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氷炎 雷光風の区画 - gf-tlvkanriさんのエントリ
 gf-tlvkanriさんのエントリ配信

2020/04/01
ロザバン&ごちうさ番外編

執筆者: gf-tlvkanri (12:16 am)
本作は2次創作。

いつも通り、全角40字/行で表示すると、
当方の想定する折り返しと改行での表示になる。
全角40字/行で約2480行(参考資料記載込)。

では、数行の改行の後に本編スタート。



<あらすじ>
 半年以上前、青山ブルーマウンテンは龍が出る夢を見た。3か月前、いつもと毛色の違う妖怪モノの新刊を完成させるに至った。そして現在。
 人間はごく限られた者達しか知らない封印の場所。そこに妖である萌香と心愛が現れた。その封印の場所に関わる8つのパワースポットを始めとするパワースポット群。封印の場所と8つのパワースポットを繋ぐ物。4柱の神や町の歴史。それらの繋がり……萌香と心愛、ココアやチノ達の行く末は?

<序 萌香と心愛、現る>
<1日目>
 半年以上前。青山ブルーマウンテンは夢を見た。それは龍が出る夢。龍が出たこと以外は忘れてしまっていたが、その夢を見たことが頭の片隅に残り続けること3か月。新刊を完成させるに至った。その新刊は恋愛ものではあるが、いつもと毛色の違う妖怪モノだった。そこからさらに時間が流れ、現在。
 人間はごく限られた者達しか知らない場所。その場所には、封印が施されていた。
その封印をしたのは……青山ブルーマウンテンの夢に出てきた龍。その龍は東、春、水を司る青龍だった。

 封印の場所に現れたティッピー。ティッピーは雌のアンゴラウサギになってしまったチノの祖父だ。ティッピーになってしまってから、妖気の類を把握できるようになった。自分の経験からも、この場所が危険と判断し様子を見に来るようにしていた。
そんな封印の場所からの2つの妖気。それに感づいたのは妖気を感じることのできるティッピー、そしてリゼの父であった。もっともリゼの父は妖気を感じたというより、付近にいたので直感で感じとったという方が正しい。

 ティッピーとリゼの父が封印の場所からの妖気を感じるほんの少し前。
「姉さん!」
「心愛!」
萌香の封印のロザリオを外すことのできる月音はいない。月音との別行動中に強敵の妖と出会ってしまった。ロザリオを外すことで姿を見せる裏萌香の力なら、簡単に倒せる相手だが、封印をしたままの表萌香では心愛との2人でも倒すのが困難な敵。さらに運が悪かったと言えるのは、時空間を操れる妖が敵ということだ。
萌香と心愛が敵に向かっていくが、敵が瞬時に生成した時空移動穴へと突っ込んでしまう。
「クソっ。あいつらの出先を操る暇がなかった。まあ、いい。戻って来たとしても、今度は確実に殺す」
敵の妖はそう言って悔しさを滲ませた。

「何だ?」
直感が封印の場所へと、リゼの父の足を向けさせる。
リゼの父が着いた時にはその場所には2人の女の子がいた。萌香と心愛である。
「誰だ、お前達?」
「気が付いたら、ここへ……」
「ここ、どこだか分からないけど、戻らなくちゃ。姉さん」
「そうか」
リゼの父は返事をしたものの、この2人が普通ではないことをまたもや直感した。
一方2人は互いに顔を見合わせたまま、小声で会話する。

「そうだけど、このままだと戻れないわね。この場所、特殊な封印がされてる。妖気、じゃなくて神気?」
「特殊な封印ってことは、封じた者がいるってことよね?」
「ええ、封印者を探して力を借りるのが一番いいわね」
「俺はこれから家へ帰るんだが、乗ってくか?それ以上何かできるわけじゃないが」
そう言った直後、「この2人、何モンだ?見た目は普通の人間だが……」
リゼの父は心の中でそう思っていた。実際、それは当たっている。なぜなら、2人は人間の姿を持った妖だからだ。
「お願いします」
萌香の返事で、リゼの父は車の後部座席に2人を乗せ、車を走らせた。

 ココア達のいる町にやってきた2人。リゼの父は2人を下すと自分の家へ帰っていった。
「心愛。疲れてない?」
「大丈夫。姉さんこそ疲れてない?」
「私も平気」
町に入ってから、歩き回っている2人。この町の活気が気に入り、ずっと歩き回っているのだ。
2人は注目を人々から受けていた。特にその容姿に、である。
「何か目立ってる?私達」
「そうみたい。目的を達しやすくなるといいのだけど」
萌香の疑問の呟きに心愛が答える。

 町の賑わいの中で、ある人物の話が聞こえてくる。どうやら新刊が出たばかりの作家の話らしい。
「青山ブルーマウンテンの新刊、面白いね〜」
「読み始めたら止まらないわよね」
「今回は今までと随分毛色が違うけど、どうしたのかしら?妖怪モノなんて」
「さあ。でも『やっぱり青山ブルーマウンテンワールド』って点が変わらないのは青山ブルーマウンテンね」

「!」
今までとは毛色の違う、妖怪モノの新刊を書いた作家ということに非常に気になった2人。
作家の名前の「青山ブルーマウンテン」をしっかりと記憶し、さらに町を歩き回った。

「青山ブルーマウンテン。どんな人なのかしら?」
「分からないわ。でも、その人に会わなくちゃ」
今度は心愛の疑問に萌香が答える。
そんな2人のやりとりを聞いた町の人間が教える。
「お2人さん。ラビットハウスへ行ってごらん。きっと会える」
「ラビットハウス?ウサギ小屋ってこと?」
「違う違う。ラビットハウスは喫茶店兼バーだ。そこで見かけることが多い、って話だ。ほれ、簡単だが、地図だ」
現在地からラビットハウスまでの行き方を示す地図を受け取る萌香。
「ありがとう。行ってみます」
お礼の言葉と萌香の微笑みで、教えた人間は随分と嬉しそうな表情を浮かべた。
「ラビットハウスか・・・どんなところかしら?」
「そこへ行きましょう、姉さん」
心愛の言葉に萌香が頷いて、2人はラビットハウスへ向かった。

「いらっしゃいませ〜」
ココアの挨拶がラビットハウスに入ってきた2人へ飛ぶ。
2人はラビットハウスに残る2種類の妖気に気が付いた。心愛は2種類の妖気の片方には心当たりが思い浮かんだ。が、それは表情に出さず普通の客として振る舞う。
「あの、青山ブルーマウンテンさんにここで会えるって聞いて来たんですけど」
「今日はいないですね」
萌香の質問にチノが答える。店番はいつも通りココア、チノ、リゼの3人である。今リゼは学校からラビットハウスに来たばかりで着替えている最中だ。
「うわ〜、すごい美人」
ココアがそんなことを呟いていると、萌香と心愛は適当に席に座った。ココアがメニューを2人の席に置く。
「心愛、何頼む?」
「そうね……」
萌香が心愛の方を向いて言っていなければ、ココアは混乱しただろう。
「あの、心愛さんって言うんですか?私もココアなんです」
「そう。私は漢字で『心愛』って書くわ」
「私はカタカナで『ココア』です」
「姉さんは萌香。同じく漢字で『萌香』って書くわ」
「ええっ!私のお姉ちゃんと同じ名前!私のお姉ちゃんはカタカナで『モカ』って書くんですよ」
「私達、何だか縁がありそうね」
萌香が柔らかい笑顔でそう言った。
「おもいっきり混乱しそうだな」
口を挟んで来たのは、店に出てきたリゼである。
「ココアよりも心愛さんの方が落ち着いてる。女の子、というより女性というのがピッタリに感じる」
「私、中3なんだけど」
リゼの心愛への言葉。それに対する心愛の返事で明らかになった事実。その事実からココアは明らかに負けた気分になった。チノから子供扱いされると「私がお姉ちゃん」と言い張っているが、心愛と比べれば明らかに自分は子供に見える。
「あ、私はリゼ。ラビットハウス(ここ)で、ココア達と一緒にアルバイトをしている。ちなみにカウンターにいるのがチノ」

 漢字とカタカナという違いはあれど、姉と妹が共に同じ名前であるということにテンションが上がっているココア。
「せっかくだから、2人には私がおごっちゃう!好きなもの頼んで!」
ココアの言葉に萌香と心愛が注文を入れた。
「チノちゃん、オーダーよろしく」
「わかりました」

「さて、どうしようかしら?泊まれるお金はないし……」
「どうした?何か困りごとか?」
萌香がリゼに聞かれたことへうまいこと答えた。
「2人とも。泊まる場所がないなら、うちに泊まるといい。部屋は余っているから心配ない」
「リゼ、お言葉に甘えさせていただくわね」
萌香がリゼに答える。
「わかった。私の後輩も呼んでいいか?」
「私達は構わないわ」
今度は心愛がリゼに答える。
「じゃ、ラビットハウスが終わるまでは好きにしていてくれて問題ない。ここにいるも良し、町をもっと歩くも良し。暗くなるくらいにここへ戻ってきてくれ」
2人はリゼの言葉を聞くと、もう少し町を歩くとラビットハウスを出た。

 ラビットハウスが見えなくなったところで、萌香と心愛が話す。
「姉さん、気づいた?」
「特定の席を使ってるみたいね、青山ブルーマウンテンは。それに、もう1つの気も感じたわ」
「一体なんなの?あの喫茶店」
「それに、妖気じゃないけどリゼって子は聖水の加護を受けている、受けたことがあるわね」
「ハンターの家系かしら?」
「違うわね。妖ハンターの家系なら私達のことに気づいたはずよ。本当に微かだけど、血や銃の匂いがした。多分人間を相手に闘うような仕事か、そういう人間が近くにいるんじゃないかしら」
妖は、妖ハンターから狙われることがある。銃が弾丸を放つ際の臭いは分かっているのだ。そして、萌香の答は当たっている。リゼの父は傭兵をしているからだ。
「以前妖に襲われたことがあって、聖水の加護を受けている、受けたってことか」
「そうだと思うわ」
萌香に頷く心愛。
「じゃ、もう少し町を歩きましょう。姉さん」
2人は暗くなるまで町を歩き、ラビットハウスへ戻った。

