた。スィーリアの抱える痛みで槍を繰り出すタイミングのズレと遅延が生じなければ、私の羽(フェザー)だけが落ちていたのは間違いない」
「運も実力のうちです、シルヴィ。2本目の連続の胴で、痛み始めたのはともかくとして、その痛みがこのような結果につながるというのはシルヴィの持つ運の強さでしょう。いい試合でした、ありがとうございます」
「こちらこそ、スィーリア。機会があれば、今度は国の行事ではなくシルヴィア個人としてジョストで闘いたい」
「はい、喜んで」
握手を終え、2人はそれぞれの陣営に戻った。

「シルヴィ、お疲れ様でした。いい試合でしたよ!」
「スィーリアと羽落とし(フェザーズフライ)を決めあうなんて!すごい試合を見せてもらったわ!」
「ありがとう。貴弘、ノエル。今回の闘いは君たちがいてくれたからだ」
「いえ、シルヴィの実力です。限られた時間の中で練習して結果を出す。それを間近で見ることができて、色々勉強になりました」
「私も、もっとがんばらなくちゃ」
貴弘とノエルが、それぞれシルヴィアに言った。

「さて、そろそろ引き上げよう」
シルヴィアの指示でシルヴィア陣営が先に会場を出る。少し遅れてスィーリア陣営が会場を後にした。
羽落とし(フェザーズフライ)を決めあうという、滅多にお目にかかることのないであろう結末に、試合が終わってからも数時間は会場付近がざわついていたのであった。


結 終幕
 祝賀対決が終わり、シルヴィアと共にフィルミッシュ官邸へ入ったスィーリア・貴弘・ノエル。
哲平・シャルロット・聖華・根津・エレン・サスーサス・雪洸がいる部屋へ通された。
「ジョストって、生で見るとすごい!でも、見るとやるとでは大違いなんだろうな」
雪洸が興奮気味に言う。逆に、サスーサスは普通のテンションで貴弘に言った。
「エスペルのジョストをする環境は充分ではないが……雪洸の喜びようもあるが、エスペルでジョストをすることがあるなら、協力・支援を約束しよう。後程、それを書面として君に渡す」

 哲平が聖華に尋ねる。
「聖華、頼みがある」
それは会見を開きたいということであった。
「2時間もらえれば」
聖華は返事をし、慌ただしく動いた。
会見の始まるまでにヘイゼルリンク・フィルミッシュ・エスペルの3か国と有馬財閥から、それぞれ貴弘に伝えた内容を文書にしたものが届いた。関係者がそれぞれサインし、貴弘は世界でも非常に稀有であろう伝手を持ったのである。
そして、2時間後に会見が始まった。


 会見の場には哲平やシャルロットだけでなく、聖華を始めとする2人の友人達、そして貴弘・スィーリア・ノエルもいる。もっとも会見の行われている部屋の片隅にいる、というようなものであるが。

「皆さん、本日の会見は大事なお知らせをするためのものです」
そう言って、切り出したのは哲平だ。
「シャルロット・ヘイゼルリンクです。今日は皆様に大事なことをお知らせします」
シャルロットが一呼吸おいて続ける。
「私は……彼、有馬哲平と結婚すること。そして、既に哲平の子が私の中にいることをお知らせします」
シャルロットがそこまで言った後、今度は哲平が続けた。
「今後は彼女、シャルロットと我が子と共に家族での人生を歩んで行きます」

この会見内容は瞬く間に全世界へ広がった。こうなっては哲平を嫌う者達がシャルロットを狙うようなことを起こせば、ヘイゼルリンクの内紛として世界に認識される可能性もある。
「この会見を行うきっかけとなった本日のジョストの試合。その関係者達にも感謝を表明します」

 ノエルの言ったことはこれか、と貴弘とスィーリアは納得した。会見も終わり、部屋を出ようとした3人。そこに聖華が姿を現し、貴弘に声をかけた。
「水野君。これにサインを」
聖華が見せたのは、哲平と同様の内容に加え出版の件の内容を含めた書類だった。
「今回の試合に関することと、ジョストを見る・する為のこと。そしてジョストの魅力をまとめてね。完成したら出版するから。今月中でお願い」
「はいかイエス、というわけですか……今回の試合の記録をまとめる作業といっしょにやります」
「ありがとう。私達との繋がり、大事に生かして」
「はい」

 貴弘がまとめた原稿は桜の季節に出版された。この出版をきっかけに、鳳条院とのかかわりがきっちりと確立された。さらにそれを起点に色々な出会いや繋がりが膨らみ、人脈が出来ていった。
 後に、貴弘はジョストに直接関わる者としての体の限界が来て引退する。そしてジョストの記者としてトップクラスの活躍することになるのだが、その際に、この人脈が行かされることになるのだった。

参考資料
プリンセスラバー!番外編
・根津、運命のハル?(Fani通2009年上半期収録)
・〜デリスヴェント(新しき道)〜(Fani通2009年下半期収録)

ワルキューレロマンツェ番外編
・第3の選択肢!?(Fani通2014年上半期収録)
2016/01/12
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (11:55 pm)
いつもの2次創作な番外編。
本番外編では、珠緒の料理について意図的に漢字表記「臨死体験料理」を当てている。
ゲーム本編では「アルティメット」または「あるてぃめっと」で表記されているので念の為。
なお全角40字/行で表示すると、こちらの意図した折り返しになる。


あらすじ
ユリナとミリィ、天音・マリエル達が学園(キャメロット)に残って、少し月日が経った。
ユニタリー・フォームを身に付けたアキトと互角に闘う人物は思いもよらぬ者だった。

序 決闘(フェーダ)と騎士
 中世の儀式決闘(フェーデ)に端を発する、決闘競技(フェーダ)。
今は競技の部分を省略し単に決闘(フェーダ)と呼ばれる。世界中で人気を博し、決闘(フェーダ)を行う者達は騎士と呼ばれる。
 騎士はあるものを必ず身に付けている。それはライブスフィア。腕時計的な情報端末兼勝敗判定装置のライブスフィアにより、勝敗の判定が行われる。
 ライブスフィアは装着者の勝敗判定の為の機能として、相手の攻撃力と装着者の体力を数値化し、相手の攻撃を受けてどのくらい体力が減ったのかを計測するようになっている。相手の攻撃を受けて自分の体力値がなくなるか、一定時間経過後に体力値の多い方が勝つのが基本である。決闘(フェーダ)によっては、体力ではなく別に勝利条件が設定される場合もあり、その場合は当然勝利条件を満たした方が勝つ。
養成所に通う騎士訓練生達は、養成所のある町以外の場所ではライブスフィアを身に付けることができない。
なお、武器と決闘(フェーダ)における服装の騎士征装に微量のミスリニウムを使い、見えない鞘(インビジブルワーク)と触れえない鎧(リベルコート)という目に見えない武器と鎧の斥力が発せられることで、武器が相手に直接が当たることはない安全性に配慮したスポーツ的なものになっているのが、現在の決闘(フェーダ)である。


 太平洋上に浮かぶ島、ログレス島。そのログレスにある王国、アルビオン。
アルビオン王立騎士養成学園は、世界中の騎士養成機関の中でもトップクラスの存在である。
その学園(キャメロット)にて開かれる4年に1度の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)。つい先日の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)では、近衛アキトの所属する騎士団(ユニオン)であるリディアル・エレアノルトが優勝を果たしたのであった。
 優勝した者達に叶えられる願いで、アルビオン王に卒業までの学園在籍許可を取り付けた、リディアル・エレアノルトのリーダーである、ユリナことユリフィーナ・ソル・エレアノルト、ユリナの妹でミリィことミルフィーナ・ソル・エレアノルト。リディアル・エレアノルトに属し、ユリナとミリィを警護する刀條天音、ユリナの友人であるレミリアことレミリエーラ・レティアハート達と共に学園生活が続く。


起 臨死体験料理(アルティメット)の真実
 学園(キャメロット)の生徒、蕨 珠緒の作る料理を知る者は、その料理を臨死体験料理(アルティメット)と呼ぶ。「お花畑が見えた」「死んだ家族に会った」「三途の川を渡るところだった」等々の評価が出てくるからである。
しかし、料理ではなく菓子を作るのであれば、臨死体験料理(アルティメット)になることはない。珠緒自身も不思議に思っている。だが、なぜそうなのかは分からない。
その答えを知ることが、騎士としての珠緒に大きな強さをもたらすことになるとは珠緒は思いもしなかった。


 ある日の昼前。
学園(キャメロット)の入口に1人の騎士がやってきた。騎士の名はYU奏。アキトがユニタリー・フォームを体得したという話を聞きつけたからである。
しかし、到着した時間が悪かった。朝は軽くしか食べておらず、かなりの空腹。学園(キャメロット)の食堂を使おうにも・・・今いる場所からは遠すぎる。
そこへ珠緒が通りかかり、声をかけた。誰が見ても空腹と分かる状態だったのだ。
「あの、もしよければ私の作ったお弁当、どうですか?」
「ありがとう。私で良ければ食べさせてもらう」
「はい、それでは少し移動しましょう。ここでお弁当を食べるわけにはいきませんから」
珠緒はYU奏を連れて、2人で弁当を食べられる場所へ移動した。
移動先は学園の庭だが、何本かの木が固まって少し広い木陰を作りだしている場所である。
 弁当を出し、包みを解く珠緒。
「どうぞ」
「ありがとう。ところで、どうして2人分あるのか聞いても?」
YU奏に対し、照れ笑いと苦笑いが混じった微妙な笑顔、いや少しひきつった顔と言った方が良いかもしれない。そんな顔を珠緒は見せる。
「克服する為、と・・・」
言葉の続きがあることを匂わせるニュアンスで、それ以上のことは答えない珠緒。
「言わないことの方は、何となく察しがついた。でも、『克服』とは?」
「お弁当を見れば、わかります」
珠緒の言葉に、弁当のふたを開けて、中を見るYU奏。
「黒焦げばかりだから?」
「そうなんですけど・・・それだけではないんです。私の料理は。私の料理のことを知る人たちは私の料理とその評価を合わせて、『臨死体験料理(アルティメット)』と呼びます」
「臨死体験料理(アルティメット)とはまた」
「食べれば、わかります」
「空腹は最上の調味料。この弁当が臨死体験料理(アルティメット)ではなく、普通に食べられるだろう。では頂くとしよう」
珠緒の作った弁当を食べ、完食するYU奏。
途中、臨死体験料理(アルティメット)を見て、食を止めることが何度かあった。味わっているだけではなく、何かを確かめているかのようでもあった。
「ごちそう様。さて、臨死体験料理(アルティメット)について、私が思ったことを言おう」
学園(キャメロット)の臨死体験料理(アルティメット)を知る者達とは違うことを言いそうな予感。それが珠緒を満たしていた。

「臨死体験料理(アルティメット)と言われているが・・・珠緒の料理が失敗するのは、おそらくバックドラフトとして具現化されるはずの潜在力が、調理の際に加わっているからだろう」
「えぇっ!?」
「普通なら、こんなことは考えにくい。以前、料理に関して何かなかったか?」
「うーん、全く・・・」
「では、先へ進むとしよう。料理ではなく、決闘(フェーダ)の時に、バックドラフトとして潜在能力を解放できるようにすることも可能性がある」
「それって、私が色つきになれるってことですよね?」

 色つき・・・それはバックドラフトを扱える騎士を指す呼称であり、騎士として一定以上の実力の到達したことを示すものでもある。他にも黒騎士ともいわれるが、少なくとも学園(キャメロット)においては、「色つき」と言われるのが普通である。
逆にバックドラフトを扱えない騎士は白騎士と呼称される。
ちなみに、バックドラフトとは剣気や闘気とも言われるもので、発現者の騎士により色が違う。ほとんどの場合、自らの武器を中心にバックドラフトが現れる。
 その騎士達の使う武器に使われるミスリニウム鉱石。バックドラフトが一定以上加わると、特定の色の光を発するという特徴がある。なぜそのようなことが起きるのかは科学的には解明されていないが、そういうものとして決闘(フェーダ)には浸透している。

「そういうことだ」
「色つき・・・なりたいです!」色つき、の部分ではややうつむいているように思えたが、なりたいです!の部分ではYU奏にはっきり向かい合って意思表示する。
「この時期、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)が終わってから大して経っていないから、バックドラフトを扱える方が今後にはいいだろう。君の次の休みの日に、臨死体験料理(アルティメット)の原因を探りたい。どうだろう?」
「はい、お願いします!!!あ、まだ私の名前を言ってなかったですね。私は珠緒。蕨 珠緒です」
「これは失礼した。私も名乗っていなかった。私はYU奏。日本人にはわりと普通の名前だが、意図的に名前表記を変えている」
「学園(キャメロット)にはいろんな人がいますから。YU奏さんの名前表記のことを気にする人はいないと思います」
了解したという意味で、珠緒の言った言葉をスルーして違う話を振るYU奏。
「珠緒、弁当をありがとう。私がここに来たのは、近衛アキトが目的だ」
「アキト君ですか?今は、騎士団(ユニオン)のみんなで修練していると思います」
「修練中、か・・・修練中だとどこにいるか分からないこともあるな・・・騎士団(ユニオン)の本拠地で待つのが確実か?」
「夕方までは修練ですよ、多分。アキト君を探しつつ学園(キャメロット)にいる騎士を見て回るのはどうでしょう?」
「目的の近衛アキト以外にも、デュラクディールのシルヴェリア・レオディール。それに柳生騎士団の柳生重兵衛。他にも見ておくべき騎士はいる。珠緒、案内してほしい」
こうして夕方までの間、珠緒とYU奏はアキト君を探しつつ学園(キャメロット)にいる騎士を見て回り、仲良くなった。
「そろそろ修練が終わっても良さそうな時間だな」
「では、ユリナ姫の屋敷へ行きましょう。きっと戻ってきていますよ。もしまだ戻ってなくても、ちょっと待てばアキト君に会えるはずです」
「ありがとう、珠緒」
「今、アキト君に連絡してみますね」
その時、珠緒に声をかけた者がいた。
「おーい、蕨ー!」
「ロウ君〜」
アクセル・ロウ。柳生士団の1人であり、アキトの親友でもある。
声をかけた後、珠緒とYU奏の元にやって来た。
「ロウ君、こちらはYU奏さん。アキト君に用があるっていうから、今からユリナ姫の屋敷へ行こうって思ってたところなの」
「アキト達ならさっき見かけたぜ。騎士団(ユニオン)勢揃いでこの先にいた。目立ちまくって、囲まれてる状況だったからな。今行けばゆうゆう捕まえられるぜ」
飄々とそう言っているが、表に出さないようYU奏の強さや性格を判断している。
「ロウ君、ありがと。この先に行ってみるね」
「おう、気をつけろよ」
珠緒たちを見送った後、ロウは呟いた。
「YU奏か・・・あいつ何者だ?相当強いのは間違いないが・・・」
そして、ロウはYU奏のことを調べたのだった。

 ロウの言葉通り、アキトの所属騎士団(ユニオン)であるリディアル・エレアノルトの面々は完全に囲まれていた。ちょっとやそっとでは近づくこともままならないのは明らかだ。
「珠緒、ついてきてくれるか?」
「・・・?」
YU奏の意図が分からず、困惑しながらもついていく返事の頷きだけする珠緒。
先をYU奏が歩き、後ろに珠緒でアキト達に近づいていく。
「近衛アキト!」
人垣から離れた場所でのYU奏の呼びかけ。その雰囲気に囲んでいた者達は動きを止め、静かになった。
「すまない、俺の名前を呼んだ人のところへ行きたいんだ。道を開けてほしい」
アキトの言葉で囲みが割れて、通り道ができた。YU奏の元へアキトがやって来る。
「俺の名前を呼んだのは?」アキトはそう言った。
「ユニタリー・フォームの体得者、近衛アキトに会いに来た」
「・・・」
決闘(フェーダ)の場ではないのに、それ以上の緊張を感じるアキト。
「なるほど、近衛シュンエイの息子というだけある。それに随分と修練を積んでいるのもな」
YU奏はアキトを見て、思ったことを口にした。
「珠緒と一緒、ということは珠緒の友人か?」
「その人はYU奏さん。今日の昼に初めて会ったんだけど、今は友達だよ」
「直接闘うつもりで来たのだが・・・ここで、というわけには行かない。改めて日取りを決めて決闘(フェーダ)をしたい」
「ああ、分かった」
「都合のいい日時があれば、ライブスフィアに連絡してくれ」
その言葉と共に、アキトとYU奏、互いのライブスフィアに相手の情報が登録された。
「アキト君、またね」
珠緒とYU奏が視界から消えてから、アキトはようやく緊張が解けた。
冷や汗では済まない、もっと本能の奥底で感じる強さがYU奏にはある。
「YU奏、か・・・」
ボソッと呟くアキト。天音がそんなアキトに声をかける。
「アキト、YU奏は相当強いぞ。私も冷や汗をかいた」
「なんですって!それほどの者のなの?」
天音の言葉にレミリアが驚く。
「お兄様、どうされるおつもりですか?」
「あの言葉、いつでも相手できる自信がある、ということね」
ユリナの妹ミリィ、ユリナもアキトにそう言った。
「明日、闘う」
「分かったわ」ユリナの言葉の後、リディアル・エレアノルトの面々は言葉を交わすことなく、帰宅した。

 屋敷の修練場。夕食を済ませてからの少しの時間だが、アキトはイメージトレーニングと修練をしている。
「YU奏、かなり強いな。ユニタリー・フォームを使えればいいが」

そこにアキトへ声をかける人物が。
「アキトさん」
「マリエルさん」
「この時間に修練ですか?」
「明日の決闘(フェーダ)に備えて」
「後30分以内に、切り上げてくださいね。今のアキトさんの状態からすると、それが限度です」
言っていることは気遣いそのものだが、言葉に込められた雰囲気やニュアンスは命令。それも厳格な命令だ。
「うーん、マリエルさんに言われるとなると、もう無理だな」
夕方のことを聞いたマリエルはあえてYU奏のことを言わずにいた。そんなことは知らずにアキトはライブスフィアでYU奏に明日の決闘(フェーダ)に関する情報を送った。


承 珠緒とYU奏
 翌日。アキトの決闘(フェーダ)は非公式(アンオフィシャル)の扱いと決まった。
指定された時間と場所へアキト、YU奏。双方が現れた。アキトは一人だが、YU奏は珠緒を連れてきている。
ライブスフィアからの音声で、決闘(フェーダ)の前の剣誓省略と試合開始が告げられる。
「決闘(フェーダ)、開戦!」アキトとYU奏の声が重なり、正式に始まった。

 YU奏の武器は見えない。対してアキトは、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)の途中から使っている、修練の剣である己を磨く黒き翼(ソラスティア・ノイエ)で変わらない。
「武器はどうしたんだ?」
「気にしなくていい。『拳』がこの決闘(フェーダ)での剣だからな」
YU奏の拳というより左右それぞれの手の指に1つずつ、指輪がはめられている。
実はこの指輪にはミスリニウムが含まれているのだ。

 YU奏は、バックドラフトをかなり強く発現した。バックドラフトが全身に広がる寸前くらいに発現している。円卓騎士章(インシグマ)に近いバックドラフトだ。
バックドラフトは武器を中心として特定の色の光が発現するが、円卓騎士章(インシグマ)は、触れえざる鎧(リベルコート)も含めて光が全身を覆う。いわば、バックドラフトの上位とも言えるものだが、そこまで到達できる騎士は本当に極僅かである。
アルビオンにおいては、国を代表する12の騎士団(ユニオン)の代表者に円卓騎士章(インシグマ)が授与される。円卓の騎士になぞらえているのが由来だ。