 萌香と心愛がラビットハウスから出て、暗くなるまでの時間潰しに歩き始めた頃。
「モカ。新しいパンを作る材料探しに行くのと、パンの試作で、少しの間店を閉めるわよ」
「お客さん達はどうするの?」
「予め伝えて、休みの間は許してもらうわ」
ココアの母と姉のやりとりである。
「で、どのくらい?」
「10日〜2週間くらいかしらね」
「そんなに!?月の半分くらい閉めて大丈夫なの?」
「大丈夫よ。新しいパンの考え自体はあって、後はそれに見合う材料が必要なの。遠出をして仕入れる必要の材料があるのはもちろんだけど、全く新しい食材を試したいのよね」
モカは「全く新しい食材」に不安がよぎった。かつてココアと共に「全く新しい食材」を取り入れた食事やパンを食べた時のことが甦る。
「ココアに連絡して、泊まらせてもらお」
家の電話からココアのスマホに電話し、状況を話してラビットハウスに泊まることになった。
「こっちに来た時、詳しく話すけど。私達と全く同じ名前の姉妹がお客さんで来たんだよ。名前をカタカナで書くか、漢字で書くかっていう違いだけなんだ」
「そうなの〜すごいわね。そっちに行った時に聞かせて」
「うん!」
「お休み、ココア」
「お休み、お姉ちゃん」
電話を終えると、ラビットハウスに泊まるのが楽しみでテンションが上がった。
客への告知とモカの準備はその日のうちに完了した。ちなみに、その翌日、パン屋は期限休となり、モカはラビットハウスへ向かった。
ココアのいるラビットハウスに泊まる楽しみの他に今回楽しみにしていることがある。それはパワースポット巡りだ。パン屋の客や雑誌などで、ココア達のいる町が含まれた範囲のパワースポットの話題が上がっており、行って見たいと気分が盛り上がっていたのだった。

 ラビットハウスへ戻ってきた萌香と心愛。帰り支度を終えたリゼが店の前で待っている。
後輩であるシャロには休憩時間に携帯で連絡し、今晩の誘いをかけたところ、2つ返事が来た。一方のシャロの方は連絡を受けた際、隣家兼甘味処の千夜の家の前だった。その様子を見かけた千夜は一緒に行くことにしたのだ。

「戻ってきたか。それじゃ、行くぞ」
リゼがそう言って歩き出す。萌香と心愛はついていく。
「姉さん」
心愛が萌香に呼びかける。
「聖水の臭いが濃くなってきてる」
聖水自体にはうっすらと特別な臭いがあるが、人間には感じられない。動物や妖のように嗅覚が人間より遥かに強い生物なら感じることができる。しかし、効力があるのは妖に対してだ。聖水を作る目的からして、妖にだけ効力が発揮されればいいからだ。
「リゼを加護している聖水の大元がリゼの家にあるってことね。きっと」
 しばらくリゼ達3人が歩くと、リゼの家についた。
聖水の臭いが最も濃くなっており、下級の妖は家の付近に近づいただけで消滅するのに十分な状況だ。萌香と心愛は上級の妖であり、充分な実力も兼ね備えているので、濃い聖水と言えども臭いでは影響を受けることはない。
そんなことは全く知らないリゼが玄関のドアを明け、萌香と心愛を招き入れる。

「親父、帰ったぞ」
「おかえり、リゼ」
よくある親子の挨拶だが、萌香と心愛は驚いた。自分達を車に乗せた男がリゼの父親だったのだ。それに中の方が聖水の臭いがさらに濃い。
「あなたは……」
「お前ら……」
萌香の言葉に、リゼの父が驚きと微妙な疑念も入り混じったように反応した。
「その2人は?」
リゼの父がリゼに尋ねた。
「姉の萌香、妹の心愛。2人は姉妹だ。うちに泊めることにした。部屋も余ってるしな。シャロも後で来ることになってる」
「そうか。2人とも適当に泊まってくれ」
「ありがとうございます」
萌香がリゼの父に礼を言った。
「こっちだ」
リゼが余っている部屋2つを萌香と心愛にあてがう。
「ありがとう、リゼ」
萌香がリゼに礼を言った。
「気にしなくていい。夕食までは時間が少しかかる。その間に風呂を案内する」

 リゼが2人を風呂に案内している間。リゼの父は萌香と心愛のことについて考えていた。
「封印の場所で出くわした2人と再会とはな。リゼの物心つく前のアレの再来か?」
10数年前に妖の類と戦ったことを思い出した。その出来事以来、充分な準備ではなく、過剰な準備を意識するようになったことも思い出し苦笑した。

 風呂を案内して、すぐに入るかどうか尋ねるリゼ。風呂の準備は既にできているので、いつでも入れる状況だ。
「お風呂、頂くわね」
「ああ、ゆっくりしてくれ」
萌香が風呂を使うと言うと、リゼが返事をした。
「姉さん。やっぱり」
「聖水のこと?大丈夫よ。水回りは聖水じゃないわ」
「だけど……」
「あんまり余計なことは気にしないで、お風呂に入ろ?」
「分かったわ。姉さん」
しばらくして風呂から出た2人はリゼが用意していた服に着替えた。心愛にはピッタリだが、萌香には少しだけ窮屈だ。とは言え着られない程の窮屈ということではない。

「2人とも、上がったのか。夕食がもうすぐできるから来てくれ」
リゼが2人を連れて食堂に移動し、夕食を取る。
「2人はどうしてこの町に?それに普通の人間と違うような気もするんだが、気のせいか?」
萌香と心愛がどう答えるべきか、という様子で顔を見合わせる。
「そうね。普通の人間とは違うというのは合ってるわ。私達は、妖だから。妖怪って言った方がいいかしら」
萌香が答えた。
「なるほど。まぁ、ティッピーがいるから、普段から慣れているせいかもしれないな」
「ティッピー?」
慣れているといった風情のリゼに対し、今度は心愛がティッピーのことをオウム返しに聞いた。
「ティッピーはチノの祖父だが、うさぎの姿をしている」
リゼが答える。
「うさぎの姿の妖なの?」
「そうかもしれないが、出会った時から自然に受け入れてたし、考えたことなかったな」
萌香の質問にはいささか予想しておらず面食らった体で、リゼは答えた。
「私達は、私達の世界で敵の妖と闘ってた。その相手を攻撃した時……敵が瞬間的に作った時空移動の穴に飛び込む形になってしまったの。気が付いたら、こちらの世界のある山の中にある封印の場所へ出てきたわ。で、あなたのお父様に車でこの町に連れてきてもらったわけ」
萌香がリゼに説明した。
「ということは、元の世界に戻る必要があるんだな?」
「ええ。で、封印の場所には特殊な気が感じられたわ。私達はその封印の場所から帰るということになるのだけれど、封印した者達の力を借りるのが一番手っ取り早いと考えた。それを感じられたのが、ラビットハウスなのよ」
今度は心愛が説明する。
普通ならにわかには信じがたい話だが、ティッピーと共に過ごしてきているので、別に信じられないような話でもないし、驚くようなことでもない。
「今日はティッピーも青山ブルーマウンテンもいなかったが、数日の間にどっちにも会えるだろう。しばらくはうちにいるといい」
「ありがとう。リゼ」
「リゼ、1つ聞いてもいいかしら?」
「何だ?」
「あなた、聖水の加護を受けてない?私達は妖の中でも上位に位置するから問題ないのだけど。下位の妖なら、聖水の臭いだけで消えてしまう程聖水の臭いがするのよね」
「昔、私が物心つくまでの間に何かあったらしい。何度か親父に聞いても答えてくれない。萌香が言う『聖水の加護』を受けたとしたら、その時だな」
食事時には少々物騒な話と共に全員食事を終えた。食事時の空気を吹き飛ばすかのように、明るい来訪者の声がした。

「こんばんは〜」
シャロがやってきたのだ。リゼの家に泊まれるとあって、見るからにテンションが上がっている。
「いっしょに来たんだけど、いいかしら?」
千夜もいる。千夜はシャロの隣に住んでいるので、リゼがシャロを誘った様子を把握していたのだ。
「千夜か。全然問題ない」
「良かった。これ、差し入れ」
個包装になっている数種類の和菓子が入った袋をリゼに差し出す。
「あら、そちらの方々は?」
千夜がリゼに尋ねる。
「ああ、親父が山の中で2人を拾って町に連れて来たんだ。青山ブルーマウンテンに会いにラビットハウスへ来たんだが、今日はいなくてな。うちに泊まるよう誘ったんだ」
「私は赤夜萌香」「朱染心愛。妹よ」
「私は千夜。よろしく」
「よろしく」
萌香が千夜に挨拶を返すが、心愛は黙っている。
「私はシャロ。リゼ先輩と同じ学校の後輩」
「萌香さんに心愛さんか。モカさんとココアちゃんと同じ名前」
シャロの挨拶に続けて、千夜が思ったことを言う。
「ええ。ココアさん本人が言っていたわ。私達は名前を漢字で書くけど、ココアさん達はカタカナで名前を書く違いがあるって。それに、ココアさんより心愛の方が年下だって聞いてすごいショックだったみたい」
萌香の言った事に、千夜は納得と怪しい笑顔を浮かべた。
「千夜、何て顔してるのよ」
シャロがツッコむ。
「何でもないわ」
誰がどう見ても何でもないという表情ではなかったが、すぐにそれは消えた。
「青山ブルーマウンテン先生の新刊、まだ読んでないのよね〜」
千夜がそんなことを言うと。
「青山ブルーマウンテンって作家はそんなに人気なの?」
萌香が千夜に尋ねる。
「そうね〜人気作家って言えると思うわ。恋愛を題材にした小説を良く書いてる。今回はどういうわけか、妖怪モノになってるのが不思議なのよね」
千夜が本当に不思議がりながら萌香に答えた。
「さて、私の部屋へ行くか」
リゼの言葉に従い、5人はリゼの部屋へ移動。かなり早い時間からのパジャマパーティーが始まった。そして夜明けを意識し始める時間にお開きとなり、全員眠りについた、ように見えた。萌香と心愛が念話で話をする。

「姉さん」
「心愛、どうしたの?」
「青山ブルーマウンテンの妖気、いえ神気。青龍のじゃない?」
「青龍?あの青龍ってこと?」
「あの席の神気、青龍の神気だと思う。今考えると」
「もし感じた神気が正しいなら、青龍の神気や力を受け継ぐ一族の者。それが青山ブルーマウンテンってことになるわ」
「それが本当ならとんでもない大物だけど、普通の人間と同じくらいの強さっていうのはどういうことかしら?」
「人間界で生きていく為に神気や力を弱めていったからじゃないかしら。人間の姿に見合った力でないと、色々面倒だしね……」
萌香のその言葉で念話を終わらせ、萌香と心愛は眠りに着いたのだった。

 リゼが萌香と心愛を待っている時、ココアとチノは元々泊まりの予定になっていたマヤとメグを待っていた。
ココアとチノはラビットハウスの奥にある、チノの家に引っ込んでいる。今はチノの父であるタカヒロがマスターになっているバータイムの準備中だ。その準備中にリゼは萌香と心愛と合流し、帰宅した。

「こんばんは〜」
マヤとメグの声がハモり、タカヒロに挨拶する。
「いらっしゃい、マヤちゃん。メグちゃん。チノ達なら奥だよ」
チノからマヤとメグが泊まりに来ることを聞いていたタカヒロがチノとココアのことを教える。
「ありがとうございます」
メグが礼を言った。今度はマヤとメグが2人揃って、「お邪魔します」と挨拶し、ラビットハウスの中を抜けようとする。
 タカヒロの開店準備が進む。のだが、バータイムとしては、非常に珍しいものが大量に仕入れられている。メグの足が止まったのにつられて、マヤの足も止まった。

「チノちゃんのお父さんがされているのって、お酒を飲むバーですよね?」
珍しいものを見たマヤがタカヒロに確認する。
「ああ。これことかい?実は、最近はちみつがかなり大量に取れるってことがあってね。大量に安く仕入れられることになったんだ」
「それでですか〜」
「ま、大量に仕入れてもチノやココアちゃんが消費してくれるだろうし、料理にも使える。もっとも、自分としてははちみつベースのカクテルなり、はちみつ入りの酒を提供できるメニューをとは考えているがね」
タカヒロにそんなことを言われたメグは、はちみつについて、以前何か聞いた覚えがあった気がしたのだった。

「ふぅ」
準備が一段落し、軽く吹き矢に興じるタカヒロ。マヤはその様子を見て、何かひっかかるというか気になるというか、そんな思いが湧き出た。
「?何だろう?」
すぐには解消できそうにないので、ひとまずはそのままチノやココアと合流することにし、メグと共にラビットハウスの奥に消えた。
「それにしても、ここ最近のはちみつの量は異常だな。一体何が起こるやら……」
タカヒロは1人呟いた。

 チノの部屋にマヤとメグ、ココアがいる。
「じゃーん!」
荷物からパワースポット巡り特集の記事が載った雑誌をメグが取り出す。
「今日泊まりたいっていうのは、これ絡みだったんですね」
チノは疑問が解けたといった表情をした。
「うん」
そう返事をして、メグが特集頁を開いた。
「この雑誌のパワースポット特集、何かすごいことになってて。人によっては『パワースポットへ行こうと思っただけでご利益があった』みたいなことを言ってるって噂を聞いたの。で、本当ならチノちゃんにもご利益があるんじゃないかと思って」
「ありがとうございます」
「へぇ〜パワースポット巡りか〜いいな〜行きたいな〜」
「ココアさん、バイトはどうする気ですか」
「ラビットハウスを休みにして」
「怒りますよ」
ココアの冗談半分の返答に対し、チノは本気交じりの返しである。
「ごめんごめん。でも、みんなで行ければって思う」
「マヤ、メグ。どうしたんですか?」
チノが2人に問う。
「チノのお父さんの開店準備を見てたら、何か気になって。何が気になっているのか分からないんだけど」
マヤが答える。
「私もマヤちゃんと同じような感じ。でも、私ははちみつについて何か聞いた覚えがあったなってことなんだけど」
「そういえば、ここ最近すご〜〜〜〜〜くはちみつが取れるという話を聞きました。この時期にとれる量の増減の幅を超えているとか」
「メグははちみつについてか。ボクはチノのお父さんがやってた吹き矢を見て、何か引っかかったんだよな」
マヤもメグも気になることはひとまず置いておくことにした。そうして4人は夜を楽しく過ごし、朝を迎えたのだった。

<破 儀式と歴史と……>
<2日目>
 翌日。ココアの姉であるモカが町にやって来た。町の様子を確認しながら、雑誌に特集されているどこのパワースポットに行こうかと当たりをつけている。
なぜなら、ラビットハウスのある町を中心とした半径数10km圏内には、噂や都市伝説的なものも含め、パワースポットが結構な数あるという。

「ふむ、大丈夫なようじゃな。あれほどの妖気が現れたのに封印が全く破れておらんとはの……」
ティッピーが封印とパワースポットの確認をしている。多数あるパワースポットだが、実は大事なパワースポットは8か所。それ以外は8か所に力を集める為のエサ的なパワースポットになっている。大事なパワースポットが特殊な封印を継続するものであり、その封印継続のエネルギー供給元として、8か所以外のパワースポットがあるというわけだ。

「このあたりのパワースポット巡り、したかったのよね」
そんなことを呟いて歩いている。ココアのもとを訪ねて数日共に過ごせるくらいの状況ができたのだ、それを生かさない手はない。

 リゼの家に朝日が入ってくる。
「ふわぁ〜、おはよう」
シャロが寝ぼけ気味に朝の挨拶をする。
リゼの家でパジャマパーティーという興奮が、眠りを浅くしたのだ。それ故なのか、実は昨夜の萌香と心愛の念話が聞こえていた。元々「見える」タイプではあるが、念話を聞いたのは初めてだった。
「おはよう」「おはよう」
リゼと千夜もシャロに朝の挨拶を返す。
少し間をおいて、萌香と心愛も起きてきた。
「朝食は今から準備するから少し待っててくれ。まずは顔を洗おう」
リゼの指示で、5人が洗面所へ向かう。リゼを先頭に千夜が続く。少し離れて、シャロ。シャロの数歩程度の後ろに萌香と心愛が並んで向かっている。シャロは後の2人に話しかけるべくスピードと歩幅を調整して萌香と心愛の直前に来た。
「2人とも、昨夜話してた話ってどういうこと?」
「私達の話、聞いてたの?」
心愛がシャロに尋ねる。
「聞いてた、聞こえてた、どっちが正しいのかしら?ま、そんな感じ」
「そう」
隠すよりも話してしまった方がいいと考えた萌香が続ける。
「朝食の時に話すわ」
「分かったわ」
シャロは萌香が話す意思を見せたので、リゼと千夜の方に混ざりに行った。
「姉さん……」
「あの特殊な封印。青龍の神気だけじゃ維持できないものだと思う。なら、その封印の維持をどうしているのかも気になる。封印した者達に力を借りる際に知っている必要があると思うわ」
心愛は萌香の言葉を受け入れた。洗顔と着替えを全員が済ませて、数分もすると、朝食になった。
「千夜、シャロ。リゼには話してあることだけど、あなた達にも話しておくわ」
萌香が切りだした。
「?」
千夜は何のことか全く分からない、という表情だ。
萌香と心愛が、自分達の存在・ここまでの経緯と目的を話す。
「2人は元の世界に帰るのね」
「青山ブルーマウンテン先生が、そんな存在だったなんて」
千夜とシャロの反応は如何にもそれぞれらしい。
「ま、そういうわけで、うちに2人がしばらくいるということだ」
リゼが付け加える。
「今日はどうするのかしら?お2人さん。特にこれをするという予定がないなら、この町付近のパワースポット巡りなんてどうかしら?」
「パワースポット?」
千夜の提案に心愛が疑問の表情を浮かべる。
「あ、最近雑誌とかで特集されてるやつじゃない?そのパワースポット巡り」
その心愛の表情を目にしながらも、あえて千夜に続いてシャロが言った。
「そう言えば、最近の親父の仕事はそのパワースポット関係が多いような……」
リゼは考え込むというよりは思い当ることを思い出した様子だ。
「朝食が終わったら2人に雑誌を見せてあげる。荷物の中にそのパワースポット巡りの記事が載った雑誌を持って来てるから」
シャロが2人に雑誌を見せると言い、ひとまず話は終わった。

 朝食が済むと、萌香と心愛はシャロの持っていた雑誌のパワースポット記事を見た。
記事にあるパワースポット群の地図、封印の場所の方角と車での移動距離等々から、パワースポット群の中心に位置するのが封印場所。封印場所を中心に8方向にそれぞれ1つずつ人気のパワースポットが存在し、その8つのパワースポットへのパワー供給源として、パワースポット群が存在することは自分達の知識から導き出せた。
「ひょっとして、青山ブルーマウンテンは、私達が現れるのを予期して新刊を作った?」
「どうかしら。偶然かもしれないし、何とも言えないんじゃないかしら」
心愛と萌香が顔を見合わせながら、そんなやりとりをする。
「偶然って言えば、ラビットハウスのココアのお姉さんもモカって名前で、私達と同じなのよね」
「あの妖、時空の穴を瞬間的に作ったでしょ?だからどこへ私達を飛ばすかの制御までは出来なかったんだと思う。だから字は違うけど同じ名前の姉妹がいるこの世界に出た。そういうことじゃないかしら?」
萌香の返事に心愛は楽観視が過ぎると頭痛の表情を見せた。
「そんなに変かしら?」
「そういう考え方、素敵だと思いますよ」
萌香の疑問に千夜がそう言った。
「千夜……ありがと」
萌香が千夜に礼を言った。
「あなた達って本当に不思議ね。私達をこんな普通に受け入れるなんて」
「人間、生きてれば色んなことがあるものよ」
「あなた、ほんとにリゼ達と同じような年なの?その年で、その達観ぶりは信じられないわ」
「あら。心愛さん、随分と失礼ね」
心愛は地雷を踏んだと確信した。千夜は怒らせると恐いタイプなのだと認識するのにかかった時間はほんの一瞬。
場の空気がマズい状況になったが、そろそろ動き始めねばならない時間で、時計がそれを告げた。
「シャロ、この雑誌借りていいかしら?パワースポット巡りに行ってきたいの」
「いいわよ。私、この雑誌を定期購読してるけど、パワースポット巡りには行けないから。バイトのシフトが入ってるし」
「千夜、提案ありがと」
「どういたしまして」
萌香がシャロと千夜に礼を言う。
「萌香、心愛。ラビットハウスはどうする?」
「このパワースポットの数だと何回かに分けていく必要があるから、切りのいいところで、ラビットハウスに行くわ。で、青山ブルーマウンテンに会いたい」
「分かった。じゃ、ひと段落したらラビットハウスに来てくれ」
「そうするわ。行きましょ、姉さん」
萌香と心愛はパワースポット巡りを開始。リゼはラビットハウスへ。千夜は自分の店の手伝い。シャロは一度自分の家に帰ってからバイト先へ向かうのだった。