YU奏のバックドラフトを見て、自分のバックドラフトのギアを最初からトップで行くことを決めるアキト。幾度となく攻防が繰り返され、間合いを取る。
剣を使っている分、アキトの方が間合いとしては有利なはずなのだが全くそれを感じられない。
それ程、YU奏は両の拳による攻撃、防御と受け流しがうまく行っている。
アキトのライブスフィアが残り体力値は50%と告げる。
「ユニタリー・フォームとて、万能ではない。その証明の1つがこれだ。お前の力を見せろ!」
「うぉおおお!」
アキトの渾身の一撃に、YU奏はバックドラフトを集中した拳を打ち込む。拳と剣。それぞれの見えない鞘(インビジブルワーク)が発する斥力によって、直接的に拳と剣が交わることはない。弾かれた後の次の一撃が勝敗を決した。
剣を構え直さなくてはならないアキトは、YU奏の拳撃への対応が間に合わない。
それだけではない。バックドラフトどころか、間違いなく円卓騎士章(インシグマ)の力が拳に集中していた。学園最強の5人に数えられる、シルヴェリアとアーシェ姫のバックドラフトと円卓騎士章(インシグマ)の力を体感したのだから間違えようもない。

 ライブスフィアがアキトの残り体力値0%を宣言し、YU奏の勝利が確定する。
「この程度の芸当で・・・シュンエイの息子だからと過大評価したか?」
「こんなことができるとは。やっぱ奥が深いな、決闘(フェーダ)は」
「前向きだな、近衛アキト。さすがにシュンエイの息子だけある」
珠緒を見てから、アキトへ言葉を続けるYU奏。
「ユニタリー・フォーム破りの1つが拳で闘うということだとさっき、私は見せた。他にも破る方法がある。そして、その方法を体現できるであろう人物を見つけた。もしその人物との決闘(フェーダ)に勝てたなら、私の所属騎士団(ユニオン)”アーサー”の所属候補として認めても構わない。必要とあらば、誓約(ゲッシュ)にしてもいい」
「で、その人物というのは?まさか珠緒?」
「察しがいいな。そう、珠緒だ。今のままではお前と相対するどころではないが、強くなれるだろう」
「えぇーーーーーーーっ!?私がアキト君のユニタリー・フォームを破れる可能性があるって・・・」
「珠緒は強くなれるはず。珠緒なら今後近衛アキトに対抗できる、いや近衛アキトを倒せる可能性すらある。そして、1つ頼みたいことがある。珠緒のことはまだ誰にも言わないでほしい」
「わかった。どんなことになるのか、知りたい。それに俺を倒せるかもしれないくらいの力を持った珠緒と闘ってみたい」
「助かる」
「今日の決闘(フェーダ)のことは話をする。それは構わないな?」
「ああ、問題ない。それと珠緒の次の休みの日までの間は、私は宿泊先にいる」
アキトからの確認に答え、その後YU奏はアキトと珠緒に向けてそう言った。

こうして非公式(アンオフィシャル)決闘(フェーダ)は幕を閉じた。
アキトはユリナ達のいる屋敷に戻り、今回の決闘(フェーダ)の内容と結果を伝えた。
もちろん、珠緒のことは伏せて。屋敷内のサロンはにわかに騒がしくなる。

「拳だけで、剣に勝つなんて!」
「見えない鞘(インビジブルワーク)をバックドラフトや円卓騎士章(インシグマ)の力で強化したということだろうか・・・」
レミリアは驚きの声を上げ、天音は考え込み始めた。
「でも、それってユニタリー・フォーム破りの1つでしかないんでしょう?」
「他にもユニタリー・フォームを破る方法ってどうするんでしょう?」
ユリナとミリィがそれぞれの疑問を口にした。
「うーん・・・自信はあったみたいだし、あの実力からして、嘘を言ってるとは思えない。むしろユニタリー・フォームを使えない場合の自力を身に付ける必要があることが分かったのは収穫だったと思う」
「そうね。アキトにはもっと強くなってもらわなくちゃ。卒業までの間には、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)に参加してなかった強豪達と戦わなきゃならないんだから」
アキトはユリナの言葉に同じ思いであり、同時にこの間の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)のことが脳裏に浮かんだ。

 アキトやユリナ達の優勝した、この間の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)は学園(キャメロット)在籍の強豪達が遠征で不在。あまりにも強豪が少ないことから、ユリナのいとこであるアーシェ姫、アーシェリアス・ペンドラゴンの率いる騎士団(ユニオン)が参戦したということがある。ユリナとミリィもアルビオン王族の一員だが、王位継承順としては、47番目と48番目。末席に近い位置と言える。対してアーシェ姫のペンドラゴン一族は、5大王族の一つ。遥かに王位継承順が高い。
それに、アーシェ姫はバックドラフトよりも強い円卓騎士章(インシグマ)の持ち主だ。
常にアーシェ姫と互角に戦えるくらいの力はまだ、リディアル・エレアノルトの面々の誰も持ち合わせていない。

「ああ」
アキトのもっと強くなるという意志を込めた言葉で、今日の非公式(アンオフィシャル)決闘(フェーダ)報告会は終わった。
アキト以外は自室や執務室、あるいは修練場へ散って行った。

「アキトさん、YU奏さんはどうでしたか?」
「はい。こちらは剣、相手は拳なのに負けました」
「あらら、やっぱり。流石に騎士団(ユニオン)アーサー所属だけありますね」
「マリエルさん、知ってたんですか?」
「はい。ちょっとご縁がありまして」
「そうなんですね」
「刀條流とも交流があるみたいで、みなもちゃんもYU奏さんのことは知ってますよ〜」
「みなもさんも知ってるのか。となると、十兵衛さんも知ってる?」
「ん〜、それは分かりませんね」
「もっと修練して強くならないと。ユニタリー・フォームも万能じゃない、というのは頭の中にはあったんですけど・・・今日の決闘(フェーダ)で、身を以って実感しました」
「また、明日から修練の厳しさを上げますよ」
「お願いします!」

 その頃の珠緒。
次の休みの日がいつなのかをYU奏のライブスフィアへ送った後、少し考えていた。
 臨死体験料理(アルティメット)のことは喜ぶべきことにしても、YU奏の言った「可能性」には驚いた。本当にそこまでのことが自分にできるのだろうか。
 先日の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)での自分の所属騎士団(ユニオン)の成績は中の下と言ったところだ。個人としての成績も騎士団(ユニオン)の成績とさほど変わらない。
このままの状況が続くようであれば、学園(キャメロット)の卒業も危うくなることは目に見えている。それは分かっており、修練にも力を入れている。自分の力で解決することという認識であるが、このような形で解決するということに思うことがないわけではない。
すると、YU奏からライブスフィアを通じて連絡が来た。

「遅い時間にすまない。珠緒の様子が気になったのでな。本当にバックドラフトを使える程の力があるのか?あるにしても、この問題に他人の力を借りていいのか、というところだろう?」
「はい」
「問題を解決する、解決できるのは君自身だ。私や君の周りの友人たちは解決への助力やアドバイスをしているだけに過ぎない。バックドラフトに関して言うなら、出せる潜在力はある。ただそれを引き出す為に君自身以外の力が加わるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。自分の力だけでバックドラフトを引き出せるようになる者など、あっという間に数えられる程度の数しか存在しないはず。気にしなくていい」
「YU奏さん・・・」
「さて、休みの日のことについての細かいことは改めて連絡する。後でライブスフィアを見てほしい。お休み、珠緒」
「おやすみなさい」

 翌朝。YU奏からのメッセージがライブスフィアに届いていた。
「次の休みの日に珠緒の部屋で原因を探るための逆行催眠を行う」と書かれている。
返信後、珠緒は学園(キャメロット)へ向かった。
「何か分かるのかな」
そんな気持ちが珠緒の中にあったが授業と修練に気持ちを切り替えて過ごし、次の休みがやって来た。予定通り逆行催眠が行われ、あることが判明した。
珠緒は過去に料理が関係する火事に遭遇しており、それが珠緒のバックドラフトに影響を与えているということ。だが、その過去を探ろうとすると逆行催眠すら妨げる防衛本能が働くこと。
この件をどう解決するか考えたYU奏は珠緒のライブスフィアにメッセージを送った。

「ええっ!?」
珠緒はYU奏からのメッセージの内容を見て驚いた。
「日本へ行く気はあるか?行くなら共に発つので、チケット等を渡す」という内容だったのだ。
日本へ行ってどうするのだろう、そしてなぜ日本に行く必要があるのかという思いが真っ先に浮かぶ。
「YU奏さん、どういうことですか?」
音声通信で即座にYU奏へ問う珠緒。
「この間の逆行催眠だけでは、珠緒のバックドラフトを具現化するまでには至らなかった。
もう少し、調べる必要がある。ただ逆行催眠すら拒否される程の過去のことが分かれば、珠緒はひょっとすると壊れる可能性もある。逆に過去のことを知って、今のままでいられるなら珠緒のバックドラフトはきっと発現するだろう」
「行きます!休学届に書く日数はどのくらいでいいですか?」
「日本で珠緒のことを聞きまわらねばならない。最低でも2週間、というところだろう」
「移動の時間を含めると、だいたい2週間半は必要ってことですね。じゃ、3週間休学ってことで申請します」
「わかった。3週間を無駄にしない為にも、こちらで先に可能な限り聞き込み候補は絞っておく」
「日本に行って過去と向き合うことができれば、バックドラフトを使えるようなる。そして、アキト君と闘えるようになると信じます!」
「では、チケットを手配してから再度連絡する。それに合わせて休学の期間を書けばいい。それと・・・備考欄に『騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏からの指示』と書いておくといい」
3日後、珠緒の休学届が出された。備考欄の記載内容が学園(キャメロット)幹部を非常に驚かせ、受理されるに至ったのだった。

 日本に戻ってきた珠緒。そして同行者のYU奏。
「疲れた〜」
「珠緒、まだ空港だ。珠緒の家のある町ではないのだろう?」
「はい」
「少し寄りたいところがある。別行動しても問題ないか?」
「大丈夫です。今日は移動日ですし、バックドラフトのことは明日からにしましょう」
「助かる。ありがとう、珠緒」
「私は先に行きますね」
「今夜には合流できるだろう」
そんなやりとりの後、珠緒とYU奏はそれぞれ別行動に入った。
とはいっても珠緒の別行動は実家に帰るだけ。
一方、YU奏はというと。ある町に来ていた。

「ここか・・・和奏の記憶にある町。そして、坂之上の家は」
ある町の旧市街。そこに坂之上の家はあった。
「みーちゃん、元気かな」
YU奏とは全く違う別人格のような雰囲気でYU奏の口から出た言葉。
それは坂之上未奏の双子の姉、坂之上和奏が妹の未奏を気遣うものである。
あまり家の前にいては不審者と間違われるのは目に見えている。
立ち去ろうとすると、誰かが突然抱きついてきた。
「わかちゃん!」
未奏だった。見た目こそYU奏だが、雰囲気が明らかに和奏だったからだろう。
泣いてこそいないが、大粒の涙が目に溜まっている。
「すまないが、私は和奏ではない。和奏の記憶が私にあるのは確かだが」
「ごめんなさい。ついわかちゃんだと。でもわかちゃんの記憶があるって?」
「君の双子の姉である和奏が交通事故死した時、私と波長があったのだろう。死の瞬間に彼女の全ての記憶が私に流れ込んできた」
和奏の記憶が流れ込んできたことをきっかけに、YU奏と名前の表記を変えたのだが、それは言わずにおいた。
「そんなことが・・・わかちゃんの記憶を受け入れてくれて、ありがとう。見たところ、決闘(フェーダ)の騎士なんでしょう?」
未奏はYU奏の手首に付けられているライブスフィアを見て言った。
「そうだ。用があって日本に来た。今日日本についたばかりで、寄りたいところがあると別行動している。これから一緒に来た者と合流する予定だ」
「これからもわかちゃんをよろしく」
「和奏がいたからこそ、日本に来ることになった要因に気づくことができた。私は君たち姉妹が生まれてきてくれたことに感謝する。また、いつかどこかで」
最後の言葉、「また、いつかどこかで」を言ったのはYU奏本人の意思によるものか、和奏の記憶が言わせたものなのかは分からない。
ただ、YU奏にも未奏にも良い出会いだったことだけは確かなことだった。

 和奏の記憶が流れ込んでから、YU奏はバックドラフトに対しての感性が高まった。その高まりは味覚として現れた。これが、珠緒の弁当を味わったり、確かめるように食べていたことの真相だ。
「さて、珠緒と合流せねば」
ライブスフィアを頼りに、珠緒と合流したYU奏は珠緒の家に泊まったのだった。


転 トリコロール・リュミエール
 翌日から珠緒とYU奏は珠緒の過去を知る人物たちに会い、昔の珠緒のことを聞きだしていった。
それらを総合すると、こういうことだった。

 昔、珠緒が友達と料理をしていた時に火事が起きた。
 火に包まれた家。出口である玄関とは真逆の端側にキッチンがあった為、玄関に向かうには火の中を突っ切らなければならない。
意を決して、友人と珠緒は玄関へ向かう。しかし、木造住宅であることに加え、非常に湿気の低い日というタイミングの悪さにより、焼けた家の一部が落下し始めるまでの時間がかなり早かった。
このままでは2人とも死ぬ、助かりたい。その一心があることを引き起こす。
 珠緒の身に付けている髪飾り。それは微量ではあるがミスリニウムを含んでおり、バックドラフトを発動させることになった。
当時は単なる一般人の珠緒がバックドラフトのことを知っていることも、ましてや制御できるわけもない。それでも無意識に発言したバックドラフト、それも3色のバックドラフトのおかげで玄関までの道を進む。
どうにか玄関まで辿り着いた珠緒と友人。ドアを開けたところで倒れ、救急隊員に担ぎ出された。2人とも病院に運ばれたが、生還したのは珠緒のみであった。
 友人を失ったショックに耐えきれなかった珠緒はその時の記憶が封じ込められた。
以後、料理をしようとすると、無意識の拒否反応なのだろうか。珠緒の料理は臨死体験料理(アルティメット)になるということが起きるようになったのだ。

 それが分かったことで、まずはその友人の家で亡くなった友人に線香をあげる。
「今まで、ごめんね」
珠緒は今まで忘れていたこと・火事のことを含め、心から詫びた。すると、どこか心が軽くなったというか、背負っていたものが解放されたというか・・・そういう気分のような感覚のようなものを感じた。
その様子にYU奏は珠緒のバックドラフトが発動するであろう予感を味わっていた。

 珠緒の休学期間の残りは1週間を切った。休学期間内にアルビオンに戻るには、明日日本を発たねばならない。
「珠緒、アルビオンに戻ったらバックドラフトを使う修練をしよう」
「YU奏さん、ありがとう・・・」
珠緒の部屋で、眠りに着こうとする最中のやりとり。
アルビオンに戻ってからのことに、楽しみと不安が入り混じる珠緒。
「私のバックドラフト、どんなのだろう・・・」
そう思ったのは覚えているが、いつしか珠緒は眠りに落ちたのだった。

 翌日。珠緒とYU奏は日本を発った。アルビオンに戻り、アキトやロウ達に帰ってきたことを告げる挨拶をした後、YU奏が珠緒の修練相手を務めた。
「珠緒ならバックドラフトを必ず使えるようになる!」
YU奏にそう言われたが、バックドラフトの新しい発現条件はどんなものか、まだわからない。ただ、やはり自分が体験した火事に関係があるのだろうということは予想している。

 珠緒にとって記憶を封じる程の出来事だったあの火事。その時のことを思い出してみる。友人を助けたかった。その思いを、強い思いを・・・
「火事の時に使ったバックドラフトの力を今、私に!」
珠緒はようやく、バックドラフトを正しく発現させるに至る。
「珠緒、今バックドラフトが瞬間的にだが確かに出た」
「ホントですか!?YU奏さん!」
「本当だ。このまま修練を続けよう、珠緒」
瞬間的な発現であったが、YU奏は驚いた。普通、バックドラフトは1色しかありえない。だが3色だった。見間違ったのかと思ったが、バックドラフトの発された状態の時の空気の味からは、間違いなくあの3色が珠緒のバックドラフトであることが分かった。
YU奏は珠緒の修練相手を続けながら、あることをしようと考えていた。

 数日すると、珠緒はバックドラフトを安定して出せるようになった。
しかし、まだ3色が入り乱れた状態でいる。今のままでは単にバックドラフトを出せるようになっただけにすぎない。
「珠緒。今は安定してバックドラフトが出せるようになっている。だが、今のままではバックドラフトを使いこなすには程遠い」
「どういうことですか?」
「特別なバックドラフト、それも今存在する騎士の中では唯一のもの。それを珠緒が持っているということだ。3色のバックドラフトを」
「3色?」
「赤・青・白。即ちトリコロール・リュミエールだ」
「トリコロール・リュミエール・・・」
「今の珠緒のバックドラフトは3色が入り乱れている状況。だが、1色ずつ使ったり、2色・3色を同時に使うということもできるはず。3色のバックドラフトを発現させているのだからな。それに3色のバックドラフトそれぞれに、特性があるはずだ」
「3色のバックドラフトの特性・・・」
「その特性を見極めて扱えるようにならなければ、珠緒のバックドラフトの発現は完全ではない、と私は考える」
「今日の修練が終わったら、3色のバックドラフトの特性について考えます」
その珠緒の言葉の後もしばらく修練を行った2人はそれぞれ部屋に戻った。
珠緒は自分の部屋に、YU奏は珠緒に出会った時のホテルの部屋に。

「3色のバックドラフトか・・・赤・青・白、それぞれどんなものなんだろう?」
自分のバックドラフトに関して思いを巡らす珠緒。
 火事の現場を抜けるための力、それが3色のバックドラフトにあったはず。そこを起点に考えてみる。
結果、赤・青・白それぞれの特性で考え付くものがあるにはあった。ただ、それが正しいのかは分からない。明日の修練で確認してみることに決めたのだった。

 翌日の修練は単色のバックドラフトの特性を見極めるものに切り替えられた。珠緒からそれぞれの色のバックドラフトの特性と思われる内容を聞き、YU奏も修練内容の変更に同意したからだ。
「珠緒、まずは赤いバックドラフトだ。珠緒の想定通りなら、私と互角に剣を交えられるはず!」
珠緒はバックドラフトを発現させる。火事の時のことを思い出し、YU奏の攻撃を打ち砕く必要のある建材に見立てて、発現しているバックドラフトを赤い色のみに絞り込んでいく。完全ではないが、それでもかなり赤い色のバックドラフトが発現するようになった。
YU奏が珠緒に攻撃を仕掛ける。赤いバックドラフトの力なのだろう、YU奏の攻撃に合わせたカウンターによる気合いの一撃を放つ。
「やああっ!」
珠緒の一撃がYU奏に見事にヒットした。
「なるほど。これが赤いバックドラフトか。カウンターのバックドラフトということだな」
ここまでの修練で珠緒の意気が上がっている様子に気づいたYU奏は休憩を提案した。

 休憩している珠緒たちを見かけたのはロウだった。珠緒が騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏に鍛えられているのは何かあると感じていた。そこで、ストレートに聞いてみることにした。

「おーい、蕨〜」
「あ、ロウ君〜」
「休学明けから、随分鍛えられてるみてえじゃねえか。何かあったのか?」
「それを答えるのはまだ先になる」
珠緒への質問に、YU奏が割って入る。その様子にロウは満足したようだ。
「ま、あんたが鍛えてるんだから、蕨に相当の強さがあるってこったろ?楽しみにしとくぜ」
珠緒という意外な伏兵の存在が本当に楽しみになったロウは、その場を去った。