 ココアの姉、モカがパワースポット巡りをどこからしようかと考えていると。ふと、何かが肩に乗って来た。ティッピーである。
「あら?ティッピー?」
ティッピーが返事代わりに、モカの見ている雑誌に飛び移った。その為、急な重さの増加に雑誌を落としてしまった。
雑誌を拾いあげた瞬間、モカはある人物を見つけた。青山ブルーマウンテンなのだが、すぐに見えなくなってしまった。
「青山ブルーマウンテン先生!?」
これはパワースポット巡りをしようとして運気が上がったのだと吉に解釈し、ひとまずラビットハウスへ向かった。

 ラビットハウスにいるのは、ココアとチノだ。リゼからは「開店時間から少し遅れて入るかもしれない」と言われているので特に心配するようなことはない。後輩、つまりシャロを誘うと言っていたので、夜更かしになるのはココアもチノも想定内だ。
「こんにちは〜」
「あ、お姉ちゃん!」
モカの挨拶にココアが反応する。
「こんにちは」「こんにちは」
マヤとメグはラビットハウスが開店してからも、席の1つにいる。
「町についてすぐ青山ブルーマウンテン先生を見かけたの。ラッキーだったわ。これもパワースポットへ行こうとしてるからかしら」
「パワースポットか〜行きたいけど、ラビットハウスのこともあるし」
「お姉さん、突然来られたのは何故ですか?」
「お母さんが『全く新しいパン』を試作するって言い出してね。『全く新しい』って部分がちょっと」
「分かりました。昨日ココアさんから『モカさんが泊まる』って聞いてたので、部屋を準備しておきました。使って下さい」
「ありがとう、チノちゃん」
「いえ。これくらいは。いつもココアさんにはお世話になってますから。ココアさんはモカさんを準備した部屋へ案内してください」
「はーい。お姉ちゃん、こっちだよ」
チノへの返事をし、モカを案内するココア。モカの手を引いて、店から家の中へ引っ張っていく。
「この部屋だよ」
モカが使う部屋の前に着くと、ココアが扉を開ける。
「どうぞ」
「ありがとう、ココア」
「荷物を置いたら、店へ来て」
「ええ。そうするわ」
「じゃ、先に店にいるね」
ココアは店に戻っていった。その時に、同じ名前の姉妹のことを後で話すというのも付け加えた。

 ココアが店に戻りラビットハウスは2人になった。
「今日は萌香さんと心愛さん、来るんでしょうか?」
「う〜ん。どうだろ?リゼちゃんが来れば分かるんじゃない?」
「そうですね」
そこで2人のやりとりが途切れた。しばらくすると、ティッピーが現れた。
「ティッピー!どこ行ってたんですか」
心配と安堵が入り混じったようにチノが言う。
数日前、青山ブルーマウンテンの新刊発売・パワースポット特集の雑誌発売があった。その2つが分かってから、ティッピーが姿を見せなくなって気にしていたからだ。
「何、ちょっとばかりあちらこちら行っておっただけじゃ」
ティッピー(自分)の行動のことが分かると面倒なので、心の中だけで呟き口には出さなかった。

「あら、みんな勢揃い?」
モカが軽い手荷物とパワースポット特集の載っている雑誌を持って、ラビットハウスへ入ってきた。
「お姉ちゃん」
ココアは姉がいることで上機嫌だ。
「こんにちは」「こんにちは、モカさん」
「こんにちは。いつもココアがお世話になってます」
マヤとメグがモカに挨拶すると、モカが挨拶を返す。
それに対し、マヤがこう続けた。
「はい、お世話してます」
「マヤちゃん、私がお世話してるでしょ〜〜〜」
「ココアさんがお姉さんぶるのは相変わらずですね」
冷静且つ的確なツッコミがチノから繰り出される。
「チ〜ノ〜ちゃ〜ん……」
ココアは瞬間的にガックリしたが、モカがいるということでテンションが簡単には下がらない。モカを適当な席に案内し、座らせようとする。
「ココア、青山ブルーマウンテン先生が良く座る席は避けてくれ」
「?」
ココアは疑問に思わなくなかったが、リゼがこういうことを言うのは滅多にない。
「うん。じゃ、お姉ちゃん。ここの席へどうぞ」
「はいはい。今日のおススメなメニューがあれば、それを」
「チノちゃん。本日のオススメを1つ!」
「分かりました」
チノが注文の対応に入った。

 モカが席に着いて、パワースポット特集の頁の最初を開く。
「マヤちゃん、メグちゃん。どうぞ」
モカが席に来るよう2人へ手招きしたので、2人はモカの向かいに座った。モカから見て左側にマヤ、右側にメグと座っている。

「あ、その雑誌……」
遅れてきたリゼがパワースポット特集の雑誌に反応した。
「リゼちゃん、萌香さんと心愛さんは?」
ココアがリゼに聞く。
「2人とも全部のパワースポットを回るつもりだ。で、今日は切りのいいところまでパワースポットを回ったら、ラビットハウスに来る」
リゼは、ココアに返事をしながら店内を見回す。ティッピーがいること・青山ブルーマウンテンはまだいないことを確認した。

「萌香さんと心愛さん?」
「ココアならいるじゃん」
メグとマヤの反応はもっともだ。
「あー、ココアやココアのお姉さんのモカさんとは別人だ」
リゼが2人の言葉に反応する。
「2人はちょっとした事情でこの町に来てる。で、その事情の解決にパワースポット巡りが必要らしくてな。雑誌のパワースポット特集の場所を全部回るつもりなんだ。始めたのがついさっきだから、何日か、あるいはしばらくいるだろうな。で、2人は泊まるところがないってことでうちに泊めてる」
マヤとメグはリゼの説明に納得したようだ。
「いいなあ。一緒に行きたい」
メグがポツりと漏らす。
「気持ちは分からなくはないが、2人はこの町に来ることになった事情の解決の為にパワースポット巡りをしている。一緒にいると邪魔だろう」
「はーい」
諭すとまではいかないまでも、分からせる口ぶりのリゼの言葉。メグはがっかりしながらも受け入れた。メグの様子から数分もすると、モカが頼んだ本日のオススメが席に運ばれたのだった。それはパフェをベースにしたスイーツ。本日のオススメは他のメニューより少し高いので頼まれる割合が少ないし、幸い他のメニューで充分な利益が出ているので、豪勢なシロモノにしても問題ない。朝から食べるスイーツとしては重い部類、のはずだが全く気にしていない。嬉喜としている様子が明白にそれを物語っている。

 モカがそのスイーツをパクつき始めると。
「モカさん。パワースポット特集の雑誌を持ってるってことは、パワースポット巡りですか?」
メグがモカに聞いた。
「ええ。普段は行ける機会、あんまりないわね。お店があるし」
「それならどうしてラビットハウスに?」
「お母さんが『全く新しい』パン作りをするって言ったから、かしら。完全新作のパンを作るのに、すっごい味と材料の組み合わせを平気でするのよね。子供の頃、味見した時の感覚を思い出したくないわ」
トラウマになっているかのような様子がモカから見て取れる。
「で、その新作パン作りに10日〜2週間くらい時間を取る・その間は店を閉めるって言ってたから、ココアのところに来てパワースポット巡りもいいかなって。それに青山ブルーマウンテン先生も良く来るって話だから、サインもらおうと思って。先生の本、結構読むの」
「青山ブルーマウンテン先生、すごい人気ですよね」
「今回はいつもと毛色の違う妖怪ものよね。それでもいつもの先生節は変わらないけど」
青山ブルーマウンテンの新刊に関しての雑談から同じ時期にパワースポット特集の雑誌が出たということで、そちらに話が移った。

「モカさん、パワースポット巡りはどこから行くんですか?」
「どこから行こうかしら?」
「人気の場所は、いつ行っても混んでるらしいです」
「となると、そういう場所は後から行った方が良さそうね」
そこへココアが話に入る。
「あ、そう言えば。お姉ちゃんに同じ名前の姉妹の話するって言ってたでしょ。その2人、今パワースポット巡りに行ってるの。一区切りついたら来るから、実際に行った人の話を聞いてどこに行くか決めるのはどうかな?」
「いいわね。ところで、その姉妹って?」
「うん。萌香さんと心愛さん。萌香さんがお姉ちゃんで、心愛さんが妹。私達は名前をカタカナで書くけど、2人は漢字で書くの。で、2人ともすっごくキレイで大人っぽいの。心愛さんが私より年下なのはショックだったな。チノちゃんに心愛さんの方がお姉さんだって言われちゃった」
「それは会ってみたいわね。特に心愛さん。ココアよりどのくらい大人っぽいのかしら」
「お姉ちゃんまで、もう!」
ココアの反応を楽しんだモカであった。

「マヤとメグはどうする?」
リゼが2人に尋ねる。
「どうしようかな。気になっていることを調べる方がいいと思うけど、どうすればいいやら」
「私は後で図書館に行こうかなって。はちみつについて調べたいから」
「2人が気にしていること?」
リゼが疑問を口にすると、2人はそれぞれリゼに答えた。
「なるほど……メグのはちみつの方は分からないが、マヤの気になっていることの方はマスターや親父に聞くとヒントが出て来るかもしれないな。それに図書館や実際の場所に行って見ることだって調べることになる」
「うん。帰ったら聞いてみる」
マヤが素直にリゼの言葉を受け入れた。
「私は、図書館に行ってみます」
メグは図書館で調べるとリゼに返事をする。
「分かった。で、2人とも何を頼む?」
しっかりとリゼが注文を2人から取り、マヤとメグは注文したものをきれいに片づけると、帰っていった。