「ロウ・ロアーズ。柳生第2士団の士団長だったな?」
「はい。とても強いです、ロウ君は」
「・・・ロウ・ロアーズに少しバックドラフトの修練に付き合ってもらうのもいいかもしれない」
「ロウ君にですか?ロウ君には、私がちゃんとバックドラフトを扱えるようになった時に見せてあげたい気もします」
「残り2色のバックドラフトの特性見極めを私が続けることはもちろんできる。ただ、ロウ・ロアーズならスピード系の技を持つ。青いバックドラフトの力と想定される防御や受け流しの力を覚醒させるのに良い修練相手に思えた」
「・・・YU奏さんに残り2色も見極めて欲しいです。YU奏さんのおかげで私のバックドラフトがあるんです」
「分かった。バックドラフトの特性見極めができ、珠緒が完全にバックドラフトを扱えるよう修練をしよう」
「はい!」

 休憩が終わると、次は青いバックドラフトの修練に入った。
赤いバックドラフトの時の要領で、3色のバックドラフトから青いバックドラフトに絞り込む。
YU奏が珠緒に攻撃を仕掛ける。今度は手数を重視したスピード型の攻撃である。
最初は手数に押されていた珠緒だったが、だんだん慣れてきたのだろう。今はうまく防御と受け流しを行えているようだ。
「珠緒、赤いバックドラフトも使って攻撃に転じるんだ」
「はい!」
赤いバックドラフトも併用しようと、バックドラフトの発現具合へ少しだけ気を取られた珠緒はYU奏の攻撃に対応することができなくなり、ダメージを受けた。
「すいません。もう1回、お願いします」
結局、この日は赤いバックドラフトと青いバックドラフトの修練で終わったのだった。

 赤と青、2色のバックドラフトの修練がさらに数日続いた。その結果、2色のバックドラフトを同時に扱うことができるようになり始めた。
「いいぞ、珠緒!赤と青は段々使えるようになってきている」
珠緒は赤と青の併用で、YU奏の攻撃を対応しきった後、今度は自分から攻撃に入った。
ここまでの修練で、バックドラフトの出し方・単色への絞り方・2色を同時に扱う方法はだいぶ身についている。3色目である白いバックドラフトも扱えるはずだ、という考えがあったからだ。
赤と青のバックドラフト併用から白いバックドラフトへ切り替える珠緒。
「!?白いバックドラフト!?」
YU奏は虚を突かれたが、珠緒の成長の証でもある。白いバックドラフトが発現して以後、珠緒の攻撃に反応が遅れる。突然死角から攻撃が来るのはこうまで連続するものだろうか。ハッと思いつくYU奏。
「これが白いバックドラフトの特性か!?」
死角からの攻撃や思いもよらぬ虚撃(フェイント)の攻撃。そういう攻撃を強化するということなのだろうとYU奏は理解した。
そもそも、珠緒が白いバックドラフトのみを発現した自体、意表をつくものであった。
「YU奏さん、もっと行きますよ!」
その言葉通り、白いバックドラフトも併用した2色攻撃を含め、珠緒の攻撃パターンは格段に増えた。それはトリコロール・リュミエールを成す3色のバックドラフトを完全に扱える寸前まで辿り着いたということだ。後は3色のバックドラフトの特性を全て同時に生かすようにバックドラフトを扱うことができれば、珠緒は自分のバックドラフトを完璧にものにしたと言える。
 珠緒の様々な攻撃が繰り出される中、珠緒の練習剣(レイルエール)が折れてしまった。これでは修練を続けられない。
「剣が・・・折れちゃった・・・」
「珠緒のバックドラフトに剣、そしてミスリニウムが耐えられなかったのだろう」
YU奏に言われ、珠緒は剣と剣に使われているミスリニウムを見てみた。
「こんなにボロボロに・・・」
本来なら練習剣(レイルエール)が支給されてから、修練再開ということになる。白騎士は学園(キャメロット)から練習用の武器を支給されているからだ。だが、YU奏はあることを実行に移した。

「珠緒、今日の修練はこれで終わりにしよう」
「でも・・・」
「練習剣(レイルエール)では珠緒のバックドラフトには耐えられない、と言ったら?」
「そんな・・・それじゃ、私はどうすれば?」
「明日の修練は休みにして、私があるところへ連れて行く。そこで、主を待つ武器に珠緒を引き合わせる」
「まさか・・・専用武器(オリジナル)!?」
バックドラフトを使えるようになっただけでもYU奏のおかげなのに、今度は専用武器(オリジナル)までとは完全に珠緒の予想外だった。
「あの武器は珠緒しか扱えないだろう。練習剣(レイルエール)がこうなったのはある意味幸運、いや必然かもしれない」
YU奏にそこまで言わしめるという武器、それが明日目の前に現れるという。色々な気持ちが混ざりながら、今日の修練を終了することを珠緒は受け入れた。

 翌日。珠緒とYU奏はある武器工房に現れた。
YU奏の姿を見つけ、工房の職人が対応する。
「YU奏さん!今日はどんな御用事で?」
「主のいなかった、あの武器にな」
「! わかりました。おやっさんを呼んできます」
「職人さん達と仲がいいんですね」
「普通、専用武器(オリジナル)を手に入れるには職人とコミュニケーションが必要だからな」
YU奏が普通のことだとばかりに珠緒に返答し、さらに続ける。
「今回ここに来た目的の武器は単なる専用武器(オリジナル)とは違う。どう違うかは後でわかる」
そこへ職人のおやっさんが現れた。話に上がっている武器を、YU奏に渡した。

「これは私の知り合いの職人、この工房の長が作ったものだ。しかし、今まで剣に認められる主が現れなかった」
そう言って、YU奏は珠緒の前に剣を差し出す。レイピアのような刺突系である。
珠緒は、剣を手に取った。その瞬間、剣が三つ又の矛のような姿に変わった。
「剣が三つ又の矛に!?」
「どうやら、剣が珠緒を主と認めたな。私の予想通りだ」
「予想通り?」
「ああ。長から、『三つ又の矛の姿を引き出すことができる者が、この武器の力の全てを引き出せる者だ』と聞いている。三つ又の矛のを成す部分にアダマンタイールが使われており、普通の専用武器(オリジナル)よりも使い手を厳格に選ぶのだそうだ」

 アダマンタイールは液体のアダマンタイトである。希少なミスリニウムは使用者のバックドラフトを変化させるオリハルコンの特性を持つのだが、さらに希少なアダマンタイールはバックドラフトの状態を維持する特性がある。つまり真逆の性質である。また、アダマンタイールは、オリハルコンよりも非常に適合者を選ぶ。それ以上のことは詳しくはまだ知られていない。
 バックドラフトは円卓騎士章(インシグマ)保持者でも1種類しか持っていない。それが普通である。だが、珠緒は3色のバックドラフトを持つ。この三つ又の矛であれば、珠緒の3色のバックドラフトを最大限に活用できる。

「これが、私の専用武器(オリジナル)!?でも・・・」
「受け取れない、か?使い手のない武器は意味がない。それに、珠緒と珠緒のバックドラフトは私に答えをくれた。そのお礼なのだ」
「お礼?」
「そうだ。ユノのことは知っているか?」
「シルヴェリアさんやアーシェ姫と共にいることくらいしか」
「ユノは、円卓騎士章(インシグマ)を持つに値するかを見極める判定者の役割をもつアンドロイドだ。アーシェ姫のところにいるユノが現在の最新型なのだが、次世代のユノの話が持ち上がっている。しかし、珠緒に対しては今のユノは正しく判定ができない。珠緒はバックドラフトを3色もつからだ。次世代のユノにどのような機能を盛り込むかに悩んでいたのだが、珠緒のように複数色のバックドラフトを持つものに対する正しい判定を行えるようにすればよいということに思い至った」
「ああ、それで」
珠緒は納得したという表情と声色で反応する。

「今は複数色のバックドラフトを持つのは珠緒だけかもしれない。だが、今後出てくる可能性はあるだろう。ユノが正しく判定できずに、円卓騎士章(インシグマ)を持つべき者に授与されないことは避けなければならない。次世代ユノが完成次第、珠緒にユノをつけたい。正しく判定できるかのテストも兼ねてだが。珠緒には新型ユノをつける価値があると私は判断している」
珠緒はYU奏の自分に対する評価に声が出ない。
「そんなに私を・・・」
ようやく、それを声に出すのが精いっぱいだった。
「専用武器(これ)を使えば、相手が近衛アキトであっても互角以上に闘えるはずだ」
「アキト君と互角以上に!?」
「普通の虚劇(フェイント)、バックドラフトを使う使わないという他に、剣か三つ又の矛か、3色のバックドラフトのどれを使うか?これだけ相手を迷わせられる要素が揃っている。それにユニタリー・フォームは完全無欠ではない。相手が強かったり、それに見合う独自の技を持っている場合に有効だが、武技のレベルがアキト以下の相手にはあまり役に立たない。つまり、珠緒は現時点でアキトを破ることの可能性が一番高い存在、と言っていい」
珠緒はその話を半信半疑で聞いている。
「その反応はもっともなこと。だが、どうするかを決めるのは珠緒自身」
「・・・私、アキト君達と互角以上に闘えるようになりたいです!」
珠緒の意志を確認したYU奏はこの武器を珠緒に渡した。
「これが、今日から珠緒の専用武器(オリジナル)だ。名前はまだついていない」
「何から何まで・・・YU奏さん、ありがとうございます」
珠緒は感謝の気持ちでいっぱいになり、涙声でYU奏に礼を言った。
「私よりも、長に礼を言ってくれ。長がこの武器を作らなければ、こうして渡すことはできなかった」
YU奏の言葉を受け、珠緒は工房の長に感謝の気持ちを目いっぱい伝えた。
武器の使い手が現れたことで、それまで抱えていた荷が下りたとばかりに、喜びと嬉しさが掛け合わされたような幸せな表情を見せる工房の長。
「私、この武器を使わせてもらいます!」
「お前さんなら、大丈夫。使いこなせる!」
長が珠緒に太鼓判を押した。
「はい!」
返事をした珠緒。YU奏と共に、工房を後にしたのであった。

 工房から戻る途中、YU奏が珠緒に言う。
「明日は専用武器(オリジナル)に慣れるのと、白いバックドラフトの修練だ。目途がつけば、3色同時の修練に入る」
「はい!」
珠緒は、YU奏にやる気いっぱいという返事をしてみせる。
そこからは、珠緒とYU奏のデートの時間になった。市街地を遊びまわり、珠緒は特に精神的にリフレッシュしたのであった。

 更に翌日。まずは白いバックドラフトの修練が開始された。
一昨日までの修練と違うことがある。それは珠緒の武器が専用武器(オリジナル)である・その専用武器(オリジナル)は通常のレイピアの形態をしているということだ。
「いきます!」
一昨日までの修練の復習として、青いバックドラフトを使うまでの剣戟が行われる。
まず珠緒が赤いバックドラフトを発しながらYU奏の攻撃を誘う。対するYU奏は珠緒の誘いに乗って攻撃する。

「てぇい!」
赤いバックドラフトによるカウンターの一撃がYU奏に入ったように見えたが、避けられてしまう。さらに、今度は手数重視の攻撃が放たれる。もちろん、青いバックドラフトを使うように珠緒に仕向けているということだ。
珠緒が青いバックドラフトで、防御と受け流しを行っている最中、YU奏が言う。
「珠緒、ここから白いバックドラフトを使って闘え!」
 レイピアの形態と青いバックドラフトの相性が良いのだろう。練習剣(レイルエール)の時よりずっと防御と受け流しがうまく行く。レミリアの疾戟(ウインドシア)を相手にできそうだと珠緒自身が思ってしまう程だ。
 青いバックドラフトは防御と受け流しを強化する特性だ。それだけで攻撃は成り立たない。攻撃に転じるには、まず基本は赤いバックドラフト。だが、それではこの修練の意味はない。
今は受け流しから白いバックドラフトによる死角や意表を突く攻撃へ繋がるようにするしかない。
赤と青のバックドラフト併用と同じ要領で、青と白のバックドラフトを併用する珠緒。
その様子を確認したYU奏はそのまま手数で押す攻撃を続ける。
青いバックドラフトで防御と受け流しながら、白いバックドラフトの特性を生かせる攻撃タイミングを狙っていたが、そのタイミングが来た。
「やあっ!」
受け流したYU奏の攻撃の1つから白いバックドラフトの特性を生かした死角攻撃を放ったのだ。
普通であれば食らうものだが、YU奏はそれを防いで見せた。
「いいぞ、珠緒!。さらに行くぞ!」
 白いバックドラフトの修練が続く。修練の厳しさは随分と早く珠緒の体力を奪ったようだ。かなりキツそうな表情を浮かべる珠緒。
「珠緒、休憩だ。今のままでは修練を続けるには無理だ」
返事の代わりに頷く珠緒。しばらく休憩すると、白いバックドラフトの修練が再開となった。
「白いバックドラフトの修練の結果を見せるんだ!」
珠緒にYU奏の手数を生かすスピード攻撃が放たれる。
それまでの修練の成果が出たのだろう。今までの修練よりスムーズに赤と白、青と白のバックドラフト併用攻撃を放つ珠緒。
珠緒の攻撃を防御してから修練を中断するための一撃が放たれた。
「珠緒、よくやった!」
YU奏が珠緒を褒める。
「2色のバックドラフト併用までものにできたと言っていいだろう。後は、珠緒だけで修練していける。残る3色併用は明日からの修練だな。今日は終わりにしよう、珠緒」
「はい」
珠緒は3色併用について、1つ使えそうなパターンを思いついていた。それが使えるかどうかこれからの修練で試そうと考えたのだった。


 3色のバックドラフト併用の修練が始まった。
まずはYU奏の攻撃を誘う。しかし、今回のYU奏は手数で押してくるような攻撃はしてこない。修練しても、実戦で使えなければ何にもならない。その為、より実戦向きの修練を、ということである。

 青いバックドラフトを使いながら、YU奏に接近する珠緒。自分の剣がYU奏に届く間合いになった瞬間。青いバックドラフトを引っ込め、専用武器(オリジナル)を三つ又の矛に変わらせ、白いバックドラフトに切り替える。
 今までの修練では、専用武器(オリジナル)を三つ又の矛にすることはしていなかった。
青と白のバックドラフトを併用する場合。
剣に近い側に青いバックドラフト、その外側に白いバックドラフト。そういう形での併用をしていた。

「これも、白いバックドラフトを生かすということか」
納得はできたものの、死角からの攻撃や虚撃(フェイント)には今まで以上に注意を払わなければならない。珠緒の専用武器(オリジナル)は三つ又の矛姿を見せており、武器の能力は全開になっていると考えた方が良い為だ。
攻撃は最大の防御とばかりに、白いバックドラフトでの攻撃をさせないようYU奏が一撃を放つ。
が、これは珠緒の狙った囮だった。即座に赤いバックドラフトを発現させ、カウンター型の死角攻撃を放つ。この一撃はわずかではあるが、YU奏を捉えた。
 対アキト戦程ではないが、YU奏もバックドラフトを発動する。珠緒の修練にはずっと剣を使っていたが、バックドラフトを一切発現する必要はなかった。指導の為もあるが、正直珠緒の強さはバックドラフトを発現するに値しなかったのだ。
「私もバックドラフトを使わねばならないな。行くぞ、珠緒!」
バックドラフトありの攻撃がYU奏から放たれる。

 珠緒は実感する。バックドラフトによりYU奏の攻撃の質や攻撃の際の重さが変わったことを。
「これが、バックドラフトを使う相手の力・・・」
「今は単純にバックドラフトを出しているだけだ。だが、私の攻撃の質や攻撃の際の重さが変わったことは分かるはずだ」
 バックドラフトを出していなかったYU奏なら、2色併用までで何とかできるかもしれないという淡い期待もあった。だが、今のYU奏相手にはそんなものは消えている。
「3色併用しか・・・」
珠緒自身は、打てる手はそれだけと分かっている。珠緒の力を本当に認めたYU奏が暗に「3色併用して見せろ」と言っているのも。
ようやく、珠緒の考えを試す時が来たと判断した珠緒はスピード型の連続突きを放つ。
YU奏は防御することも、珠緒の突きに対抗することもできる。今回の選択は後者。
スピード型の突きで珠緒の攻撃を中和し、さらに連続突きで珠緒を攻撃する。
珠緒は即座に青いバックドラフトを発動させて凌ぐ。さらに赤と白のバックドラフトを青いバックドラフトの外側に連ねるイメージで、剣に近い側から青・赤・白のバックドラフトを発現させようとした。しかし、単純にバックドラフトを出す時とは勝手が違う。何せ意識したうえで、3色のバックドラフトを発現する必要があるのだ。
「はぁあ!」
 不完全な3色のバックドラフトの攻撃が放たれるが、バックドラフト状態のYU奏に届くことはない。YU奏が珠緒の攻撃を捌いたからだ。
「珠緒、いいバックドラフトの攻撃だ。バックドラフトを意識的に3色扱う修練がまだまだ必要だが、それでも近いうちに近衛アキトと闘って大丈夫だろう」

 YU奏の言葉を聞いた珠緒は、さらに数日の修練を重ねた。その結果、珠緒の意図した3色のバックドラフト併用の基礎は身に着いた。
「本来なら、学園(キャメロット)に珠緒のプロフィール更新を申請してもいいかもしれないが、武器の項目を更新するだけで色つきになったことを感づかれてしまう。ここはあえてプロフィールの更新はしないでおくのも『あり』だ」
「ロウ君に青いバックドラフトの覚醒を手伝ってもらう案を断ったんだから、アキト君との試合が終わるまでプロフィールは更新しないでおきます」
「よし。それならもうしばらく私と修練だ」
2週間の修練の後、YU奏は珠緒が完全にバックドラフトを自分のものにしたと判断した。
そして・・・


結 非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ) 珠緒対アキト!
 珠緒がライブスフィアでアキトに音声連絡する。
「アキト君。私と決闘(フェーダ)を。私がアキト君を破れる可能性のある存在か確かめて」
「わかった。決闘(フェーダ)の日時はこちらで決めて構わないか?」
「うん」
「細かいことを決めたら、珠緒に連絡する。決闘(フェーダ)、楽しみにしてる」
「待ってるね」
こうして音声連絡は終わった。

「珠緒、ついに近衛アキトへ決闘(フェーダ)を申請したか」
「どこまで通じるか分からないけど、全力でアキト君と決闘(フェーダ)します」
「大丈夫だ。今の珠緒は近衛アキトに勝てる可能性がある」
「YU奏さん・・・」
「珠緒の決闘(フェーダ)、見届けさせてもらう」
「はい!」

 珠緒がしっかりと決闘(フェーダ)に対する気持ちを高めたのを見計らったかのように、アキトから「連絡する」と言っていた件が来た。今度はメールだ。
「5日後、非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)にて。場所は・・・」
その内容について、もう一度アキトと連絡を取る珠緒。
「アキト君、非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)だけど・・・私はYU奏さんに見てもらいたいから来てもらうつもりなの。アキト君がこの決闘(フェーダ)を見せたい人がいたらその人たちに声かけて。私もYU奏さんの他に見てもらいたい人を呼ぶから」
「わかった。ユリナ達に知らせておく」
「うん!」

 2度目の音声連絡が終わったところで、YU奏が珠緒に声をかける。
「珠緒、私の方でこの戦いを見せたい人物に心当たりがある。構わないか?」
「?」
珠緒は誰を呼ぶつもりなのかという疑問をあからさまに浮かべた。
「誰を呼ぶつもりか、とういことならば2人程な。シルヴェリア・レオディールとアーシェ姫だ」
「えぇっ!」
「あの2人に珠緒のバックドラフトを見せる価値がある、と私は考えている。あの2人にはユノがいるからだ。最新世代のユノが完成したら、珠緒につけるつもりだと言ったろう?」
 ユノをつける、ということは円卓騎士章(インシグマ)授与候補として認められたと同義であることは以前YU奏から聞いていた。つまり、この戦いを見せることで、珠緒に今後ユノがつくと示す意味があるということだ。
「シルヴェリアさんとアーシェ姫が私の決闘(フェーダ)を見るのをやめないようにしなくちゃ」
「シルヴェリア・レオディールとアーシェ姫を呼ぶこと自体には反対はないということだな。私の方で手配しておく」
YU奏はシルヴェリアとアーシェ姫にライブスフィアでメールを送った。

「騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏より、非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)に招待す。貴君ら、裁定者ユノと共にある者ならば、この決闘(フェーダ)に刮目せねばならぬ。該当決闘(フェーダ)は近衛アキト、蕨珠緒の両名にて闘うものなり」
 シルヴェリアとアーシェ姫は騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏がこうまで言う決闘(フェーダ)ならば、確かに見ておくべきだろうと判断した。
 ただ、シルヴェリアとアーシェ姫には大きな感じ方の違いがあった。それが、招待の意志を示す文に続いている決闘(フェーダ)に臨む騎士の名前。アキトはともかく、珠緒については違っていた。シルヴェリアは「以前修練したことがあったが、それほどの強さではなかった」と珠緒のことを思い出したこと。アーシェ姫は単なる無名騎士としてしか認識しなかったので、なぜアキトが無名騎士と闘う決闘(フェーダ)の観戦招待を受けたのか疑問を持ったということだ。

 珠緒は5日後の決闘(フェーダ)に向けた修練を行い、自らのピークを5日後になるよう持って行った。すぐに決闘(フェーダ)を行う5日後がやって来た。

 非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)の会場。ここにはある程度の人数の観戦者のみだった。だが後1人、この会場にいる。柳生士団の士団長、柳生十兵衛だ。用事を終えて帰ってきたところに、強い者達が集結しているという「闘いの匂い」を感じて、惹きつけられるように追いかけてきたのだ。
「シルヴェリアの野郎、何しにこんなとこへ?」
観戦者達とはずっと離れた場所にいる十兵衛から、そんな疑問が口に出る。
「アキトの決闘(フェーダ)か。相手は・・・誰だ?ありゃぁ」

アキトの所属するリディアル・エレアノルトの面々、それにユリナとレミリアに仕えているメイドのマリエルとセレーネ。珠緒のバックドラフトを見出し、修練したYU奏。珠緒が自分のバックドラフトを見せたいと考え招いたロウ。YU奏が観戦招待したシルヴェリアとアーシェ姫。また、それぞれの騎士団(ユニオン)の面々もいる。
アキトと珠緒以外を合計すると14人。14人でも観客がこの面子となれば、そんじょそこらの騎士では緊張の度が過ぎてしまうだろう。だが、珠緒もアキトも適度な緊張とリラックスを維持している。

「珠緒、強くなりましたわね」
レミリアが珠緒の様子を見て言った。以前、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)予選の際に闘った時のような雰囲気は感じられない。さらにレミリアが疑問を口にする。
「ですが、珠緒の持っているのは・・・専用武器(オリジナル)ですの?珠緒がバックドラフトを使えるようになったと?」
「さあな。だが、あれはレイピア系の剣か?あの剣の柄、まるで普通の剣だ。レイピアとなれば、刺突速度を妨げないような柄にするか、持ち手を保護するような柄にするはずだ」
天音が違和感を口にする。
「多分、あの剣には何かある。だからこそ、あの柄になっているのでしょう」
「あの剣にある何か?」
ユリナが柄の疑問に対する予想というか、当然想定されることを返答する。それに対して、ミリィがどんなことなのかと問うた。
「きっと、お楽しみってことですよ」
マリエルが緊張感を緩めるようなニュアンスで言い放つ。

「蕨のバックドラフトを生かせるモンだろうさ」
ロウがリディアル・エレアノルトの面々の台詞を聞いてから、呟くように言った。
「確かに、その可能性はありますね」
以前柳生士団の第3士団長を務めたこともあるセレーネが同意する。
シルヴェリアの騎士団(ユニオン)とアーシェ姫の騎士団(ユニオン)はそれぞれ、静かに決闘(フェーダ)の開始を待っている。
いよいよ開始時刻が近づく。珠緒とアキトが会場の中央で相対する。珠緒もアキトも集中力を高める。そして、決闘(フェーダ)の開始時刻になった。

「掲げる剣に、誇りと名誉、騎士の矜持を―――」
「交える刃に、畏怖と礼節、己が全霊を―――」
前半をアキトが、後半を珠緒が宣誓し、さらに続く。
「決闘(フェーダ)、開戦!」
2人の声が重なり、ついに闘いの火蓋が切って落とされた。
修練の成果で珠緒の技量が上がっているとはいえ、まだアキトと互角という程ではない。
「立ち上がりは静かというか、ごく普通だな」
「何だ、これは。こんな決闘(もの)を見なければならないのか?」
シルヴェリアは普通に見ているが、アーシェ姫はひどく不機嫌に変わっている。
だが、アーシェ姫の不機嫌な時間は長くは続かなかった。

 頃合を見計らって、珠緒が赤いバックドラフトを発現する。
「ここ!」
アキトの攻撃に合わせた赤いバックドラフトによるカウンター。見事にヒットして、アキトのライブスフィアが体力値5%減を告げる。
「バックドラフトを使えるようになっていたのか!専用武器(オリジナル)を使っているから、その可能性があるとは思っていたけど」
バックドラフトの攻撃を食らって、5%減で済んだのは幸運だとアキトは思った。間合いを取って、仕切り直す。
「アキトを相手に先制するとは。やるな」
珠緒の決闘(フェーダ)を見て、シルヴェリアが評価した。
「私が見ているんだ、このくらい出来て当然だ」
反対に、アーシェ姫が辛口の言葉を告げた瞬間。
YU奏以外の観戦者の誰もが信じられなかった光景が展開される。
珠緒が2色目のバックドラフトを出して見せたのだ。
これにはさすがに珠緒の相手であるアキトも驚きを隠せない。
「アキトの相手、面白ぇ!今は弱っちい感じがするが、これから強くなるぜ。あんな奴がいんのかよ!」
無類とも言われることすらある、十兵衛の闘い好き。
「こんな面白ぇ決闘(フェーダ)、止めるなんぞ無粋だな
しかし、様子を目にした結果、引き続き決闘(フェーダ)を観戦することにした。

「赤いバックドラフトに青いバックドラフトか。とんでもないバックドラフト(もん)を持ってるなっ!」
そう言いながら、攻撃を仕掛けるアキト。珠緒はアキトの攻撃を全て防御・受け流す。
「てええい!」
そして赤いバックドラフトを併用し気合いの乗った一撃をアキトへ放つ珠緒。
「っ!あぶねっ!」
辛うじて防ぐアキト。

「な、なんですの!?珠緒のバックドラフトは!?」
「2色のバックドラフトですか、これはお嬢様では太刀打ちするのが大変そうですね」
レミリアの驚きに、セレーネのSっ気炸裂のツッコみが入る。
「なるほど。これがYU奏が観戦招待した理由か。確かに、これなら観戦に値する」
先程まで不機嫌だったのはどこへやら、アーシェ姫はしっかりとこの決闘(フェーダ)を見る気になったようだ。

「まだまだ!」
珠緒は攻撃をさらに続ける。珠緒の剣技はアキトと比べれば見劣りするが、それを充分打ち消しているのは珠緒のバックドラフトだ。
対するアキトは2色のバックドラフトを持つ相手と闘うこと自体が初めてで、攻めあぐねている感は否めない。

「珠緒、これならどうだ!」
アキトから虚撃(フェイント)を交えた攻撃が放たれたように見えた。見えた、というのはアキトの攻撃がされる前に、珠緒の攻撃がアキトにヒットしたからだ。
アキトのライブスフィアが体力値10%の減少を告げる。
「10%も減ったのか・・・なるほど、それも珠緒のバックドラフトか」
「うん。この白いバックドラフトもね」
珠緒の剣には赤と青のバックドラフトではなく、白いバックドラフトが発現していた。

「白いバックドラフトですか、あれは厄介そうですね〜」
マリエルがのんきに白いバックドラフトに対する感想を呟く。
「赤・青・白。なるほど、トリコロール・リュミエールというわけね。赤はカウンター、青は防御や受け流しみたい。だとすると、あの白いバックドラフトは・・・?
ユリナは珠緒のバックドラフトの特性を赤と青については把握しているが、白いバックドラフトの特性は分からないとこぼす。
「もうしばらく様子を見ないと正しいかわかりませんが、私の思い当っているもの通りだとすると、珠緒はかなりの強敵です。珠緒を相手にすること自体で、ユニタリー・フォームは封じられていますし」
天音がユリナの言葉に続けた。
「お嬢様にはほぼ勝てない相手ですね、珠緒様は」
セレーネの容赦ない一言にレミリアは凹んだ。
「セレーネ、少しは私のことを」
レミリアがそこまで言った時、アキトがバックドラフトを発現した。
「3色のバックドラフト、確かに闘い甲斐がある。行くぞ!」
アキトのバックドラフトの特性は、「相手に対抗する」特性だ。
相手が柳生十兵衛のようなパワータイプであればパワーを増し、ロウのようなスピード型であれば、スピードタイプになる。のだが、そのどちらでもない珠緒には、アキトのバックドラフトも相性が悪い。

 珠緒の攻撃を仕掛けて攻め続ける。しかし、ところどころアキトの攻撃がヒットすることで、珠緒の体力値を減らしてはいる。現在はアキトが20%減、珠緒が25%減だ。元のパワーや剣の重さといったことにより、攻撃力が大きいのはアキト。珠緒がチマチマ削っても、アキトの攻撃が1回当たれば、帳尻合わせになるかもしくはこちらの残り体力値の方が減ってしまう。
このままでは分が悪いことを認識している珠緒は、アキトに必殺技クラスの攻撃をさせるための賭けに出る。
大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)の際、レミリアが見せた一撃必殺系のスタイルをまねたのだ。もちろん、赤と青のバックドラフトを併用して。
「アキト君、もっと強く攻撃して構わないよ!」

「珠緒、私のスタイルで何をするつもりですの?」
真似されたレミリアは怒りと不思議さの入り混じった口調で、そう言った。
珠緒の挑発にアキトが乗る。大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)のシルヴェリア戦で習得した五条纏う閃光(ブリューナグ)を放つ。珠緒の3色目のバックドラフトの白いバックドラフトが発動しようと、五条纏う閃光(ブリューナグ)が当たれば珠緒を倒せる。
「五条纏う閃光(ブリューナグ)!」
挑発を受けた時は確かに赤と青のバックドラフトだった。それが、今は青のバックドラフトだけだ。青いバックドラフトを発現している珠緒は、5発の攻撃を2発防いだ。もし珠緒の力がアキトくらいにあったなら、青いバックドラフトは全て防いでいたのかもしれない。
珠緒のライブスフィアが、体力値50%減少を告げるのが聞こえる。これで決闘(フェーダ)開始時の体力値から75%減。五条纏う閃光(ブリューナグ)程でないにしても、次に大きな攻撃を食らえば、負けが見えてくる。
しかし、そんなことは気にせずに青いバックドラフト発現状態からさらに赤と白のバックドラフト併用攻撃を仕掛ける。
 五条纏う閃光(ブリューナグ)を仕掛けたアキトは攻撃直後の隙に珠緒からのバックドラフト併用攻撃を受け、ライブスフィアから体力値25%減が告げられる。これで試合開始時から比べると体力値が半分になった。

「このような者がいるとは・・・しかし、まだ何かあるような気がするのは気のせいか?あの剣の柄がレイピアにしては不釣り合いなのが気になる」
シルヴェリアはそう言った。
「なかなか面白いな、ヴァリウス」
アーシェ姫が、執事兼従者とも言うべき騎士団(ユニオン)のメンバーであるヴァリウスに言う。
「はい、アーシェ姫。正直、この決闘(フェーダ)が始まった時は見るに値しないと思いましたが、よもやこのような決闘(フェーダ)になるとは」
「アーサーのYU奏が我々を観戦させるに招待してきた価値はある。3色のバックドラフトなど、世界中の騎士でもあの娘1人だろう」
「は、おそらくそうでしょう」

 珠緒には、アキトの体力の残り半分を削りきる必殺技はない。だが、まだ隠している手はある。それを絡めて、まずはアキトの体力を自分と同じにするしかない。
積極的な攻撃を珠緒が仕掛けるも、アキトはそれを捌ききる。一旦仕切り直し、とばかりに珠緒が離れた瞬間。珠緒の剣の間合いからは明らかに離れているのに、攻撃が飛んでくる。それも白いバックドラフトのおまけ付きだ。
「!?」
アキトはどうにか防ぐ。
この攻撃が出来たこと、それは剣に理由があった。剣が三つ又の矛のような姿に変わり、全長が大きくなっていたのだ。
「やはり、白いバックドラフトは死角や意表を突くという特性か。まさかとは思ったが」
「3色の中でも、特に赤いバックドラフト。あれを必殺技級の攻撃に対応されたら、自分の受けるダメージの方が大きくなりますね」
天音の言葉に、ミリィが続ける。
「あらあら。そうなると、アキトさんは勝つのに苦労しますね〜」
相変わらずマリエルは暢気に言っている。
「おいおい、俺の双ね颱風(タービュランス)みてーなもんかよ」
ロウは珠緒の武器を見て、思わず口にした。

「珠緒の専用武器(オリジナル)、すげえな。でも、その三つ又の矛姿の方はそれほど使ってないだろ?使い慣れてる動きじゃないからな」
「その通りだよ。でも3色のバックドラフトとこの武器の形態の使い分け。これで充分戦えるって私は信じてる」
確かに珠緒の言うことももっともなところはある。普通はバックドラフトのオンオフと虚撃(フェイント)を中心に考えれば事足りる。だが、珠緒に対してはどの色のバックドラフトが使われるのか、剣の形態か三つ又の矛のような形態かということも考えねばならない対象となる。考えねばならない量が倍はあるのだ。
珠緒は引き続き三つ又の矛姿の武器を使う意志を示している。矛の部分に、それぞれ赤・青・白のバックドラフトを発現させているからだ。

「面白いな、蕨は。武器の一部分にそれぞれのバックドラフトを割り当てるなど」
「珠緒、まだ未熟。でもアキトに対抗できてる」
デュラクディールのメンバーがシルヴェリアに答える。
シルヴェリアの騎士団(ユニオン)、デュラクディール。湖面を意味するデュラクと、レオディール家のディールを使った騎士団(ユニオン)名だ。
所属しているのはシルヴェリアとユノのみ。シルヴェリアがあまりに強い為、騎士団(ユニオン)は2名までという非常にイレギュラーなルールを適用されているのだ。
ユノは珠緒の実力を未熟と評価したが、評価したこと自体珠緒を認めたということだ。
「ユノが珠緒を認めたとなると、私も気を引き締めねばならないな」

 珠緒の攻撃が始まった。3色のバックドラフトが常に発現し、武器上に維持されている。剣の時と違い、バックドラフトの使い分けはしやすいようだ。ただ、欠点もある。懐に入られたら、剣よりも弱い。
 珠緒の攻撃に対応しつつ、アキトは懐へ入ろうとする。オーソドックスな対応ではあるが、剣と三つ又の矛、2つの姿を持つ武器にはそれは叶わない。
それだけではなく、3色のバックドラフト攻撃を混ぜられては正面切って懐に入るのは不可能だ。死角からというのも、白いバックドラフトを持つ珠緒には無理に近いだろう。
「さて、どう出る?近衛アキト」
YU奏がアキトの出方に注目する。

 自らのバックドラフトの強さの段階(ギア)を上げ、1点を突く攻撃を行うアキト。
柳生十兵衛戦の時のようなパワータイプの攻撃にしている。青いバックドラフトと赤いバックドラフトの併用に対抗する為だ。白いバックドラフトのことは、今は無視している。この決闘(フェーダ)での珠緒からの攻撃を受けての体力値減少からすると、残り体力値を一気に持って行かれる可能性は低いと判断したのだ。
青いバックドラフトを全開にして、防御・受け流す珠緒。アキトの攻撃の重さから、赤いバックドラフト対策であると感じとり、白いバックドラフトでの一撃を入れる。
この攻撃でアキトの体力値が5%減少。アキトの体力値は開始時から55%減、珠緒の体力値は75%減。まだ開きがある。このまま闘い続けると、自分の方が負けると珠緒は感じ、何か手はないのかと考える珠緒。しかし、何も浮かばない。
対してアキトは何か手ごたえというか、何かを掴んだ様子の表情だ。

「珠緒のトリコロール・リュミエール、破ってみせる!」
アキトが珠緒に宣言する。当然、この宣言は観戦者達をアキトに注目させた。
「行くぞ、珠緒!」
アキトは手数勝負のスピード型攻撃を仕掛けている。それはロウの双ね颱風(タービュランス)を思わせるが、一撃が遥かに今までより重くなっている。

「珠緒にバックドラフトを切り替えるタイミングを与えない作戦ね」
なるほどと納得しながらユリナが言う。
「珠緒の様子からすると、手数で押しているだけではなく、一撃一撃がかなり重いようです。柳生十兵衛のようなパワー攻撃を、ロウの双ね颱風(タービュランス)のような速度で行っているのでしょう。あれでは、自分の体力値を減らしてしまう可能性もあります。それは分かったうえで、アキトも仕掛けているはずです」
天音の言葉に、リディアル・エレアノルトの者達はどれだけとんでもないことなのかと舌を巻いた。

「青いバックドラフトを全開にしてなかったら、多分あっという間に終わってた。でもこのままでも体力値を削られて終わっちゃう。それなら!」
強引に前へ出て、アキトに接近する。体力値を削られていくが、それでも何とか残っている。珠緒の体力値は残り10%。危険域に入ったとライブスフィアの音声警告が出る。
一方、アキトもかなり無茶な攻撃に体が悲鳴を上げており、体力値の減少が起きていた。
珠緒に比べれば残りは多いが、それでも残り15%。
矛の攻撃範囲に入ったが、その段階では珠緒の攻撃は出ていない。さらに近づいて、剣での攻撃範囲でようやく珠緒が攻撃する。
 矛のそれぞれに維持している3色のバックドラフトを元のレイピアのような剣に戻す時に意図的に混ぜ合わせ、全ての色のバックドラフトの特性を持つ特別な一撃にしようと考えていたのだ。
 三つ又の矛から剣の姿に戻しながら、全ての色のバックドラフトを融合しようとする珠緒。その様子に本能的に危険を感じるアキトだが、今行っている攻撃を止めるには攻撃は重過ぎ、速度は出すぎている。今この瞬間が、珠緒が勝つ唯一の瞬間。それを2人とも感じ取っていた。

「この、一撃に、わたしの、すべ、てを!」
体力値が間もなくゼロに近づこうとしており、息の上がる珠緒が最後の攻撃を放つ!
剣を覆う融合バックドラフト。見事にアキトを捉えるが、珠緒は体力を削りきられた。
「残り体力値計測中・・・」
全精力で攻撃を行い、倒れこむ珠緒。
アキトのライブスフィアから聞こえる音声。次に音声が聞こえた時、この試合に勝者が生まれるのか、引き分けなのかを告げる。
「近衛アキト、体力値ゼロ。よって、この試合引き分けです」
この様子に、観戦者達は驚いた。
「アキトが引き分けとは。蕨、大したモンだぜ」
ロウが珠緒を褒める言葉を呟く。

「引き分けと言っても、負けた気分だ。珠緒がこれほど強いとは」
「私がもう少し強かったら、アキト君に勝てたってことだね」
アキトは苦笑しながら、珠緒に手を差し伸べた。
「立てるか?珠緒」
アキトの手を取り、立ち上がる珠緒。
そこへYU奏がやって来た。

「珠緒、よく戦った。近衛アキトを相手に引き分けるとは」
「YU奏さん・・・」
「近衛アキト。お前の父、近衛シュンエイの使うユニタリー・フォームを私は体験している。お前のユニタリー・フォームはまだまだだ。シュンエイの使うユニタリー・フォームは本当に隙がない」
「はい!もっともっと修練して、親父を超えるユニタリー・フォームを身に付けます」
「大きく出たな。だが、そのくらいの方がいい。我が騎士団(ユニオン)アーサーの次世代候補として認めるのだからな」
「!!!」
「YU奏さん、前アキト君と非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)した時のアレ、本気だったんですね!」
「俺はユリナ姫の騎士団(ユニオン)、リディアル・エレアノルトでずっとユリナ姫を守っていく、そう決めてる。だから、アーサーに所属するつもりはない。それだけ評価してもらえるのは嬉しいやらびっくりやらだけど」

「アーシェ姫!シルヴェリア・レオディール!見ての通り、珠緒の強さは分かってもらえただろう。それにこのバックドラフトのこともある。次世代のユノが完成次第、珠緒にユノをつけることを伝えておく!」

 YU奏の言葉に、デュラクディールのユノとアーシェ姫の騎士団(ユニオン)にいるユノ。2人のユノが特に反応した。ユノは見た目と決闘(フェーダ)に用いる武器が大鎌であることは同じだが、性格は違う。
「ユノ、YU奏の言葉に同意」
デュラクディールのユノは賛成の反応。
「確かに3色のバックドラフトとアキトを相手に引き分けは大したもの。でも円卓騎士章(インシグマ)候補まではやりすぎ」
アーシェ姫の騎士団(ユニオン)にいるユノは反対の反応。
「良いではないか。こんな面白い決闘(フェーダ)が見れたのだ。蕨珠緒、覚えておこう」
アーシェ姫は珠緒へ評価が決闘(フェーダ)前に比べると、まるで違う。それだけ珠緒を認めたと言えるだろう。
「蕨に負けないよう修練しなければ」
シルヴェリアはアキトとは違うタイプの面白い騎士が現れたことを本当に喜んでいた。珠緒を相手に決闘(フェーダ)をしたいと思ったのだった。

「蕨、すげえ闘いを見せてくれやがって!」
「ロウ君・・・」
「ホンっと、すげー闘いだったぜ!見てるだけなのに、こんな面白ぇ決闘(フェーダ)、そうそうないぜ」
珠緒でもロウでもない第3の声は柳生十兵衛だった。
「姉御!いつから!?」
「この決闘(フェーダ)が始まる直前くらいに戻ってきてな。何か、強そうな連中が固まってる匂いがしてな。で、来てみたってわけだ。アキトが闘う程の決闘(フェーダ)でなけりゃ、ぶっ壊してやろうと思ってた。が、あの戦いぶりだ。アキトよりも相手の方が大丈夫なのか、って見入っちまった。おい、お前珠緒とか言うんだろ?」
「はい」
「覚えとくぜ!いつか決闘(や)りあおうぜ!」
「はい!」
今度は力強く返事をする珠緒。

 YU奏が声をかける。
「珠緒、共に過ごせて楽しかった。それに次世代ユノのことに関する答えももらえた。ありがとう」
「YU奏さん、私も臨死体験料理(アルティメット)の真実が分かって・・・バックドラフトも使えるようになって、専用武器(オリジナル)まで・・・ありがとうございますっ!」
「この先、修練を続けてもっと強くなるんだ。私が珠緒を所属させるのが当然、というくらいに」
頷いて見せる珠緒。少しだけ涙がこぼれている。
「では、またな。珠緒」
YU奏はそう言うと、会場を出て帰って行った。

 アキトとロウは臨死体験料理(アルティメット)の真実とは何だろうと首を傾げあった。
珠緒が十兵衛に声をかける。
「十兵衛さん、もしよければ私の料理食べてください」
「お、いいのか!?助かるぜ!」
「姉御!蕨の料理は」
「十兵衛さん、珠緒の料理は・・・やめた方がいい」
「あん!?珠緒(こいつ)の料理は美味いって、あたしの勘が言ってんだ!文句は言わせねぇ!」
珠緒の申し出を受け入れた十兵衛を止めようとするロウとアキトだが、嗜められてしまった。
これ以上止めたら、ロウとアキトの身の方が危なくなる。
「分かった、分かった。姉御、倒れても知らねえからな」
仕方なく十兵衛の判断を受け入れることにしたロウ。
アキトの方は、ちょうど良いタイミングでユリナがアキトを呼んだ。

「アキト〜」
ユリナ達がアキトの元にやって来る。
「アキト、随分と無茶をしたな」
「珠緒の3色のバックドラフトを相手に、よく引き分けましたわ」
「引き分けになったけど、負けた気分だ」
天音とレミリアの言葉に返すアキト。
「さすがお嬢様、アキト様の傷を抉るとは。人のことを察せないのはもはや天性のレベルですね」
「セレーネ〜!」
レミリアはセレーネにいじられている。
「お兄様、大丈夫ですか?」
ミリィがアキトを気遣う。
「大丈夫だ。ありがとう、ミリィ」
返事をしながら、アキトは頭を撫でた。ミリィは喜んでいる。
「アキト、お疲れ様。でも、とんでもない強敵が現れたわね」
「珠緒があそこまで強いとは思わなかった。相手を甘く見ていた証拠だ。これからはどんな相手と当たっても全力で気を抜かずに闘う」
「ええ、お願いね」
ユリナはアキトを労いながらも、卒業とその先のことを意識していた。
「今夜はアキトのお疲れ様会するわよ!マリエル、準備をお願い!」
ユリナの一
2013/08/15
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (12:06 am)
あらすじ
とある湖。この湖に光牙達以外にも向かう者達がいる。この湖には一体何が?


序 湖
 ユナの星読みの力で、ある湖に向かうことになった光牙達。
「この星読みが意味することって・・・一体?」
「でも、ユナの星読みが『その湖へ行け』って出てるんだろ?なら行こうぜ」
ユナの疑問に対する答えにはならない言葉を返す光牙。
「・・・そうね、行ってみれば分かるかもしれないわね」
翌朝、光牙達はユナを頼りに湖へ向かった。

 その頃、氷河もある湖を目指していた。
バレエなどで使われる白鳥の湖の旋律が一瞬頭に浮かんでしまい、少し苦笑しながら頭を振った。
「どうやら、ここからそれほど遠くはないようだ。それに今まで感じたことのない小宇宙(コスモ)の持ち主がいるようだな」
氷河は湖を探し、さらに歩を進めた。
 氷河の言う、感じたことのない小宇宙(コスモ)の持ち主。琴座(ライラ)のアリアは既に湖に辿りついていた。
「ここは・・・いや、ここがアポロンの竪琴!」

 琴座(ライラ)のアリア。竪琴奏者になることが叶わなかった父、人工言語学者で特にソルレソルについて調べていた母を両親に持つ。
そんな環境の為、竪琴を弾くこと、ソルレソルを身に付けることも、さも普通のことである家庭環境で幼少期を過ごしていた。
両親はアリアが7歳になる直前、離婚する。2人は親権を争ったが2人だけでは決着が付かなかった。
最後の手段ともいえる裁判。裁判所の判断で母親に親権が決定し引き取られるも、父は幾度となくアリアの親権を求め裁判を繰り返した。
その繰り返される親権争いを嫌い、アリアはとある山の中に家出する。子供が1人で山に入り、彷徨い歩けば遭難するのは誰でも想像がつく。
しかし非常に幸運なことに・・・あえて孤立した環境に身を置いている独り者の家に辿り着いた。
何があったのかを話すと、その独り者はアリアを黙って受け入れた。
その独り者とアリアの日々が始まり、3年半。独り者に死が訪れた。残ったアリアはその家にそのまま残り、生活を続けた。独り者がアリアにプレゼントした竪琴を練習し、うまく弾けるようになる・ソルレソルを身に付けようとする生活を。
 アリアがこの家に来て7年近くが経とうとする頃。もらった竪琴で最高の曲を奏でることができるようになった。
その数日後。琴座(ライラ)の聖衣がアリアの前に飛来し、装着。アリアが聖闘士として戦うことを琴座(ライラ)の聖衣に返答し、戦いの日々が始まった。

 かつて湖だったのだろう、竪琴を象るような形の底に干上がった跡が残っている。
さらに竪琴の弦のように7本の樹が倒れていた跡もある。樹の跡の方が干上がった跡に比べると新しい。
「琴座(ライラ)、勝負!」
ハーモニカのエトがアリアに戦いを挑む。
「今までの戦いで、聖衣が随分と痛んでいるようだな。この戦いで散れ!」
「負けるわけにはいかない」
昴が蟹座(キャンサー)の黄金聖衣に黄金聖闘士候補として認められ、黄泉平坂で神々の音叉を手に入れることができたものの・・・音叉を鳴らしただけでは、パラサイトの時間停止を打ち破るソルレソルの「ミ」の効力が全世界に広がることはなかった。
その後アリアが旅を続けた結果、「アポロンの竪琴」が浮上してきた。アポロンの竪琴がどんなものなのかまでは分からなかったが、この場へ来て意味が分かった。
この湖の跡が、探していた「アポロンの竪琴」なのだと。


破 湖岸の闘い
「エト、退け!」
ハイペリオンが現れ、エトに撤退を命じる。
「ハイペリオン様!琴座(ライラ)は私の獲物」
「今の状況を分かっているのか、琴座(ライラ)を絶対に殺さねばならんのだぞ」
「し、しかし・・・」

「俺の相手は誰だ?」
そこへ新たな声がする。エトは撤退せず、その場に留まっている。琴座(ライラ)との勝負にこだわりがある故だ。
現れた声の主。それは聖闘士であった。
「その聖衣は・・・キ、白鳥座(キグナス)!伝説の聖闘士、氷河か!」
エトは氷河の出現に驚きを隠せない。
「氷河、伝説の聖闘士の1人か!」
「我が師カミュ直伝の氷の闘技を見せてやろう」
氷河の小宇宙(コスモ)が燃える。白鳥の舞から先手の一撃が放たれる。
「ダイアモンドダストーっ!」
「この程度の凍気!」
天地崩滅斬を一閃し、粉雪を払うかの如くものともしないハイペリオン。
「伝説の聖闘士の1人だけある。これほどの小宇宙(コスモ)とはな」
ハイペリオンが氷河の実力を認める。その氷河は白銀聖衣を見る。
「その聖衣は琴座(ライラ)・・・オルフェの後、誰も纏えるものがいなかったという話だが」
氷河の言葉を遮り、アリアが言う。
「話は後だ、今は・・・」
「ああ」
アリアの戦うことが先決、という言葉の暗黙の意味に 氷河は同調する。

 氷河対ハイペリオンの闘いが始まった。
ダイアモンドダストやホーロドニースメルチなどを駆使するも、ハイペリオンを上回ることができない氷河。
アリアが氷河の加勢に動こうとしたその時。エトがアリアの前に立ちふさがる。
「ハイペリオン様、申し訳ありません。やはりこの場で琴座(ライラ)を、私が倒します!打ち取れねば、わが命を差し出しましょう!」
「そこまで言うなら・・・エト、琴座(ライラ)を倒せ!」
ハイペリオンの許可が出たことで、エトの小宇宙(コスモ)が増大していく。
「ハーモニカ オーディエンスブレイカーのエト、この場で決着をつける!」
アリアも小宇宙(コスモ)を燃やす。アリア対エトの戦いも始まった。

 氷河対ハイペリオン・アリア対エトの戦いが始まり、時間が経った頃。
光牙達がアポロンの竪琴に辿り着き、2つの戦いを目撃する。
「闘ってる聖闘士は誰だ?」
特に琴座(ライラ)の聖闘士を見て、光牙達は驚きを隠せなかった。
「アリア!」光牙が真っ先に口にしたその名。マルスとの戦いの最中で死んだアリアのことを言っているのは光牙達の誰もがわかっていた。
「アリアに似てるやつはともかく、あと1人は誰だ?」
蒼摩がアリア以外のことを尋ねる。
「あいつ・・・聖域(サンクチュアリ)で会ったことがあるぞ」
光牙が思い出す。
「あの剣の傷・・・玄武を殺した天地崩滅斬か!」
「おそらくあいつが本当の持ち主なんだと思う」
栄斗の言葉に龍峰が反応する。

 2つの闘いのうち、アリア対エトの戦いは予想よりあっさりとした結末を迎えることになった。
「G線上のアリアは通じないぞ!」
「確かに得意技の1つではある。しかし、あれが必殺技とは言っていない」
「!?」
「ストリンガーカノン!」
7本の弦から放たれる7つの音階すべてに最大の攻撃力を付加し、7色の軌跡を描いた音階が敵へ1点集中する。それは「主砲(カノン)」と呼ぶにふさわしい威力を見せる。
エトのクロノテクターを全身粉々にし、エトを倒してみせるアリア。
「エト、平和な時に出会っていれば・・・」
そんな思いを吐露しながらも、片膝をつく。
「大丈夫か!」
光牙達が駆け寄る。
「大丈夫だ・・・それよりハイペリオンを何とか」
何とかしないと、言おうとしたのだろう。しかし、ストリンガーカノンを放った小宇宙(コスモ)の使い方の為か、少しばかり気を失ったようだ。
「気を失っただけみたいだね、目が覚めれば大丈夫」
龍峰がアリアの様子を判断した。

「ダイアモンドダストーっ!」
氷河の声が聞こえてくる。
「ハイペリオンと戦っているのは・・・伝説の聖闘士の一人、白鳥座(キグナス)の氷河!」
技名を聞いて、龍峰が思い当ったとばかりに氷河の名を口に出す。
「伝説の聖闘士?星矢と共に戦ったっていう?」
「うん。氷の闘技の聖闘士、白鳥座(キグナス)氷河。その師匠である、水瓶座(アクエリアス)のカミュは水と氷の魔術師と言われてた。その氷の闘技を受け継いだ今・・・氷の闘技で氷河を超える者はいないだろうね
「伝説の聖闘士の1人だとしても、戦況は良くないみたいだな」
栄斗が氷河に加勢しようとする意志を見せる。
「ハイペリオンを倒せば、あいつらに相当ダメージを与えられるぜ」
「加勢したいのは山々だけど・・・中途半端な加勢は却って邪魔になる」
蒼摩が栄斗に賛同するも、龍峰が制止する。
「僕に考えがある。それができれば、少しはハイペリオンとの戦いが有利になるかもしれない。あの2人に距離を取らせることができればいいんだけど・・・」
「氷河にその考えを伝えたい、ってことか?龍峰」
「うん」
「分かった。ペガサス彗星拳!」
光牙の彗星拳が氷河とハイペリオンの間に炸裂し、仕切り直しさせる。
「ペガサスか、邪魔をするな!」
天地崩滅斬を光牙に向けて、振り下ろそうとするハイペリオン。しかし、ハイペリオン自身が思っていたよりずっとのろく振り下ろされた。
「少しは効いたようだな」
「ふん、今までの氷河の攻撃の蓄積の結果か。お前の力ではない」
その言葉と共に天地崩滅斬を振り下ろす。
光牙達はハイペリオンの攻撃をよけるとともに氷河のもとに集う。
その途中、アリアが目覚めていた。


急 デシールタと「ミ」
「氷河、手短に言います。三位一体攻撃なら」
「鷲座(アクィラ)と琴座(ライラ)がいるから、か?」
「はい。禁じ手の威力には及ばないと思いますが、ハイペリオンに立ち向かえる可能性は十分あります。うまくいけば天地崩滅斬を封印できるかも」
「ユナ、それと・・・」
「私はアリア。白銀聖闘士琴座(ライラ)のアリアだ」
氷河への話を聞いていたユナとアリアは頷く。
「ユナ、アリア!3人同時に仕掛けるぞ!」
アテナエクスクラメーションに倣い、3人同時攻撃を仕掛ける。
「オーロラエクスキューション!」
「アクィラ・シャイニング・ブラスター!」
「ストリンガーカノン!」
黄金聖闘士3人の同時攻撃に比べれば及ばないが、それでも個々に攻撃するよりもずっと威力がある。
「3人同時攻撃か・・・アテナエクスクラメーションの真似事で勝てると思ったか!ビッグバン並の威力と言われるアテナエクスクラメーションと言えど、天地崩滅斬には効かぬ!」
「そうでもないさ。白鳥座(キグナス)、琴座(ライラ)、鷲座(アクィラ)の3人が仕掛けているのだからな」冷静な氷河の声がハイペリオンに向かう。
「!!!」
ハイペリオンが焦りの色を見せる。
「狙いはそれか!」策にはまったとばかり、悔しさを顕に吐き捨てる。
今は3人の同時攻撃と天地崩滅斬がぶつかり合っている状態。

「アテナエクスラメーション・デシールタ!」
氷河・ユナ・アリアの3人が放ったアテナエクスクラメーション。防御していた状態から状態を変化させた。正四面体型に・・・さらに天地崩滅斬をその中に取り込んで。
「やった!うまくいった!」
龍峰が喜ぶ。
天地崩滅斬を手放さなければ、自分も封印されかねない威力であることはすぐに分かった。
「おのれ!我が天地崩滅斬をよくも!」
ハイペリオンは怒りを滾らせながら、撤退した。

 ひとまずとはいえ、ハイペリオンを退けたことに束の間の喜びと安堵を覚える面々。
「なるほど、夏の大三角形を成す3人の同時攻撃ってわけか」
光牙は素直に感心している。その光牙に対して龍峰が頷いて見せた。
「だから氷河とユナとアリアを選んだのか」
氷河・ユナ・アリアの3人による同時攻撃だったことにも納得した表情を見せる光牙。

「3人同時攻撃か・・・アテナエクスクラメーション。すなわちアテナからは禁じ手としてされているものだな?」
栄斗が龍峰に問う。

「アテナエクスクラメーション?」蒼摩も不思議そうだ。
「そう。アテナエクスクラメーションは黄金聖闘士3人が同時に攻撃する禁じ手。その威力はビッグバンに喩えられるくらいすごいものなんだって」
「もしかして、紫龍から聞いたのか?」蒼摩は龍峰に尋ねる。
「うん。以前ハーデスとの聖戦の時に、冥闘士(スペクター)のふりをした元黄金聖闘士と現役の黄金聖闘士、それぞれの放ったアテナエクスクラメーションで、聖域(サンクチュアリ)が吹き飛びそうになったって。結局、父さんが加勢した現役黄金聖闘士側のアテナエクスクラメーションが勝って、元黄金聖闘士達は2つのアテナエクスクラメーションをもろに食らったって話だった。父さんが加勢するまでは、威力が互角同士で、暴発でもしたら、本当に聖域(サンクチュアリ)が消滅してだろうって、父さんは言ってた」
「禁じ手とも言えるアテナエクスクラメーションの真似事をしたからな、あれだけの結果がないと」
蒼摩が結果オーライとばかりに発言する。
「でも良かったんじゃねえの?ハイペリオンの天地崩滅斬を封じたんだぜ」
昴もそれに乗って発言する。

「むしろ剣を使っていた時の方が良かった、ということにならなければいいが」
氷河の心配の意味が分からない、と光牙達が不思議そうな顔をする。
「剣のように武器を使っている間の方が、自らの最大の力を使わずにいる。そういうヤツもいるということだ」
氷河は誰かのことを想定して言っているようだ。

 アリアが氷河に問う。
「氷河、水と氷の魔術師の闘技を受け継いでいるなら・・・この湖を満たすことはできないか?」
「?どういうことだ?」
「この湖を復活させられれば、芸術の神アポロンの力を借りて、世界中の人々の時間停止を一斉に解除できるだろう」
そして、聖衣の中にしまっておいた神々の音叉を見せる。
「これは神々の音叉。芸術の神アポロンが使う竪琴の調律に使われた音叉だ。琴座(ライラ)の聖衣が、この音叉にソルレソルの『ミ』をぶつけて拡散させれば、世界中の人々の時間停止を解除できると教えてくれた。手に入れてすぐに試したが、効果がなかった。さらに旅を続けた結果、『アポロンの竪琴』が鍵になると知った。アポロンの竪琴が何なのかまでは掴むことはできなかったが、ここへ着いて意味がやっと分かった」