 まずはマヤ。自宅に帰ると、吹き矢の様子を見て何かひっかかった件を両親に話した。すると……
「マヤ、話しておくことがある」
そこでマヤは自分の出生に関わる話、そしてもう1つあることを聞かされたのだった。
 メグは図書館に向かい、はちみつについて調べた。しかし、食べ物としてのはちみつについて調べることは出来ても、メグの気になるはちみつに関することは全く調べられなかった。リゼの言葉を思い出す。自宅に帰って、両親に尋ねるとメグの父が答えた。
「そうか、はちみつのことについて聞きたいのか。昔、親戚が集まった時に話があった。が、その時お前は小さかったからな。もう1度話そう」
メグも自分の家系に関すること、はちみつについて聞くことが出来たのだった。
マヤとメグ、それぞれが聞いたことは点だが、8つのパワースポットと封印の場所を繋ぐ
線になるとは予想もしていなかった。

 マヤとメグが帰ってから、しばらく経つと新しく客が入ってきた。客は青山ブルーマウンテンで、いつもの席に座った。
小さなショルダーバッグを自分の脇に置いて、ブックカバーのかかった本を取り出す。大きさからすると文庫本くらいのようだ。
今日は本を一区切り読んでから注文を入れるつもりらしい。ココアやリゼが「ご注文は?」と聞くのを躊躇うくらい集中しているのが分かる。読んでいるのが何なのかは分からないが、普段とは違い、百面相と顔芸の披露会状態。それが終わったところで青山ブルーマウンテンが、カウンターにいるチノに向かって直接注文を入れた。
「ブレンド、1つ」
「分かりました。少々お待ちください」
チノがオーダーを受けて、ブレンドを淹れ始める。数分後、ブレンドコーヒーが青山ブルーマウンテンの席に運ばれた。席に運んだのはリゼだ。
「ふぅ〜」
「すごい集中力でしたね」
リゼが百面相や顔芸のことは触れずに、話しかける。
「ええ。読むのに体力がいる本なのよね。内容につられて自分の感情が表に出ちゃうの」
青山ブルーマウンテンの言葉にリゼは納得した。
「あの……あなたに会いたいという姉妹がいるんですが、そのうち来ると思います」
「あら。どんな人たちかしら」
「それはお楽しみということで」
「そう。会ってみるのが1番ってことね」

 ふいにティッピーが青山ブルーマウンテンの席に現れた。席の真ん中に陣取っている。
「ティッピー、どうしたの?」
ティッピーがじっと青山ブルーマウンテンを見た後、体ごと店のドアの方を向いた。
「?」
青山ブルーマウンテンは不思議に思いながら、視線をドアの方にやる。
すると、2人入ってきた。
「萌香、心愛。ティッピーも青山ブルーマウンテン先生も、いるぞ」
リゼが2人に声をかける。
「良かった!」
萌香が嬉しそうに口にする。そして2人は青山ブルーマウンテンの席の傍へ移動した。
「私は赤夜萌香」「朱染心愛。妹よ」
「青山ブルーマウンテンです」
青山ブルーマウンテンの声を聞きつけて、モカも青山ブルーマウンテンの席に来た。

「今度の新作は今までと毛色の違う妖怪モノって聞いたんだけど、何故?」
心愛が青山ブルーマウンテンに尋ねる。
「龍が出る夢を見たから、かしら」
「!」「!」
この答えに、萌香も心愛も驚いたが納得できた。間違いなく、青龍の一族の者だと。
「その夢を見たのが半年以上前。そこから、新作ネタの1つとしてずっと頭の片隅にあった。でも、3ヶ月くらい前に一気に話が浮かんで書き上げたわ。編集としては思いもよらぬ新作が出てきたのがうれしい反面、今までにない妖怪モノってことと販売や販促やらのことで、色々大変だったみたい」
そこで青山ブルーマウンテンは言葉を区切った。萌香と心愛をじっと見て、さらに言葉を続ける。
「あなた達2人を見てると、龍の夢を見た時と同じような感じがするのだけれど、なぜかしら?」
「私達2人は人間じゃない、からよ。私達は妖。妖怪といった方が分かりやすいかしら」
萌香が答える。
「あなたが見た龍は神の1柱。東の青龍よ。そして、あなたは青龍の血筋だから、夢に青龍が現れた」
心愛が萌香に続けて青龍のことを話す。心愛の言葉を青山ブルーマウンテンはそのまま聴いている。
「この町は封印の場所から東側に位置している。それにこの町の気候。ずっと春のような状態と水の豊かさは青龍の守護を受けているからこそ。青龍が司る方位は東、季節は春、司る4大元素は水だもの」
と、心愛は話を続けた。

「青龍の一族として、お前達が来るということを予知したのが、龍の夢だったということじゃろう」
今度はティッピーが萌香と心愛を見ながら口を挟む。青山ブルーマウンテンはティッピーの言っていることを理解できた。青龍の血筋というのを体験・体感したのだ。
「でも、龍の夢があったにしても、私達がこの世界に現れるとは限らないでしょう?」
ティッピーの言葉に対して、萌香が疑問をぶつける。
「お前さん達がこの世界に現れることになったのは、モカとココアという同じ名前の2人との縁じゃろう。その縁が、この世界へお前さん達を現れさせたのではないかのう。そんな気がするの」
ティッピーは自分の予想を言った。

「2人が現れる時に合うよう、新刊の内容を合わせたり、タイミングを計って出させるようにした?」
今度は青山ブルーマウンテンがティッピーに尋ねた。
「その部分は青龍の力が影響を及ぼしたのか分からんの」
ティッピーが素直に答えた。

「パワースポット特集の記事が盛り上がっているのは、何か関係があるのかしら?」
この疑問を呈したのはモカだ。
「あの封印の場所に、パワースポットが関わっておる。いくつもパワースポットがあるが、重要なのは8つ。その8か所が封印継続のエネルギー供給元になっておる。封印継続に必要なエネルギーが足らなくなると、封印が解かれてしまい、萌香や心愛達の世界とこちらの世界が繋がってしまうことになる。そうなれば……こちらの世界は妖が溢れ、人間が日常生活を送るのはまず不可能じゃ」
ティッピーが静かに答える。

「青龍が青山ブルーマウンテンの夢に登場し、新刊を作らせた。その内容はパワースポットにも目を向け、足を運ばさせるもので、封印継続のエネルギーを得るに充分なもの。さらに、パワースポットの特集記事が同じタイミングで出るようにして、より多くの人々の足を向けさせた」
心愛が自分の把握したことを口にする。
「青山ブルーマウンテンのできることは新刊を世に出すというところまでじゃから、パワースポット特集の記事は誰か別の者が仕掛けたんじゃろう」
「今日行ったパワースポットの中に、重要な8つのパワースポットの一部が含まれていたわ。確かにあなたの言うとおりね」
心愛に対するティッピーの反応に納得する萌香。
さらに話を続けようとしたところで、新たにラビットハウスに現れた者がいる。青山ブルーマウンテンの担当編集、凛である。
「先生!もう、こんなところに!ちゃんと来てください!」
有無を言わさず凛が青山ブルーマウンテンを引っ張って行く。
「みなさん、すいません」
謝る言葉を発して、連れて行ってしまった。あっという間の出来事だったが、萌香と心愛は凛に関して気が付いたことがあった。神気を感じた、ということだ。
「今のは麒麟の神気?」
「姉さん、今の麒麟の神気よね?」
萌香と心愛の意見は一致した。
「今の人物、ちゃんと覚えておいた方が良さそうね」

「あー、今日はもう話をするのは無理だな。萌香、心愛。ひとまず休憩はどうだ?」
リゼが促す。
「そうさせてもらうわ」
萌香が返事をし、萌香と心愛は青山ブルーマウンテンのいた席に向かい合って座った。
カウンターからは萌香が左、心愛が右に座って見える。

「心愛、明日も続けるわよ」
「そうね。このペースで行けばかなり早く、全部行けそう。私達なら明後日には全部回れるだろうけど、それだけじゃ帰ることはできないわね」
「青龍の血筋の者、青山ブルーマウンテン。それに8つの重要なパワースポット、その8つに連なる数々のパワースポット。でも、まだ何か足りない」
「8つのパワースポットから封印の場所に流れてくる気は当然として、あの作りだと、まだ何か流れるものが必要なはずなんだけど」
「それも調べないとね」
 そんなことを手始めに話をして時間が過ぎていく。やがて、バータイムの時間が目の前に迫ってくる。
「萌香、心愛。そろそろバータイムの時間になる。喫茶店の営業は今日は終了だ」
リゼが営業終了目前であることを告げる。
「リゼ。バータイムは誰が店をするの?」
「チノの父親だ。うちの親父との昔馴染みでもある。そういえば、マスターに聞けば、分かることもあるかもしれないな」
「ありがと。ちょっとマスターに聴いてみたいことがあるから、それから帰るわ」
「そうか。先に帰っても大丈夫か?」
「ええ」
萌香の質問に答えた後、切り替えの為の店の片づけが始まる。ココア、チノ、リゼの3人で行い、萌香と心愛は外に出ているよう促されていた。

「で、マスターに何を聞くの?姉さん」
「足りないものと……聖水について、かな」
「?何でそんなことを?」
「足りないものっていうか、封印と8つのパワースポットを結ぶのに使われていたのは聖水じゃないかと思って」
「封印は青龍という神の力。8つのパワースポットという封印を継続するための場所。聖水なら『結べる』ってこと?」
「その可能性もある、ってこと。そうであろうとなかろうと、どっちにしても、リゼの家の聖水の濃さ。あれほどの聖水がどうしてあるのか、気になるのよね」
萌香は聖水以外にもう1つ候補が頭にあったが、それは言わないでおいた。
「聖水の出所が、リゼの家?」
「ま、聴いてみましょ。姉さん」

「萌香、心愛。喫茶店の片づけが終わった。しばらくすればマスターが店を開けるはずだ。お前達のことは伝えておくから、少ししたら入ってくれ」
「ありがとう、リゼ」
心愛がリゼに礼を言った。
 萌香はその場で町の様子を見ていた。
「穏やかであったかくて。いい町ね、ここ」
呟きながら、町の様子を見続けていると……少し、よりも多くの時間が経ってしまった。
「入ろう、心愛」
2人はバータイムのラビットハウスに入った。