 氷河はアリアの問いに頷いた。力をいかんなく発揮し、湖に水を満たして見せる氷河。
「後は、弦にあたる部分の樹を7本並べる」
「任せろ」栄斗が7本の樹を湖に浮かべて見せる。
すると・・・湖全体から光の柱がまっすぐと高々に伸びる。
アリアの持つ神々の音叉がその光に吸い寄せられ、空中に浮いている。しばらく浮いた後音叉自身が光出す。
その影響はすぐに琴座(ライラ)の聖衣に現れた。琴座(ライラ)の聖衣が新生、という形で。
「まさか、琴座(ライラ)の聖衣が新生するとは」
新生(ニュー)琴座(ライラ)の聖衣により、小宇宙(コスモ)が飛躍的に大きくなるアリア。
「交響(ひび)け、私の小宇宙(コスモ)!ソルレソルの『ミ』よ、今こそ世界中の人々の時間をもとに!」
ミの音、一音だけを音叉に向けて奏でるアリア。音叉は見事に世界中にソルレソルの「ミ」の音を拡散し、時間停止を受けていた人々全てを元に戻した。
「良かった・・・これでパラサイトの時間停止を人々に使うことはできない。もし行えば、アポロンを敵に回すことになる」
「よっしゃー!」
「すげーぜ!あんた!」
蒼摩と昴が大喜びしている。
「ユナ、頼みがある。すまないが、私の曲に合わせてアポロンに捧げる踊りを踊ってもらえないか?」
「私でいいの?」
「問題ない。ユナならアポロンに捧げるにふさわしい踊りを踊れると信じている」

 アリアは頷き、曲を弾き始めた・・・その曲は白鳥の湖であった。
琴座(ライラ)が白鳥の湖を弾き、鷲座(アクィラ)が舞う。
夏の大三角形の星座に関するものが1つになったその曲と舞の間、ほんのわずかながら、心からの安らぎをその場にいた者達にもたらした。
そして、これから迎えるパラサイトとの戦いに勝利することを誓うのであった。


参考資料
聖闘士星矢Ω番外編 ミ・ライ
聖闘士星矢Ω登場人物wiki
ソルレソルwiki
ビックカメラ・コジマ・ソフマップグループ合同2013年夏の星座団扇
2013/05/29
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (11:25 pm)
 児ポ法の提出がされた。
この法案を廃案に追い込めればいいが・・・

 そうでなければ、
「日本のアニメ・漫画は今日(2013/5/29)が命日となった。
ゲーム・コスプレもいずれ命日を迎える」
と思われる。

 この児ポ法の提出を行ったのは、自民・公明・維新。
法案提出者や法案へ賛成してる全ての議員のリストがあれば、転載したい。

 ちょうど、夏の参議院選挙からネットで投票ができるようになる。
この法案に反対の声を上げつつ、
3党の法案提出・比例代表の投票価値があるかを考えねばならない。
法案提出3党以外の議員でも今回の件に賛成する者や党がいれば、
そいつらに対しても同様に考えなければいけない。

 海外のオタク達からもこの法案に対する反対の声を上げてもらい、
外圧にするようなことはできないだろうか?
そういう力も借りないといけないくらい、危険な状況にある。
2012/03/14
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (11:04 pm)
あらすじ
ロックマンが退治したウイルスはいつもと何か違う感じがした。その件は熱斗の祖父、光 正の名前に繋がり、さらに発展して行く。


序 いつもと何か違う?
 珍しく熱斗が宿題で机に向かっている。調べ物でネットにアクセス中だ。
調べ物が見つかったと、即座にその結果へアクセスする。
「熱斗くん、そのファイルは」とロックマンが止めようとするも、間に合わない。
「うわ、何だこりゃ!?」
「まりこ先生も言ってたよね?『ナビが安全か調べてからアクセスしなさい』って」
呆れつつも、ロックバスターを連発して熱斗のアクセスした先にいるウイルスを撃退。安全を確保するロックマン。しかし、このウイルスに違和感を覚えた。
「?何か違うような・・・」何か不安そうな表情を見せるロックマンに熱斗が尋ねる。
「ロックマン、どうした?」
「何でもないよ、熱斗くん。いくら時間がないからってちゃんとボクが調べてからアクセスするんだよ」
「わかったってば」
このウイルスの存在が、熱斗の祖父の名前につながるとは思いもしなかった熱斗であった。


起 祖父、光 正(ひかり ただし)
 翌日の学校。メイル達に昨日あったことを話す熱斗。そこへカーネルから連絡が入る。「カーネル、久しぶりだね」カーネルにロックマンが挨拶する。
「ロックマン、すまないが光正博士の情報について知らないか?」
「うーん、急に言われても」
「何かあったの?」メイルのナビ、ロールがカーネルに質問する。
ロックマンとカーネルのやりとりは、ロールの他、ガッツマン、アイスマンにも知らされている。
「ああ、ここの所、通常のウイルスと違うヤツが増えていてな。で、そのウイルス(そいつら)の解析を行った(調べた)結果、光正博士が生きていた当時のウイルスを現代の技術でいじったものらしいことが判明した。この当時のウイルス情報については、光正博士とDrワイリーが分かるだろうというわけだ」
「なら、Drワイリーを捕まえればいいんじゃ?」
そこへカーネルのマスターである、バレル大佐が通信に加わった。
「そう思ってワイリーの行方を追っているんだが、まだどこにいるか掴めない」
「バレル大佐!」
「そんなわけで光正博士の方からと思って、ロックマンや熱斗に連絡したというわけだ」「俺も、じいちゃんのことは正直わからない。パパなら分かるだろうけど」
「光博士に聞いてみてもらえるか?最悪の場合、ロックマン達のような現代のナビでは太刀打ちできない事になる可能性がある」
「どういうこと?」メイルが熱斗のPETを覗き込んで炎山に問いかける。
「それは俺が説明しよう」炎山がさらに通信に加わる。

「今ネットセイバーとIPC協同で、このウイルスに関して調査・追跡している。このウイルスに感染した場合、ダークロイド等目ではない程の凶悪化がナビに発生するんだ。まだ数例だけだが、感染者が増えるたびに凶悪化している。まだ抑えられているが、このまままでは先が見えている」
「で、さっきのバレル大佐の話に繋がるわけだ」熱斗が納得した様子を見せる。
「非戦闘型ナビでも、グレイガやファルザーを倒したビースト能力のロックマンと同等の力を持ち合わせるように準備が進められているが、まだその準備に時間がかかる。それに感染の広がり具合によっては間に合わないことになる」
炎山とバレル大佐の話からことの大きさを感じ取る、熱斗とロックマン。
「わかった。学校が終わったら、パパに聞いてみるってことでいいか?炎山、バレル大佐」
2人は熱斗の申し出を了承し、通信が終わった。

 その放課後。熱斗は父である祐一郎に事の次第を話し、祖父である光 正(ひかり ただし)のことを尋ねた。
「非戦闘型でも、それほどの力を持ち合わせるようにしなければいけないとは。随分な話だな。当時の情報の開示を科学省に掛け合ってみよう」
「頼むよ、パパ」
「熱斗君、僕たちも協力するよ」アイスマンをナビに持つ氷川透が協力を宣言する。
デカオやメイルも同意して頷く。
「それにしてもよ、そんな古いウイルスをいじってどうするんだ?」
「ガスな」ガッツマンもデカオの疑問に同意の相づちを打つ。
「多分だけど・・・たとえば、南極とか北極の氷が溶けたら、その中の微生物や細菌が現代に現れる。そうすると、現代に合わせて生き残るように変化する。本当なら、進化の途中でボクたちの体もそれに対抗できるようになるけど、それができない。そういうことを狙っているんじゃないかな」
「つまり、それをナビに対して行えば、世界を破滅させることだって出来るってことよね?でも、以前にそういうことあったんじゃなかったっけ?」
透の予想に、メイルが質問でツッコむ。化石となった古代ウイルスと戦ったことがあったためである。
「あの時は、ウイルスが変化や進化したわけではなかったからな。存在当時のままだった。だから、我々が対処できた。そういうことだ」バレル大佐がメイルの質問に回答する。
「熱斗くん、ボクたちも気をつけよう」
「そうだな」


承 光 正の遺した自立AI(もの)
 その頃、最新の感染が起こっていた。
IPCのナビ達が戦うが苦戦する。そこへ遠距離攻撃の加勢が行われた。
「サーチマン、弱点をサーチしろ」ライカの指示で、サーチマンが敵の弱点を探る。
「特に弱点は見つかりません」サーチ結果を伝えると、次の指示が飛ぶ。
「IPCのナビ達に直接加勢だ。いけるな?」
返事の代わりに前線に加わるサーチマン。
サーチマンのライフルがIPCのナビ達をサポートするも、次々にデリートされていくIPCのナビ達。
「このままではIPCのナビ達が全滅する」ライカがそう状況を把握した時・・・
電脳空間に変化が起きた。一台の車と一台のバイクが現れた。バイクにはネットナビと同じ存在なのかどうかもわからない黄色い存在があった。
車がIPCのナビ達をガードしている間に、バイクに乗った謎の存在が敵を蹴散らす。
「何だ、あれは!?」状況を把握しようとするサーチマン。
「サーチマン、サーチとデータ分析して保存しておけ」
ライカの指示に従って、車とバイク、それに黄色い存在をサーチ・分析し保存するサーチマン。
サーチマンのサーチが終わった直後に車もバイクも、黄色い存在も電脳空間から消えた。
「どうやら、ネットナビではないようです。自立AIタイプの存在のようです」
「わかった。バレル大佐と炎山に報告を。後さっきのデータも渡しておけ」
「了解しました」サーチマンが先程保存したデータ共に報告書を送信する。

 数十分後。炎山とバレルがライカに通信してきた。
「報告書と保存データにあった、黄色い存在。何か心当たりは?」
「特にない。いったい何者なんだ、あいつは・・・」
「1つ気になる点があります。あの黄色い存在をサーチした時、光博士の癖と似たものを感知しました。光博士に聞いてみるのはどうでしょうか?」
「ライカ、今回の件についてどう思う?」バレルがライカに意見を求める。
「あの黄色い存在が今回の件を解決する鍵になる可能性はあると考えています」
「確かに、その可能性はある。あのウイルス相手に、簡単に蹴散らしていたからな」
「炎山様、あの黄色い存在ですが・・・グレイガやファルザーのような異世界(ビヨンダート)の一部らしき痕跡が確認できました、どうなさいますか?」炎山のナビであるブルースがデータの解析結果を報告する。
「なるほど、異世界(あちら)の光正博士が関わった可能性があるということか・・・バレル大佐、ライカ。日本で動いた方が今回の件を解決しやすいと思う。どうだろうか?」炎山からの提案を受け入れ、バレルとライカは日本にやってくることになった。

 祐一郎が熱斗からの話を受けて、科学省に光正在籍時の情報開示を求めて1週間後。
ようやく、許可がおり当時の情報を入手できた。
許可が下りるまでの間に最新の感染事例の一件に関しても情報を入手済みだ。
「流石だな、父さん。ネットナビが存在するよりも前にアレを作っていたなんて。アレなら確かに、今回の件を解決できるかも知れない」

 バレルとライカが来日し、熱斗と炎山に加わる。
「また、一緒に動くことになるなんてな。よろしく、バレル大佐、ライカ」
「ああ」「こちらこそよろしく頼む」バレルとライカがそれぞれ手短に熱斗へ返事をする。

「熱斗、この間のおじいちゃんの件、情報が分かった。科学省へ来られるか?」
「大丈夫だよ。パパ、俺の他に、炎山とバレル大佐、ライカも科学省へ行っていい?」
「そうしてくれ、熱斗以外の3人が見たという黄色い存在についてもわかったしな」
熱斗以外の3人は顔を合わせて頷く。数十分後。4人は科学省で、光祐一郎と顔を合わせていた。
「早速だが、炎山君、バレル大佐、ライカ君。君たちの見た、黄色い存在。それは、ノートンファイターだ」

「ノートンファイター?何それ?」
「おじいちゃんが若かりし頃、今とネット世界は違っていた。そしてネット世界を安心して歩く為の方法もな。自分の知識・経験・感と共に、ウイルス対策のソフトが必要だったんだ。当時ウイルス対策のソフトはいくつもあったんだが、ある製品の広告キャラクターとして生み出されたのがノートンファイターなんだ」
「広告キャラクターとして生み出されたのなら、あのような戦闘力を持ち合わせているのはおかしいのでは?」炎山が祐一郎に質問する。
「ノートンファイターの設定が当時の資料に残っていた。つまり、その設定を元におじいちゃんがノートンファイターを存在させたんだ。もちろん武器やバイク・車の設定もあった。だが、ノートンファイターが活躍するような時代(とき)を迎えないように、という願いを込めて科学省内の特別プログラム保管システムに移された」
「日本の科学省の特別プログラム保管システムと言えば、世界でも有数の保管能力を誇るもの、それなのに何故ノートンファイターが?」今度はライカが質問する。

「答えはビヨンダートの一件。つまり、あの事件で、特別プログラム保管システムの一部が故障した。そしてネット空間にノートンファイターが出た。そして、プログラムに従った結果ビヨンダートに辿り着いた」
「なるほど、ビヨンダートの光正博士がノートンファイターの設定データを元に効力が発揮されるように手を加えた・・・と」バレル大佐が祐一郎の言わんとしていたことを先んじて発する。
「その通り」
「おじいちゃんと、ビヨンダートの光博士か・・・そういえば、トリルは元気かな」
「ある意味トリルとノートンファイターは兄弟と言えるかも知れないな、ビヨンダート(向こう)の光博士が関わったのだし」
「で、今ノートンファイターはどこに?」炎山が祐一郎に問う。
「分からない。今回の件、科学省でも協力することになったから、科学省でも行方を追っている」

「光博士、我々から先手を打つことは出来るか?」
バレル大佐の質問に、ライカも同意している。
「あの新型ウイルスの発生源がどこなのか、誰が作ったのか。そういうことが分かれば、手の打ちようはある」
4人は黙って祐一郎の言葉を聞いている。
「ライカ君、君とサーチマンでその辺りの情報を探れないか?感染したナビから分かる範囲で」
「了解しました、光博士」
「それと、今までの事件のデータからすると、今まではプログラムアドバンスが存在しなかったチップを、対応させる必要がありそうだ。現在、名人とそのチップのプログラムアドバンスが行えるようにしている最中だ」
「今までプログラムアドバンスが存在しなかったチップ?」
「シンクロチップさ」
「シンクロチップをプログラムアドバンス〜!?」
祐一郎の発言に、熱斗は驚いた。
「そうだ」

「そもそもシンクロチップって俺たちが使っている物以外ないんじゃ?」
「今熱斗が使っているものが壊れる前に予備を準備しておくのは当然のことだ。予備は準備できているのが1枚だけだったが、少し前にさらにもう1枚準備のメドがついた」
熱斗は、それに納得して気になったことを祐一郎に聞く。
「俺とロックマンで1枚。じゃ、後2枚のシンクロチップはどんな組み合わせなんだ?」「ロックマンとノートンファイター、熱斗とノートンファイター。つまり3つでのクロスフュージョンだ。『トライアングルフュージョン』と私は呼んでいる」
「トライアングルフュージョン!?ノートンファイターが絡んで、クロスフュージョンできるの?パパ」
「多分できると考えている。ビヨンダート(あちら)の光正博士が手を加えたとは言え、元々は熱斗のおじいちゃんが作ったものだからな。パパの作り出すものには、おじいちゃんと同じ様な癖というか傾向がある。それは、ナビと自立AIの違いがあっても同じだと思う」

「熱斗、ロックマン、ノートンファイター。光家3代のトライアングルフュージョンならいけるだろうと?」
「その通り。IPCの副社長だけあるね」
「確かにノートンファイターの力を取り込む・活用できるなら、それにこしたことはない。しかし懸念点があります。1つはトライアングルフュージョンの為のチップがいつ完成するか?もう1つは、熱斗がトライアングルフュージョンに耐えられるか?ということです」さらに炎山が祐一郎に質問する。

「そこで、頼みがある。ノートンファイターを見つけたら、何とかこちらに送って欲しい。ノートンファイターは自立AI型だから、クロスフュージョンできるように改造する必要がある。それと、クロスフュージョンより熱斗の体力が消耗することはおそら避けられない。つまり、今回の件でトライアングルフュージョンできるのは1回だけと考えてくれ。当然使いどころもな」
「パパ、シンクロチップは預けたほうがいい?」
「今はいい。ノートンファイターの改造が終わってからだな」
「じゃ、チップが必要な時は言って」
「できるだけ早く、そうしたいとは思っている」
「大丈夫、何とかなるって」
熱斗の楽観視した言葉の後、4人は科学省を出た。

 ライカは感染したナビからの情報収集、ウイルスの発生源や作成者特定。3つの目的の為別行動となり、単独行動に入った。
バレルはというと、炎山の手配でIPCが用意した部屋に滞在し行動することになった。「じゃ、俺は家に帰る」熱斗は帰宅する意思を告げ、先に歩き出した。
「わかった。何かあれば、互いに連絡しよう」
そうして、残った3人も分かれた。

 熱斗達が科学省を出た後、数日前に届いた3枚目のシンクロチップを開封する祐一郎。「新たな予備として準備したはずがこういうことになるとは」
手元の2枚のシンクロチップを目の前に、トライアングルフュージョンの完成を再度決意するのだった。

 トライアングルフュージョンの完成を目指し、シンクロチップの改造を進める光祐一郎。助手として名人がいる。
「名人、そっちはどうだ?」
「順調です、光博士」
「しかし、またとんでもないプログラムアドバンスを思いつきましたね」
「ノートンファイターの存在を知った時、多分トライアングルフュージョンがいけるという確信のような閃きがあったんだ。熱斗はクロスフュージョンを体得しているくらいだから、大丈夫だろうとも思った。で、こうして名人に手伝ってもらっているわけだ。チップの改造をした後は、ノートンファイターの改造が終わればほぼ完了だ。そこから先は熱斗次第ということになる」
「しかし、何故あんなウイルスが出てきたんでしょうか?」
「ビヨンダートの件で、こちらとあちらが繋がった際に、活動停止していた古代のウイルスがビヨンダート(向こう)で目覚めて、ビースト能力とまではいかないがそれなりの力を手に入れたという可能性があると考えている」
「つまりは、自然発生ということですか?IPCの解析では人工的に手を加えられた可能性があるということでしたよね?」
「もともとはこちらのウイルスだったが、ビヨンダートに流れて向こうで進化・能力獲得した。その結果、こちらへ出現できる力を持つようになり、こちらで感染させているということじゃないだろうか。ビヨンダート(あちら)でのウイルスの自然な進化と、こちらで人工的に手を加えて誕生させたウイルスとが非常に似通ってしまったのだと思う」
「やれやれ、ビヨンダートの一件がこんな事件(こと)を引き起こすとは」
「まったくだ。でも、今回の件で2つ良いことがある。1つはトライアングルフュージョンを実現できるということ。もう1つは、親父のつくった形見とも言えるノートンファイターだ」
「なるほど、言われてみれば確かに」
「名人、改造の手助けを頼む」
名人は頷いて、祐一郎と共に作業を進めた。


転 新しいプログラムアドバンス
 熱斗が科学省を訪れた翌々日。熱斗達の授業中に、通信が入った。
ひとまずロックマンが熱斗に気づかれないよう応対する。
「ブルース、何かあったの?」
「ノートンファイターの手がかりが掴めた。来てくれないか?」
「分かった。今熱斗君達は授業中だから、大丈夫だと思う。でも、授業が終わる前に戻らなきゃいけないけど」
「ロックマン、1人で行くつもり?」
「1人で行くなんてずるいでガス」
「僕たちも行く」
「じゃ、みんなで行こう。この授業時間が終了する前に戻ってこよう」
ロックマン、ロール、ガッツマン、アイスマンはブルースと共にノートンファイターの元へ向かった。

「このあたりにノートンファイターがいるのか」ロックマンが呟く。
ロール達も辺りを見回して探す。そこへあるナビが姿を見せる。
「サーチマン!」
「どうやら、このワクチン作成工場跡がノートンファイターの根城らしい。だが、・・・」
「あ、あれ!」ロールが声を上げた。そこには、車とバイクがある。
「車とバイクに気づいて、調べてみたんだが、ノートンファイターはいなかった」
「工場の制御室とかはどうかな?」
「ああ。そこを調べようと思っていたところへ、ロックマン達が現れたというわけだ」
「制御室へ向かおう」ブルースが先頭で皆、制御室へ向かった。
「いたでガス!」

 いくつかあるワクチンカプセルが作動していた為、どれかにいるのは分かっていた。皆で手分けして探した結果、ガッツマンが見つけた次第である。
「なるほど、そういうことか」サーチマンが納得した表情を見せる。
「何か分かったの?」アイスマンがサーチマンに質問する。
「このワクチン、ウイルスの根本が同じなら、いかに進化や能力を獲得しても、防げるシロモノだ」
ロックマンがノートンファイターのカプセルを開けようとする。
「待て、まだ調整中だろう。カプセルのタイマーを見ろ」
タイマーの残時間が残り数分を示している。
残りが3分を切ったところで、工場が攻撃を受ける。
「まさか、敵?」ロールは不安そうだ。
「戦うぞ!気を引き締めて行け!」ブルースの一声が、戦闘モードへ皆の意識を切り替えさせる。
サーチマンとロックマン以外はこのウイルスと初の戦いである。
「属性の弱点はない。各自が得意な戦い方でいい」サーチマンからの情報により、得意とする戦法で戦うロックマン達。
 戦いの最中、ノートンファイターの調整が完了、カプセルから出てきた。
すぐにウイルス反応を確認して向かうのであった。

 手強い、それがロックマン達に共通する認識だった。いくつも発生した感染事件を通じ、ロックマンが初めて戦った時よりずっと強くなっているのは感じ取れた。次第にジリ貧に追い込まれていく。
「そういえば、もうノートンファイターが目覚めているはずだ。姿を見せてもおかしくない」
「何とか、ノートンファイターの力を借りられないかな?」ロックマンが誰かに向けてというわけではないが、提案のように言う。
「アイスマン、氷で足止めできる?」ロールの提案がアイスマンに向けられる。
「やってみる!」
アイスマンが氷の息で、ウイルスを凍らせようとする。止まったのは一瞬だけで効果はないと言って良い。
その状況下、ロールがノートンファイターの存在を感知する。
「ロックマン、ノートンファイターが来たわ!」
ロールの言葉に併せてロックマンが振り向いた。そしてノートンファイターと目を合わせた瞬間・・・それは突然発動した。
「ええ!?何でロックマンとノートンファイターがソウルユニゾン出来るの!?」
ロールの疑問は当然だ。ブルースもサーチマンもガッツマンもアイスマンも驚いている。ノートンファイターの黄色が体に現れたロックマン。完全にソウルユニゾン出来ている証拠である。
ノートンソウルのロックマン、ノートンファイターが2人で一斉に攻撃し、あっさりとウイルスを撃退した。
「サーチマンから話は聞いていたが、これほどとは」ブルースが呟いた。
戦闘が終わってもノートンソウルが解けないロックマンはこの状態に意味があると考えていた。

「ブルース、サーチマン、今ならノートンファイターを科学省に連れて行けるんじゃないかな?」
熱斗達の授業終了まで後5分。大急ぎで、科学省へ向かったロックマン達。あの工場にあった車とバイクと共にである。ノートンファイターを祐一郎に預けた所で、ロックマンのソウルユニゾンが解けた。
「ありがとう、ロックマン。その表情からすると・・・何でソウルユニゾンが解けなかったのか?」
「はい」ロックマンはそれだけ返事をした。
そこへバレルがやって来た。
「ロックマン、カーネルを向かわせられず済まなかった。光博士にカーネルのことについて確認をしていてな」
「バレル大佐、すみません。今は熱斗君の授業中で、すぐに戻らないといけないんです」「わかった。では後にしよう」
「ありがとうございます!」
学校に戻ったロックマン達は、それぞれ何があったのか話したのであった。

 昼休みにノートンファイターを科学省に連れて行ったナビのオペレーター達が集まっていた。
「しっかし、驚いたぜ。まさかロックマンとノートンファイターがソウルユニゾンするなんてな」
「これで、光博士の言っていたトライアングルフュージョンが出来る可能性が更に高まったな」
「トライアングルフュージョン?何それ?」
熱斗がトライアングルフュージョンについて説明する。
「というわけなんだ。まだチップの完成には時間が掛かるみたいだけど、名人さんも手伝ってるし、そのうち完成するんじゃないか」
「トライアングルフュージョンか・・・熱斗君の体力だけじゃなくて、もう1つ気がかりな点があるね」
「何が気になるの?」透の気になる点があるという発言に、メイルが問いかける。
「時間だよ。トライアングルフュージョンの成功率や熱斗君の体力が問題ないとしても、トライアングルフュージョンの完成時間があまりにも掛かると意味がない」
「そっか、それは考えてなかった。パパはその辺りを考えてるだろうから、心配はないと思う」
「多分だけど・・・トライアングルフュージョンをする時は、クロスフュージョンより無防備になるだろうから、僕達が熱斗君やロックマンを守らないとね」
透の懸念は杞憂ではなかったことが後に証明される。


 科学省の光祐一郎。ノートンファイターの改造をする為の事前解析を行っていた。
「なるほど。本来この部分が、機能しないように作っていたんだな。それをビヨンダートの光博士が機能するようにした、と」
「ノートンファイターの解析はどうですか?」
名人が状況を確認する。
「大部分のところは見ることができた。後2時間あれば、解析終了できるだろう」
「わかりました。チップの方は順調です。当面はノートンファイターの解析待ちです」
「じゃ、食事に行ってもらって構わない。僕はさっきサンドイッチを食べたから大丈夫だ」
「それでは、行ってきます」

 名人が食事に出かけて30分後。
「ふぅ・・・親父が若かった頃に、これだけのものを既に作っていたのか・・・この手のことは僕が世界初だと思っていたが、先を越されていたとは」
ノートンファイターの大部分の解析が終了し、その結果分かったことがある。
それは、祐一郎がPETやナビを生み出した際の理論の根幹と同様な理論の元で、自立AIとしてのノートンファイターが生まれていたことである。
「ノートンファイターは、いわば、PETやナビのご先祖様ってことか」
と同時に、納得できたことがある。
「親父の作ったノートンファイター、僕の作ったロックマン。これだけ似ていれば、ソウルユニゾンできるのも不思議じゃない。違いは、あくまでプログラムに従う自立AIか、自らの意思で行動が出来るナビかの違いだけだ」
ワイリーと同様に科学省で名を連ね、著名であった光 正(ひかり ただし)の偉大さを改めて知った祐一郎であった。

 そんなことを思っていると、そろそろ名人が帰ってくる時間となった。
「ただいま戻りました」
「お帰り、名人。今ノートンファイターの解析が終わったところだ。そちらに解析データを送る。ノートンファイターの改造を手伝って欲しい」
「もちろんです」
2人は早速、ノートンファイターの改造を開始した。
「しかし、あのデータを見て驚きました」
「だろうね。僕も驚いたというか、親父のすごさを知ったよ」
「PETやナビが生まれる以前に、既に同様のものが存在していたなんて・・・しかも数十年も前に」
「もともと広告のキャラクターとその設定をネット空間に存在させたものの、あの能力を解放するような事態にはなって欲しくなかったんだろうな、親父は。だから対ウイルス用の能力をブラックボックス化した上で封印した。だが、ビーストの一件で、ビヨンダートへ出た際、封印が解けてしまった。そこへビヨンダートの光博士がブラックボックスを解除して能力を発動できるようにした。で、本来はビヨンダートの中で活動するはずのノートンファイターが、何故かあちらからこちらへ移動する能力を身につけてしまったというのが僕の想像だ」
「なるほど、そういうことだったんですか・・・」
「まぁ、僕の想像でしかないけどね。まずはノートンファイターを改造して、トライアングルフュージョンを完成させないと」
「わかってます、光博士。急いで終わらせましょう」
祐一郎は熱斗に連絡を取り、シンクロチップを受け取った。これでトライアングルフュージョンに必要な3枚のシンクロチップが揃い、さらに作業を進めるのであった。

 2人の作業は想定よりも時間がかかった。その原因はトライアングルフュージョンの為の調整が難航した以外、もう1つある。
「チップもプログラムも何とかなりましたね、光博士」
「が、もう少し早く完成させたかった。あのウイルスの凶悪化はかなりの速度で進んでいる。それに実体化の能力を持ったものが過半数を占めている。もうネット警察やIPCのナビでは蹴散らされるだけになってしまった。それだけじゃない、今や実世界の警察や一般のナビにすら被害が予想以上に出ている」
「とは言え、今回はノートンファイターの車とバイクにも仕掛けを施しましたし、熱斗君達の助けに充分なるでしょう。何より、ノートンファイターを自立AIからネットナビとして転換できた点は非常に大きいですよ」
「ノートンファイターのネットナビ化はともかくとして・・・ネットナビが普及している世界で、あの手の仕掛けをすることになるとは思わなかったけどね」
「まったくです」
2人の作業はこれで終わった。後は熱斗が実戦の時に、ノートンファイターを送るだけである。

 科学省から熱斗の元にシンクロチップ3枚が届けられた。これでウイルスに対抗する手段を得た熱斗。それに喜んでいる時間はほんのわずかしかなかった。
 学校からほど近い広場に実体化ウイルスが出現した。元は非常に大きいビルが2つ並んでいたのだが、老朽化の為取り壊され、市民の憩いの場として広場になった経緯がある。並の広さの野球場を5、6個合わせても足らないくらいの大きさを誇っている。
今回現れている実体化ウイルスはそれほど大きくはない。しかし、広場をほぼ埋め尽くすほどの数だ。数百どころではないのは見て取れる。

 学校が終わって下校中の熱斗達に連絡が入り、広場へ向かう。そこへライカ・バレル大佐も駆けつけてきた。
広場に向けて、クロスフュージョン用のフィールド形成エネルギーが放出され、ネットナビが実体化可能になる。それだけではない、広場から実体化ウイルスが出ないようにするバリアとしても機能するのである。
「いくぞ、ロックマン」
「うん、熱斗君」
「シンクロチップ、スロットイン!クロスフュージョン!!」
メイル、デカオ、透、ライカ、バレルは1カ所に固まりながら、ナビをオペレートして戦っている。
熱斗とロックマンがやや離れた位置で、ウェポンチップのプログラムアドバンスを駆使して戦っているものの、数の多さが問題になっている。
 状況を科学省から見ている祐一郎と名人。名人がノートンファイターを転送準備する。「熱斗、今から名人がノートンファイターを転送をお前のPETに転送する。ノートンファイター共に戦うんだ」
「分かった、パパ」
すぐにノートンファイターが転送され、熱斗はノートンファイターを実体化させる。
「ソウルユニゾン!ノートンソウル!」
熱斗はすぐにトライアングルフュージョンを実行しなかった。1つは透が言っていた「時間」の点。もう1つは「シンクロ率」を気にした為である。ソウルユニゾンには2つ利点がある。1つ目は、ソウルユニゾン相手の能力をロックマンが使えるようになるだけでなく、ソウルユニゾン相手もそのまま行動できる。いわば同じ能力の持ち主が2人というか2体というか、そういうことなのだ。2つ目は、シンクロチップ程シンクロ率を要求されることはないにしても、シンクロ率がそれなりに必要であること。と同時に、熱斗とノートンファイターのシンクロ率に関しても簡易チェックともいうべき結果が出るからだ。
 ソウルユニゾンで敵の数を減らし、トライアングルフュージョンが必要になった時の時間や状況を確保できるようにするのが熱斗の狙いである。
ノートンソウルのロックマンとノートンファイターが動いた為、さきほどに比べれば数は減ったもののまだまだ数が多い。一方、カーネルやサーチマン達は苦戦より防戦に近い状況を呈していた。

「メイルちゃん、デカオ君、透君」
「何ですか?」
「今からノートンファイターの車とバイクをそちらへ送る。使って欲しい」
「わかりました、ありがとうございます」メイルが祐一郎に返事をする。
「ライカ君、バレル大佐。聞いての通りだ。援護してもらえるか?」
「了解しました、光博士」
「こちらも了解した」
ライカとバレルがサーチマンとカーネルに指示を出して攻撃し、敵を少し下がらせる。こうして敵との間に何もない空間を作りだす。
「名人、転送を!」
名人が指示に従って車とバイクを転送し、先程出来た空間に出現させる。
「デカオ君はガッツマン向けに車を。メイルちゃんと透くんはロールとアイスマン向けにバイクを使うんだ」

「でも、どうやって車を使えばいいんだ?俺、車の運転なんて出来ないぞ?」
「車に乗るんじゃない、ガッツマンと車を合体させればいい」
「ガッツマンと車を合体ぃ〜?そんなこと、出来るのか?」
「大丈夫。出来る。この合体は一般のウェポンチップと同じ扱いだ。だからナビを問わずに出来るんだ。『スペシャルウェポン、ビークルアーマー』と叫べば、合体できる」
「わかったぜ。ガッツマン、行けえぇ。スペシャルウェポン、ビークルアーマー!」
車が各種パーツに分かれ、ガッツマンを覆う。合体後の姿はガッツマンの大きさと重量を活かした防御力を十二分に感じさせるものである。
「メイルちゃん、透君。バイクの方は、ノートンファイターの持つ対ウイルス用ワクチンから作ったバリアを周囲に発生させるようになっている。だから、ロールとアイスマンにうまく指示を出して、ウイルスを周囲のバリアに触れさせれば敵を倒せる」
「ありがとうございます!」メイルと透がハモって祐一郎に返事をした。
「ロール!」
「アイスマン!」
ロールが運転し、アイスマンが後ろに乗る。アイスマンが氷で敵をバイクの周囲に来るよう誘導し、蹴散らすということである。

「サーチマン、カーネル。代わるでガス」
「行くわよ、アイスマン」
前衛にいたカーネルと入れ替わるガッツマン。
そしてサーチマンは後衛に下がって、バイクに乗ったロールとアイスマンを援護する。
援護が一息ついた時、ライカがサーチマンに状況を確認する。
「サーチマン、ロックマンとノートンファイターの様子を把握できるか?」
「数は多い、ん?何か変です!」
「どうした?サーチマン!」
「ウイルスが数体単位が合体しているものがあります。そいつらと合体していないウイルスとの攻撃がロックマン達をてこずらせています」
「わかった。そこはガッツマン達に任せて、お前はロックマン達を援護しろ」
「了解しました」
「バレル大佐、どう思いますか?」
「・・・もしかすると・・・」
何かを言おうとしたが、やめたというバレルの様子にライカは何を言おうとしたのか何となく察しがついた。
ガッツマンとロール達はようやく、ウイルス達を大きく下がらせることに成功した。
「もう大丈夫だな、カーネル。ロックマン達を援護しろ」
カーネルがロックマン達の元に到着した時・・・
数十体単位で合体したウイルスがいくつも存在していた。しかも、合体ウイルスは自分自身をゆっくりではあるが、増殖させている。
「これではいつまで経っても・・・」カーネルが半ば苛立ちながら吐き捨てる。
しばらく膠着状態が続いた。増殖のため、ウイルスが次々に現れるので、そうならざるを得なかった。
しかし、この状況を打破できるチャンスがやって来る。遅れてガッツマンとロール、アイスマンが来たのだ。
「ガッツマン、その姿は!?それにロールとアイスマンもバイクに!?」
「ノートンファイターの車をスペシャルウェポンで装備したでガス」
「こっちのバイクも使えるようにしてくれたの」
「ロックマン、こいつらは全員まとめて倒さないとダメだ。一体でも残れば、増殖する。そうなれば」
「となると・・・みんなが今使える武器では無理があるな。どうすれば・・・」
「ガッツマン。それにロールとアイスマン。車とバイクをロックマンに!」
ロールとアイスマンはバイクから降り、ガッツマンはスペシャルウェポンを解除した。
「熱斗、ノートンファイターの車とバイクを使え!ロックマン専用ウェポンがある!」
「ロックマン専用ウェポン?」
一体何だろう?と明らかに不思議がる熱斗だが、祐一郎の指示が続く。
「バイクに乗って、車へ突っ込め!」
「ロックマン、パパの言うとおりにするぞ!運転は任せた!」
「熱斗君、行くよ!」
バイクに乗って、車へ突っ込む熱斗とロックマン。バイクの接近に合わせて、車の屋根部分が上に開きバイクを収容するハッチと化す。
「車の開いている部分からバイクごと車に入れ!」
大きくバイクがジャンプし、車に入った。着地の衝撃を吸収する機構が作動した後、乗り手も含めてバイクが完全に固定される。
「熱斗、『スペシャルウェポン、ノートンアーマー』と叫べ!」
「スペシャルウェポン、ノートンアーマー!」
ガッツマンの時とは違い、明らかにプロセスが違う。こちらは合体というより変型である。
「これが、ノートンアーマー・・・」
「すごいや、熱斗君。これなら敵をまとめて倒せるよ。360(スリーシックスティー)バーストっていう必殺技もある。360度全方向に、ワクチンニードルを打ち出せるんだって」
「360度全方向か。だったら空中でやったら、効率よく行けそうだな」
「そうだね、みんなに協力してもらおう」

「みんな、頼みがある。ノートンアーマーの必殺技があるんだけど、空中でやった方が効率よくまとめて倒せるんだ。だから敵を空中に集めて欲しいんだ」
熱斗とロックマンの頼みを受けて、ノートンファイター、他のオペレーターやナビが空中にウイルスを集める。
集められたウイルスの中心に突っ込むノートンアーマー。
「ロックマン!」
「熱斗君!」
「360(スリーシックスティー)バースト!」
バイクの発生させるバリアでパワーアップされたワクチンがニードル状に360度全方向へ射出される。
次々にウイルスが消えていく。だが、運の悪いことに一体だけ残ってしまう。様子を地上から見ていたサーチマンが即座に対応したが、増殖の方が早い。
「増殖を阻止できなかった!申し訳ありません」サーチマンがライカへ謝る。
「それより、このチャンスをものに出来なかったのがマズい」サーチマンへ、というより周りに知らせるかのように呟く。
ノートンアーマーが再度攻撃しようとするも、ウイルスはこの場から撤退した。
「くそ、逃げられた」悔しがる熱斗。
「今回の戦いからすると、次が最終決戦だろうな。何となくそんな気がする」
「その通りだろう。次で今回の件に関して決着を付けよう」
「バレル大佐・・・」
トライアングルフュージョン用のチップを携えての初戦は、ウイルスに逃げられるといういう結果に終わったのであった。