「いらっしゃいませ」
タカヒロが落ち着いて挨拶をする。
「おや、君達は……そうか、リゼが言っていたのは君達だな」
「赤夜萌香です」「朱染心愛、妹よ」
リゼから聞いていた、というのもあるが……タカヒロは確かに感じた。10数年前に、ティッピーとリゼの父と体験した妖の類との1戦の時に感じた気と似たような気を。
「その姿でも妖なら、ここに入ってきても問題ないだろう。法律が適用されるのは人間に対してだからな」
「細かいことは気にしなくていいのね。助かるわ。リゼの家にとても濃い聖水があるのは何故?リゼは過去に聖水の加護を受けているの?」
萌香がタカヒロに尋ねる。
「そのことか。それなら、アイツに聞くといい」
「アイツ?」
「リゼの父親だ。そろそろ飲みに来る時期なんでな」
今まさに来るのが分かっていた、とばかりにタカヒロが答えた。すると、ラビットハウスのドアが開き、リゼの父親が入ってきた。

「お前ら……」
「よう。彼女達は妖だ。お前の家の聖水とリゼの聖水の加護について聴きたいらしい」
リゼの父親とタカヒロの関わり具合がよく分かるやりとりだ。
「教えてもらえるかしら?」
萌香が暗に話すよう尋ねる。

「昔、リゼが生まれてから物心つくまでの間に、リゼを狙う連中が現れてな。まあ、大体は対処できたんだが、物の怪的な敵やら出来事に出くわした事があった。傭兵稼業だから他人から恨まれる・憎まれるなんてのはあるんだが、どうにもならん物の怪系の敵に出くわしてな。その時、ラビットハウスの2人に助けてもらったのさ。聖水で清めた武器を2人が使っていたんだ。それ以後、聖水で清めた銃弾やナイフの類を念の為持つようになった。そして、リゼに聖水の加護を受けさせ、分けてもらった聖水の大元を家に置いたというわけだ」
リゼの父親が言う2人とは、ラビットハウスのバータイムの際にマスターとして立っているタカヒロ・そしてチノの祖父であり、タカヒロの父でもある現在のティッピーのことだ。
「リゼには『身を守れるように』ってことで鍛えてたんだが、まさか今みたいになるとは想定外だった」
「リゼに聖水の加護を与えたのは、リゼの身を守る為ってことか」
心愛は納得した。

「マスター、聖水の出所は?」
「朱雀を祀る社だ。ただ、この町からかなり離れている。この町に関係するとしたら、リゼの母親だろう。社に関わっていたという話だ。ひょっとしたら、朱雀の血筋ということもあり得る」
「朱雀の血筋の可能性……確かに有り得そうね。生まれて間もないリゼが狙われたのも納得できる。だって、リゼを取り込んだり、リゼの血を飲んだりできれば、妖は強くなれる。下級の妖は強さの向上に耐えきれない程ね。そのリゼが生まれて間もなかったり、小さい時なら取り込んだりしやすい。そう言うのを防ぐ目的でリゼ自身に聖水の加護を受けさせたなら合点がいくわ」
萌香の問いにタカヒロが答えた内容。そこから、聖水に関する疑問は解けた。

「マスター。この町とパワースポット特集の記事に掲載されている範囲がカバーされてる地図はあるかしら?」
「あるにはあるが、店ではなく家だな」
タカヒロが答えた。
「その地図なら俺が持っている」
リゼの父親がどこからか地図を取り出して見せた。すると、萌香が封印の場所と重要な8つのパワースポットに印をつけた。

「封印の場所と8つのパワースポットを結ぶのは聖水でいいのかしら?」
萌香がリゼの父親に尋ねる。
「結ぶもの?何のことだ?」
リゼの父親は本当に分からないと不思議そうな顔をして、何のことかと尋ね返した。
「こちらは収穫なしね」
「リゼにまつわる聖水の話だけか……」
萌香と心愛が心なしがっかりの反応をする。
「そういえば、ここ最近ははちみつが異常に増えてるな。それもはちみつの取れる場所が封印の場所や8つのパワースポットから遠くない場所だ。ひょっとしたら関わりがあるかもしれない」
今度はタカヒロがそんなことを言った。
「はちみつ……」
萌香は何か気づいた反応を見せる。
「姉さん?」
「封印のの場所と8つのパワースポットを結ぶのは、はちみつね」
心愛の呼びかけに、萌香は意外なことを言った。

「どういうこと?」
「パワースポット特集の地図、そして実際にパワースポットに行って分かったの。8つのパワースポットは封印の場所に対して、気の供給が最大になるよう『緻密』に、パワースポットと封印の場所は気と互いの関係・状態が『密』になるよう配置。『8』つのパワースポットという『地』。8は語呂合わせで『は』とも解釈できる。これで『はちみつ』が結ぶものって、思ったのよ」
「でも姉さん……今日行った8つのパワースポット全てにあった墓はどういうこと?」
「それなのよね。まだ分からないのが」
萌香の考えに対し心愛は何も言わず、別の疑問を口にした。

「単純に、パワースポットの防人の墓なんじゃないのか?」
リゼの父親が口を挟む。
「防人……そうなのかしら?」
「この付近の歴史を調べてみれば何か分かるかもしれないな。お前達なら文献で調べるのも実地で調べるのもできるだろう?」
「マスター、リゼの父さんもありがとう。残りのパワースポット巡りと一緒にこの付近の歴史も調べてみるわ。明日からそうするわよ、心愛」
「ええ、姉さん」
明日からの行動方針を決めた萌香と心愛。昨日以上に気を引き締めるのであった。

 リゼの父親はゆるりと酒を飲んでいる。一方、マスターであるタカヒロは仕入れたはちみつを使おうとしていた。
「さて、はちみつと水を混ぜて発酵させるか。何日か発酵させれば大丈夫だろう」
発酵日数を自分なりに見立てて、発酵させられる場所へ混ぜた瓶を保管したのだった。

<3日目>
 萌香と心愛が来てから3日目。パワースポット巡りと調べものを行っていた。パワースポット巡りは残り1/4。調べ物は、図書館でこの町を中心にした歴史を調べることが出来た程度。それでも、それなりには調べることが出来たのはプラスだったと言える。
図書館を出ると、2人はある人物とすれ違った。実はすれ違った人物は今回の件に関わりがある。すれ違ったのは、真手凛。青山ブルーマウンテンの担当編集で、2人も凛も互いの面識はない。ただ、それだけではなく雑誌にパワースポット特集記事を掲載し、パワースポットへの人集めを仕組んだ人物である。
 青山ブルーマウンテン担当だけが凛の業務ではない。会社にいる以上当然のことだ。他に、担当する雑誌もある。その雑誌が企画に困っていた時にパワースポット記事の案を出したのだ。今の時期ならば、パワースポット巡りが涼地巡りにも成り得るし、読んだ読者やネットでの口コミや拡散も狙えるだろうというのがあった。ここまでは、他の人間に聞かれても話せる内容だが、話せない内容のこともある。


 青山ブルーマウンテンの新刊発売の1か月半程前。酒で酔いつぶれた際に麒麟が凛に話しかけてきた、と言ったら青山ブルーマウンテンは信じるかもしれないが、普通は誰も信じないだろう。

「凛。我が血筋の者」
「誰?」
「我が名は麒麟。凛に手助けしてもらいたいことがある。運勢上昇地巡りの記事を書き、世に広めることだ」
「運勢上昇地?あ、パワースポットのことね。何で、そんなことが必要なの?」
「あと少しで青龍の血筋の者、青山翠の新刊が完成する。その影響力だけでは、封印の場所に関わる運勢上昇地に集まる人間の数が足らぬ故だ」
「先生の新刊!?」
全く予想だにしなかったことを聞いた凛。その驚きは酔いを覚ますのに十分だった。麒麟とのやりとりは本物だったのかと思い返す程、自分の周りに麒麟の存在は全く感じられなかった。

「パワースポットに人を集める、か……なんでそんなことが必要なんだろう?」
その疑問を発端に色々調べながら、パワースポット巡りの記事作成を進めていく。そして、答えは見つかり、パワースポット特集記事も完成した。パワースポット巡りについては、仕事の出張を兼ねて大部分を行っていたし、行ったことのないパワースポットは極わずか。なので、今回の特集記事作成中に尋ねたことで、記事に掲載されるパワースポットは全て訪地完了になった。
 完成した記事を提出したところ、却下になった。
「後1押しが足りない」
それが編集長からの却下に関する一言だった。
「後1押し……」

 最後の1押しになり得るものを求めるが、そうは見つからない。原稿の提出締め切りまで、残り半日となった夜。凛はバータイムのラビットハウスに向かった。マスターに何かヒントがないかと尋ねようと思ったのだ。過去に何度か同じ状況の時があった。マスターとのやりとりは、記事のヒントになる言葉や話を聴いたり、閃きやアイデア或いはもっと直接的に記事に書く文章が浮かんできたことがあったからだ。
「マスター、助けてくださーい」
バータイムのラビットハウスのドアを開けるなり、凛は懇願にしか取れない声色でそう言った。
「おや、いらっしゃい」
「マスターの『最後の1押し』って何ですか?」
「『最後の1押し』……実行、行動だな。計画・考え・準備。どれをしておいたとしても、実際に動かないとその先はない。ま、実際には動くと色々マズい場合もあるが」
「実行、行動……」
その言葉を噛みしめるように凛は呟いて、さらに続ける。
「そうしてみます。すみません、マスター。今日はお酒じゃなくて、ドリンクを下さい。酔っぱらうのは記事が完成してからにします」
ドリンクの指定だったが、少しだけエナジードリンク的な要素も入れたものをタカヒロは凛に出した。凛の様子を見て、そのほうがいいと判断したからだ。ドリンクを飲み干してから、凛はラビットハウスを出た。