結 トライアングルフュージョン
 あれから少し時間が経った。嵐の前の静けさの如く、あのウイルスに関する話が減っていた。
科学省で、何か分かったことはないか熱斗達7人が集まっている。
「多分、増殖したり力を蓄えている。そんなところだろう」
炎山の言葉は危機感が滲んでいた。
「みんな、今度は一気にトライアングルフュージョンで行く。だから力を貸して欲しい」熱斗の言葉に皆同意する。
「バレル大佐、1つお聞きしてもよろしいですか?」ライカがバレルに質問する。
「何だ?」
「はい、以前ノートンファイターを科学省に連れてきた時、大佐は『光博士にカーネルのことを確認していた為、カーネルを向かわせられなかった』と仰っていました。一体何を確認されていたのでしょうか?」
「カーネルが現存する最古のネットナビと言えるのは皆も知っての通りだ。ならば、ロックマンとソウルユニゾンが出来てもおかしくないのではと思ってな。それを確認していた。結論としてはできないのが当たり前ということだった。人間には、心臓や脳、筋肉など人間に皆共通する部分はある。しかし、人間としては一人一人違うだろう?そういうことだ」
「バレル大佐から、ロックマンのような力をカーネルが持つことはあり得るのか?という質問を受けてね。僕自身カーネルに興味もあったんで、調べさせてもらったんだ」
「光博士!」ライカは驚いたものの部屋に入ってきた祐一郎に敬礼し、元に戻った。

「さて、バレル大佐、ライカ、炎山君。3人の追っていたウイルスの情報をさらに分析してみた。あのウイルス自体は相当昔に存在していたが、今はほぼ絶滅したものだ。そして、突然変異のような形、というか異世界(ビヨンダート)における進化でああなったようだ。最初に調べた時は、正しく本質をつかめていなかった。すまない。で、ワイリーが作り出したのでは?という点に関しては、『今のあのウイルスに関しては』そうではないと言える」
「今のあのウイルスに関して?どうしてそうなるの?」
「つまり大元のウイルスを作ったのがワイリーかもしれない。そういうことですよね?」熱斗の疑問に炎山が答える。
「その通り。でもそれは、今我々に必要なことじゃない。今我々がやらなくてはいけないこと。それは、あのウイルスを倒してこの事件を解決する事。そういうことだ」
祐一郎の言葉に誰もが頷いた。

 そこへネット警察の長官から連絡が来た。ビヨンダートの時と同じ様な時空間の裂け目が出来、あのウイルスが現れ続けているというのだ。
「ビヨンダートとの境目の時空間、もしくはビヨンダートで復活していたということか」「でしょうね、こういう状況を考えると」バレルの呟きに炎山が反応する。
「みんな、行くぞ!」熱斗を先頭に出かけていくのであった。

 すぐにクロスフュージョン用のエネルギーフィールド形成の準備を行い、いつでも発射可能に体勢を整える科学省。祐一郎が熱斗へ連絡する。
「熱斗、裂け目を見つけたらすぐにトライアングルフュージョンしろ。フィールド形成すると同時に、ノートンファイターを転送する。この間ソウルユニゾンしたからな。シンクロ率は問題ないはずだ。頼むぞ!」
「分かったよ、パパ!」
数分後、裂け目を視認できる場所までやって来たが、まだ裂け目を目の前にしたわけではない。熱斗達の前にいくつものウイルスが立ちはだかる。炎山達が中央突破で道を作り、強引に進んでいく。熱斗とロックマンに無駄な体力を使わせない作戦を無言で実行している。ようやく裂け目の目の前まで来る事が出来た。
それにあわせて、クロスフュージョン用のフィールド形成・ノートンファイターの転送が行われる。3つのシンクロチップを取り出し、気合いを入れる熱斗。

「シンクロチップ、トリプルスロットイン!プログラムアドバンス!」
「トライアングルフュージョン!!」
トライアングルフュージョンを行い始めた熱斗とロックマン。相変わらず、ウイルスが現れている。
熱斗以外のオペレーター達も各自のナビを実体化させる。
「アイスマン、氷のドームを作って熱斗君達を守るんだ!」透の指示が飛ぶ。
「こっちも行くぞ、ガッツマン。スペシャルウェポン、ビークルアーマー!」
氷のドームを作ったアイスマンが、ロールが運転するバイクに乗る。
エンジンをふかし、ウイリーで突っ走るロール。ブルースとカーネルが倒したウイルスの残骸を利用して空中へ飛ぶ。そこからアイスマンが氷の息を吹きかけ広範囲のウイルスを瞬間的に足止めする。その一瞬を利用してウイルス達を消滅させる。

 氷のドームを守るガッツマン。ビークルアーマーの力は大きいが、その重量故にスピードが鈍いのは致し方ない、と思うデカオ。
「デカオ君、ビークルアーマーの走行機能を使うんだ。車の時と同じ最大速度が出せる」「よっしゃ、ガッツマン。タイヤを回転させろ!」
「承知でガス!」
ガッツマンの右足甲の外側、左足甲の外側についているタイヤが回転し始めると、ガッツマンのスピードが上がる。
「ふぇ〜、ガッツマンがあんなに早く・・・」
スピードが上がったのはいいことではあるが、倒し損ねるウイルスが出てしまう始末。
そこをフォローするのは、サーチマンである。
「ガッツマン、フォローする。思い切り行け」
「感謝でガス!」

 ブルースとカーネルのタッグは裂け目を目指していた。ウイルスを倒すだけではこの事件が終わらないのは明白。それにロックマン達のトライアングルフュージョンが完成する前に全て終えることが出来るなら、それが一番良い。
ブルースとカーネルが裂け目に近づくと、数体合体したウイルスや数十体合体したウイルスが現れるようになった。
「裂け目には近づかせないってことか。なら!」
「打ち破るのみ!」
気合いを入れて、ウイルス達と戦うブルースとカーネル。合体ウイルスでも数体程度の合体ものなら互角なのだが、数十体の合体ものとなると、分が悪い。
「ブルース!カーネル!」バイクに乗ったロールとアイスマンが駆けつける。
ブルースとカーネルがそれぞれ、合体ウイルスに傷を付ける。その後はバイクの出番である。傷口にワクチンを触れさせてウイルス消滅させるのである。
2体のナビと1機のバイクにより、合体ウイルスの相手ももう終わるだろうと思われる頃。

「熱斗君!」ロックマンが心配して声を掛ける。
トライアングルフュージョンで、一番苦しんでいるのは熱斗であった。当然ロックマンとのクロスフュージョンは問題ない。また、ロックマンとノートンファイターのクロスフュージョンもさほど問題ではなかった。つまり、熱斗とノートンファイターのクロスフュージョンが問題なのである。
「くっそ。ロックマンだけじゃなくて、ノートンファイターとのクロスフュージョンがこんなにキツいなんて!」
「熱斗。私はお前の祖父、光正博士によって生み出された。いわば、お前の祖父の形見ともいえる。そしてロックマンはお前の父、光祐一郎博士が生み出した。私とロックマンとお前。光家3代の力を、魂をクロスさせるのだ」
熱斗でもなく、ロックマンでもない。この声の主はノートンファイターしかあり得ない。
「おじいちゃんと、パパと、俺の力と魂をクロスさせる・・・」
そう呟いた熱斗は余計な気負いが消え、リラックス状態で自然体となる。
ようやく熱斗とノートンファイターのクロスフュージョンが完成した。
すなわちそれは、トライアングルフュージョンの成功を意味する。

氷のドームの外ではガッツマンとサーチマンが守っている。
ブルースとカーネル達が相手にしていた合体ウイルスが今度は氷のドームへ向かっていく。
「マズい!」ブルースが焦る。
「させるか!」カーネルが阻止しようとするも、かわされてしまう。
ロールとアイスマンのバイクも全速力で、氷のドームへ向かう。
「ガッツマン、サーチマン!そっちに合体ウイルスが行ったわ!気をつけて!」
ロールの声を受けて注意を払うガッツマンとサーチマン。
合体ウイルスが数体現れた。数十体の合体ものが3体、残りは数体程度の合体ウイルスだ。
ガッツマンが3体のうちの1体をどうにか倒す。大きい合体ウイルスは後2体。そして、残りの合体ウイルスの2体をサーチマンのライフルが仕留める。
そこへブルースとカーネル、バイクに乗ったロールとアイスマンが駆けつけてきた。
「デカブツが後2体。ビークルアーマーのガッツマンでさえ、あのボロボロ具合か」
ブルースの呟きに、カーネルが檄を飛ばす。
「まずは、あいつらを叩く。余計なことを考えるな!ガッツマンは無事なのだから」
サーチマンとロールとアイスマンは小さい合体ウイルスを相手にしている。
しばらくすると。大きい合体ウイルスはが後1体、小さい合体ウイルスが後2体となったが、ブルースやロール達は相当疲労していた。

 残りは計3体。もっと強くなろうということなのか、大きい合体ウイルスに小さい合体ウイルスがさらに合体し、今までで一番大きな合体ウイルスが誕生した。
「ここへ来て、合体するとは」ブルースが冷静さを保ちながらも、面倒なことになったという口調で呟く。
合体したことは確かに効果があったようで、ビークルーアーマーのガッツマンまで含めて全員まるごと薙ぎ払われた。そして、氷のドームへ攻撃を加える。

 「ロックマン!」全員が口々にロックマンの名を呼ぶ。
氷のドームは破壊され、氷塊が山を成す。
「大丈夫!」「待たせたな、みんな!」
最初はロックマン、続いて熱斗の声で返事が返ってくる。
「成功したんだ!」透が声を上げる。
「熱斗、良かった!」
「行くぞ!ロックマン、ノートンファイター!まずは、あいつを倒す!」
「うん、熱斗君」
「ロックバスター!」
ロックバスターがウイルスに命中し、しっかりとした傷を与える。さらに体術を駆使して素手での攻撃もダメージになっていることを確認する。
「すごいな、これがノートンファイターのワクチンの力か」
熱斗は攻撃力に納得し呟く。そして、攻撃を続けウイルスをダウンさせると、ロックバスターを溜めに入った。
ちょうどその時、薙ぎ払われたナビ達が全員起き上がってくる。
「チャージショット!」
ロックバスターの数倍の威力を誇るチャージショットでも1撃では倒しきれない。だが、充分な傷とダメージは与えている。
「ロックマン、裂け目に行って!今の状態のウイルスなら私達で何とかできるから!」
ロールの言葉にロックマンは頷いて、裂け目へ突入した。
ロックマンがウイルスの親玉的存在と戦闘開始を迎える時、ロールやブルース達は合体ウイルスにようやく勝利したのである。

 裂け目に入って、ロックマンは探し続けた。当然ながらウイルスの親玉的存在を、である。
残してきた仲間達が合体ウイルスを倒すくらいの時間が経った時、やっと見つける事が出来た。
「あいつが、今回の事件の・・・」
合体ウイルスでもウイルス自身が大きくなるだけで、パワーと重量が増えることが基本だった。が、この親玉は違う。パワーと重量のみならず、攻撃手段や姿もまるで違う。
だが、ノートンファイターの持っていたデータから照らし合わせると、間違いなくあのウイルスと同じである。そして、根源のウイルスであることもだ。
「行くぜ!あいつを倒さなきゃ!」
まずは、ロックバスターを連射して相手を探る。すると、ロックバスターが跳ね返される様子が確認できた。
「熱斗君、ロックバスターが」
「分かってる、あの釣り針のついた蜘蛛の糸みたいなヤツを振り回して防御してる。アレを何とかする必要があるな」
「ソードで切りに行く?」
「アレが1個だけじゃない可能性がある。ロックバスターでそれを確認してみよう」
複数の角度からロックバスターを放ち、防御されるかを試す。
全て防御された時に、複数の釣り針付き糸を確認できた。それだけでなく、さらに反撃が来たが避ける。その反撃は囮の攻撃で、本命は体当たりであった。
「体当たりしてきても、ダメージも受けないなんて」
「流石に親玉ってところか」
ロックマンの呟きに、熱斗が納得したという返事をする。
 体当たりした親玉は、そのまま裂け目へと向かっている。ロックマンも追いかけて元の空間に辿り着く。

「ロックマン!」ロールの声で、皆ロックマンに注目する。
「あいつが親玉だ!みんな気をつけてくれ!」
ロックマンが縦横無尽に動き回り親玉の注意を引きつけて、他へ攻撃がいかないように牽制する。
 流石に親玉だけあり、ロックバスターではかすり傷程度、チャージショットでも少し傷を負わせる程度にしかならない。その傷を他のナビが攻撃して傷を広げていくが、倒すには相当時間がかかるのは目に見えている。ただ、複数で攻撃しているので、釣り針付きの糸の数が減り、防御力はかなり弱まってきているのは確かである。
「このままだと皆の体力が尽きちゃうよ!」ロックマンがどうすればいいのかと言わんばかりに発する。
熱斗も同様の考えであり、打開策があるか探して周りを見渡している。そこで1つの案を思いついた。
その案を伝えるべく、仲間達と集まる必要がある。そこで、攻撃をウイルスと地面に行う。地面から上がる煙に紛れて仲間達と共にウイルスから充分な距離を取った。早速案を伝える熱斗。
「という作戦を思いついたんだけど、協力してくれるか?」
「しかし、それは無茶というより、無謀に近いかもしれん」カーネルが冷静にツッコむ。そこへ親玉が攻撃してくる。伝えることは伝えた。しかもこの状況になった以上、熱斗の言った作戦に乗っかるしかない。

 親玉の攻撃を避けながら、散開するロックマン達。ガッツマンとカーネル。アイスマンとブルース。サーチマンとロール。そしてロックマンとバイク。それぞれに分かれた。
 まずは、ブルースとカーネルが親玉の注意を引きつける。その間にガッツマンはスペシャルウェポンを解除して、車に戻す。アイスマンは氷のジャンプ台を作り、ガッツマンがそれを支える。
サーチマンはサーチショットを放つ為の固定準備に入る。そしてロールはサーチショットを放つ前の囮としてのロールアローを援護射撃中だ。
 ロックマンはバイクに乗り、車にバイクごと突入した。すぐにノートンアーマーに成らず、氷のジャンプ台へ猛スピードで突っ込んでいく。
「ブルース、カーネル!下がって!サーチマン、サーチショットを!」
ロックマンの指示に従うブルースとカーネル、サーチマン。
サーチショットが放たれ、親玉の口付近に命中。親玉の口が大きく開かれた。そこへ、猛スピードでジャンプ台からジャンプした車が親玉の中へ突入する。親玉の中で中心というべき場所に辿り着いた車。

「スペシャルウェポン、ノートンアーマー!360(スリーシックスティー)バースト!」
ノートンアーマーに変型した直後必殺技を放つ。つまり内側から攻撃を加えるという作戦だったのだ。
「外からだとたいした傷やダメージにならなかったけど、こっちは結構効いてるね。熱斗君」
「だな!ノートンアーマーのエネルギーを上げるぞ!」
エネルギーのアップした必殺技が放たれ続ける。すると複数の穴が開いて、外から光が入ってきた。
「よし、脱出だ!」
手近な穴から親玉の外へ出たノートンアーマー。最後の一撃を準備する。

「ワクチン、チャージ!」
右腕を親玉に向けて、チャージショットの体勢に入るロックマン。その様子を見て、とっさの判断でナビ達がロックマンのチャージ状態を守ろうとする。アイスマンの防御壁をガッツマンのパワーで支える。突破されると、今度はロールとサーチマンのホーミング系ショットが親玉の攻撃に反撃する。ホーミング系ショット同士で、同士討ちさせてさらに突破される。最後はブルースとカーネルが、格闘戦で時間を稼ぐ。
ついに、ワクチンのチャージが完了した。
「ワクチンチャージショット!」
ロックマンのチャージショットにワクチンをチャージして攻撃力を高めるということをしたからなのか、ノートンアーマーは大破してロックマンが落下する。落下しながら、親玉の最後を見届けるロックマン。仲間達も親玉が倒れたことを見届ける。
「終わった・・・」
「終わったね、熱斗君」
「熱斗、よくやった。お前は立派なオペレーターだ」
ノートンファイターの声は光 正(ひかり ただし)の声にそっくりだったことだけ、熱斗は覚えている。

 クロスフュージョン用のフィールドが解除されると、熱斗は体力の消耗が大きかった為に、その場に倒れ込んでしまったのだった。
数日後、熱斗の回復と共にライカとバレル大佐が日本を去った。再会をを約束して。


了 ノートンファイター、眠りにつく
あれから数ヶ月の時が過ぎた・・・
ノートンファイターは再び、特別プログラム保管庫で眠りについた。もともと光 正(ひかり ただし)の意向からすれば、ノートンファイターが動き回るようなことは望まれていなかったからだ。
時空間の裂け目を閉じた後、IPCやネット警察のナビ達と共にノートンファイターが念のため出動していた。しかし、あの件以降、あのウイルスが現れることは全くなかった。結果、ノートンファイターを眠りにつかせる判断が下されたということである。
「まさか、おじいちゃんの作ったノートンファイター一緒に、トライアングルフュージョンするとは思わなかったぜ」
「ナビとナビのクロスフュージョンも世界初だったしね」
トライアングルフュージョンの際に行われた「ナビとナビのクロスフュージョン」は、科学省の正式プロジェクトとなり、実用化・商用化を目指して研究が進められている。もちろん先導は光祐一郎であり、プロジェクトメンバーには名人もいる。
「光家、3代の力と魂をクロス、か。俺、将来はおじいちゃんやパパみたいになれるかな?」
「それは、これからの熱斗君次第だよ。熱斗君、今日の宿題ちゃんとやろうね」
ロックマンのお小言を華麗にスルーして、今日はどんな風に遊ぼうかと考えている熱斗であった。


参考資料
ロックマンエグゼwiki
ノートンファイターwiki
ロックマンエグゼまとめ@ウィキ−光正
2012/02/14
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (10:59 pm)
Fani通2011(上)に収録されている
スイートプリキュア番外編の元ネタ一覧。
と言っても3つしかないが。

フツァブデグ:FCABDEGのエスペラント読み。
綴りがFCABDEGなのは、
説明の必要もないほど簡単なことなので略。
本当はソルレソル読みするのが一番いいのだが、
ソルレソルでの「FCABDEG」の読み方を知らないので、
エスペラント読みにした。

6代目・7代目:音階が以前は6音、現在は7音に引っ掛けて。

6年半前:6と7の間の真ん中と言える「6.5」に年をつけたもの。
2011/05/03
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (3:56 pm)
けールガン絡みで、F会メンバーがJASRACへ申請した時の出来事記録本。
詳細は下記リンクを。

COMITIA96の参加について
http://d.hatena.ne.jp/f-kai/20110501/1304367696
2011/05/03
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 : 

執筆者: gf-tlvkanri (3:56 pm)
先月29日。akiba F。
献血の後に用があったので、予約時間よりも早く行って、さっさと問診票の記入等に入った。
久々のakiba Fなので、ロッカーの鍵の掛け方をすっかり忘れていた。
掛け方の案内を見てやる始末(^^;

ここでも、テレビはVHF+関東UHF3局(テレ玉、TVK、千葉テレビ)限定っぽい。
ということは献血ルーム全体でそうなったのかも。
特にイベントらしいことはしてなかったようなので、ipodに入っていた動画も好みのものはなかった。ということで、少し寝た。

献血後に、コミュニケーションノートやアニメージュ、ニュータイプを見てから撤収。
用を済ませて帰宅という1日だった。

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コミケ79(2010 冬)
12/29(水)東1ホール K-26a M.O.M.発行準備組合(委託)
12/30(木)西2ホール ち-19b CCSF / F会(委託&本家)
12/31(金)西2ホール て-07b PARALLEL ACT(委託)

・F会合同同人誌「Fani通2010(上) 」 平成22年(2010年)度上半期アニメ総合感想本
・F会メンバー執筆本
「軽音部、西へ - HTT live @ 7th district -」
著者:PARALLAX
・Fani通既刊
既刊については、http://ccsf.jp/fandom/で概要・表紙画像を確認可能です。

2010/8/16 Fani通2009(上) サークル在庫終了!増刷の予定無し。
購入希望の方は、COMIC ZIN店頭・通販の利用をよろしくお願いします。

2010/5/18 Fani通2009(上) COMIC ZIN http://www.comiczin.jp/ にて委託開始!
商品ページはこちら!
http://shop.comiczin.jp/products/detail.php?product_id=5504
最大で3ヶ月程度の委託になる場合もあります。