「あの8か所なら、今から行けば明日の朝9時には全部回れる」
凛の考えた8か所とは、重要な8つのパワースポットになっている8か所だ。この8か所が浮かんだのは偶然ではないだろう。
「麒麟……こっちはちゃんと助けようとしているんだから、後1押しを見つけさせてよ」
そう思ったのが麒麟に伝わったからではないだろうが、麒麟が導いているかのように行く順番を迷うことはなかった。4つ目のパワースポットを訪ね終える時、そこにティッピーがいた。
「ラビットハウスのティッピー?」
ティッピーが何故ここにいるのかと思っている間に、ティッピーは姿を消していた。
その疑問を考えていても答えが出るわけではないし、時間もない。今、日が昇ったのだ。
「残り半分、行かなくちゃ」
どうにか残り半分も訪ね終えたが、8つ目のパワースポットで、またしてもティッピーが。
「?また、ティッピー?」
だが、それが最後の1押しになるもののアイデアとなった。それを元に再提出用の原稿を完成させ、編集長からのOKが出た。その夜のバータイムなラビットハウス。

「マスター、ティッピーいますか?」
「やあ、いらっしゃい……親父なら、今はいないな」
「ティッピーの姿を見かけたことがヒントになって記事を完成させてOKがもらえたので、お礼を言おうと思ったんですが……後で会った時にお礼を言うことにします」
気持ちを切り替え、酒の注文を入れる凛。
「マスター、お任せで1杯お願いします」
凛がその1杯を飲んでいると、ティッピーが現れた。

「ご苦労さん。記事も無事完成したようじゃな。麒麟め、自分の血筋の手助けをやらせるとはの」
「ティッピー、ありがとう。パワースポットで姿を見かけたことが、記事を完成させることに繋がったの」
「麒麟には借りがあるからの。それに白虎を宿す者として当然じゃな」
「ティッピーが白虎だったの……それなら、青龍・朱雀・白虎・麒麟は分かったけど、玄武は?」
「封印のある山。それが玄武じゃ。正確には玄武じゃった、じゃな」
「あの山が玄武のなれの果て?」
「身もふたもないのう。ま、その通りじゃな。玄武だけは自然と同化して人間と関わることを拒んだんじゃ。人間の本性が一番はっきりと見える形としてな」
「つまり玄武は人間嫌いだった?」
「そういうことじゃ。人間を守護したり、人間に力を貸すのをかなり拒んだからの。青龍・白虎・麒麟は基本的に人間を守護したり、人間に力を貸すのは普通と言える範囲でならと言う考え。朱雀は積極的に人間を守護したり、人間に力を貸すという考えだった」
ティッピーは5柱の様子を第3者として語る。
「そんな朱雀と玄武の対立は互いの存在を消すことになった。朱雀は遥か遠い地へ、玄武は自然に同化する、という形での」
「なるほど。それで朱雀を祀る社と聖水があんな遠いところに」
「朱雀は南・夏・火を司るからの。火の力で清めた水、聖水をもたらすのは納得できるじゃろ?」
あの穴の封印がされた後の人間達の事情と行動については、凛は把握できていたが、神の側の事情を聴くことになるとは思っていなかった。黙って聴いていたのだが、ティッピーからは納得していると見えたようだ。
「そもそも穴が出来たのはなぜ?そして封印したのはなぜ?」
「さっき言った玄武の人間嫌い。それが穴の開いた原因じゃな。妖の世界と繋がる穴を開けて人間が滅ぶ可能性をあえて作った。それで人間の本性と様子を見たんじゃ。滅ぶならそれまで、とな」
凛は引き続き聴いている。
「その後、大いに時間が経って玄武が山と完全に同化してしまった。つまり、神ではなく単なる山じゃ。で、朱雀は『穴を塞いだ後人間達を守護せねば』と言ったのじゃが……白虎は『封印はするが、人間の守護は反対』を強く主張したんじゃ。人間という種が存続するかは自然の成り行き任せがいいということでな」
「青龍と麒麟は?」
「中立、と言えば聞こえはいいが、『どうでもいい』というところじゃった。むしろ朱雀が人間を守護したがることに疑問を感じていたんじゃ。朱雀にその理由を聞くと、『人間達に助けられたことがあった』と。その時の詳細を聞いて、麒麟が白虎の『人間の守護には反対』を棚上げさせた。青龍は、玄武と逆に『人間に恩恵を与える形』での自然への同化を実行した。この町の元になった村に朱雀を助けた者達がおったので、そこに恩恵を与えるようにの。これが今のこの町に青龍の守護が存在する理由なんじゃ」
「なるほど……ティッピーが言ってた麒麟への借りって?」
「10数年前になるのう……この世界に、とても強力な妖が現れた。たった1匹だけじゃがな。この世界の武器だけで倒すことが出来ず、他にも力が必要だった。白虎はわしに宿っておったが、力を発揮できるような状況ではなくての。青龍は自然に同化済み、となると残りは麒麟と朱雀。とは言っても、朱雀は遥か南の地におるからの。事実上麒麟しか対応できるものがおらんかった。その麒麟が朱雀の元に飛んで、朱雀の力で清めた武器と聖水を用意しおった。その武器を使って、妖を倒した。そして聖水はリゼに加護を与えることに使った。その時の妖が狙っていたのが、リゼじゃ。朱雀を祀る社の関係者がリゼの母親になったからの。リゼを取り込んだり、血を飲めば、より力を増せるはずだということでの。ただ、リゼを取り込んだりできたとしても、妖が見立てたような力の増大は起こらんよ。社の関係者の中でも、儀式の準備を手伝うだけのような立場っだったからじゃ。言うなれば、普通の人間じゃ。リゼを助けることになったのは、うちのタカヒロがリゼの父親と昔馴染みで戦友だからじゃよ。タカヒロがリゼの父親の状況を知って、『助けたい』と言ったのでな」
「妖はリゼに対して、何でそんなことを思ったのかしら?」
「朱雀が助けられた件。その時リゼに似たような姿をしておったらしい。それが記録として残っておったらしくての。どういうわけか、その記録を見た・手にした妖がリゼを狙ったということなんじゃ」
 ティッピーの言った『借り』も理解できた。後はどれだけパワースポットの特集記事を世に広めるか、だけだ。編集部としての方針や業務だけでは、麒麟が期待するような広まりには難しいのが明白。大々的に宣伝しようにも、発売までの時間が短すぎて効果がどれほど出るのかということも分かりきっていた。そんな状況とは裏腹に、どういうわけか、あちこちのパワースポットから「ご利益」の声が聞かれ始め、その声が広まったのだった。


「姉さん、今すれ違ったのは!?」
「あの神気は麒麟、のはずよね。青龍と麒麟……後は朱雀、白虎、玄武」
誰とすれ違ったのかは気にしていなかった萌香と心愛。その麒麟の気の主を追いかけようとしたが、町の賑わいで見失った。
「あぁ、もう!」
心愛は苛立ちの言葉を放った。
「青山ブルーマウンテンやラビットハウスに近い人物のはずよ。多分大丈夫」
逆に萌香は、見失ったことは全く気にしていない。
「心愛。パワースポット巡り、もう少しで終わるんだから、さっさと終わらせちゃいましょ」
心愛は念の為、もう1回だけ町の賑わいの中に麒麟の気の主を探したが、やはり見つからなかった。そして、萌香のパワースポット巡りを完了させるという言葉に従った。
「ええ。姉さん」

 その夜、全てのパワースポット巡りを終えた萌香と心愛。
「あの墓だけが謎のままね……」
どうしても、重要な8つのパワースポットにあった墓の謎が解けない。
「ラビットハウスの誰かが分かるかしら?」
誰か知っていて欲しいという願いが込められた疑問的な萌香の呟きだった。
「どうかしら?」
心愛は期待していないという意識を顕にそう返した。
「心愛、ひとまずリゼの家に戻るわよ」

 リゼの家に戻ると、萌香は麒麟の気の持ち主の件を話した。すると、リゼの反応は萌香と同じだった。
「明日、夕方前にラビットハウスに来るといい。マスターが店を開けるまでなら、話を聞けるだろう」
リゼがそう付け加えた。萌香と心愛は墓の謎が解けるのか気にしながら眠りについたのだった。

<4日目>
 萌香と心愛が来て4日目。パワースポット巡りは完了したが、墓の謎が残っている。墓についてどうやって調べようかと思いながら、萌香と心愛が町を歩いている。
「お前ら、どうした?」
そう言ったのはリゼの父親だった。
「8つの墓のことを知りたいんだけど……で、リゼに話したら、『ラビットハウスのマスターに聴いたら』って言われたの」
萌香が答えた。
「あの墓のことか。あれについては、町長に聴くのが一番いい。夕方、あいつのところに行くつもりか?」
「ええ」
今度は心愛が答えた。
「分かった。俺も顔を出す。町長に会えるよう、あいつと一緒に話をつけてやろう」
「ありがとう」
萌香が微笑んで礼を言った。
「夕方までは好きにしていていいぞ。何だったら、俺達の準備や訓練に付き合うか?」
「それ、いいわね。訓練っていうのがどの程度かにもよるけど」
心愛は体を動かしたいというより、闘いたいという欲が出ているように見える。
「あくまで訓練の範囲だ。殺しあうレベルじゃぁない」
「残念。でも体は動かせそう。姉さんも体を動かしておいた方がいいんじゃない?」
「そうね……そうするわ。戻ってからあいつと戦う時に、思うように動けないんじゃしょうがないから」
「決まりだな。それじゃ、今日は俺がエスコートしてやる」
リゼの父親は萌香と心愛をまずは自分の部隊の訓練場へ連れて行った。
「俺の部隊の連中は、多少なりとも妖を相手にしてきている。妖としての闘い方をしても構わんぞ。手加減するなら、だが」
リゼの父親から、主に心愛へ向けての一言だ。
「じゃ、体を動かすだけしかできないわね」
心愛は不満そうな一言を放った。
「体がなまらなければいいの。本当に闘う必要がある相手じゃないんだから」
萌香が心愛に注意した。

「2人1組になれ!格闘訓練を始める」
リゼの父親の宣言で格闘訓練が始まった。
心愛は全開で闘うことが出来ずに不満だが、それでも「体を動かす」には充分すぎるくらい闘えた。
「思ったより体を動かせたわ。甘く見てたかも」
心愛の評価が少し変わったことを示す一言である。
萌香の方は特に不満もなく格闘訓練で体を動かした。
「いい汗かけたわ」
萌香は満足したという一言の後。萌香と心愛の2人が一旦シャワーを浴びに、場を離れた。

部隊は射撃訓練場に移動し、射撃訓練のブースに隊員達が入った。
「よし、銃を構えろ!」「撃て!」
リゼの父親の号令で、離れた的に向けて銃撃訓練が開始される。通常の実弾はもちろん、聖水の代わりに水を詰めた弾の銃撃もだ。いつ聖水弾を撃つ必要が出るとも限らない。その時の為に訓練しておく必要がある。
 銃撃の練習は部隊をいくつかに分けて行う必要があるので、先程の第1陣から、第2陣、第3陣と続く。銃撃訓練の終盤になると、萌香と心愛が戻ってきた。

「姉さん、あの弾」
「聖水の代わりに水を入れてるみたいね」
「対妖も想定しての訓練。リゼの生まれた頃から10数年経つのに、かなり念入りね」
心愛の言葉を聞きながら、萌香はこの訓練が始まった原因が「妖」であることを残念と思った。それと同時に、自分達の戦える相手を人間だけでなく妖にも広げることで「食いっぱくれが少なくなる」という傭兵だからこその強かさとリゼへの愛情の強さを感じた。

 その後も、リゼの父親の部隊の訓練が続いた。そして夕方近く。そろそろラビットハウスのバータイムを意識した方がいい頃合。
「よし、今日の訓練は各自での自主訓練を行って終了とする。自主訓練開始!」
リゼの父親の命令で、隊員達が各々の訓練をし始めた。
「2人とも、車に乗っておけ。準備をしたら出るぞ」
リゼの父親の言葉に従って、萌香と心愛は車に乗った。

「出るぞ」
リゼの父親は車を運転し、一旦自宅へ。自宅からはラビットハウスまで歩きである。
ラビットハウスに着く頃には、マスターであるタカヒロが開店準備を始める時刻になる。
リゼの父親を先頭に、3人はラビットハウスに入った。

「よお、いるか?」
「どうした?」
「この2人が8つの墓のことを知りたいんだと。町長に段取れないか?」
「町長か……いいだろう。8つの墓のこととなれば、町長もそうそう断れないだろう」

「あのー」
ドアの外から声がする。
「町長から頼まれてきたのですが」
町役場の職員のようだ。
タカヒロがドアを開けて、やってきた人物をラビットハウスに入れた。
「どんな用でここに?町長。相変わらず、こういうのが好きだな」
「全くだ。昔から、こういうのが好きなヤツだ」
リゼの父親とタカヒロは町長を昔から知っている様子だ。
「町長は俺の同級生だ」
タカヒロが町長と同級生と明かしたが、リゼの父親は特に何も明かさなかった。
「町に偉い美人の2人がやって来てるって聞いたんでね。どんなもんかと。その妖の2人ってことか」
「私は赤夜萌香」「朱染心愛。妹よ」
「町長。2人が8つの墓について聴きたいそうだ」
萌香は町長に向かって言った。すると、かなり真面目な雰囲気で町長が返事をした。
「立ち話で済ませられる話じゃない。ちゃんと話さないとな。明日、夜になるくらいの時間に町長室へ来てくれ。それならちゃんと話せる時間が取れる」
「ええ、そうさせてもらうわ」
心愛が「他にも言いたいことはあるが」といった感じで、町長室訪問の返答をした。
萌香と心愛の2人は、ラビットハウスを出ていく。
「町長室で待ってるぞ」
その言葉の後は、バータイムのラビットハウスで酒を飲んでから引き上げた町長であった。
 バータイムの営業終了後、タカヒロは発酵状況を確認した。
「明日なら、飲めそうだ」
また、発酵状況を確認したものとは別に、新しくはちみつと水を混ぜて発酵待ちのものを用意したのだった。

<5日目>
 萌香と心愛が来て5日目。萌香と心愛は町長室を訪ねていた。
「よく来たな。8つの墓について、だったな」
「ええ」
「どの程度知っている?」
「図書館で調べられたくらいね」
「分かった。では話すとしよう」
町長の質問に萌香が答えると、町長が話を始めた。

「青龍が行った封印は、年月を経るごとに少しずつ弱まっていった。とは言っても、神の時間感覚での『少し』だが。その封印が弱まりきって解けないように継続する必要があった。その為の儀式を行ったんだが、一部の人間が独自に行ったことではなく、政としてだった。だからこそ、儀式に必要な8つのパワースポットを始めとするパワースポット群を作ったり発掘したりできた」
「8つの墓は、8つのパワースポットに対応する人間の墓だ。封印を継続する為の儀式を行った人物を出したのが、条河の一族。その墓というわけだ」
「なぜ、あそこに墓を?」
「死後も封印や継続の儀式の効果を見守る為だ。儀式を行う人選の際に、条河の一族がそう決めたらしい。その後は何代かに一度、8つ子が生まれるようになったと聞いている。その8つ子は先程の見守りの役目を行うのだ。先祖がえり的にな」
この話によって、8つのパワースポットに墓があることは、萌香も心愛も納得できた。
町長は話を続ける。

「さて、その儀式には必要なものが幾つもあった。最低でも、8つのパワースポットに対応する人間と矢。身に付ける法被。8つのパワースポットと封印を結ぶはちみつ。矢と対を成す刃は必要だったと記録にある」
「先程挙げた最低限必要なもの……それに町の人間というか一族が関わっている。先程話した条河の一族は、儀式を行った8人の他に矢を。法被は宇治松の一族。はちみつは奈津の一族。刃は桐間の一族。当時の記録を残したのが香風の一族」
「それと儀式は新月の晩に行ったらしい。新月は神月に通ずと言ってな。新月の時が神の力が最大限になるという考えだったのだろう。逆に、満月は魔月(まんげつ)に通ずというのもあったようだ」
「ラビットハウスに来るお客や関係のある名前ばかりね」
「私達が帰るにはどうすればいいの?」
萌香は町長の話に出てきた一族の名字に対する感想を呟いた。心愛は自分達の願いをどうすれば叶えられるのかという直球の質問を町長にぶつける。

「『あの封印を通って帰る』というのが答えだ。ただ……問題がある。条河の一族に8つ子が生まれたはずだったんだが、ちゃんと生まれてきたのは1人のみ。残りの7人は死産になったそうだ。つまり、今のままでは儀式を行えない」
「墓に葬られた条河の一族の人間は『見守る』ことはできるけど『儀式を行う』ことはできないのね?」
「そうだ。その理解で正しい」
心愛は町長の回答をそのまま受け入れた。

「名前を挙げた一族それぞれに関して、記録にある内容を伝えておく」
そうして町長がさらに話を続ける。

「まず、条河の一族は神主・巫女等の神職・聖職に就いて、その職を遂行できる力を持ち合わせていた。よって、8つの破魔矢で構成される特別な結界を作り出すことが出来た。その8つの破魔矢を扱うのに適した8人もいたというわけだ」
「次に宇治松の一族は法被等の儀式に使う衣服を提供していたらしい。神への感謝と御礼を示す装束として、法被も含めて選んだようだ」
町長の声だけが町長室に広がる。萌香も心愛も何も言わずにそのまま聴いている。

「奈津の一族は……元々別の地で花蜜を扱っていた一族が始まりだ。が、一族のはみ出し者がこの地での養蜂を切り開いた。『花蜜』『はみ出し』というわけで、『なつ』を名乗った。そして儀式後はこの地で一族といえる程人数が増えた。そこで、名字として『奈津』を使うようになった。この字をあてたのは元々の一族のいた土地を連想できるから、らしい。それと、蜂蜜には粘りがある。封印が長く持つようにゲン担ぎ、というわけだ」
「随分とかわいい感じの出自ね」
心愛はストレートに思ったことを言ったが、充分に皮肉とも取れる言い振りだ。

「桐間の一族は儀式当時、斬魔(きりま)を名乗って退魔の力を有していたが、儀式以後は時代の流れを経て今のように名乗るようになった。儀式の時に必要だった刃は、斬魔が用意した刀と記録にあるが、その刀の行方の記録は残っていない。ここからは私の勝手な憶測だが、儀式後に退魔士としての力が失せ、刀を手放したのかもしれない。それに合わせて、今の桐間の姓を名乗るようにしたのかもな。で、今現在、桐間の家は貧乏ということだが……退魔した魔物や妖から受けた呪いや恨み、その影響かもしれんな」
「力を失った退魔士、行方知れずの退魔の刀……」
萌香は、厄介な方向に話が広がるかもしれないと一抹の不安を覚えた。

「最後に、香風の一族は記録を残すことに長けていたということだ。今まで話したことは、香風の一族が記録として残していたからだ。一族の血なのだろうな、香風のじいさんが喫茶店を開けるくらい、自分独自の記録をつけたのは。あのじいさんの遺したレシピの類で未発見のものがあるはずだ」
これで全部話しきった、という表情を町長が見せた。
「まあ、こんな話が代々の町長に伝わっている。歴代の町長はこの話を全員墓までちゃんと持って行った。だからこそ、町の人間がほとんど知らない」
今までの話が知られていない理由も付け加えた。

「じゃ、マスターとリゼの父親が『あなたなら分かる』とばかりに言ったのは何故?」
「簡単だ。10数年前の妖騒ぎの内密処理。それに関連して先代の町長が2人に話したからだ。自分が町長になって引き継ぎを受けた時に知らされた」
「で、さっきの封印を通るタイミングはいつがいいの?」
「3日後の夜だ。半月を迎えるからな。理由は……今回は、関係するのが神と妖という取り合わせ。『
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12/31(金)西2ホール て-07b PARALLEL ACT(委託)

・F会合同同人誌「Fani通2010(上) 」 平成22年(2010年)度上半期アニメ総合感想本
・F会メンバー執筆本
「軽音部、西へ - HTT live @ 7th district -」
著者:PARALLAX
・Fani通既刊
既刊については、http://ccsf.jp/fandom/で概要・表紙画像を確認可能です。

2010/8/16 Fani通2009(上) サークル在庫終了!増刷の予定無し。
購入希望の方は、COMIC ZIN店頭・通販の利用をよろしくお願いします。

2010/5/18 Fani通2009(上) COMIC ZIN http://www.comiczin.jp/ にて委託開始!
商品ページはこちら!
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